三十五話 神の世界
「…………あれ?
ここ何処?」
私は気がつくと見覚えの無い場所にいた。
煌びやかな装飾に巨大な柱が立ち並び、そこかしこに金でできた装飾品や美術品などが置いてある。
白を基調としたとても広いその場所を一言で表すならば、神殿という言い方がしっくりくるだろう。
それらに見惚れていた私はふと考えた。
何で私こんな所にいるの?
確か私は神都に向かっていた筈。
それなのにどうして………あ! そういえば道に老人がいて話しかけられて。
………ウゥン、それからどうなったのか覚えてないな。
まだ寝ていて夢を見ているとか? にしては現実味が……。
取り敢えずこの場所を探索してみようかな。
私はそう考えて辺りを見回した。
そして近くにあった金や宝石でできた硬貨や剣、杯などの山の中から一つの宝飾品を手に取った。
「へえ、綺麗。
これって誰のだろ? 持ち主がいないなら貰っちゃってもグヘヘへ
………ま、そんな事はしないんだけどね。
盗みは法律で禁止されてるし」
私は日本人だからね。
ルールは守るためにあるから。
あ、でもここ日本じゃなかったな。
……それならグヘヘへ。
「ほう、盗みはしないのか……」
すると突然その場所に響き渡るように男の声が聞こえてきた。
その声は道端で聞いた老人とは違い迫力があった。
私は聞こえてきた声が反響するのも相まって、少し怯えていた。
「あ、あのどちら様でしょうか?
べべ別に私は泥棒しにきた訳じゃありませんよ。
き、気づいたらこの場所にいて」
お、思わず動揺しちゃった。
これじゃあ逆に怪しまれるよ。
でも急に話しかけられたら誰でも動揺するよね……うん。
いやいや、そもそも悪い事なんて何もしてないし。
ちょおっとそこら辺にあった物をくすねようと考えただけで、実行に移した訳じゃ無いし。
「知っている。
そもそもお前をここに呼び寄せたのは私なのだからな」
呼び寄せた?
という事はやっぱりここは夢じゃなくて現実。
と言ったってあの時周りにはこんな大きい建物は無かったけど……。
「……えっと、それは何故でしょうか?」
「確かめるためだ。
お前が悪なのか、はたまた神の敵なのかどうかをな」
ええ、何それ。
神の敵って、私を過大評価しすぎなんじゃ。
私はただ異世界に転生したいたいけな少女だよ? 年齢は三十だけど。
………そういえば今考える事じゃないんだろうけど、私って転生したのかな?
召喚されて殺されてるから異世界召喚なのでは?
…………まあ、どうでも良いけどさ。
「いや別に神の敵になるつもりはありませんよ?
悪かどうかは……自分では分かりませんけど」
「………ッフ。
だが口だけなら何とでも言える。
それにお前は相当おかしいからな」
アウレリアさんの時もそうだったけど、私ってそんなに変?
人形の体以外は普通の常識人だと思うんだけど。
それに何かこの人の喋り方私を小馬鹿にするような感じで少し鼻につくんだよね。
それに善とか悪とか定義が不確かなんだし、個人の主観で決まる物じゃ無いと私は思うんだよ。
まあ、盗みを働こうとした私が言う事じゃ無いけど……。
でも少し位勝手に連れ去られたお返ししても良いよね。
「えっと、私が悪かどうかってあなたが決めるんですか?」
「ああ、そうだ」
「それってちょっと傲慢じゃ無いですかね?
善悪なんて人それぞれなんだし、あなたが勝手に決める事じゃありませんよ」
言った、言ってやったぞォ。
………でもちょっと言い過ぎたかな。
私は全然そんな事は思ってないんだけどね。
普通に善悪は法律で決められてるし。
「成程、傲慢か……。
確かにお前が善か悪かなんて他人に決められることでは無いし、決めつけた奴は傲慢だろう。
だがそれは人だとしたらだ」
「人だとしたら?
……あなたも人でしょ?」
私はその男が言った事への疑問を投げかけた。
「私は人では無い。
私は神だ。
それ故に人々へ裁きを下せるのだ」
………やべ、中学生の頃思い出しちゃった。
声には迫力あるのに、もしかしてまだ子供だったり?
はあ、今まで尻込みして怯えていたのが馬鹿らしくなってきた。
こんな厨二病はほっといて早く出口探そう。
そういえば私も召喚される前厨二病してたから人の事言えないか。
私はそんな事を考えながら出口を探すために辺りを見回そうとした。
「ッフ、まあ信じずとも良い。
だがここからは出られないぞ。
まだ確かめている途中だからな」
まったく、めんどくさいなァ。
……しょうがない、ここは厨二病仲間として付き合ってあげますか。
そうすれば満足して出口を教えてくれるでしょ?
「はあ………おお神よ。
一体何をすればここを出られるんですか?」
「さあな……」
………もう放っておいて良いかな?
というかスケルトンで壁破壊すれば出られるじゃん。
最初からそうしておけば良かった。
「それじゃあ神様さようなら」
男にそう言って私はスケルトンを召喚した。
が、いつまで経ってもスケルトンは召喚されなかった。
あれ? 何で?
スケルトンが出てこない。
私はもう一度スケルトンを召喚した。
だがこれも先程と同様に何も起こらないった。
「あれ? おかしいな」
「フッフッフ、無駄だよ。
お前のスケルトンをここで召喚する事は出来ない。
なにせここは光と闇の世界ではなく、私の世界だからだ」
光と闇の世界って何?
この人何言ってるの?
というか何でスケルトン召喚できないの?
「さぞ混乱しているだろうが、今はお前の処遇を保留にしよう。
そもそもお前は人では無いからな。
今は私でさえ判断し兼ねている状態だ」
一体、何を言って……人じゃない? 私が?
………いや、今はそんな事よりどうにかして脱出を。
どこかに出口は……。
「そうだな…………もう帰って貰っても構わない。
次までにお前の処遇を考えておこう」
「は、はあ……」
なんか、許された?
もう帰れるのかな?
「それと、先程の話の続きだがな。
人が人を裁くのは傲慢で罪深い。
だが神ならばその行い全てが肯定される。
故に私の裁きは傲慢ではないのだ」
そ、それって暴論じゃ。
いやでも人じゃないから大丈夫なのか?
ウゥン………。
「ん? 私の裁き?」
私は男が言ったその言葉が引っ掛かりつい口にしてしまった。
「ああ、自己紹介がまだだったな。
我が名はオルドム。
裁きの神オルドムだ」
ええ!
神様だったの!?
……ああいや、そう言ってたか。
でもまさか本当だったとは………オルドムか、後で骸骨さんに聞いてみよう。
「それではお前を元の世界に送り返す。
………だがその前に、一つ忠告だ。
お前は今のままではいずれ自我のない存在になってしまう。
自分の存在を保ちたいのであれば、早めに身体を得る事だな」
「はあ、ご忠告どうも有難うございます」
体なら人形のがあると思うんだけど、それじゃダメなのかな?
……ん、これは。
すると段々目の前が暗くなっていき、意識も薄れていった。
「い…………おうい」
「……え?」
「お嬢ちゃん大丈夫かい?」
あれ? 戻って来たのかな?
ふと気づくとそこは今までいた場所ではなくなっていた。
そして目の前には道端であった老人が心配そうにこちらを見つめていた。
「はい、大丈夫です」
「それはよかった」
あの場所から戻れたのか。
良かった………そういえばこの人と会ってからだよね、あの場所に行ったのって。
という事はこの人とあのオルドムっていう神様に何か関係が?
………てそれは考え過ぎかな。
でも一応聞いてみるか。
「あの、少し尋ねたい事があるのですが……」
「なんだい?
私に答えられる事なら何でも聞いてくれ」
「オルドムっていう神様知っていますか?」
私がそう言うと老人は少し驚いた表情をした。
「驚いた、よく分かったね」
「え? 何がですか?」
「私が裁きの神オルドムの信者だという事をだよ」
ま、まさかの信者。
じゃあもう絶対原因はこの人じゃん。




