十九話 様々な者達
--グランフェルト王国-王城--
「はァ………本当にこれでよかったのか……」
宮廷魔術師のロレンスは自室で机に向かいブツブツと独り言を呟いていた。
「なんでこんな事に」
彼はグランフェルト王国随一の魔術師であり、王の側近でもある。
普段は国やその周辺で起きた魔術的、魔法的事件や事故の処理をしていたりする。
だが最近の彼はこのように終始落ち込んでいる。
そしてその原因は今のグランフェルト王国の内情にあった。
「勇者を召喚しようとしたのが、そもそもの間違いだったんだ………はァァ」
そう言って彼は先程より深いため息を吐く。
ロレンスは基本的に心配性だ。
いつもチラチラと他人の顔を伺ったり、深く被ったフードの中から周りを覗き込んだりしている。
そのせいでしばしば騎士団長に注意されていた。
「いくら国の為とはいえ、お前が召喚の贄になることは無かっただろうに……」
ロレンスは高い地位に付いていながら、まだ三十代と他の側近より若い。
だが心配性のせいか、髪が薄かったり姿勢が猫背だったりと、年齢に反して老いて見える。
『コンコン』
「ど、どうした」
黙々と悩んでいると扉を叩く音が聞こえてきた。
ロレンスはその音に驚いた様子で、扉の方に問いかけた。
「ロレンス様、司教様がお呼びです」
聞こえてきたのは王宮に仕えるメイドの声だ。
ロレンスは自分の声が聞こえていたのでは無いかと、少し心配しながら扉を開けた。
「フォーン司教が?」
「はい、自室で話があるそうです」
「……わかった、すぐ行くと伝えてくれ」
一瞬何か話す事があったかと悩んだが、行ってみれば分かるかと思い、メイドに返事をした。
そして一度自室に戻ると、掛けてあった黒いローブを着て部屋を出た。
宮廷魔術師の正装という訳ではないが、ロレンスが外に出る時はいつもローブを着ている。
「何の用だろうか……」
王宮の廊下を歩きながらロレンスはそう呟いた。
『コンコン』
そして王宮内にある司教の部屋の前に来ると、扉を叩いて司教を呼んだ。
『ガチャ』
「来たかロレンス。さあ入ってくれ」
「ああ、失礼する」
ロレンスは部屋の中に入ると、中央の椅子に座った。
そして司教もロレンスの対面に座った。
「それで、話とは?」
「ああ………召喚の儀式について少しな」
--ティアナの世界--
ここは神ティアナの支配する世界。
その中でも一番ティアナに近い者のみが入ることを許された場所。
どこまで続くか分からない光に包まれた空間。
その中で三つの声が聞こえていた。
「ティアナ様、お呼びですか?」
聞こえてきたのは女性の声。
だがそこに身体はなく、反響するように明るく光る球体から声が聞こえていた。
「アナタに伝えたい事があるの」
またも聞こえてきたのは女性の声。
だがもう一人とは違い、その女性には煌々と輝く美しい身体があった。
「伝えたい事?」
「そう、つい先程ティアナ様が見た予言に気にることがあったの」
さらに新しく聞こえてきた女性の身体は光っておらず、通常の人との差は感じられない。
だがとても清楚な顔つきで、着ている白の服装もそれを際立たせていた。
「それは一体どんな予言ですか? お母様」
光り輝く球体は清楚な女性にそう問いかけた。
お母様と呼ばれる女性はそれを聞くと球体の方へ近づいていき、その光に触れて話し始めた。
「数日後にサレウス皇国の北にある村。そこで途方もない魔力を持った人形と霊体の女の子。それと喋る頭蓋骨が訪ねてくる」
「……え?」
お母様にそう言われて光る球体は間抜けな声を出した。
それを見たお母様は微笑した。
そしてしばらくすると球体の方を向いて再度話し始めた。
「私も最初に聞いた時は同じ表情をしたわ」
「二人とも信じてないでしょ。本当に見たんだから……」
光り輝く女性は少し恥じらいながら応えた。
「それと、人形の子はアナタの母と同じ異世界人よ」
「お母様と同じ……」
光る球体は驚きながら少しの間考えた。
そして考えがまとまると彼女は光り輝く女性に問いかけた。
「それで、どの様に?」
「別にどうとは言わない。ただ見た予言を伝えただけだから」
光り輝く女性はそう言って球体を見つめた。
「………そうですか。私、会ってみようと思います」
球体はそう言うと突然何処かへ消えてしまった。
--ネスロが支配する国--
ここは女王ネスロが支配する国。
地下深く、誰も到達することができない場所に彼女はいる。
「おい」
不貞腐れた様な態度で醜い生き物に指を挿しながらその女は口を開いた。
「な、何でしょうか」
「地上がおかしい、どうなってる」
禍々しい椅子に座る女は服を着ておらず、誰が見ても美しいと思う身体を惜しげもなく晒している。
そして彼女が座る椅子もただの椅子ではなく、元の形を保っていない何かの生き物でできていた。
その椅子は生きているのか、うめき声をあげながらウネウネと動いていた。
「と、言いますと」
「チッたく、使えねえなァ。お前、ちょっと地上を見てこい」
「は、ハッ!」
それを聞いた醜い生き物は怯えながら返事をして地面に消えていった。
「まったくどいつもこいつも……アイツ、今何してるかな。なんか面白いことでも起こそうかな」
美しい顔を歪めるように彼女はニヤける。
笑った口が目まで届くのではないかという程に。
「ねェ、お前もそう思うだろゥ?」
彼女はそう言ってすぐ横を見る。
そこには気色の悪い触手に拘束された男がいた。
「もう、殺してくれ……」
男は今にも息絶えそうな声で懇願する。
その目はとても虚で、見えているのかも分からない。
「ヒヒッ、私に祈ったのはお前だろ? ここまで呼ぶのも大変なんだ」
彼女はそう言い男の元へ近づく。
そして男の耳元で囁く。
「私は結構お前のこと気に入ってるんだよ。兄に復讐したいでしょ? 私がお前の力になってやるよ」
彼女はそう言うと男の唇にキスをした。
すると男は突然もがき苦しみながら身体を膨れ上がらせていった。
--???--
地上は日が暮れ始め、人々は家族団欒に夕飯を食べている頃。
彼女はソコでポツンと寂しく佇んでいる。
「利用、か……私は愚かだったのかもしれないわね」
彼女の身体は霊体で、綺麗な青白い光りを放ちながら俯いていた。
その場所は見渡す限り何も無く、地形はボコボコと大小様々な穴が空いている。
「エレノア、アンナ、ごめんなさい。それに何よりもユウカ、アナタには嫌な思いをさせたわ」
彼女は何処までも透き通った声でそう呟く。
誰もいないその場所で。
「それでもユウカ。私を迎えに来て欲しい。私も寂しいの」
そう言いながら彼女は上を見る。
そこには空から見た地上があった。
「はァ………私も自分勝手ね。まだ昔の考えのままなのかしら」
そう言って彼女はうずくまる。
またあの人に会えるその時まで、ただひたすらに待ち続ける。
今の彼女にはそれしか出来ないのだから。
小さな人形編はこれにて終了です。
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