四十二話 ゴブリン退治
「はあ、はあ、はあ…………ここまで来ればもう大丈夫ね」
私はソフィアと共に神殿から離れた場所まで走ってきた。
ソフィアの走る速度は思っていたよりも速かった。
私はそれに着いて行くのに精一杯だったが、霊体を得ていたから転ばずに済んだ。
走っている時にふと周りを見てみると、皆全力で走るソフィアに驚きの表情を浮かべていた。
だが中にはソフィアに手を振って名前を呼んだり、祈るような体勢で跪く者もいた。
「何で逃げたんですか?」
私は走りながら疑問に思っていた事を聞いた。
ソフィアはまだ息が苦しいのか、咳き込みながらこっちを見た。
そして息を整えると、落ち着いて喋り出した。
「勿論、お母さんから逃げるためよ。
それにしてもユウカさん、あなた全然息切れしていないのね」
「まあ、そうですね」
「私は久しぶりに走ったからもうヘトヘトよ」
その割には随分速かったけど……。
でもそうか。
私は息切れしないんだよね。
………いや、そうじゃなくて。
何で私達は逃げてるの?
ソフィアさんが手を引くから着いてきちゃったけど。
「それにしても、フッフッフ………」
するとソフィアは突然不敵に笑った。
「きっと皆んな騙されてるんだろうなァ………。
私の分身に」
「……分身?」
私はソフィアの言った事に疑問を投げ掛けた。
「ええ、さっきのは私が作った人形に騙されての悲鳴よ。
お母さんにもバレずに密かに作った私そっくりの人形。
名付けてソフィ!」
………にん、ぎょう?
それってつまりあの人を騙したって事?
……後が怖いな。
「フッフッフ………っと、そうだった。
ユウカさん、今から神都の外に行かない?」
「外?」
ソフィアの突然の提案に私は疑問を持った。
「ええ、そう。
最近近くの洞窟付近でゴブリンの目撃情報があったらしいの。
だから今からそのゴブリンを討伐しに行かない?」
ご、ゴブリン!
ファンタジーとかによく出てくるモンスターだよね?
そういえばまだ一度も会ってない。
ゲームとかだと雑魚だったりするよね。
あ、でも強い奴もいるのかな?
そういえばゴブリンにはメスがいないとかで他の種族を襲うってのは聞くよね………あんまり会いたくないな。
「い、いえ私は」
「それじゃあ出発!」
私の返事を遮ってソフィアは歩き出した。
ソフィアの母親の気持ちが分かった気がした。
まあ、比べ物にならないだろうけど。
でも確かにワガママだったな。
いや、年齢に見合った性格なのかな?
これが本来のソフィアさんなのかも……。
私達は神都を出てソフィアが案内する道を歩いていた。
「久しぶりの外は気持ちいいわね……」
「大変なんですか?
仕事……」
ゆったりと歩くソフィアに私はそう聞いてみた。
するとソフィアは少し微笑んで、
「まあね」
そう返答した。
それを聞いた私はソフィアに同情した。
大体身長から見て大人じゃないだろうに……。
それならワガママなのもしょうがないよね。
ソフィアのお母さんも大変だ、なんて思っていたけど、まだ子供のソフィアさんに大変な仕事を任せる方が酷いのかも。
私がそんな事を考えていると、
「でも、しなきゃいけない事だから」
今度はこちらを見ずにそう言った。
「……まだ子供なのに?」
「え、私が?
……もしかして身長を見て私の事子供だと思った?」
私の問いかけにソフィアは苦笑いしながらそう言った。
「ゴゴゴゴメンナサイ!!
その、つい……」
ソフィアさんもう大人だったのか。
失礼な事言っちゃった。
……でもそれを聞いたらお母さんの方に同情しちゃうなァ。
「……ま、いいけど」
ふう、怒られなかった。
でも、この世界ではなりたいものに成れないのかな?
まあ元の世界でも夢は必ず叶うわけではないけど。
あ、でもソフィアさんは使徒なんだっけ?
じゃあ望んでその地位についたのでは?
………何で使徒になろうと思ったんだろ。
私はふと疑問に思った事をソフィアに尋ねてみた。
「ソフィアさんは何で使徒になったんですか?」
「………何でそんな事を聞くの?」
私の質問にソフィアは不思議そうな表情でそう聞き返した。
「その、今の話を聞いてるとあまり楽しそうには見えなくて……」
「使徒っていうのは神が勝手に決めるのよ。
そこに自分の意志は無い。
……まあ、それは神によるでしょうけど、私の場合はそうだった」
使徒は強制なのか……。
やっぱり神様ってのは傲慢なのかなァ、あのオルドムみたいに。
それじゃあ今の地位についてるのも神様のせいなのかな?
……嫌じゃないのかな?
「あ、ユウカさんもしかして私が強制的に働かされてると思ってる?」
「え……!
はい……」
あれ、顔に出てたかな?
あ、私今人形に入ってるから顔動かないんだった。
まさか、私の思考が読まれているのか!?
「まあそう思うのも無理はないわ。
でもそんな事はないのよ」
「そう、なんですか?」
私はソフィアの意外な発言に驚いた。
「ええ。
ティアナ様が守護するこの神都を発展させる事は信者である私の使命みたいなものだから。
まあそれは私が決めた事だけど。
だけれど、私がこの地位についていないと不安になる人が多いから」
不安になる……か。
それって裁きの神様が言っていた善か悪か、みたいなことかな?
ううむ、ソフィアさんと私は似た所があるのかも。
「あ、でも使徒になった事を疎ましく思ったのは子供の時だけよ。
今は主より与えられたこの力が誇らしいし、嬉しいの。
なにせ私は主を崇拝、信仰しているから」
へえ、神様の事嫌いじゃないんだ。
てっきり憎んでるかと……。
そういえば私が遺跡の破壊するのって私に力があるからだよね?
私はこの力についてどう思ってるんだろ。
無ければ良かったとは思わないし。
やっぱり異世界に来たら強くなりたいし。
ウゥン、でもこの先もこうやって自分の立場を示さなきゃいけないのは面倒臭いな。
「ユウカさんは……。
ユウカさんは自分の力をどう思う?」
するとソフィアは突然私にそう聞いた。
私は自分の考えていた事を聞かれて少し驚いた。
「……どう、ですかね?」
「………お母様が言っていたけれど、お母様はこの世界に来て最初は自分の力を良い事に使おうとして、山賊や盗賊なんかから村を守ったりしていたらしいの。
でもそれを見た人々が抱くのは圧倒的な力を何処とも知らない人間が振るっている事に対しての畏怖。
そしてその力が自分達に向けらるかもしれないという恐怖だったそうよ。
まあお母様自身、問答無用で賊を殺していたからしょうがないと言えばそうだけど」
まあ、普通に考えたらそうだよね。
力を見せびらかしたって初めて会う人が見たら敵か味方か分からないもんね。
私の今の状況と似てるかも。
「それで何が言いたいかというとね。
力というのはどんな使い方をするのかが大事だという事。
斧は木こりにも使えるだろうけど、武器にもなる。
そこをわきまえないといけないって話。
さっきの話では人助けをしたんだから責められるいわれは無いと考えそうなものだけど、事前にこの世界の一般的な強さを知っておくべきだったわね。
そうすれば悪い人を追い払ってくれた英雄なんていって歓迎されただろうし」
ソフィアは少し笑いながらそう言った。
「確かにそうですね。
まあ、力が全てじゃないですしね」
「ウゥン、そうかしら?
私は力が全てだと思うわ。
腕力や魔力だけじゃない。
知力や魅力なんかがあるから装飾品を作ったり、それを着飾ったりして目立つ人がいる。
行動力があるから何かをする。
脚力が無ければ走る事は出来ないでしょ?」
確かに生きるうえでどんな事をするのも力がいるよね。
なるほど力が全て。
という事は全ての力を持っていれば最強という事だな。
ってそれは極端か。
でも意外に考えてるんだな。
正直言って頭それほどよくないかと……これ本人に言ったら物凄く怒られそう。
「あ、見えてきたわよ!」
すると突然ソフィアが少し離れた小山を指差してそう言った。
そこにはちょっとした洞窟があった。
近くを見渡しても建物はなく、人影も見当たらない。
ふと地面を見ると道から外れている事に気づいた。
道理で何もない筈だと納得した。
「アレがゴブリンの?」
「ええ、そうらしい……けど、ゴブリンはいないわね」
ゴブリンの目撃情報はデマだったりして。
いや寧ろそうであって欲しい。
でも一応近くまで行ってみるか。
本当にいたら被害者とか出そうだし。
どうかゴブリンが雑魚で有りますように!
私はそう祈りを捧げて洞窟に近づいた。
近くに来てもやはりゴブリンはいない。
そして洞窟の中は奥が暗すぎて見えなかった。
ふと辺りを見渡してみると近くに小川が流れていた。
「あれ、おかしいわね……ゴブリンがいない。
ねえユウカさん、明かりを持ってない?」
「え、洞窟に入るんですか?」
「………ええ、入るわよ」
私はソフィアのその言葉に驚愕した。
「あ、危ないんじゃ……」
「……大丈夫じゃないかしら?」
ええ……てきとうだなァ。
本当にゴブリンいたらどうするの?
あ、でも使徒は強かったりするかも。
そしたら着いていくだけで何もしなくて良いかも。
「あ、ユウカさん明かりある?」
「いや私は……。
骸骨さん魔術で明かり出せない?」
私がそういうとアンナは私のローブの中から出てきた。
だが少しソフィアとは距離をとり、警戒しているように見えた。
「小さな火を出せば明かりになるかと」
「おお、それ良いわね!」
アンナの提案にソフィアは嬉しそうに返事をした。
「あ、それと洞窟の中に入れば私は何も出来ないからユウカさん、頼んだわよ!」
「え?
何も出来ない?」
私はソフィアの突飛よしもない発言に驚いて思わず質問してしまった。
するとソフィアはキョトンとした表情で、
「だって私の魔術は威力が大きすぎてこんな狭い所じゃ周りを巻き込んでしまうもの」
と答えた。
「ま、魔術が駄目なら魔法で」
「魔法は神に願い、力を借りる行為よ。
ゴブリンごときに使いたくないわ。
それにティアナ様も私と同じで低威力の魔術が使えないから、どちらにせよ私は役に立てないわ」
う、嘘でしょ。
じゃあソフィアさんはどうやって自分の身を守るつもりなんだ。
こんな暗い洞窟の中で……。
「ほら、ユウカさん。
早く中に入りましょう」
「ええ!!
ちょっと!?」
私はソフィアの強引なワガママを止めることができなかった。
私達は暗く狭い洞窟を小さな炎の光を頼りに奥へ進んでいた。
洞窟の中はさっきからずっと一本道で曲がり角もなく、特に見るところもない。
だが足場が不安定で、人形の体で進むのは難易度が高く何度も人形から出そうになった。
先頭はアンナが火を出しながら進み、その次に私。
ソフィアは私の後ろから遅い私を焦ったそうに見つめ、エレノアはさらにその後ろからついてきていた。
「この洞窟いつまで続くの?
私は少しだけ疲れてきたわ」
「あ」
ソフィアが弱音を吐いた次の瞬間。
前を飛んでいたアンナが突然そう呟いた。
「なに?
どうかした?」
それを聞いた私はアンナの元へ行き、奥を覗き込んだ。
「え、あれって」
そこにいたのは少し開けた空間に屯するゴブリン達だった。
十、いや数十匹はいるだろうか?
あるゴブリンは鹿のような動物の肉を食らい、骨までしゃぶりついている。
またあるゴブリンは仲間内で喧嘩のような争いをしていて、周りはそれを見て楽しんでいた。
「どうかしたの?」
「に、逃げましょうソフィアさん」
あ、アレはどう見ても多種族襲う系のゴブリンだよ。
見た感じメスがいないもん。
あとめっちゃ気持ち悪い。
それによく考えたら襲われるのって人形の私じゃなくてソフィアさんじゃん!
いや、本当にまずい。
「え、ゴブリンいたの?
道理でなにか臭うなと思っていのよね」
「今そんな感想言ってる場合じゃありませんよ!
早く逃げましょう!」
私は小声でも分かる程に鬼気迫った言葉でソフィアを逃がそうとした。
「え、ゴブリン倒さないの?」
た、倒すって……。
でもソフィアさんを守りながらじゃ難しい。
「ウガァ!」
そんな事を考えていると突然一匹のゴブリンが叫び声を上げた。
「ユウカ様、気づかれました!」
「ええ!?」
アンナがそう言ったと同時に叫び声を上げたゴブリンがこちらへ向かって走ってきた。
そしてよく見ると後からも続いてゾロゾロとゴブリン達が走ってきていた。
私はまずいと思い咄嗟に人間のスケルトンを召喚した。
だがそのスケルトンは召喚した場所が悪く、天井に上半身がめり込んで砕けてしまった。
それを見た私がもたついているうちに、ゴブリンは目の前に飛び掛かってきた。
だがその瞬間。
アンナが放った風の斬撃がゴブリンの首元に命中した。
頭と身体が別れ、空中で血を撒き散らしながらそのゴブリンは倒れた。
「せ、セーフ。
ありがとう骸骨さん」
「いえ。
それより早く逃げましょう」
そ、そうだ逃げないと。
って、これは!
私はアンナが倒したゴブリンから魂が出てきた事に驚いた。
その魂は私の方へ来ていなくなった。
「ユウカ様!」
「あ、うん!」
私はアンナの声に頷いて走り出した。
ソフィアの手を握り。
だがその間にもゴブリン達は迫ってきた。
アンナの魔術で近寄ったゴブリンは倒されるが、どんどん増える奴らを倒すのは難しそうだった。
私は走りながらアンナに手をかすため、ウルフのスケルトンを数体召喚した。
だがそのスケルトン達も不安定な足場に苦戦してゴブリンに倒されていった。
奴らは地の利があるのか、速度を落とす事なくこちらへ迫ってくる。
「ね、ねえユウカさん」
走りながらソフィアは私に呼びかけた。
「な、なんですか」
「私、ティアナ様の加護の力で攻撃されると勝手に辺り一帯を焼き尽くしちゃうの」
「ええ!!」
い、今それ言うの!?
それって私も巻き込まれるよね?
絶対にソフィアさんを守らなければ!
私はそう思いながら一気に大量のスケルトンを召喚した。
ウルフやミノタウロスのスケルトンも一緒に。
だがこれが功を奏したのか、大量の骨が狭い洞窟に溢れかえり、その所為で砕けたスケルトンの体の破片がゴブリン達に突き刺さった。
さらには埋め尽くされたスケルトンで壁ができ、ゴブリン達はこちらに走ってこれなくなっていた。
「ぬ、抜け出せたァ」
流石にもう終わったと思ったね。
あ、でも私はもう終わってたのか、ははは。
ソフィアさんにはもう着いて行かないでおこう。
「いやァ、びっくりしたわね。
アレがゴブリンなのね。
私初めて見たわ」
「は、はあ……。
もう、懲り懲りですね」
「そう?
私は楽しかったけれど」
ソフィアは微笑みながらそう言った。
「さ、左様ですか。
陛下……」
「それにしても……血が沢山着いちゃったわね」
まあ目の前でゴブリンの首がとんだからなァ。
そういえば近くに川があったよね。
骸骨さんと一緒に体を洗うか。
あ、でも骸骨さんなら汚れ落とせるかも。
……でも一応洗おう。
そんなこんなでソフィアとのゴブリン退治は終了した。
投稿期間が開きましたね。
すみません。
ぺースを早めようとは思うのですが、やる気が出ません。
いえ、頑張ります。




