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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
着ぐるみ編
51/143

五十話 突然の出来事

エレノアとは()この時に会話してます。

エレノアの声はユウカ以外に聞こえていませんので。

 夜中になっても私とエレノアのお喋りは終わっていなかった。最も、アンナが横で寝ている事もあり声を出しては申し訳なかったため、心の中で会話している状況だが。

 そしてこの会話方法にも慣れてきていた。エレノアは私が思った事を全て聞き取れる為、一度に多くの事を考えると理解するのが難しいと言っていた。だから私は伝えたい事だけを強く念じて、エレノアもそこだけに集中する事にした。


(そういえば。

 身体の調子はどうですか?)

(ん?

 別にどうとも………)


 私の身体はエレノアと一体化したからなのか、前の霊体よりも少し若返っていた。依然として本当の身体とは似ても似つかない美人だが。


「何ともないのなら構いません。

 それにしても、ユウカはいつもこんな風景を見ていたのですか?」


 エレノアが言う風景とは、おそらくこの神都を常に舞う小さな光の事だろう。エレノアにも見えているのは、魔眼を持っている私の眼を通して見ているからだろうか。


(神都に来てからはずっとこんな感じ。

 多分魔力なのは間違いないんだろうけど………)

(……念の為ソフィアさんに聞いてみますか?)

(ウゥン。

 でもそんなに悪い様な気もしないし、大丈夫なんじゃない?)


 確かに危険なものだとすればソフィアに伝えるべきなのだが、私がああなる前からあった光なのだから大丈夫だろう。それにソフィアの神眼が有れば既に見えている様な気もする。霊体が見えるのだ。私に出来てソフィアに出来ないという事もないだろう。

 だが私はそれ以上に、ソフィアと顔を合わせるのが気まずいのだ。エレノアから聞いた話だと私の所為で見た事もないくらい落ち込んでいたとか。ソフィアが落ち込むことなんて想像も出来ないが、そうだとしたら私と接する時のソフィアは演技をしているという事だ。だからあまり会う気にならない。


(ユウカ………)


 エレノアがそう心の中で囁いた。

 すると突然、何かが開いている窓から入ってきた。最初は黒いものが視界に入って気のせいかと思ったが、部屋の中を見るとギロっと光る二つの目が見えた。


「ギャァァ!」

「な、何だ!?」


 私が驚くとその黒いものも静かに驚いた。

 すると黒いものは一瞬でこちらに迫ってきた。窓から逃げようとしていたのだろうが、襲われると思った私は咄嗟に目を伏せて身構えた。

 そして私をすり抜けて一直線に窓から出ようとしたその時。


「アタッ!」

「ナッ!!」


 勢いよく左腕に激突した。


(ユウカ!?

 大丈夫ですか??)

「イテテ……」


 私はぶつかった左腕の痛むところを撫でながら見てみた。激痛という訳ではなかったが、久しぶりに強い痛みを感じたからか思いの外驚いてしまった。だが思いの外痛みが少ない。これは霊体だからだろうか。

 いいや。それより何故霊体の筈の私の身体がこの謎の黒に当たったのだ? 普通はすり抜ける筈なのだが。

 そんな事を考えている間も黒いものは真ん中の床でこれでもかという程うずくまっている。というより、辺りを警戒しているのだろうか? 獣の様な瞳が部屋中をあちこち凝視している。


「ユウカ様?

 如何致しましたか?」


 するとまだ眠たそうなアンナが浮遊してそう聞いてきた。昼間頑張ってきたから疲れているのは分かるけれど、早くこの状況をどうにかしてくれと思った。


「な、何だアレは。

 頭蓋が宙に……」


 聞こえてきたのは男の、まだ青年の様に幼い声だった。


「何だ!

 ドウシタァ!!」


 すると今度はソフィアが灯りを持って部屋の扉を勢いよく開けて入ってきた。私の叫び声を聞いて勢いよく走ってきたのだろう。息切れが物凄い。

 だが私の視界はソフィアが持っていた灯りに照らされて見えた黒いものに釘付けになった。その場に居た四人はそれを目撃し「え……」と一言呟いた。

 そこに居たのは猫。全身を真っ黒な毛で包んだ大きい猫の姿だった。大きいと言っても普通の猫と比べらたらの話で、身長はソフィアよりも低かった。そして最初に見えた光る瞳は、猫が暗闇にいる時の目だということが分かった。


「クッ!」


 その黒猫はソフィアを見た瞬間もう一度窓から逃げようとして私の方に向かってきた。

 そうなると当然また私にぶつかり、窓の一歩手前で立ち止まった。だが今度は強引に突破しようと、右手を大きく横に振って私を部屋の隅に追いやった。

 そして黒猫は強引に神殿を脱出した。私達はあまりの衝撃に思わず固まってしまっていた。


「………ゆ、ユウカ様、大丈夫ですか?」

「う、うん。

 何ともない……」


 あの黒猫は一体何だったのだろうか? もしかして獣人だったり? 漫画とかでは猫耳だったりするけれど、この世界では全身獣の姿なのだろうか?

 いや、それより…………。


「ユウカさん、今のは?」

「私にも何が何だか………でも」

「でも?」

「物凄いモフモフでした」


 それから私はソフィアとアンナに目の前で起きた事を説明した。

 ソフィアはそれを聞くと全体に白の鎧を纏った人達に、神都の警戒を強めるよう命令した。

 その後はこの部屋は危ないかもしれないからと、自分の部屋に来るようソフィアに言われた。



-----------



 次の日、私達はソフィアの自室で朝を迎えた。元の部屋と違いベッドの寝心地が想像以上に良かった。

 部屋を見てみると既にソフィアの姿はなく、こんな朝早くから仕事をしているのかと感心した。


「ふぁぁ………」


 夜中のベッドでソフィアに黒猫の事を聞いた。するとアレは獣人だとソフィアは教えてくれた。腕力や握力といった力はあまり無いが、どんなに素早い獲物でもその眼で捉え、圧倒的な速さで仕留める程の俊敏さがあるらしい。

 だが獣人の最大の武器はどんな繊細で緻密な作業でもこなして見せる器用さだという。きめ細い縫い物だろうが、細部にまで気を遣った装飾品だろうが、獣人ならばいとも容易くこなしてみせる……かもしれないらしい。

 何故そこら辺が曖昧かというと、彼等には致命的に足りない物があるらしいからだ。それは所謂知力で、獣人は人間よりも遥かに知力が劣るらしい。普通の子供に足し算を教えて理解する時間の数倍は理解に時間を要するらしい。

 もし獣人の頭が良かったら、とっくに人間は彼等の奴隷になっていただろうと冗談まじりにソフィアは言っていた。

 因みに獣人は猫型しかいないらしく、それを知ったソフィアの母親は悲しそうにしていたと神様から聞いたらしい。


「夜は大変でしたね。

 今日は如何されますか?

 ユウカ様」

「ウゥン……」


 身体が殆ど無かった時はあまり気にしていなかったが、アンナとの会話は少し身構えてしまう。敬語だからか、自分も畏まった方が良いのではないかと思ってしまう。


(ユウカ、今日は街を見て回りませんか?)

(………そうだね。

 そうしようか)

「骸骨さん。

 今日は街を見て回ろう」

「はい。

 分かりました」


 私達はソフィアの部屋から出て、神殿の出入り口まで向かった。外に出るのに少し緊張するのは何故だろう。久しぶりだからだろうか。休み明けに学校に行く様な感覚だからだろうか。


 私は浮遊しながら神殿の外に出ると、人々が以前の活気を取り戻し始めている事に気がついた。どうやら聖なる光(ホーリーライト)の影響は少しずつ元に戻っているらしい。私はホッと胸を撫で下ろした。

 すると私の身体を一人の神官が通り過ぎていった。一体なぜあの時は肉体に触れられたのだろうか。エレノアも人や壁に触れることが出来たが、あれは確か祝福とやらで私が身体を与えたからだったか。私が与えたのなら、私にも出来るのではないだろうか。

 ふとそう思い立ち近くにあった壁に右手を触れてみた。


(ユウカ?)


 だが私の手は壁をすり抜けて肘あたりまで埋まった。

 壁に埋まった手を出して考えた。あの時の状況を。あの時はぶつかると思い目を瞑った。だとするとそれが条件なのだろうか。いや、その後にも右手で私を退けたんだった。あの手はフワフワで気持ちよかった………。

 と、そうじゃなくて。他に思い当たることは…………。


(ユウカはあの時力んで衝突を緩和させようとしましたよね?

 力を入れると良いのではないですか?)

「…………確かに」


 私はエレノアに言われた通り右手の拳を強く握って力を込めてみた。

 するとあの時には気が付かなかった感覚が胸の中心から右腕にかけて流れていくのが分かった。力が集まっていく様な、そんな感じの何かが流れているのが分かる。

 もしかしてこれで物体に触れる様になったのだろうか。


「おぅい!

 こっちこっち!」

「待ってよォ」


 すると二人の子供が走りながら私の方へ走ってきた。一人は男の子で、もう一人は男の子より小さい女の子だ。

 そして走ってきた二人のうち先頭にいた男の子が私の前を通り過ぎようとしたその瞬間。私の右手が男の子の顔面に触れた。


「うわ………」

「何かあったの?」

「なんか変な感触が………き、気持ち悪ィ」


 男の子はそう言って腕で顔を強引に摩った。そして逃げる様にその場を離れ、女の子は急いで男の子の跡を追った。


(ユウカ、今のは……)

(触れた……?

 いやでもすり抜けて……)


 試しに目の前の壁に再度手を触れてみた。


 結果はやはりすり抜けて壁に埋まったが、今度は少し反発する様な、壁に圧迫される様な違和感があった。

 これはつまり、触れられる段階まで近づいているという事でいいのだろうか。もう一度強く力めば今度は……。

 だけどあの感覚。あの力が集まっていく感覚。アレは力み終わった後も感じていた。もしかすると集中すれば触れられる様になるのでは?


「ユウカ様?」


 さっきの感覚を思い出してもう一度。あの感覚…………例えるのなら瓶の中に水が注ぎ込まれる様な。いや、液体というより気体だろうか。どちらでもいいが、何かが湧き出て器を満たしていく様な感覚。

 私は想像した。水が、或いは酸素の様な何かが身体の内から溢れ出る様子を。

 するとどうだろう。先程と同じ様に胸の辺りから何かが湧き出す感覚。まるで乾いた喉が潤う様な。深く深呼吸した肺が酸素で満たされる様な。

 いい例えは思いつかないけれど、何かが身体を行き渡っている感覚は確かだ。


(ユウカ、壁に触れられますか?)

(やってみる)


 私は壁に手を近づけ、そして触れた。すると三度目にして、私の手が壁を押している事が分かった。この感覚は間違いない。霊体で物体に触れる事が出来ている。


「おお、触れられる!

 骸骨さん。

 ほら!」


 そう言って私はアンナの頭を……というか頭しかないのだが。兎に角頭を両手で触れて持った。


「おお!!

 確かにユウカ様を感じます!」

(ありがとうノア)

(いえ。

 触れる事が出来て良かったです)


 思いの外上手くいき、私は少しだけ上機嫌になった。

 それにしても何故触れる事が出来たのだろうか。間違いなくあの感覚が原因だろうが、アレは一体……。

 霊体に流れる力………霊力的な? いやでも魔力という可能性も。

 ん、そういえば私には魔力を見る事が出来る魔眼があったんだった。それを使えばこの感覚が魔力によるものか確認できる。

 確か私は常に濃い魔力を見ているとかだったか。だとすれば濃くない……この場合薄いというのだろうか。それを見る事ができれば私の身体がどういう状況なのか一目瞭然だ。

 私はどうすれば魔眼を調節できるか試してみた。

 すると要領が良かったのか意外とあっさり魔眼を調節出来た。やり方は先程と同様に謎の感覚を眼に集中させるだけだった。


「お、これは……」


 魔眼の強さを調節してみる。強くしたり、弱くしたり。

 そうして見えてきたのは、胸の辺りから全身に流れる魔力だった。霊体とはまた違った紫の光が次々に流れ出る様子。一瞬で誰もが魔力と思うくらい分かりやすい。

 ふと気づくと私とエレノアの霊体が消えて、魔力の流れだけが見える。これはつまり霊体の魔力が濃いという事なのだろうか。


「ふう………」


 私は魔眼をいつもの状態に戻そうとしたが、途中で光が見えない状態を見つけ、そのままにしておいた。


(ユウカ、凄かったですね。

 私は濃い魔力しか見た事なかったので神秘的だと思いました)

(うん。

 私も綺麗だと思った)


 それにしても街を見て回るという目的から随分逸れてしまった。

 遅くなったけれど、まず何処から………。


 そう思った瞬間、周囲の違和感に気づいた。

 今まで立ち止まる事なく足を進めていた人々が皆茫然と一つの方向を眺めている。

 私は目の前の壁から横に浮遊して皆んなが見つめる方向を見てみた。どうやら辺りにいる人達は門の方を見ているみたいだ。だけれどそこには特に何も見えない。

 私はもっと視界を凝らして門付近を凝視した。ここで気づいたのが、皆んなが見ていたのは門ではなくこちらに向かって走ってくる大勢の人々だ。では一体あの人達は何故あんなにも全力で疾走しているのかという疑問が次に湧いた。

 けれどここからだとよく見えなかった為、門まで飛んで見に行く事にした。


「「「キャァァァァ!!」」」


 近づいて段々聞こえ始めたのは女性の甲高い悲鳴だった。

 何事かと思い、逃げ惑う人々の流れの元を探した。いや、探すまでもなかった。


「ウオォォ!」


 白鎧を纏った衛兵や図体の大きい男達が雄叫びを上げている。男達は何処からか持ってきた有り合わせの武器を持ち、衛兵が前衛を担っている。

 彼等が見据える先にいたのは人ではない何か。熊程の大きさを持つその怪物と彼等は相手をし、女子供を先に逃していたのだ。

 その怪物を見た私は膨れ上がった肉の塊の様なあまりに気味の悪い容姿と、怪物の近くに転がった三人の死体を見て動揺した。


「ヴヴ…………」


 怪物はうめく。

 そして近くにあった死体を身体に生えた謎の触手で絡めとり、口の中に放り込んだ。


「バキ………ゴクンッ」


 気色の悪い音を出して飲み込んだ死体の腕は、中途半端に口の外に出ていた所為で噛み砕かれた瞬間地面に転がった。

 それと同時に周りの武器を持った人々の血の気が一気に引いていくのが分かった。

 私は突然の出来事に呆気に取られ、思考が停止していた。

戦闘を多めにすると言っておきながらもう中盤ですね。

次からは計画的にいこうと思います。

ですがようやく。本当にようやく戦闘が始まりました。

というか後半は殆ど戦っていると思います。

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