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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
操り人形編
69/143

六六話 信者と友人

 三日前。獣人の盗人がソフィアの剣を盗んだ事件以来、ソフィアと私の仲はそれ以前よりも近くなっていた。いや、仲良くなったというよりも、一方的にソフィアが距離を縮めてくると言った方が正しい。別に鬱陶しいわけではないけど、急激な変化に私は対応しきれていなかった。


 ソフィアから聞いたことだが、例の獣人は単独で盗みを働いたわけではなく、背後に別の誰かがいる可能性が高いということだった。私がどうやってそれに気づいたか聞いたところ、獣人自身が暴露したとソフィアは言った。随分と口が軽いなと一瞬思ったけれど、もしかして拷問という恐ろしい手段で吐かせたのではないかと不安になった。しかし事実はとても拍子抜けで、ソフィアがその獣人に好物である魚を与えて吐かせたというものだった。


 そんな獣人を可愛いと思いながらも何故剣を盗んだのか、何故そんな奴に従ったのか疑問に思っている今日この頃。私は神都の街中をソフィアと一緒に浮遊していた。


「さあ! ネスロ教を撲滅しましょう!」


 ソフィアは空を指差しながら青白い身体を太陽に透かしてそう言った。何故こんなことになっているのか。それは一番私が知りたいことなのだけど、朝起きて早々ソフィアに連れ出されたというのが経緯ではある。


(まあ、ソフィアさんらしいと言えばらしいけど………)

(ユウカはもう少し断ることを覚えたほうが………)


 剣が無くなって以来落ち込んでいたソフィアだったが、ネスロ教なる集団を撲滅すると息巻いている今日は昨日とまるで違う。


「あのソフィアさん」

「ユウカ……さん、じゃないでしょ?」

「え、あ………そ、ソフィア」

「よろしい」


 やはり呼び捨てはまだ慣れない……………ソフィア、ソフィア………でも慣れるしかないか。


「それで? どうしたのかしら?」

「ああ、えっと………ネスロ教って、どんな何ですか?」

「ウゥンそうね、端的に言えば生きる価値の無いゴ……こほん。凄く不快な奴らよ」


 今何か物凄い悪口が聞こえた気がするけど………不快な奴らか。ソフィアにそこまで言わせるということは本当にそうなのだろうか………一体どんな人たちなんだろう。ネスロという名前は最近よく聞くけれど、アンデッドに神都を襲わせたり、エレノアから聞いたカーラの身体を盗んだ話といい、あまり良いことをしていない神を信仰する集団に会うとなると、少しだけ嫌悪してしまう。


 そういえばネスロは王って言っていたっけ? 神と王の違いってなんだろう。


 そんなことを考えながら街中を浮遊するソフィアに着いていく私は、突然横から聞こえてきた嬉しそうな声に立ち止まった。


「あ! ソフィア様だ!」


 声の聞こえた方を見ると、母親らしき人物と手を繋いだ男の子がソフィアを指差していた。

 男の子と手を繋いでいる女性はそれに対して慌てている様子だ。


「こら……すみませんソフィア様」


 女性は指差す男の子の手を少しくいっと引いて静かな声で叱り、そしてソフィアに深々と頭を下げると男の子のした事について謝った。


「いえいえ、構いませんよ」


 深々と頭を下げて許しを乞う女性にソフィアは先程の嬉々とした態度を一変させ、まるで大人の対応と言わんばかりにそう返答した。

 それから三人は当たり前のように社交辞令を終えると、過ぎ去ってゆく二人にソフィアは手を振り、二人もそうした。


「……人気者ですね」

「まあね………でも私、あんな風に崇められるのは慣れないのよね。大体ティアナ教の信仰対象はティアナ様で、いくら使徒といえども私は一信者でしかないのよ。それなのに私をまるで神かの如く………まあ気持ちは分からなくもないけど」


 ソフィアはとても憂鬱そうにそう言う。しかし私はそれよりも別のあることが頭に浮かんで一杯になった。それはソフィアの霊体があの二人に見えているということ。あまりに自然な反応でソフィアを名指ししその後も自然に話し続ける三人にその時は疑問が湧かなかったけど、今思い返せばあまりに不自然な状況だった。


「………ソフィアって、霊体でしたよね?」

「ん? ええ、そうよ」

「………あの二人、見えてませんでした?」


 霊体ならば普通見えない筈なのに、あの子供はソフィアを指差し、女性はソフィアを見て謝っていた。二人が私と同じように魔眼を持っているなら兎も角、誰でも持っているような代物ではないだろうし……。


「ああ、そういうことね。それなら単純に、魔力をこう………ぬわっと!」

「ぬわ………と?」

「ウゥン、ユウカはまだ魔力の扱いに慣れていないようね。まあそれなりに魔術なり魔法なりを使っていたら慣れてくるから、気にしなくてもそのうち出来るようになるわよ」

「へえ……」


 結構慣れてきていると思っていたけど、どうやらまだまだらしい。


 それから私たちは神都にある冒険者ギルドまでやってきた。正直ネスロ教というからには、ある程度禍々しい儀式場で黒魔術なんかをやっている集団がいる所を想像していたけど、それは全くの的外れだったようだ。


「でも、なんでギルド?」


 私が率直な疑問を呟くと、ソフィアは険しい表情で顎に手を置くと、ことの経緯を話し始めた。


「実は昨日ある筋……というかまあティアナ信者からの情報なんだけど。ギルドの冒険者にネスロ教らしき女性がいると聞いたの」

「ネスロ教らしき…………それってやっぱり、邪悪な感じがひしひしと伝わってくるような?」

「いえ、首からネスロ教の首飾りを掛けていたらしいわ」


 なんともあからさまな………隠す気が無いということは、別に悪いことでは無いのだろうか。いや、でもソフィアがあれ程嫌っている教団なのだから、普通は隠れてやりそうなものだけど。実際ソフィアは本当に手荒なことをする勢いだし。


「それじゃあ入るわよ。まずは壁を通り抜けてそいつを探しましょう」


 私は霊体の魔力強度を落とすことでギルドの壁を通り抜け、その中にいた冒険者たちを見回した。神都にある冒険者ギルドはロペルのよりも清潔で、広さや設備といい色々なものが充実して見えた。受付の女性も清潔な服装だったが、あの町と違いエルフではなかった。

 入った途端そういえばソフィアは今誰にでも見えるのではと焦ったが、そこはしっかりしていたようで、周りの冒険者の目線を見る限りいつの間にか見えなくしていたようだ。


「あ、いた……」


 ソフィアと一緒に天井辺りを浮遊していた私は、その静かで冷めた声に思わず息が止まってしまった。

 横を見るとある一点を指し示すソフィアが、見下すようにじっと見つめる姿があった。

 その姿に少しだけ恐怖した私だったが、ソフィアの指差す方へ恐る恐る顔を向けてみると、そこにいた首飾りを掛けている女性に気づいた。


「あの人?」

「ええ、あの首飾りは間違いないわ………けど、変ね」


 すると今まで敵意剥き出しだったソフィアが、その女性の辺りを見回した後訝しむようになった。

 私はどうしたのだろうとソフィアに聞こうとしたが、その直後に女性が動き出したため聞きそびれてしまった。


(何かあったのかな?)


 けれど疑問はやはり消えないので、エレノアにそう問いかけてみた。


(さあ……? しかし、あの方はどうも嫌な感じがします)

(嫌な感じ?)

(ええ、何というか……見下すような目つきというか………)


 確かにエレノアの言う通り女性はニヤけた表情で周りの冒険者を見比べるような、評価しているようなそんな感じがしないでもない。それに着ている服はとても露出度が高くて、まるで見せつけているようだ。


 私だったらとてもじゃないけど…………でも誰かに見られても恥ずかしくない体型といえばそうだし、自分に自信があるのだろうか………けれど…………う、うん。


「ねえねえ君たち」

「へ………何ですか?」


 すると女性は依頼の張り紙が貼ってある掲示板にいた男三人の冒険者たちに声を掛けた。三人ともまだ幼さが残っており、少年とも青年とも言えないような見た目をしている。


「私を仲間に入れてくれない?」


 女性は見せびらかすようにその身体を三人に見せると、艶やかな声で媚びるようにそう頼み込んだ。

 三人は突然のことに動揺する素振りを見せながらも、一回咳払いをした後背筋を伸ばして女性に何故かと聞き返した。


「フフ……私は今一人でね。まあ単純に仲間が欲しいのよ。見たところ、三人とも戦士系の装備で、魔法使いがいないんじゃない? 私は見ての通り魔法が使えるの。だからお願い………私を仲間に入れてくれない?」

「そ、そうですね………」


 赤面しながら分かりやすく鼻の下を伸ばす三人は、話し合いをした結果、


「「「はい!!」」」


 元気よく返事をした。

 その姿は下心満載だった。


(何か、危ない気がする)

(私もです、ユウカ)


 それから女性と三人の冒険者はギルドを出ると、楽しそうに依頼をこなしにいった。


「…………行きましょう」


 ソフィアは静かにそう言うと、ギルドからすり抜けて出ていった。

 私はその後に続くと、ソフィアと共に四人を尾行した。



 神都から暫く行ったところに冒険者は依頼を受けているようで、私たちは浮遊しながらそれに着いていった。


「ここらで良いかしら?」

「え? なんですか?」


 ボソッと呟いたのが聞こえ私がそう聞き返すと、ソフィアはスウっと四人の前に行き立ち塞がり、


「そこの冒険者! 止まりなさい!」


 そう言った。

 すると冒険者たちは立ち止まり、驚いて大きな声を上げ、それだけでなくソフィアが見えているのか、怯えながら女性以外の三人は逃げていった。


「…………これはこれは………まさか教皇様がおいでとは」

「あなた、その首飾りはネスロ教の証よ。分かっているの?」


 ソフィアは溢れる怒りを抑えるように女性に尋ね、女性はそれに対し平静を装っているように見せても、額から汗が次々に出ていた。


「ええ、知ってるわ。だって私はネスロ信者だもの」

「そう………そうなの………」

「あ、あの………」

「ユウカ!」

「は、はい!」

「私がこの者を無力化します。ユウカはもしもの時に備えていて」


 ソフィアは私にそう言うと、手の平に一つの火球を作り出して女性に放った。


「キャァァ!」


 女性はそれを防ぐような動作をしたが、間に合わずに足元へ命中しその爆発で少し後ろへ吹き飛ばされた。

 すると吹き飛ばされた女性はブツブツと何かを呟き始め、私がそれに耳を澄ますとどうやら呪文の詠唱のようで、途中で聞こえたラーミナという単語からもしかすると回復魔法なのではと焦った。


「ゔゔッ」


 しかしまた一歩遅く、ソフィアの火球が女性の近くに飛んでいき爆発するともう一度吹き飛ばされた。


「わ、わあ………」


 それを呆然と見つめる私は、女性の身が心配になり遠くから土煙が晴れるのを待って大丈夫か確認しようとした。

 段々女性の身体が見え始め次は何をするのかと身構えたが、何故か全く動かずに寝転がったままだった。

 これには私も流石に心配になり、女性に近づいて安否確認をした。


「………あ、生きてる。気絶してるだけか………あの、ちょっとやりすぎじゃ………?」


 ホッとした私は近づいてきたソフィアに恐る恐る聞いた。


「良いのよ。本物のネスロ信者ならこれくらいかすり傷よ。でも、この女はどうやら信者ではないようね」

「え、そうなんですか? でもさっき信者って」

「自称よ。信者なら加護を受けている筈だわ」


 なるほど、加護を受けているのが信者の条件なのか。ん? ということは………。


「ソフィアって私の加護を受けていませんでしたか?」

「ウッ……やめてよユウカ。それちょっと気にしていることなのよ。ティアナ様以外の加護を受けるのは心苦しいけど、友人の好意をむげにもできないじゃない」

「え、あ………友人」


 私はその言葉に少し嬉しくなってニヤけたが、恥ずかしくなって俯いてしまった。


「ええ! 違うの………」

「あ! いえ嬉しいです!」

「そう………実は私、昔から歳の近い友人がいなかったの。だから私も嬉しいわ」


 段々ソフィアのことが分かってきた気がする。きっとソフィアは昔から孤独だったんだ。それで人付き合いがあまり上手くないのかも。


 私はソフィアのことを理解してきている気がして、更に嬉しくなった。


「う、うう……」


 すると気絶していた女性が突然起きあがろうとした。


「おっと………ユウカ、この女の捕縛をお願いしてもいい? あの獣人を捕まえた時のように」

「あ、分かりました」


 私は人間の霊体を二体造り出すと、それぞれ女性の胴体と足を掴まさせた。



 神都に帰ってきた私たちは、女性を牢に入れると神殿にあるお風呂に入った。


 ソフィアに入ろうと言われて入ったけれど、案外気持ちがいい。そういえば久しぶりのお風呂だけど、今までは別に気にしてなかった。やっぱり汚れないから、不快感がないのかな?


「ふう………今日は有難うねユウカ」

「私は何も」

「ふふ。明日は何をしようかしらね?」


 楽しそうなソフィアを見ながら、今日の一件を振り返って容赦のないソフィアに萎縮しながらも、それでも今日は良い一日だったと思った。


「ダメです」


 しかしその瞬間、一人の女性の声にソフィアはビクッと驚いて萎縮した。


「あ、お母さん………」

「明日は仕事です」

「で、でも」

「でも……なんですか?」

「や、やります」


 私は二人の様子を大変そうだと思いながら眺めていた。何も言えなかった。

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