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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
着ぐるみ編
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四十六話 光の正体

 ユウカがいなくなってしまってソフィアに助けを求めにきた私はソフィアの母親に言われた通り部屋で一人待っていた。私以外誰もいない静かな部屋。神殿に駆け込んだ時の騒々しさはもう無くなっていた。

 神殿の外を見てみると先程より明らかに強くなった光が神都中を照らしている。最初は薄らと黒かった謎の壁も今は夜の様に暗く距離感も掴めない。

 一度外に出て神都の端々まで見渡してみると、その壁が神都を囲っていることに気づいた。それを見た人々は外に出ようと試みるが、私の時と同様に阻まれて進めない。あの壁は一体何なのだろうか?

 そしてあの黒い壁があるせいで眩い光がより一層異様に見える。オルティアじゃない、魂とは大きさの格が違う。あの壁といい光といい、一体誰が…………もしかしてユウカ。


「ああ、もう!」


 暫く一人で待っていると、ソフィアが声を荒げながら扉を勢いよく開けた。とても不機嫌な様に見える。何かあったのだろうか?

 そう思いながらソフィアの元へ行く。ソフィアはズカズカと歩いて椅子に座ると、後からソフィアの母親が入ってきて開いていた扉をそっと閉めた。


「まったく、どいつもこいつも保身のことばかり。

 神都が一大事かもしれないって時に。

 ラーミナ教の大司教に限っては出席すらしな」


 ソフィアがそう言いかけた時、神殿の外が何やら騒がしくなっていることに気づいた。ソフィアはそれを不思議に思い、窓に近づいて様子を見た。

 そこには多くの人々が神殿の入口近くに集まり、上空に向かって祈りを捧げていた。よく見ると一人の老人がその人々等を先導している様に見える。

 するとその老人が天を仰いで両手を挙げると、辺り一帯に響き渡る大声で演説を始めた。


「アレはラーミナ様の光。

 我々を守護して下さるラーミナ様のお恵みなのだ!

 故に皆、あの光を崇めるのだ!」


 老人がそういうと辺りの人々は歓喜の声をあげたり、涙を流しながらより一層の祈りを捧げた。

 ソフィアはそれを呆然と見つめていた。


「な、何をして………。

 というかラーミナの恵みって………はあ、もう」


 ソフィアは老人を見て怒りが顔に出たが、少しして呆れたかの様にため息を一つついた。


「ソフィアさん」

「ああ、エレノアさんね。

 何があったのか話してくれる?」


 私はそんなソフィアに横から声を掛けた。

 ソフィアはそれに驚くことなくそう返答した。おそらく事前に母親から聞いていたのだろう。

 ソフィアは疲れた表情で椅子にどかっと座ると、神眼を開いて私を見つめた。いつ見てもあの眼は慣れない。そもそも額に眼があること自体に違和感を覚える。


「はい、分かりました」


 それから私は神殿を出発した後森で起きた事を話した。森で眼帯の男に出会ったこと。その男がかつて私の両親を殺した盗賊であること。そして突然苦しみ出して遂には死んでしまったこと。そして最後に思い出した様にユウカの様子がおかしかったことを話した。

 私の話しを聞いていたソフィアは最後に言ったユウカの様子について聞き返した。それに対して私は度々ボウッとしていたりした事を話した。思い返せば夜ユウカと話していた時も何処か様子がおかしかった様に思う。


「そんな事があったの…………。

 ユウカさんの居場所は分からないけれど、一つだけ明らかな事があるわ」


 私はソフィアのその言葉に少し落胆した。だが明らかな事とは何だろうか?

 そう思いソフィアに聞き返した。


「ユウカさんの現状についてよ。

 エレノアさんの話を聞く限り、ユウカさんはおそらく死にかけているか、もしかしたらもう死んでいるかもしれないわ」


 ソフィアは淡々とそう話した。私は一瞬訳が分からなくなり、目の前が真っ暗になった。ソフィアはその間も喋り続けていたが、あまりの衝撃でよく聞き取れなかった。

 だが段々とソフィアの言った言葉の意味が分かってきた。その途端に冷徹に話すソフィアに私は怒りが湧いてきた。


「ユウカが死んだって、どういう事ですか!」


 私は咄嗟に大声を出してソフィアを問いただした。

 ソフィアは少し驚いた顔をしたが、怒る私を宥めて説明を始めた。


「『かもしれない』って話よ。

 まだ確定した訳じゃないわ。

 ………まず、ユウカさんの身に起きたおかしな出来事。

 記憶が欠損していたり、時に虚な状態になったり。

 その原因は彼女の身体にあるの」

「身体?」


 ソフィアにそう言われて心を落ち着けると、椅子に座って話に耳を傾けた。

 随分と長い説明で途中よく分からないところもあったが、ソフィアは丁寧にユウカが何故そうなったかを話してくれた。

 まず聞かされたのは魂と身体の関係。身体と魂はお互い繋がっていて、魂が無い身体は着衣の様に自分の身体ではなく、身体が無ければ魂は霧散し消滅してしまうこと。だからその二つがなければ生きているとは言えないと、ソフィアは言った。

 それを聞いて益々疑問に思う。ユウカは神殿に来た時にソフィアが身体を作る様に言ってそうした筈。ユウカ自身も自分の霊体について感想を言っていた。それならユウカは身体と魂両方が揃っていることになる。


「ユウカさんの場合ね、身体はあるものの魂との結びつきが弱いせいで記憶の欠損が起きたりしていたの。

 それじゃあ何故ユウカさんが死んでいるかもしれないのか。

 それはきっと身体との結びつきが完全に断たれてしまったから」


 ソフィアが言うには、光は何にも縛られていない。身体との結びつきがあるのは魂がそれを望むから。だが一度その繋がりを切り離せば、自由になった魂が身体を離れていってしまう。

 それは本来あり得ないこと。でもユウカにはそれが起こってしまった。そうしたらどうなるか。そう、魂は霧散し、消滅する。

 ソフィアさんはそう考えあんなことを言ったのだろう。でも、私はそれを信じたくない。


「でも少し気掛かりな事もあるわ。

 その盗賊が突然死したこと。

 そして粉々になった人形。

 何故そうなったのか…………でも残念ながら今はユウカさんのことに手を貸せないの」

「え?」

「エレノアさんも見たでしょ?

 あの空に浮かぶ謎の光を。

 これは異常事態よ。

 あの騒いでるラーミナ教徒が言うような恵みではないかもしれない」


 ソフィアはあの光をどうにかしなければと、ユウカを探す助けを断った。確かに今はあの光を優先しなければいけないだろうけど…………。


「イタッ」


 すると突然窓の側にいたソフィアの母親がそう呟いた。


「どうしたの?」

「いえ、今少し痛みが……………すみません、気のせいだったかもしれません」


 ソフィアの母親は自分の頬をさすった。

 だが今度はさすっていた手の甲に痛みを訴えた。大丈夫だろうか? 私は………特に痛みは感じない。

 私はそう思い自分の身体を見回してみる。


「痛み…………ンッ」


 さらに次はソフィアが痛みを訴えた。


「ウゥン…………。

 私は少し気になる事がある」


 ソフィアは考え事をしながら部屋を出ていった。私はそれを見ながらこれからどうしようと考えた。もしユウカが死んでいたのなら私は…………ん? ユウカが死んでいるのなら何故私の身体は無くならないの?

 私はふとそう思った。そもそも私の身体はユウカの祝福でできているとアンナは言っていた。そこら辺のことはよく分からないけれど、祝福を与えた本人が死んでいるのなら、私の身体が残っているのはおかしなことなのでは?

 私は窓の外にある光を眺めながらそう考えた。気のせいだろうか? 先程よりも強く輝いている様に見える。

 この神都の中にユウカがいるとは限らないけれど、一度探してみよう。

 そう考え私は窓を開けて外に出た。


 私は神都の中を隅々まで探した。人が多い通りや教会は勿論。誰も寄り付かない路地裏や誰かの家の中まで。

 私にユウカは見えないのだから意味が無い事なのかもしれない。けれどもしかしたらユウカが私に気づいて声を掛けてくるかもしれない。ユウカに自我があったらの話だけれど………。



----------



 ユウカを探し始めて気づいたら数日経っていた。その間にも手掛かりは掴めず、ただただ時間ばかりが過ぎていく。

 この数日神都の住民達は光に祈りを捧げ続けたり、あの大司教と言われる人の話を聞いていたりしていた。だが中には世界の終わりだと騒ぐ者もいた。それは当然だろう。あの壁の所為で外に出られないのだから。この状態が続けばいずれ食料は底をつき、飢え死にしてくる者も出始めるかもしれない。

 だがいつの間にか起きていた暴動も収まり、街は異様な静けさに包まれている。祈る人は相変わらず。だが多くの人は光を眺めながらボウッとしている。まるであの時のユウカの様に。

 私は一度神殿に戻ってソフィアの様子を確認することにした。


 神殿の入口からソフィアの部屋へ行き、中に入るとそこには既にソフィアがいた。椅子に座って呑気にティーカップで飲み物を飲んでいる。

 私はそんなソフィアに声を掛けた。


「ソフィアさん」

「ん、エレノアさん帰ったのね」


 ソフィアはそう言って手に持ったティーカップを置くと、神眼を開いてこちらを見た。

 私はソフィアの座っている対面の椅子に腰を下ろすと、今はどういう状況か尋ねてみた。


「あれから色々分かったわ。

 あの光が何なのか、とかね」

「………それではアレは何なのですか?」

「アレは魔法よ。

 光の神ラーミナの魔法、聖なる光(ホーリーライト)。

 効果は闇の浄化。

 主に死霊やアンデッドを撃退したり、単純に目眩しとして使う極ありふれた魔法」


 その魔法は聞いた事がある。というか知らない人は少ないのではないだろうか。昔話や神話によく登場して悪魔や悪霊を倒すというのはよく聞く話だ。


「それでね。

 何故その魔法が使われているかというと……………ユウカさんが原因なの」


 私はソフィアから出たあまりに突飛良しもない言葉を一瞬理解できなかった。何故ユウカがそんなことをするのか。そもそもユウカは魔法が使えないではないか。私が召喚魔法を教えた時も何も怒らなかった。

 いや、それよりも何故アレがユウカだと思うのか。私はそうソフィアに聞いた。


「正確にはアレは魔法で、ユウカさんはその中心部にいるの。

 どうやって分かったかというと、エレノアさん、あなたとユウカさんの繋がりを神眼で見たから。

 喜ぶべきか分からないけれど……ユウカさんは生きているわ。

 いえ、生きていると言っていいのか」

「……どういう事ですか?」

「実は神殿にあった本に同じような出来事が書かれていたの。

 今みたいな聖なる光(ホーリーライト)が現れた話が」


 そう言ってソフィアは女神カーラの昔話を聞かせてくれた。そして私は教えられた。ユウカの魂の事を。

 それを聞いた私はどうすればいいのか一層分からなくなった。だからソフィアに聞いた。


「どうすれば、ユウカを元に戻せるのですか?」

「…………さあ。

 正直言って、私も神都の住民も誰一人として事態の解決策を提示出来ないと思うわ。

 ふふ。それにしても、ラーミナ教徒が言う事もあながち間違いではなかったわね。

 まあ、恵じゃなくて滅びの光だけれど……」

「な、何故笑っていられるのですか。

 死んでしまうかもしれないと言う時に」


 それを聞いたソフィアは憤りながら静かに口を開いた。


「私だって…………!!

 ごめんない、私も辛いのよ。

 依存していた訳じゃない。

 けれど、魂が主の御許に召されないと知って………。

 私に出来ることは何もない。

 だからこうやって暇つぶししてるのよ」

「…………すみません」


 私は悲しむソフィアにそれしか言えなかった。彼女も自分のことで精一杯なのだ。それに、こんな事実を知って耐えられる者も少ない。死んで神の元へ行く自由すら無いこの空間で、彼女は信仰する主に祈ることすら出来ない。私はその原因を作ったのがユウカだと知って責任を感じた。


「…………ハア。

 別に謝ることじゃ無いわ。

 誰も悪くない………いえ、悪いことなんてないのだから」

「それでも、御免なさい」

「……どうしようもなかったのよ。

 それに、何より辛いのはユウカさんでしょうし」


 そして私はソフィアと別れてユウカといた部屋に戻った。

 そういえば骸骨さんは今何をしているのだろう。外と断絶されているから、今どうなっているのか分からない。


「今、何を思っているのですか?

 ユウカ………」


 私は窓の外の光にそう語り掛ける。ユウカは今もあそこで寂しがっているのだろうか。私はどうすれば。

 こんな時、骸骨さんはユウカの役に立って見せるのだろうか…………。


「うう、こんな時に嫉妬するなんて。

 ………ユウカ」


 私が小声でそう呟いた瞬間、突然視界が暗くなり音も聞こえなくなった。





 一体、何がどうなって…………!?


「ユウカ」


 すると突然聞きなれない女性の声がその名前を口に出した。

 それと同時に私の視界は戻っていき、目の前の光景を捉えた。


「こ、これは!」


 そこにいたのは赤ん坊とその子を抱く母親らしき姿の女性。とても美しい顔立ちをしている。

 横には父親だろうか? 一緒に赤ん坊をあやしている。

 ふと周りを見てみると、そこは見覚えのない部屋。見慣れない物があちこちに置いてあり、私の頭では理解が追いつかなかった。


 ここは、一体…………。

ようやく次からユウカの過去が書けます。

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