三十二話 冒険者達の朝
--冒険者ギルド--
「あああ………暇だ」
お酒を飲みながらニコラッドはそう呟いた。
「じゃあ依頼を受ければいいだろ?」
大柄の男はニコラッドにそう話しかけた。
「そういえばあの子……確かミノだったかしら? ウルフを三匹も倒したんですってね」
するとローブを着た胸の大きい女は艶やかな声で二人にそう語りかけた。
「ああ? ウルフなんて雑魚だろ。俺だったら一日で十、いや二十は討伐できる」
「おいおいウルフは結構強いだろ。それにお前だったらじゃなくてあの歳の子供がウルフを討伐できるのが凄いんじゃないのか?」
威張るニコラッドに大柄の男はそう言って宥めた。
「そうね……でも本当に子供なのかしら?」
「なんだ? どう言う事だ?」
「……あの子の魔力は強大よ。私の人生でもあんなのは見た事ないわ。それにあの顔。あの無表情というにはあまりにも動かない目、口………まるで人形の様」
女がそう言うと、二人の男はしばらくの間沈黙した。
「ま、今どきのガキは変にませてるからな」
「でも確かに礼儀正しいよな。案外どこかのお嬢様だったりしてな。それなら魔力が強いのも納得いくんじゃいか?」
大柄の男はそう言いながら手元の酒を一口啜った。
「まあ、それならそれで良いんだけどね………」
「あ、三人とも今日は朝早いですね」
すると突然受付嬢が奥の部屋から出てきて三人の冒険者に話しかけた。
「お、そう言うケイティは寝坊か?」
「いやァ良い夢見てたんですけどね」
ニコラッドがそう言うと、ケイティは歯に噛みながら頭を軽くかいた。
「おいおい、受付がいないと依頼も達成出来ないんだからな」
「分かってますよ。でも私も一人で大変なんですからね!」
ケイティは少し頬を膨らませてそう言い放った。
「すまんすまん、謝るからそう怒るなよ。それにしてもどれ位になるか? アウレリアさんが神都に出発して」
ニコラッドはニヤニヤしながらケイティに謝り、そう言った。
「確か三週間くらい前じゃなかったか……? にしても珍しいよな、あの人が誰かの命令を聞くなんて」
「神都か………はあ」
大柄の男がそう言うと、ケイティはため息をついた。
「なんだ? 神都に何かあるのか?」
「いやァ私も行ってみたいなと思って。聞くところによると都市全体が水に囲まれていて、その街並みは見た誰もが息を呑むほど美しいとか。それにあそこの冒険者ギルドはとても清潔で、建物も大きくて従業員も多いから機能は充実してるらしいし。何より酒場と併設してない所が良いんですよ」
ケイティは自慢げにそう話しながら腕組みをした。
「いや、だが都会は都会で大変な事もあるだろ」
「そうかもしれませんけど、でも憧れるんですよ」
「まあ良いじゃない。いつか行けるわよ」
すると今まで黙っていた女がケイティにそう話しかけた。
「ですよね! ありがとうございます!」
「それにしても随分話が逸れたな」
「逸らしたのはお前だろ」
ニコラッドがそう言うと、大柄の男はニコラッドにそう言い放った。
「なんの話をしていたんですか?」
「ああ、あの子供の冒険者の事だよ」
ケイティがそう尋ねると、大柄の男はそれまで話していた事を答えた。
「ミノちゃんの事ですか? あの子はまだ子供なんですから、あまり虐めないでくださいよ、ニコラッドさん」
「い、虐めてねえよ」
ケイティの問いに眉をひそめながらニコラッドは返答した。
「じゃあこの前のあれは何だったんです?」
「いやあれは別に」
「あれって何だ?」
ニコラッドの話を遮る様に大柄の男は話に割り込んだ。
「それがですね、ミノちゃんがニコラッドさんに礼金だって言って五千オルムも渡したんですよ、この前」
「………お前、新人いびりか? 流石にそれは引くぞ」
「いやだから違うって! 俺は道に迷っていたアイツを目的地まで届けた報酬を要求しただけで、別に金をせびるような事は一切してねえから」
大柄の男に睨みつけられニコラッドは必死に言い訳をした。
「それだとしても五千は少し多いんじゃ……」
「て、適正価格だっつの………! ていうかそういう話じゃなかったろ」
「ああ、そうだっ」
『ドゴォォン』
大柄の男がそう言いかけた瞬間、突如として当たり一体に轟音が響き渡った。
「な、何だ!?」
「この音………森側の壁から聞こえなかったか?」
ニコラッドと大柄の男は驚きの声を上げて椅子から立ち上がった。
「も、もしかしてアンデッドが壁を……」
「もう日は出ているんだからそれはあり得ないわ」
戸惑うケイティを女はそう言って宥めた。
「あああ、あのどうしたら」
「取り敢えず私達三人で対処しましょう」
「「……ああ」」
女の言葉に二人の男は頷くと、勢いよく冒険者ギルドを飛び出していった。
「え!? 二人とも速! ちょっと待ってェ」
だがローブを着た女は足が遅く、遅れて着いて行った。
二人の冒険者が音のした場所に到着して壁を見てみると、そこには大きく穴が空いた壁の近くに今まで見た事もない形をしたスケルトンがいた。
「何だ……アレ」
「スケルトンか………?」
そのスケルトンの体は森で見るアンデッドとは比べ物にならない程大きく、頭にはツノが生えていた。
それを見た二人の冒険者は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「ドス」
するとそのスケルトンは足を一歩進めて町の中に入ろうとした。
「おいニコラッド、ボケっとするな。俺達でアイツを食い止めるぞ!」
「ダニエル……ああ、分かってるよ!!」
ダニエルの掛け声と共にニコラッドは腰に携えていた双剣を抜いた。
それと同時にダニエルも盾と片手剣を手に持って構えた。
『ドス』
だがそのスケルトンは武装したニコラッドとダニエルに見向きもせず、また一歩進んだ。
「何だ、コイツ。俺達が見えていないのか?」
「スケルトンだから目はないと思うが………どこかを目指しているのか?」
「だが、それならそれで好都合だ」
ニコラッドはそう言うと、スケルトンの元まで駆け寄り左脚の膝関節に勢いよく斬りかかった。
『バキッ』
するとニコラッドが斬りつけた関節の骨は破片を撒き散らしながら砕けた。
「よし、意外と鈍いな」
「バカ! 避けろ!」
すると倒れ掛かったスケルトンが突然ニコラッドに殴り掛かった。
『ガンッ、ドンッ』
「ダニエル!」
だがその直前にダニエルがスケルトンの攻撃を盾で防いだ。
しかしスケルトンの攻撃は盾を軽々と破壊し、ダニエルに直撃した。
『ドカ……』
そしてそのままダニエルは吹き飛ばされ、地面に転がった。
「くそ、このォ!!」
それを見たニコラッドは叫びながらスケルトンに猛攻撃をした。
『バキッバキッ、ガキン!』
ニコラッドの攻撃はスケルトンの体を次々に破壊した。
だがもう少しで倒せるかといった所で、ニコラッドの片方の剣が折れた。
「な! しまッ」
それを見たスケルトンはその隙を突いてニコラッドに勢いよく拳を振りかぶった。
「はあ!」
『バァンッ』
すると突然ニコラッドの後方から火の玉が飛んできて、スケルトンの頭蓋骨に命中した。
「これは、一体……?」
「どうやらはァはァ……間に合ったゲフンゲフンッ」
ニコラッドが声の聞こえた方を見ると、そこにはローブを着た女がいた。
そしてスケルトンは火の玉が命中した顔の一部が破損し、ピクリとも動かなくなった。
「おお、エリザ。間に合ったか」
「まったく、二人が速いのよ」
エリザはそう言いながら手に持った杖をニコラッドに向けた。
「はは………あ、そうだダニエルが!」
『ダァン』
ニコラッドがそう叫んだと同時に大きな音を出してスケルトンは倒れた。
「………ダニエルならあの位の攻撃で死んだりしないわよ」
「だが」
「う、うゥ……」
ニコラッドがそう言いかけたると、突然ダニエルが立ち上がった。
「あ、何だ? 終わったのか?」
「……たくお前は。それにしても、コイツは何だったんだ?」
「…………これは!」
すると倒れたスケルトンを見たエリザは急に驚きの声を上げた。
「どうした?」
「このツノは……ミノタウロス」




