六十三話 ソフィアから二つ目の依頼
魔眼を使うことで遺跡の主の魔力を見ることができる。そのことに気が付いた私は早速空高くまで浮遊し、遺跡と思われる場所を見つけることができた。
遠くに見えるのは五つか六つくらいだけれど、移動するのは徒歩ではないからそれは問題ない。それにもし、他の遺跡の中が今破壊した遺跡と同じくらいだったなら今日中に終わらせることも可能かもしれない。
遺跡の破壊を決意してまだ二日だが、私は早くも見え始めた終わりに少々拍子抜けした。
(しかしユウカ。見えている範囲だけに遺跡があるとは限りません。私たちが出会った場所にもあった遺跡はここから見えていないようですし)
(あ、そっか……!)
そういえば地面は平らではなかったと当たり前のことを思い出し恥ずかしくなったけれど、それでもこれなら遺跡を探すのも楽になったと喜んだ。
そしてそれなら急いで遺跡の元へ向かおうと、一つ目の遺跡を破壊して直ぐにその場所へ飛んでいった。
魔眼で見える遺跡の元へ飛んでいってはそこにいる主を倒し、遺跡を破壊するということを暫く続けた私たちは。
「骸骨さん! 私の元へ!」
「はい!」
たった今破壊した遺跡でニ十ちかくにもなる。
これ程多くの遺跡を破壊すればもう手慣れたもので、主を倒してミノタウロスの霊体を造り出す。それを盾にして崩れ落ちる遺跡から抜け出すというのを作業かの如くできるようになっていた。
そして遺跡から出ると既に日は暮れており、外はディアの明かりで照らされていた。相変わらずこの世界の月の光は眩しいと思いながら魔眼で周りを見回す。
遺跡を破壊しながら進んできた方にはもう主の魔力は見えず、まだ行っていないロペル方面にはまだいくつか見えた。
(結構な数の破壊はできたのではないですか?)
(そうだね。まあ元々一日で終わらせようと思っていたわけじゃないし、今日は神都に帰ろうか)
(はい………ですが、ユウカが嬉しそうです良かったです)
(え、そうかな………まあ、そうかも)
確実に誰かの未来に、或いは今この時にも訪れるであろう危険を無くしているのが自分だとなると、やはり誇らしい気持ちになってしまう…………しかし気になることもあった。
私は神都に帰る道すがら、先程までの遺跡破壊を振り返ってみた。一番最初に倒した主の場合、普通に全身の体が揃っていたし話しかけられたりもした。しかし遺跡の破壊を始めてからずっと、主も、遺跡にいるアンデッドも最初の遺跡とは様子が大きく違う。アンデッドの数は最初のと比べて明らかに多いし、主は戦うことも、話すこともできなかった。
最初とは何かが違うのだろうか………?
気になることはあるけれど、遺跡の主が最大の警戒要因なだけあって、それはそれで良かったと思いそこで考えるのはやめておいた。
神都の近く、それなりに高い上空まで来るといつもとは違う異変に気がついた。
「………騒がしい」
いつもの神都ならば夜は静まり返り、灯りは門番などの兵士がいる場所に固定して置かれているにも関わらず、今晩は神都のあちこちで灯りを手に持った兵士が歩き回り、出歩く住民の数も多いように思えた。
(何かあったのでしょうか?)
遠くから眺めている限りでは何が起きているか分からなかったのと、もしかすると大変なことになっているのかもという考えもありソフィアの元へ急いだ。
神殿の近くまで来ると、入り口の近くに数人の人影とともにソフィアがいた。他の人間には身体があるけれど、ソフィアはまだ霊体だったのですぐに見分けがついた。
「何かあったんですか?」
「ん………ヒッ! 骸骨が!」
ソフィアの元へ下り立った私たちは、そこにいた一人の神官にアンナを見られ叫び声を上げられてしまった。
(し、しまッ…………!)
「静まりなさい! その者に手を出すことは許しません!」
「え、あ、え………は、はい」
しかしその神官が攻撃をしようとした直前でソフィアがそれを止めさせた。私はソフィアのその迫力に驚いたが、これが多くの人をまとめる力なのかと感心した。
けれどソフィアの表情は険しい様子で、余裕のない感じが見てとれた。
「よく来たわユウカさん」
「あ、はい。すみません、遅くなっちゃいまして」
「いいえ、それは構わないわ。けれどいいところに戻ってきてくれたわ!」
ソフィアはそういうと、険しかった表情が少し和らいだ。
そして私の手を取りグッと身体を近づけると、
「ユウカさん、あなたに頼みたいことがあるの!」
夢見る子供のようにキラキラした目でそう言った。
「え? まあ、別にそれは全然良いんですけど………何かあったんですか?」
私はその様子と、今の神都の様子が気になりソフィアにそう問いかけた。
するとソフィアはそっと私から離れ、拳を自分の身体の前でギュッと握りしめた。
「私の部屋に、盗みが入ったの……」
「ぬ、盗み!」
「ええ、しかもたった今」
「そうだったんですか…………それでこの騒動なんですね」
そしてソフィアは軽く頷くと、さらに細かくことの経緯を話し始めた。
「さっき、私は部屋で寝てい…………仕事をしていたの」
「は、はあ…………」
「そうしたら急に物音が聞こえて、驚いた私はその方を向いたのだけど、その時には、もう……………クッ」
寝ていたのは分かったけれど、それでもソフィアの部屋に侵入してそこから物を盗るなんて、私は凄い度胸をもった人もいたもんだと驚いた。ソフィア自身それなりに高い地位に着いているだろうに、その人物の部屋に侵入するのは大分肝が据わっている。それでなくとも、遺跡破壊の途中で見たあの戦闘跡を見ればソフィアが結構強いのは分かる。
「それで、何を盗まれたんです?」
「私の武器よ。ほら、部屋の壁に飾ってあった二本のうちの一つ。剣の形をしている方。もう一つは………今無くなっているから大丈夫だったけど」
「え! それってもう一つも」
「ああ、違うの。そっちは………私が壊したから………」
「あ、そうなんですか」
壁に飾っている武器…………そういえばそんなのがあった。確かにあれは高価そうだ。
「お願いユウカさん! 盗人を捕まえるのを手伝って!」
「や、やります。やりますから、そんなにくっつかないでください!」
ソフィアはいつにも増して必死な様子だった。それ程大事な物なのだろうか。しかし、この前も私の部屋に侵入した奴がいたけど…………神殿の警備は意外と甘いのだろうか。
「ありがとうユウカさん………! あれは私にとってとても大事な、お宝みたいな物なのよ。あれが近くにないと寝つきが悪いし、朝あれを見ないと安心できないのよ」
「そ、そうなんですか………」
それは本当に剣、なんだよね…………。
ソフィアの剣に対する思いに少し引きながらも、それを盗んだ犯人をどう探そうか私は悩んだ。遺跡を見つけるように魔眼を使えば探せるだろうか。
そう思い私は魔眼を使って辺りを見てみた。
けれど神都は人の数が多く、その魔力はそれ程強くわないが誰が誰だか見分けはつきそうになかった。そもそも犯人の霊体がどのようなものかも分からないのに、これは意味がなかったと思い魔眼は一旦やめた。
「ウゥン…………あれ? ちょっと待てよ」
私はどう探そうか悩んでいたが、そこにふと疑問が湧いた。神殿は大きく、ソフィアの部屋は一階ではなく二階にある。そこに侵入し物を盗める人物が神都の壁を越えられないなんてあり得るだろうか。それ程の腕があるのなら門を通らずとも神都を出られるのではないだろうか。そうなれば益々探すのは困難になる。
(これって時間との勝負?)
(………新都の門は二つでしたよね。それならその二つの間辺りで待ち伏せすれば良いのでは?)
(待ち伏せか…………あ、でも船を使って逃げるという手も……)
(……ウゥン)
(できるだけ高く飛んで、神都を出る魔力があれば追いかけて捕まえるというのは…………追いつけるかは分からないけど………………と、兎に角急ごう)
私はそうなってしまってはソフィアがどうなるか分からないと急いで上空へ飛ぼうとした。
しかしその時一人の男が私たちに話しかけてきた。
「お待たせしましたソフィア様、ユウカ殿」
そこに立っていたのはアンデッドの大群殲滅後にアンナが入っていた檻に連れて行ってくれたバーゼルという男だった。
「あ! ようやく来たわね!」
「お待たせして申し訳ありません」
「今は謝るより………できますか?」
「やり遂げてみせます………民の避難は済んでいるか?」
バーゼルは近くにいた男にそう尋ね、男はそれに対し大きく頷いた。
それを見たバーゼルは突然膝をついて、両手を地面に当てると暫く黙り込んだ。
私は何をしているのかと近寄ろうとしたがその時、神都中をとんでもない轟音が鳴り響き突風が吹き荒れた。
驚いた私が周りを見ると、巨大な岩の絶壁が神都を囲むように出現していた。
「こ、これは………!」
それはアンデッド侵攻のときに現れた巨大な壁と似ていた。




