四十三話 関係
レビューされてました。
嬉しすぎて震えましたね。
本当にありがとうございます!
--エレノア視点--
ユウカと骸骨さんは体についたゴブリンの血を落とす為に近くの小川にいる。
私はソフィアと一緒に丁度いい大きさの岩の上に座っていた。
正直言って気まずい。
ユウカの所に行きたいが、私の身体は汚れていない。
あの時私が一番後ろにいたのはソフィアのことを見張るためだったけど後悔している。
ユウカが入っている人形が壊れても、ユウカは傷付かない。
だけど、ユウカの心はどうか分からない。
………いや、でもユウカなら。
考えてみればユウカは不思議だ。
何故あそこまで平静を保っていられるのか。
仮に私がユウカの立場だったら、突然知らない場所にいて、家族も、友人もいない。
そんなの私だったら辛い。
というより、怖い。
でもユウカは好奇心が強いのか恐怖を知らないのか、泣いたり、帰りたいなんて言わない。
ん、でもそういえばユウカの元いた場所ではこういう世界のことが書かれた本が沢山あると言っていた。
だからだろうか………?
「ねえ、エレノアさん」
そんな事を考えているとソフィアが私に話しかけてきた。
私は彼女を信用していない。
ユウカは普通に接しているけど……。
いや、アレは普通じゃないか。
どちらかというと振り回されてるし。
「なんですか?」
「冒険者って、いつもこんな風なの?」
「………さあ、どうでしょう。
私達はまだ冒険者になって日が浅いので、よく分かりません」
私がそういうとソフィアは「へェ」、と声を出した。
何故そんな事を聞くのだろうか?
そんな事を彼女に質問しようとした。
だがやめた。
もしかすると彼女は私からユウカの事を聞き出そうとしているのかもしれない。
そう考えたからだ。
「それにしても、エレノアさんってあんまり喋らないよわね。
もしかして信用してない? 私の事……」
「はい」
ソフィアの質問に私は即座にそう返答した。
大体何処を信用すればいいというのか。
なにせこの人はユウカに神都へ来いと言ったり、勝手にゴブリンの巣窟に連れ出したり。
信用出来ないのも当然だろう。
「おお、即答だね。
でもそれで良いと思うわ。
私も人を簡単に信用する人は信用できないから」
「そう、ですか……」
それから暫く沈黙が続いた。
小川ではまだユウカと骸骨さんが体を洗っている。
私は気まずいこの状況が早く終わらないかと考えていた。
そもそも私はそれ程人付き合いが好きではない。
まだ生きていた頃も冒険者ギルドに行く時は顔馴染みをまず探していた。
農場の手伝いをする人達とはよく話していたけど。
だとすると私は人見知りか。
「ねえ、エレノアさんとユウカさんっていつもあんな感じなの?」
するとまたもやソフィアに話しかけられた。
私はあまり喋りたく無いんだけれど……。
もしかしてユウカと私の関係を聞いているのかな? あんな感じってどんな感じだろう?
「あんな、とは?」
「二人はあんまり会話をしていない様に見えたから」
「…………別にあなたには関係ないでしょう」
私は少しきつい口調でそう言った。
彼女にそう言われて少し腹が立ったのだ。
私がユウカとあまり話さないのは骸骨さんの所為だ。
あの森での出来事以来、私は骸骨さんと話すのが気まずい。
この呼び方にも違和感がある。
私は私の家族を壊したあの人を許せない。
たとえ間接的だったとしても………いや、確か予言で知っていたんだった。
でも骸骨さんはユウカの役に立っている。
寧ろ骸骨さんが居なければ冒険者にはなれなかっただろうし。
私はそれが腹立たしい。
最近はユウカの役に立っていない様に思う。
でもきっとそれは私に出来る事がそれ程ないから。
だから責めるべきは自分自身なのだろうけど………。
体を洗うアンナを見ながらそんな事を考えた。
「……そんなに見て欲しいの?」
「え……?」
ソフィアは私に突然そう言った。
見て欲しい? 私がユウカに?
………私はそんなにワガママじゃない。
「わ、私はあなたみたいにワガママでは……」
「でも、あなたの骸骨さんを見る目は嫉妬じゃないの?」
そう言うソフィアの額の神眼はいつの間にか開いていた。
「嫉妬…………」
私は嫉妬しているのだろうか………。
いいや違う。
私はただあの人の事をまだ信用していないだけ。
だから私が見張ってユウカを……。
「さっきも言いましたが、あなたには関係の無い事でしょう?
あまり変な事は」
「でも、頼られたいって思うでしょ?」
そう言われて少し苛立ってしまった。
だが私は落ち着いて、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
この人は会った時から無神経だ。
きっと他人の事なんて微塵も考えていない。
そんな事を考えていると、ふとここまで来る道中でソフィアが言っていた事を思い出した。
彼女は自分の力に恐怖する人々がいるから立場を明確にしているという事を。
だとすると今彼女に言おうとしていた事は無神経だ。
それなら彼女が今、私にこういう事を言うのは何か意味があるのだろうか?
………頼られたいっていうのは確かにそうだ。
ユウカは骸骨さんを頼る事が多い。
それは私の記憶を見て私の全てを知っているからだ。
だからあの人を頼るのは理解できる。
でも、私だって頼って欲しい………そう思う。
はあ………ワガママだ。
自分の事が嫌になる。
「そう、ですね………確かに嫉妬していたのかもしれません。
ワガママは私の方ですね」
「………別にそれでも良いんじゃない?」
「へ?」
私の落ち込む姿を見てソフィアはそう言った。
てっきり否定されるものと思っていた私は、驚きのあまり間抜けな声を出してしまった。
「別にワガママでも良いいじゃない。
観てる方としては可愛らしいと思うけれど」
「な、なにを!?」
「ふふふ」
恥ずかしがる私を見ながらソフィアは笑う。
全く本当に何がしたいんだこの人は。
可愛らしいって………。
「わ、悪い事ではないのですか?
嫉妬は………」
「ん、そうかしら?
私は善や悪なんかがこの世に存在していると思っていないから。
嫉妬? 良いじゃない!
それってユウカさんの事が好きって事でしょ?」
すすす好き!??
私がユウカを…………い、いや何を考えて、というかなんでそんな話に……。
私とユウカは好きとかそういうのじゃ………。
少なくとも恋愛関係じゃない事は確かだ。
そう思いながらソフィアから目線を逸らした。
「どうかしたの?」
「な、なんでもありません!」
「あ、御免なさい。
もしかして好きってそういう意味で受け取っちゃった?
だとしたら言葉足らずだったわ」
こ、この人は私を揶揄って……。
はあ、全く。
少し疲れました。
でもきっとこの人はユウカの様に好奇心旺盛なのだろう。
だから私にあんな質問ばかりしてくる。
少し自重してほしいものだ。
だけど、この人が悪い人ではないという事は分かった。
…………さっきこの人は善悪なんてないと言っていたけれど、だとすると良い人と悪い人の区別はどうしているのだろうか?
「じゃあエレノアさんはユウカさんの事をどう思っているの?
恋愛感情は抱いていないんでしょ?」
「い、抱いていません!
…………ユウカは、私を救ってくれた………理解者です」
それを聞いたソフィアは考え込む。
そして私はソフィアを横目に自分の言ったことについて考えた。
ユウカが理解者。
自分で言ってなんだけれど、どことなく違和感がある。
ユウカは私を救ってくれた。
あのまま消えて無くなりたいと思っていた私に手を差し伸べてくれた。
それはきっと、私の記憶を見て私がして欲しいことを分かっていたからだろう。
私の伸ばしている手をしっかり握ってくれた。
あの時は物凄く人形の体が温かく感じた。
思い返せばあの時、ユウカに抱きしめられた時にどうしようもない程感情が溢れてきた。
長い間寂しくて、それを理解してくれたユウカに私はきっと心を許したんだと思ってた。
でも今考えると不思議だ。
あのときの、あの感覚………。
「理解者ね……。
自分の気持ちなんて他人には解りようもないと思うけれど」
「ユウカには分かるのです。
ユウカは私の生きた十数年を見てきたのですから」
「…………相手の記憶や感情を全て知っていた所で、人と人とは分かり合えないと私は思うわ」
ソフィアのその言葉に少しムッとした。
本当にそうだろうか?
誰かの考えている事、その全てが分かればその人に対して最善の行動が分かるはずだろうし。
「納得いかない?」
「はい………何故そう思うのですか?」
「だって、お互いにかけて欲しい言葉を知っていたらそりゃあ最初は上手く行くだろうけど、途中からそれは単なる作業になってくる。
魂を持っている私達はゴーレムや、それこそユウカさんの操るスケルトンなんかじゃない。
きっとそのうち飽きてきて最後には誰とも関わらないようになると、私は思うわ」
それを聞いて少し不安になる。
だとすると私もいつかユウカに飽きられるのだろうか……。
それは嫌だと思った。
それじゃあユウカが今まで私に接してきた行動は作業ということになる。
でも本当にそうだろうか?
ウゥン…………結局私とユウカはどんな関係なのだろう。
「ふふ、まあ私はあなたがそれで良いというのなら何も言わないけれど。
……もしかしたら全てを理解する仲が一番良いのかもしれないし」
ソフィアにそう言われても私の心は晴れなかった。
私はまだ少しだけ話し合っていたかったが、
「お待たせ」
二人が帰ってきたのでひとまず考えるのをやめた。
--ユウカ視点--
私はゴブリンと戦っている最中に体についた血をアンナと一緒に落としていた。
幸い近くに川が流れていた為、一安心だ。
「骸骨さん頼める?」
「はい、お任せを。
………申し訳ありませんでしたユウカ様。
私がもう少し早くゴブリンを倒していれば、こんなに汚れずに済みましたのに」
ローブについた血を落としながらアンナはそう言った。
いつもより暗い声でそういうアンナは、とても落ち込んでいた。
「いいよ、別に。
大体人形の体だから全然問題ないし」
まあ目の前で首が飛んで血が降りかかってきた時は流石に驚いたけどね。
でもあの時は本当に危なかった。
あのゴブリンはヤバいと本能で察したよね。
匂いとか嗅げないから臭いのか分からないけど、ソフィアさんが臭うって言ってたから臭うんだろうな。
そんな事を考えながら人形の体を見る。
スライムの時とは違って意外とよく取れる。
だけど一番汚れているのは骸骨さんなんだよね。
なんてったって一番前にいたから。
それから暫く待った。
その間にエレノアの方を見てみる。
会って初日にソフィアを攻撃しようとしてたから少し心配だった。
だけど二人は意外に仲良くやっている様だ。
話も弾んでいる様に見える。
思い返してみれば最近はノアとあまり会話してない様に思う。
どうしても知識が豊富な骸骨さんばかりに頼ってしまうのはどうにかした方がいいかな?
ノアはどう思ってるんだろう。
感情がわかれば良いんだけどなァ。
ノアは人形の時も今もあまり表情を動かさないから。
そういえばノアを初めて抱きしめた時に何故か今どんな感情か分かったけど、あれってなんだったんだろ?
「終わりましたよ」
私が考え込んでいると突然アンナがそう言った。
人形の体を見るといつの間にか綺麗になっている。
骸骨さんは仕事が早いな。
「ありがとう骸骨さん」
「いえ、感謝されるほどでは」
そういうとアンナは自分の体を川に浸けて血をとり始めた。
「あれ、自分の体の血は落とせないの?」
「どこまで汚れているのか見えませんので難しいです」
見えていないと出来ないのか………。
でもこの人形の手じゃ上手く洗えないしなァ。
あ、そうだ!
私は突然ある事を思いついた。
そしてそれを実行に移す為に人形の体を近くに寝かせた。
視界が一瞬暗くなる。
そして辺りを見回すと下に人形の体。
私は霊体化した。
この霊体の手なら骸骨さんの頭を洗えるでしょ。
あ、いや骸骨さんは頭しかないんだった。
そんな事を考えアンナの頭へ手を伸ばした。
だがその手はアンナをすり抜けた。
あれ?
おかしいな………。
その後何度やっても触れられない。
そういえば昨日霊体になってから何かに触れるのはこれが初めてだった。
ずっと宙に浮いていたから気付かなかったけど、もしかして私は何も触れないのかな?
「ハッ!!
何やらユウカ様を近くに感じます!」
おっと危ない。
もう触らないでおこう。
それにしても、ノアは人形に触れたり壁は通り抜けられなかったりと、幽霊っぽくない事をやってるけど………私は完全に幽霊だな。
私は次に流れる川に手を当ててみる。
だがやはり水も私の手を通り抜けていく。
今度は地面の中を覗いてみる。
「ウゥン………何も見えない」
目を開けていても見えるものは無く、どこを見ても暗闇だ。
考えてみれば地面の中には光が届かないからそれもそうか。
それにしても………もし私が見える人がいたら裸で地面に顔突っ込んでる姿が見えているんだよね。
まあ好き好んで裸になってる訳じゃないけど、見えなくて良かった。
私は安堵しながらふとエレノアとソフィアの方を見てみる。
すると神眼を開いたソフィアが私をじっと見つめているのが見えた。
終わった。
そう思った。
そうして私は暫く固まった。
するとソフィアは額の神眼を閉じてエレノアとの話に戻った。
…………助かった……のか?
ソフィアさんの神眼は脅威だな。
要らぬ誤解を生むことになる。
そう考えて空を見上げる。
今日は雲が日の光を遮って時々辺りが暗くなる。
まるでさっきの私の様。
……………もう、戻ろう。
私は人形の体に戻った。
「ユウカ様、洗い終わりました」
人形の体に戻ったと同時にアンナがそう言った。
「あ、そう?
じゃあ戻ろうか」
「…………はい」
アンナは私に少し遅れて返事をした。
声は少し低くなっていて、落ち込んでいたさっきとは少し違っていた。
「ユウカ様、私はまだあの方を信用できません」
「ウゥン、多分ワガママなだけだと思うんだけどな」
「…………だと良いのですが。
ユウカ様も警戒していて下さい」
骸骨さんは用心深いなァ。
私もこれくらい警戒心強い方が良いのかな?
それから私とアンナはエレノアとソフィアの所へ戻った。
「お待たせ」
私が二人の元へ戻ると何やら少し険悪な雰囲気だった。
さっきまでは結構良い感じだったんだけど、何かあったのかな?
「ユウカさん汚れは取れた?」
「ああ、はい。
綺麗になりましたよ」
まあ人形の体はいろんな事があってちょっとボロボロだけど。
それにしてもさっきはソフィアさんにあられもない姿を見られたから少し話しにくい。
次から霊体になる時は誰もいない所でじゃないとね。
「それじゃあ三人とも、神都に帰りましょう」
こうしてソフィアのワガママに付き合わされた日は終わった。
かに思えた。
「こらァ!
ソフィア!!」
神都の門をくぐるなり待ち構えていたソフィアの母親の怒号が辺りに響き渡った。
それからは二人の追いかけっこが始まり、辺りにいた人々は和やかにそれを見つめていた。
やっぱり二人は普段からこういう感じなのか。
お母さん、同情しますよ。
--遺跡のある森の中--
ユウカ達が遺跡の主を倒した森。
そこにその男はいた。
片方の目を眼帯で隠し、不敵な笑みを浮かべる男。
彼は冒険者ギルドでニコラッド達にユウカの素性を聞いていた男だ。
他にも彼の周りに数人の男達がいる。
皆上等な装備を着ているが滲み出る雰囲気は消せない。
彼等は盗賊。
金の為に盗みを働き人を騙す。
そんな奴等だ。
辺りは真っ暗な夜。
この時間は大量のアンデッドが森を徘徊している。
だというのに男達は怯えもせず森の中を進む。
明かりは数人が持っているランタンだ。
アンデッド達は光を嫌う。
だが目の前に生き物がいる場合は別だ。
それは彼等も分かっている。
「「「「ヴヴヴゥゥ」」」」
するとアンデッドが彼等に向かって迫ってきた。
だが彼等は避けようともせずそのまま歩き続ける。
目の前には大量のアンデッド。
百や二百ではない。
千、いやもしかすると万はいるかもしれない。
そんな事はお構いなしに進んでいき、遂には鼻先までアンデッドが迫ってきた。
だが何故かアンデッドは彼等を通り抜けていく。
誰にも見向きはせず。
「ようやく会えるな。
エリーちゃん」
眼帯の男は夜空を見上げてそう言った。
こうして彼等は安全に神都ヘルサスまで歩いていく。




