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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
着ぐるみ編
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四十九話 心の中

 神都への道を二頭の馬が駆けている。そのうちの一頭に乗っているのはこの俺、ニコラッド………ゴホン。双剣のニコラッドだ。

 ロペルでは知らぬ者は無く、女子達からもモテモテだ。そして何と言っても俺は誰よりも強い。ロペル一……いやこの大陸一と言っても過言ではない。一人でウルフの群れを壊滅。野宿していた時に襲われたベアーを素手でねじ伏せ。つい最近は町を襲ったミノタウロスのスケルトンを討伐する事に成功した。証拠は残らなかったがな。

 ん? 流石にそれは言い過ぎだって? まあ少し。ほんのすこうし話を盛ったかも知れないが、七割、いや九割は事実だ。

 因みに横にいるのはダニエルだ。


「この調子だと明日にはヘルサスに着けるな」


 ダニエルは俺にそう話しかけた。こいつとは昔からの付き合いで、そこそこ頼りになる奴だと思っている。まあ俺程強くはないがな。

 そして名声と実力を兼ね備えた俺が今何故神都へ向かっているかと言うと、これは数日前の話になるんだが……ある日俺はダニエルとエリザの三人で酒を飲んでいた。するとそこに一人の男が話しかけてきた。そいつは自分をウルフと名乗り、最近冒険者になったミノの情報を聞き出そうとしたんだ。つってもたかが目ん玉の色だぜ? そんくらいは別に良いと思って教えたんだが、後からエリザやダニエルに馬鹿だ何だのと罵られ、仕舞いにはケイティにまで責任を取って奴を尾行しろと言われて今この状況に至るって訳だ。

 いやまあ、俺も少しは悪かったと思ってはいないでもない……。


「それにしても、お前まで着いてくることはなかったんじゃねえか?」

「ん?

 お前一人だと心配だろ」

「俺は子供かっての」


 神都への道のりは結構大変だ。盗賊や山賊なんかは滅多に見ねえが、夜はアンデッド共が森の中から襲ってくるかもしねえ。つってもディアの光が当たる所にいればそうそう襲われはしない。奴らは日の光に弱いからな。オルティアの力の一部を持っているディアの光は奴らが嫌うものの一つだ。まあその光が雲に隠れている時は夜通し見張りだがな。

 だが実はこんな危ない道を通らなくても良い安全な道もある。そっちを進まなのは単純にこっちが近道だからだな。まあ俺程の実力だと、アンデッドなんて雑魚だがな。


「お、おい」

「なんだ?」

「ニコラッド。

 前見ろ。前」


 暫く馬を走らせていると、ダニエルが驚いた表情をしながら唐突に目の前を指差した。

 俺は疑問に思いながら指の方を見た。遠くに何かが見える。霧が掛かっていて良く見えねえが。

 俺は更に目を凝らして見てみた。すると段々と見えてきたソレが、ダニエルの驚く理由だと分かり、同時に自分もその光景に絶句した。


「あ、アレは……」


 普通アンデッドっていうものはオルティアの光に焼かれて灰になる筈だ。それなのに俺達の前を行くあのアンデッドは何だ? 

 俺達が驚いたのはアンデッドが日中も歩いているからだ。しかも日の当たる道のど真ん中を。ただそれだけなら少し驚くだけで済んだかも知れない。だがあそこにいるアンデッドは……いや、あの大量のアンデッドはどれだけいるんだ?


「なんだ……アレは?」

「俺にも何が何だか」


 そこにいたのは大量のアンデッドが昼にも関わらず堂々と道を闊歩する様。しかも一体として燃え尽きているアンデッドは居らず、灰になっていく体がどんどん再生していっている。霧だと思っていたのはそれだった。

 しかし何より驚いたのは燃え尽きない事ではない。その数だ。見渡す限りアンデッドが道を、いや森の中から道を大きく外れた所まで埋め尽くしいる。


「おいニコラッド。

 これは……」

「お、おう…………。

 と、取り敢えずアイツらより先にヘルサスへ行ってこの事を伝えねえと」

「……ああ、そうだな」


 俺達はこの事をいち早く神都に伝えなければいけなかったが、アイツらの中を突っ切っていくのは危険だと判断し、遠回りをしていく事にした。いや、まあ。俺ならなんとか突破できない事もなくはないが、ダニエルがいるからな。


 

--神殿-ユウカ視点--



「………眠い」


 夜中の神殿で私はそう呟いた。あの夜とは違いちゃんと眠気はある。

 神都を謎の光が覆い、そして消えたあの日から二日。私はソフィアからその間にあった色々な出来事を聞かされた。最初は皆んな驚いていたりしていたが、ラーミナ教の大司教が狂った様に崇めていた為そこまでの暴動は起きなかった事。ただ少なからず被害はあったらしく、光の所為で神都中の人々が気の抜けた様にボウッとしていたり、元々肉体的執着の薄い者や、生まれたての子供などの身体の一部が半透明になっていたりと、神官達もその対応に手を焼いたらしい。ソフィアはそれを聞いて責任を感じていた私を気遣ってか、責め立てたりはしなかった。

 因みにラーミナ教の大司教は張り切りすぎて喉を傷めてしまったらしい。


「ユウカ様。

 お休みになられますか?」

「うん。

 おやすみ。骸骨さん」


 ただ悪い事ばかりではなかったらしく、あの光で肉体への執着が弱まった者が大半を占めていた為、飢えや喉の渇き、盗みや暴行などの問題が減ったらしい。お陰で閉じ込められていた間の食糧問題は大丈夫だったと言っていた。

 私は何故光でそういう事が起こったのか聞いてみた。するとソフィアはあの光がラーミナの魔法、聖なる光(ホーリーライト)である事。そしてその効果が闇の浄化である事を教えてくれた。なんでもこの世界のあらゆる物は闇で出来ているらしく、故に肉体や建物が次々と浄化されていったのだそう。そこら辺は理解するのが少し難しかった。

 あの魔法は神都の闇を浄化し、どんどん消滅させていった。もしあの状態がもっと続いていれば神都は滅んでいたそうだ。私は全てが闇で出来ているのかと驚いてソフィアに聞いた。するとソフィアはそれを否定して、唯一光で出来ているものが魂だと教えてくれた。

 そしてもう一つの疑問だった謎の黒い壁は私の魔術なのでは? と推論を述べていた。あの時何が起こったのかソフィアに聞かれたが、正直私もあの時だけの記憶がない。森に出発した所までは覚えているけれど………。

 記憶といえば、神都に来てから無くなり始めていた私の記憶もすっかり元通りだ。何故忘れていたのかもソフィアから聞かされた。

 ひとまず騒ぎは治ったが色々気になる事があるからと、ソフィアは自室に篭りっきりだ。

 だが私はまだ不安な事があった。あの日からエレノアが消えてしまった事だ。





 朝目覚めると、私はあの日までは無かった感覚を実感して少し嬉しくなる。

 感覚。そう、私はあの日から感覚が戻ったのだ。前までは目で見ることだけが私の感覚だった。だけれど今は痛みや匂いが感じられる。ありふれている事だけれど、今の私にはそれが愛おしく感じる。

 でもそれだけじゃない。辛いこともあった。エレノアと初めて会った時に私が人を殺した事を思い出したのだ。あの時はなんの感情も湧いてこなかったのに、今は胸がズキズキと痛み、たまに吐き気を催す始末だ。アンナが宥めてくれてはいるけれど、感覚が戻ってきてからは苦しいことの連続で、正直もう終わりにしたいと思うこともある。

 あの夢の中でエレノアの手を取ったのは間違いだったのでは、と思うこともある。こんなに辛い思いをしてまで戻ってきたくは無かったと、自分勝手ではあるけれどそう思ってしまう。


「おはようございます。

 ユウカ様」

「うん、おはよう」


 目に見えて変わった点といえばもう一つ。私の霊体が少し幼くなった。と言っても前の妖艶な美女から、可憐で清楚な女性という風にだけれど。

 ソフィアは前の身体よりそっちの方が私は好きと言っていた。

 私は昔から自分の容姿に自信がなくて、ずっと変わりたいと思っていたけれど、いざそうなってみると良い気はしないという事が分かった。確かに褒められた時は少し嬉しかったが、同時にこれは本当の私の身体ではないと思い始め、自分が褒められている気がしなくなったからだ。元々自分を評価されるのが嫌いだったからなのもあるかも知れないが。


「ハア……………」


 アンナはこの時間になると外に出てエレノアを探しに行ってくれる。私はというとどうにもやる気が出ず、部屋に引き篭もってばかりだ。

 エレノアは一体どこに行ったのだろう。少し顔を合わせるのは勇気がいるが、それでも話したい事がある。何故私にあんな事を。「依存して欲しい」と言ったのだろう。


「ノア。

 今どこにいるの…………?」


 私は窓の外を行き交う人々を見つめながらそう呟いた。ソフィアの言った通り皆んな物静かで穏やかで、騒ぎが起きている様にも見えない。

 そんな事を考えていると、どこからともなく声が聞こえた様な気がした。

 私は空耳だろうと思い気にせずにいた。もしくは誰かの話す声だと。ただ少し違和感を感じた。この静かな神都で遠くに聞こえるほどの声で話す人はいるだろうかと。

 そう思っているうちにどんどん声は大きくなっていった。私は驚いてよく耳を澄ませた。


「ユウカ。

 聞こえますか?」


 どこからどう聞いてもエレノアの声だった。

 私は驚きながらもその声が何処から聞こえているか辺りを見回した。だが誰もいない。部屋の扉を開けて通路を確認したり、窓から身を乗り出してくまなく探してもエレノアは見つからなかった。


「ノア?

 今何処にいるの?

 というか、何してたの??」

「何処から話せば良いのでしょうか…………。

 一言で言うと、私はユウカの中に居ます」


 エレノアは誰が聞いてもおかしな答えを私に言った。確かに声は頭の中から聞こえる様な……気がする。

 私は考えた。これは何か別の意味があるのではと。もしかすると何かトラブルに巻き込まれて何らかの方法で私に助けを求めているのではと。


「ユウカ。

 そこまで深く考えなくてもそのままの意味ですよ」


 エレノアが私の心を読んだ事に驚いた。一体これはどういう状況なのだろうか? いいや。心を読んだと考えるのはまだ早いのではないだろうか。単に察したという事も。


「いえ。

 心を読んでます」

「え………………ええ!!?」


 それからエレノアは自分が今まで何処に居たのか。そして何をしていたのかを説明した。曰く、あの夢の中でエレノアが差し出した手を私が掴んだ事で魂と身体が結びついたとのこと。そしてその身体を作るために私の魂と同じ場所にいた事。今まで話しかけられなかったのはそれが思っていたより大変だったかららしい。

 魂との結びつきはソフィアから聞いていた。私はそれが殆ど無かったこと。でも今は何の問題も無いから不思議だと言っていた。まさかエレノアがそうしてくれていたとは。


「じ、じゃあノアはどうなるの?

 まさかずっとこのまま?」

「………そう、ですね。

 結びつきを絶ってしまうとユウカはまたああなってしまいますから。

 ですがそんなに悲しい事ではありませんよ。

 もうずっと一緒ですから。もう、離れませんから」


 エレノアはそう言うが、果たしてそれはいい事なのだろうか………。

 私はそう思い納得する事が出来なかった。あの出来事が無ければエレノアはこんな事にはならなかった。こんなに負担させる事も無かっただろうに。

 私は私を責めた。それで解決しないとしても、そうする事しか思いつかなかった。エレノアは今のこの思いも聞こえてくるのだろうか。この先ずっとそれなら、嫌な気持ちにならないだろうか。


「ユウカ。

 あまり抱え込まないでください。

 言いましたよね。私に依存してと。

 辛いのなら私に話してください。

 心の声は聞こえますが、私はユウカの口から聞きたいのです」

「でも……」


 それでも私はエレノアの今の状態を認めてはいけないと思った。


「ユウカ、駄目ですよ。

 ユウカが私との関係を拒めば、結びつきは切れてしまいます

 脅迫している様で心苦しいですが」

「そんな……」

「……ですがそんなに落ち込まないでください。

 これは私が望んだ事なのですから」


 エレノアは言う。あの時私に遺跡で助けられて自分は嬉しかったのだと。でもアンナと行動を共にする様になってから、ずっと寂しさを感じていたと。だから今自分は幸せだと。

 だがそれを聞いても私の考えは変わらなかった。


「………そういえば!」


 エレノアは唐突にそう呟いた。


「どうしたの?」

「先に謝っておきます。すみません。

 私はユウカの記憶を見てしまいました」

「…………ああ!」


 私は急に恥ずかしくなった。思い返してみればあの夢の中をエレノアは記憶と言っていた。と言う事は私と同じ様に子供の頃から余す事なく…………う、ううああ。


「ですがユウカ。

 ユウカも私の記憶を見たのですから、お相子ですよ」

「う、うう。

 ノア………」


 それからは重かった空気も段々良くなっていき、暗かった表情も明るくなっていった。

 そしてエレノアがいなかったこの二日間の事を話して聞かせた。私は世間話をしていて、楽しいと思った。表情が見えず声しか聞こえずとも、エレノアとの話は前より好きになっていた。


「ただいま帰りま………ユウカ様、誰とお話を?」


 暫く談笑しているとアンナが窓から帰ってきてそう言った。

 私はエレノアと話していると言い、さっき起こった出来事を話した。アンナは理解出来ず固まっていた。


「よく分かりませんが………ユウカ様が明るくなられて私は嬉しいです!」

「うん、ありがとう。

 骸骨さん」


 ふと空を見ると赤い色で、もう日が落ち始めていた。

ディアは月の事です。

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