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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
着ぐるみ編
46/143

四十五話 ユウカの行方

--神殿-ソフィア視点--


 ユウカ達が神都を出た後。

 神殿の通路を歩いていた私は一人の男性に声を掛けられた。


「おはようございます。

 ソフィア様」


 彼の名前はエルドレッド。

 大地の神の大司教バーゼルの側近だ。

 いつもはバーゼルの元で補助的な役割をこなしている。

 金髪の青年で、私と歳も近い。

 最近は会議ばかりで彼にもよく会う。

 ちなみに妻子持ちだ。

 それ程仲がいいという訳でもないが、他の神殿関係者と違って話しやすい。


「おはよう」

「今日もあの方々と何処かへ行かれるのですか?」

「いいえ、あの三人は遺跡へ向かいました」

「そうだったのですね」


 エルドレッドは最近ずっと元気が無い。

 その理由は彼の弟が突然いなくなったからだ。

 失踪か、誘拐かは分からない。

 数日前、夜中部屋から叫び声が聞こえて何人かが駆けつけたが、そこに弟の姿は無かった。

 ただ部屋の中の物はあちこちに散乱していた為、バーゼル大司教は誘拐だと疑い、神都中を聖騎士や神官に探させた。

 だが何日経っても弟は見つからなかった。

 あの日から今日まで弟の行方は知れない。

 それでいつしか失踪したのでは? という噂が流れ始めた。


「それにしても、あの方。

 確か、ユウカ……という名前でしたか?

 あの方の魔力は強大でしたね。

 私に魔力を見る事は出来ないのに、何かが溢れ出している様に見えましたよ。

 ソフィア様はあの方と仲良くされている様ですが、どうですか?

 あの方はこの国の脅威になり得ますかね?」

「仲良く、ね…………」

「………違うのですか?」


 ユウカさんと会って分かった。

 彼女は信用する以前の問題だ。

 あの身体はまだ魂と結びついていない。

 このままじゃユウカさんの魂はいずれ消えてしまう。

 きっとユウカさんにはどの神に対しても信仰がない。

 魂を持つ者は死後神の御許へと召される為に信仰心がある。

 信仰という繋がりを感じて神がこの世界から自身の世界へと魂を招くのだ。

 では信仰心の無いものはどうなるか。

 それは勿論どの神とも繋がっていないからこの世界で緩やかに魂が消滅する。

 ユウカさんは今まさにそんな状態だ。


「ソフィア様?」

「………ユウカさんは脅威にならないわ。

 彼女には敵意がない。

 というか、いずれ無くなる」

「それは一体どういう?」

「このままだとっていう話よ。

 まあ、どんな形であろうと彼女はまだ子供。

 子供はまだ信用できないわ」


 私はそう言って窓の外を見る。

 今日は天気が良い。

 天高くにはティアナ様の神器オルティアが煌々と輝きを放っている。

 ユウカさんもいずれはあんな風になってしまうかも知れない。


「子供、ですか………?

 それ程例を欠いていたのですか? 彼女は……」

「いいえ、そういう意味じゃないの。

 ただ彼女は成長できないってだけ」


 私がそういうとエルドレッドは理解できないと言わんばかりに首を傾げる。


「……………彼女は成長できない。

 何故なら彼女には道を歩く事が出来ないから」


 エルドレッドは益々首を傾げた。

 私は少し面倒くさいと思いながらどう説明しようか悩む。

 そういえばお母さんから私は説明が下手と言われた事がある。


「ユウカさんは身体がないのよ。

 ここに来た時に私は霊体を作る様に言って、ユウカさんもそれが出来たけれど、結局は変わらなかった。

 今ユウカさんを包んでいるあの霊体は魂との結びつきが全くと言って良いほど無い。

 そんなの、兵士が身に纏う防具と同じ。

 身体とは言えないわ」

「……身体が無い。

 つまり足が無ければ歩く事も出来ないと?

 それは精神的な面で大人になれないという事ですか……」


 そう、身体が無ければ何もできない。

 ユウカさんは裁きの神オルドムにあったと言っていた。

 だが神々は滅多にこの世界へは現れない。

 仮に降臨したとしても私やティアナ様が気付かない訳がない。

 ではユウカさんはどうやってオルドムと話したのか。

 それはきっと彼の世界に招かれたから。

 でもユウカさんはオルドムを信仰してはいない。

 信仰していなければ奴の世界には招かれない。

 だとすると強制的に世界の中に入れられた事になる。

 そんなのは不可能だ。

 でもユウカさんは実際にあったと言っていた。

 それはユウカさんに抵抗する手足が無かったから。

 召喚された時の事を覚えていないのも身体が無いから。

 身体が無ければ考える事も出来ない。

 ユウカさんには何も出来ない。

 …………でも、一番の気掛かりはユウカさんの魂。


「ではソフィア様があの方と接している時のあれは演技という事に?」

「…………そうね。

 光と闇。

 そのどちらかしか持っていない者は信用できないわ。

 だから私は創造神ではなくティアナ様を信仰しているのよ」


 お母様、やはり貴方と彼女は違います。

 会ってみて分かりました。

 彼女はまだ子供。

 道半ばで歩けなくなってしまった子供。

 でもユウカさん。

 あなたを召喚した者達は見つけ出すわ。

 あなたがそうなってしまった原因を……。


 そう思った瞬間。

 神都の上空に眩い光が突然現れた。

 オルティアの光では無い。

 もっと近い位置にある。


「あれは、一体!?」


 エルドレッドは驚きながらそう言った。

 私は突然現れたそれを神眼で見た。

 見えるのは膨大な量の魔力が溢れ出ている様子。

 だが光は肉眼で見るのと何も変わらない。

 あれは、もしかすると魂?

 いや、正確には魂を覆う身体か。

 でもだとすると…………。


 私は辺りを見回してみた。

 どうやら神都の住民達にもアレが見えているらしい。

 皆上空を見上げ固まっている。

 そうだとすれば魂とは違う。

 ここの神都に住む多くの人間は魔力を見る事が出来ない。

 だとするとアレは魔法か魔術の類だろうか?

 それなら一体何が目的なのだろうか?

 この神都はティアナ様の加護で護られている。

 簡単には手出しできない筈。


「ソフィア様、アレは一体……」

「ウゥン………今はそれより、大司教達を至急集めて下さい」

「わ、分かりました」


 私がそう命令するとエルドレッドは急いで駆け出していった。



--遺跡の森の中-エレノア視点--



「お前は………!」


 目の前に現れたのは眼帯をつけた男。

 私はその顔に見覚えがあった。

 そしてあの目にも。

 私は思い出す。

 あの日の事を。

 家に強盗が押しかけてきて、お母さんとお父さんが殺された時のことを。

 間違いない。あいつはあの時、お父さんを殺した男だ。

 一体なぜここに?

 いや、そんな事はどうでもいい。

 今の私はもうあの時の何も出来なかった私とは違う。

 あの炎でこいつを!


「いやァまさかこんなに早く会えるとはな。

 体格も顔も変わってはいるが、俺は騙されねえぞ。

 その眼。

 その片方色が違う眼が証拠だ。

 あの時俺から奪った眼。

 俺と同じ目の色をしている」


 私はそれを聞いて動揺した。

 人形の体になったときに突然現れたあの魔眼。

 それがあいつの眼?

 私が奪った?

 それじゃあ私はあの時まであいつの眼と一緒に………。

 気持ち悪い。

 最悪だ。

 でも、今その眼を持っているのはユウカ。

 私はユウカになんて事を。

 それもこれも全部、あいつの所為だ。


「俺から奪った魔眼の使い心地はどうだ?

 ちゃんと使えているか?

 骸骨の化け物まで連れて…………あ?」


 男がそう言った瞬間からふと魔眼が淡く光っている事に気づいた。

 あれは魔眼を使っている時の光だ。


「なんで同じ顔した幽霊がいるんだ?

 それにお前、なんだその魔力は………」

「何故、お父さんとお母さんを殺したのか聞かせて貰っても良いですか?」


 私は溢れ出る怒りを抑えながら男にそう質問した。

 それを聞いた男はキョトンとしていた顔を元に戻し、


「あの男が売りに出した魔石は高く売れるんだ。

 だからわざわざ家まで行ったんだよ。

 なのに家中探し回っても見つからねえ。

 全く………てめえの問に答えたんだから次は俺に教えろ。

 お前らはなんだ?」


 男はそう言った。

 私は悪びれる様子もないその男を見てさらに怒った。

 そしてその男に右手を向けて炎を飛ばそうとした。

 だがその瞬間、男は素早く後退りをした。


「なんだ、今の感じ……。

 おい、お前俺に何をした!」

「何を……」


 男がそう叫び、私はふとユウカの方を見る。

 特に変わりはない。

 いや、少しおかしい。

 さっきからユウカが一言も喋っていない。

 それどころか、立ったまま微動だにしていない。

 そしてアンナを見てみる。

 アンナはユウカの目の前で戦闘態勢を取っている。


「グガァ!!」


 すると突然男が唸り声を上げた。

 私は驚いてその男の方を向く。

 そしてもう一度ユウカを見た。

 ユウカは動いていない。

 だが男は更に苦しそうな表情をして地面に倒れ込んだ。

 その時私は気づいた。

 男がひたすらに胸の辺りを押さえているのを。


「ヴヴヴヴゥゥ」


 男は倒れ込んだままもがき苦しんでいる。

 身体中のあちこちから汗が吹き出し、白目を剥き出した。

 目からは涙が、口は強く噛み締めすぎて血が出てきている。

 そのうち胸を押さえすぎたからだろうか? 胸の骨が折れる音が聞こえる。

 私は一体今何が起きているのか訳が分からず、その光景を呆然と見つめていた。


「ウグッ……………………!」


 そして遂には男の声も無くなって動かなくなった。

 私が動かなくなった男をただ見ていると、アンナが浮遊して近寄って男の生死を確認した。


「死んでいます、息もしていません…………。

 これはユウカ様が?」


 アンナはユウカにそう問いかけた。

 だがユウカはその問いかけに応える事なく黙ったままだ。

 私はそっと人形の肩に手を触れた。

 すると人形は私の手から離れて地面に勢いよく倒れた。


「ユウカ…………!

 ユウカ?」


 人形は倒れた衝撃でバラバラになった。

 だがそれでもユウカは声を出さなかった。

 ふと、ユウカはもうここにはいないのではないかと思った。

 ではユウカは一体何処へ行ってしまったのか。


「が、骸骨さん。

 ユウカは何処へ?」

「私にも何が何だか………。

 ですが霊体が見えない私達ではユウカ様を見つける事は出来ませんし、一旦神都へ戻ってソフィアさんに聞いてみましょう」

「は、はい………」


 アンナにそう言われて私は頷いた。

 そしてソフィアにユウカの居場所を探してもらう為、神都に戻る事にした。


 私が地面に転がっている人形を見ると、いつの間にかバラバラだった人形の体が跡形も残らず粉々になっていた。

 私は人形がもう持ち運べる状態ではなかった為、不思議に思いながらもアンナとその場を飛び去った。





 私は神都上空までアンナと飛んできた。

 だが神殿が見えた時突然アンナが空中で止まった。


「骸骨さん?」

「……………」


 アンナは私の目の前で浮遊しながら何か言っているようだった。

 だがその声は私には聞こえなかった。

 私は不思議に思いアンナに近づいた。


「こ、これは!?」


 だが直前で謎の見えない壁に阻まれそこから先へ進めなくなった。

 その壁はとても分厚く、さらにかたい。

 どれだけ叩いても壊れる気配がしない。

 そうしているうちに段々その壁に色が現れ始めている事に気づいた。

 最初は薄ら暗く、気にしないほどの色だった。

 だが突然上空に眩く光るものが現れると、その壁の濃さも段々増していった。

 そして私にはその光に見覚えがあった。

 アレはまだ私があいつの魔眼を持っていた時。

 その時見た魂と瓜二つだ。

 だが大きさの桁が違いすぎる。

 放つ輝きも他のとは比べ物にならない。


 私はそれを見て一瞬どうしようか迷ったが、ソフィアに会う事を優先してアンナは後回しにした。


 私は神殿の中に入ると、ソフィアの姿を探した。

 通路を飛び回り、ソフィアの自室から私達が泊まっていた部屋まで手当たり次第に探し回った。

 だが一向にソフィアは見つからない。

 そうしていると目の前をソフィアの母親が通りかかった。

 それを見た私は咄嗟に声をかけた。

 すると彼女は私の声に気づいて、辺りを見回した。


「エレノアさん?

 近くにいるんですか?」

「はい、ここに」


 私がそういうと彼女は声のした方に振り向いた。


「良かった。

 無事だったんですね」

「あの、ソフィアさんは今どこに?」

「ソフィアは今会議中よ。

 エレノアさんはそれまでソフィアの自室で待っていてくれないかしら?」


 彼女はそう言いながら走り去っていった。

 ソフィアを探し回っている時は気が付かなかったが、神殿内がいつもより慌しい。

 ソフィアの母親も忙しそうに走っていったところを見ると、これは緊急事態なのだろうか?

 そう考え、私は走り去っていく彼女の背中を見ながら「はい」と返事をした。

途中で出てきたオルティアは太陽です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話文と情景描写の地の文のバランスが非常によく、大変、読みやすい作品です。 作品世界の背景を想像しながらキャラクターの活躍や感情の機微もわかる。 しかも、在り来りな展開でなく、先の予測が難…
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