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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
小さな人形編
18/143

十八話 小さなエレノア

「ユウカ様ユウカ様ユウカ様!」


 こ、この声は魔法使いの。

 なぜこんな姿に………いや、本当に魔法使いなのでしょうか……?


「の、ノアこいつまた喋りだして……離れてノア!」

「え、あ、ユウカ待ッ」

「ミノタウロス!」

「ユウカァ!」


 私はユウカがミノタウロスを召喚しようとしているのを直前で止めた。


「ユウカ、少し待ってください。この骸骨からは敵意を感じられません」

「………確かに。でもなんか危なそうな予感が」


 う、確かに。

 これがあの魔法使いだとすると、ユウカに何をするかわからない。

 どうすれば良いのでしょうか……。


『ドン!』


「今度は何?」


 この音、何かが壊れでもしたのでしょうか?

 だとすると何が………もしかしてこの遺跡!


 遺跡は主の魔力で成り立っているから、遺跡が壊れる時は主が倒されるとき。

 でもアイツは遺跡の主ではなかった。

 だからこの遺跡は大丈夫な筈。


『ガァンッ!!』


「ノア、さっきよりも音が大きく」

「ユウカ様、この遺跡の崩壊は既に始まっています。早くお逃げください」


 な、ということはアイツは遺跡の主だったということになる。

 そうだとすると早く逃げなければ瓦礫に押し潰されてしまう。


「ユウカ、急ぎましょう」

「でも私達が入ってきた所はアイツに塞がれて通れなくなってる」


 そうだった。だとすると出口が。

 ここから逃げ出すにはどうすれば。


「ユウカ様、私にお任せ下さい」

「え、なんとかできるの?」

「はい、私の側に!」


 それを聞いた私はユウカのほうを見た。

 するとユウカもこっちを向いて軽く頷くと、頭蓋骨の元へ近づいてうずくまった。


 それを見た頭蓋骨は魔術師のスケルトンが使ったのと同じような障壁を球体状にはった。


「これって……」


『ガァァン』


 すると突然真上の天井が勢いよく落ちてきた。

 だが頭蓋骨のはった障壁のおかげで私達の周りは無事だった。

 そして周囲は土煙が舞い上がり何も見えなくなった。


----


『ドン、ドン………ドォン』


「ユウカ、無事ですか?」

「うん、大丈夫。骸骨さんも無事」

「ああ……今私はユウカ様に触れられている!」


 遺跡が崩れきった後、私達はなんとか地上まで上がってこられた。

 空を見るとまだ日が昇っている時間だった。


「ユウカ、その骸骨は私が持ちます」

「あ、うん頼んだ」

「ユウカ様ァァ!」


 それにしても、魔法使いはこんな性格ではなかったですし……私の勘違いだったのでしょうか?

 ですが声はとても似ている。うゥん………。


「あの、アナタは誰ですか? まさか魔法使い……ではありませんよね」

「……それであってるわ、エレノア」


 なッ……まさか生きていたなんて。

 もしかして私の中にいたの? だから私にだけ声が聞こえて……。


「ユウカ、少しこの方とお話があります」

「わかった………私は崩れた遺跡を見てるから」


 少しキツい言い方をしてしまった。

 落ち着け私。これじゃユウカに気を使わせてしまう。


「……すいません」


 ユウカはそう言って遺跡のほうへ歩いていった。

 私は魔法使いの頭蓋骨を木の近くに置き、自分はその横に座った。


「それで聞きたい事がいくつかあるのですが」

「………ええ、いいわ」


 この人には色々聞きたい事があるけれど、まずは遺跡でのことを。

 あの時聞こえてきた声のことを聞かなければ。


「遺跡でのあの声、あれはアナタの声ですか?」

「ええ、私よ」

「やはりそうでしたか……」


 あの遺跡の中でこの人はヤツに触れろと言った。

 それはきっと代わる代わる取り憑く魂達を止めるため。

 自分が取り憑いて体に定着すれば他の魂はその体に入れなくなる。


 結果的に助かったのだからこの人には感謝している。

 だけれどずっと私の中にいたとなると、少し気分が悪い。


「ねえ、エレノア。私を彼女の側に置いてくれないかしら」

「……なぜ、ですか?」

「それが私の望みだから」


 そう、何も変わっていないのですね、この人は……。

 カーラのことを信仰している様に見えていたけれど、実のところは自分の夢を叶える為に利用していただけだった。

 自分の夢の為だけに私や、カーラを利用して。


「私はねエレノア。塔が爆発してからずっと彼女の心の中にいたの。その光景はとても素晴らしいものだった」


 今、なんて………。

 ユウカの心の中って言ったの?

 じゃあつまり、この人は私よりもユウカの近い所にいたってこと?


「私は」

「それで、ユウカのことも利用するのですか!」


 この人は目的の為ならどんなものも利用する。

 カーラの預言に従っていたのに、途中から自分の予言で行動して。


 カーラのことはあまり良く思わないけれど、裏切ってまで自分の望みを叶えようとするのはカーラが可哀想だ。


「アナタはそうやって自分以外の全てを道具としか思っていないのでしょう。カーラのことも私のことも……。そしてユウカのことも利用しようと考えているのなら容赦はしません。なぜなら私はユウカのために生きると決めたのだから」


 私はユウカを守りたい。

 ユウカが傷つくのを見たくないから。

 だから私はこの人を……。


「………ごめんなさい。そんなつもりはなかったの……」


 お、思わずキツく当たってしまった。

 ここまで言うつもりは無かったけれど、つい勢いで……。


 だけれど、この人がこんなに落ち込むなんて。

 もっと言い返してくるものだと思っていたから、少し意外だ。


「本当に、ごめんなさい………」


 私はただユウカを守りたいだけ。

 でもこの人の人生はどうなるのだろうか。

 家族のことは………そうだ、あれはカーラの指示だったから、この人に謝って欲しいわけじゃない。

 でも、それでもこの人のことは信用できない。


「私は」

「え?」

「私は確かに周りを利用していたのかもしれない。彼女のこともきっとそういう目で見ていた。夢の為に必死で、自分のことしか考えられなくなっていたのかも」


 この人、こんな性格でしたか………?

 前はこんなにも聞き分けのいいと言うか、反省するような人ではなかった筈。


「そんな私に、彼女の側にいる資格はないのかもしれないわね」


 何がこの人をあそこまで駆り立てていたのでしょうか………。

 何か過去に……。


 いや、今はそんなことよりもこの人のこれからだ。

 私はこの人の人生を決めていいのでしょうか。


「それでも私は彼女の側にいたい」

「……なぜ?」

「私がそうしたいから」


 そ、その言葉は………。

 あの時ユウカが私に言った言葉。


「アナタはずっと遺跡での私達を見てきたのですか」

「え……いいえ、見えるようになり始めたのは、アナタ達があのスケルトンと戦っているとき」

「そう、ですか……」


 ユウカとこの人は自分のために行動するという点で似ている。

 でも、この人は自分の夢のために私を利用した。

 ユウカは自分の好きなもののために、私を救ってくれた。


 この人が見ているのはいつだって、ずっと先の自分だ。

 でも、ユウカはいつだって今を見ている。私を見てくれている。

 だからこの人とは違う。

 だから私は………。


「「うわッ!」」


 すると突然、ユウカの叫び声がきこえてきた。


「ユウカ、大丈夫ですか!」

「ああ、うん全然問題ない。ちょっと滑って転んだだけ」


 ふう、びっくりしました。

 ユウカにはもう少し危機意識を持って欲しいものです。


 私は横目で魔法使いを見て、もう一度ユウカを見た。


 ユウカのために……か。


「私は、ユウカにアナタを近づけたくありません」

「…………そう」

「ですが、ユウカにはアナタが必要です」

「え」


 ユウカはいつも私を救ってくれる。

 私もユウカを助けたいけれど、私じゃ力不足だ。


 いや、これは建前かな。本音はこの人の生き方を決める覚悟が私にないだけ。

 私は中途半端だ。ユウカの近くにいたこの人に嫉妬して、突き放そうとしたけれど、出来なくて。

 まだ、この人に心残りでもあるのだろうか。


「いいの?」

「ええ。ですが、アナタがユウカに何かをしようとしたのなら、私は容赦しません」

「わかった、私は彼女のことを利用したりしない」


 今の私には何が正しいのかわからない。

 でもこの選択がユウカのためになると信じたい。


「エレノアに言われて気がついたわ」

「何を……ですか?」

「私が自分のことしか考えてないことに。もっと自分と向き合わないといけないことに」

「そうですか……」


 向き合う……か。

 私はどうなのだろうか。そう考えると、本当にユウカのための行動なのかわからなくなってくる。


「二人共、もう話は終わった?」


 ユウカはそう言いながらこちらに歩いてきた。

 私がユウカのほうを見ると、体が土で汚れていた。


「はい……ユウカ、随分汚れていますよ」

「アハハ、ちょっと派手に転んだから」

「あの、私もあなた方に同行してもよろしいでしょうか」


 最初にユウカの前に現れたときとは違って、少し不安そうに魔法使いは尋ねた。


「うん、いいんじゃない。これからよろしく」

「よろしくお願いします」


 魔法使いがそう言うと、ユウカは頭蓋骨に手をポンと置いた。

 そしてその後に私のほうを向いた。

 私には無表情なその人形の顔が微笑んでいるように見えた。

 それを見た私はユウカに微笑み返した。


「それで、名前はなんて言うの?」

「……私はアンナと申します」

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