十二話 小さな少女は生き返る
「ふあァ、ふあァ」
なんだろう、この声……赤ちゃんの泣き声……?
「はいはい、ご飯ですよ」
今度は違う声だ。
というかここは何処なんだ? 私は確か、遺跡でミノタウロスと戦って……そうだ、ノアちゃんが!
「あうあう」
あ、視界が戻ってきた。
ここは……遺跡じゃない、なんか田舎の家見たい。
「全く、エレノアは甘えん坊ね」
エレノア! 今そう言ったの?
てことはこの赤ちゃんはノアちゃんなのか……! あれ、ということはこれはノアちゃんの過去かな?
「あの、ちょっとすいません」
「ただいま」
「あなた、おかえり」
「えっと、あの……」
声が聞こえないのかな……? それとも私は過去にいるんじゃなくて、ノアちゃんの記憶を見てるとか?
私はそれからしばらく、その風景を見ていた。
赤ん坊だったエレノアも成長して、よく外で遊びまわったり、畑の手伝いをしたり。
たまに父親と街に出る時は、とても上機嫌だった。
そんなある嵐の日に女が泊まりにきた。
「ねえ、お姉ちゃん、あの人誰?」
「魔法使いだって」
「魔法?」
「うん、もしかしたら私に魔法を教えてくれるかも」
この女の人、カーラを信仰してるって言ってたな。
もしかしてこの人がノアちゃんのお母さん?
ノアちゃんお母さんが二人いるのかな?
次の日の朝早く、その女は家を出て行った。
だが父親が勘定を依頼した魔石によって状況が一変する。
魔石を狙った強盗が家に押しかけてきたのだ。
「「「エリー!」」」
これは……。
そうか、この時にノアちゃんは……。
男が魔石を持ってエレノアに近づく。
だがそれを振り払った瞬間目の前が真っ暗になった。
ん、何急に。
周りが真っ暗に……あの魔石のせいかな?
しばらく待っていると、声が聞こえて視界が戻ってきた。
そして目の前に現れたのは、魔法使いの女だった。
それからエレノアはその女の人をお母さんと呼び、共に暮らし始めた。
なんか変だな。
ノアちゃんはこの人のことどうとも思わないのかな?
間接的とはいえ、あの男達が家に来たのってこの人のせいだよね。
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あれからしばらく見てたけど、やっぱりおかしい。
まるで感情が無いみたいだ。
普通なら憎いと思う相手にこんな態度とれないよね。
「ッ! エレノア、その目」
ん、なんだ?
あ、この目って確か魔眼だっけ?
それから魔法使いは変わった。
今までとは違いなんだか生き生きとしていて、急に旅に出ると言い始めた。
カーラの預言じゃなくて自分の予言だとか……一体何が違うんだ?
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あれから森に行き、塔を造ったり、遺跡を見つけたりと色々あった。
だが私にはずっとノアちゃんに違和感があった。
「誰ですか?」
あ、あれって私か!
そこにいたのは青白く光る輪郭があやふやな丸い塊。
それから溢れ出続けるそれは、私が最初に人を殺した時に出てきたモヤモヤに似ていた。
これって私だよね……? なんか凄いな。
これってノアちゃんには私がこういうふうに見えていたってことかな?
私だったら頼まれてもこんな得体の知れないのと一緒にいたくないな……いや私だけどさ。
「それでは遺跡の攻略を」
「ふァァ、眠い……ん、何か言った?」
そういえば、この時は何故か急に眠くなったんだよね。
人形に取り憑いた事と何か関係あるのかな?
「この人が、お母さんの代わりになるとでも……なぜ、私を置いて」
これって、私が眠りについた後の……ノアちゃんこんな事思ってたのか。
やっぱり無理してたのかな。
私と歳が近いのに、両親を目の前で殺されて。
そんな中、一緒にいた魔法使いもいなくなって。
しかも魔法使いに関しては私のせいみたいなものだし。
私のこと、恨んでるよね。
ノアちゃんがこんな思いしているのに私は……もしかすると無意識に傷つけていたのかもしれないし。
そうでなくとも、私といるだけでノアちゃんは苦痛かもしれない。
私は、どうすればいいのだろう。
「寂しい……寂しいよ」
この声って……もしかしてノアちゃん!
「ノアちゃん、どこ!」
私は辺りを見渡して、そこがもう今までいた遺跡の拠点ではないことに気がついた。
その空間は薄暗くて少し寒い。
それにどこまで続くかわからない程に端が見えない。
「誰か……私を…… 」
「「「どこ、ノアちゃん!!」」」
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「うう……ノアちゃん……! あれ?」
気がつくとそこは遺跡の中で、周りにはバラバラになったエレノアの体が落ちていた。
ここって確か……遺跡か。
そうだノアちゃんは!
「目が覚めましたか、ユウカ」
突然後ろから聞こえてきたその声は、とても聞き覚えのある声だった。
私が声の聞こえてきたほうへ振り向くと、そこには半透明で青白く光る人形の姿のエレノアがいた。
「の、ノアちゃんなの?」
「はい、気づけばこんな姿になっていました」
これってもしかして……ノアちゃんの記憶で見たことある。
たまに森で出会っていた幽霊と似てる……。
「ノアちゃんの体、バラバラになっちゃてるけど……どうなって」
「わかりません。私が知りたいくらいです」
一体どうなっているの?
私がノアちゃんの記憶を見ている間に何が起こったの?
「ユウカ、何故私を生かしたですか……」
「え?」
助けたって……私が?
それってノアちゃんが幽霊になったのは私のせいってこと?
でも一体どうやって……。
「私は、いつになったら救われるのですか」
「それって、どういう」
「死です。私は死を望んでいます」
「死………」
そんな……。
でも、あの記憶の中で聞こえた声、感じた思い、それはきっとノアちゃんの願い。
ノアちゃんの記憶の中で私や魔法使いに対する態度は親切だとか、そういうのじゃなかった。
もちろん私に関しては魔法使いの指示だったこともあるけど。
でも、あの魔石から出た後のノアちゃんは魔法使いに対しても、私に対してもどこか信仰じみていた。
「それとも、ユウカが私を救ってくれるのですか?」
今のノアちゃんは、最初のときと違って本音で話している気がする。
誰からも抑圧されず、自分の意思で話している気がする。
でも、これがノアちゃんの望みじゃないことはわかる。
死を望んでいないことは。
「救いたい。でも、死なせたくない」
「なんですかそれ。それじゃあ私は救われないじゃないですか」
「違うよ。ノアちゃんは死にたいなんて思ってないでしょ」
「ユウカに……あなたに何がわかるのですか。私の何がわかるのですか!」
「わかるよ。私にはあなたの全てがわかる……見てきたから」
きっと、ノアちゃんは全てを投げ出そうとしている。
自分には何もないと思って。
「見てきた……何を?」
「ノアちゃんの記憶を」
「私の……記憶……えっと」
あれ? ノアちゃん私のこと頭おかしいって思ってる?
というか自分の記憶を見られるとか、普通嫌だよね。
私、物凄く最低なことしてない?
「え、あの、違うんだよ。見ようと思って見たわけじゃないんだよ!」
「何を、見たのですか?」
「えっと、その……全部見ました」
「ッ! そうですか………殺してください」
「ごめん待って、チャンスを、私にチャンスを頂戴!」
「……」
うう、状態を悪化させてしまった。
しっかりしろ私。
でも、少し距離は近づいた気がする。
気のせいかな?
「ねえ、ノアちゃん」
「なんですか」
さっきの会話のせいか、エレノアは少しふてくされているようだった。
私はエレノアの目をじっと見つめたが、エレノア自身はずっと俯いていた。
「私の話を聞いてくれない? ここに来るまでの話を」
「急に何故」
「いや、ほらノアちゃんの記憶、全部見ちゃったから。私のことも話さないと」
「別にいいですよ、そんなこと」
「それじゃあ勝手に話す……私、この世界の人間じゃないの」
私はエレノアに自分の生い立ちを全て話した。
生まれが日本であること。
ある日突然、異世界に召喚されたこと。
召喚された国での出来事。
その全てを話した。
その間ノアちゃんは何も言わずに聞いていた。
話が終わるとしばらくしてエレノアが口を開いた。
「にわかには信じられません」
「でも、本当のことなんだよ」
「仮にそうだとして、だから何なのですか」
「いや、少しだけ境遇が似てるなと思って……ノアちゃんと」
あの記憶を見るまで私は忘れていた。
両親や友人のこと。
思い返してみれば私の性格、この世界に来てから変わったよね。
私も何かに感情を抑圧されているのかな?
「ねえ、ノアちゃん……私はあなたに死んでほしくない。生きていてほしい」
「何故会って間もないユウカにそんなこと」
「責任を感じるから」
「な、それって……それって自分のためじゃないですか」
確かにそうだ。
でも私がノアちゃんの全てを知って可哀想だとか、そう言うふうには思えなかった。
結局私は自分のことしか考えてない。
それでも、私はノアちゃんが救いを求めていることを知っている。
それを知っていて見捨てるのは……なんか、嫌だ。
「そう、私は自分の為にあなたを救うの。そうしないと私が嫌なの」
「だったら、私を殺してください……それが私の望む」
「違うよ!」
「だから、どうして!」
「言ったでしょ、私はあなたの全てを知っている。だからさエレノア、私はあなたを抱きしめる」
「な、何で」
「私がそうしたいからだよ、ノアちゃん!」
私はエレノアを正面から抱きしめた。
私の体は何も感じなかったが、なぜか凄く温かいと思った。
「は、離してッ」
「自分には何もないと言うのなら、私が側にいるから。寂しいのなら、私といっぱい話をしよう」
「何故、そこまで」
「言ったでしょ、私がそうしたいから。それに、辛く悲しい終わりなんて、私は嫌だ。だからこれは私のわがまま。エリーに幸せになってほしい私のわがままだよ!」
その瞬間、エレノアのいろんな思いが私の中に流れ込んできた。
なんだろう、この感じ。
ノアちゃんを近くに感じる。
いや、違う。
うまく言えないけど、深い所で繋がってるような……そんな感じがする。
「私、私は……あれからずっと、寂しくて」
「大丈夫だよ、私がいるから」
「さっきからずっと、辛くて苦しくて」
「エリーは今までよく耐えたよ。だからもう、頑張らなくていいよ」
半透明のその身体から溢れ出るものは、触れることは出来なかった。
だけれど、それは確かにあった。
「ユウカ、私から離れないで。ずっと私の側にいて」
「離れないよ。何があっても、私がずっと側にいる」
私達はしばらくの間抱き合った。
お互いがお互いを離さないように、強く抱き締め合った。
「ユウカ、キツイです」
「ぬあ、ごめん……! えっとエリー」
「ふふ、いいですよ、ノアで」
「……ノア、ちゃん」
「ノアです。そう呼んでください」
「うん、わかった……ノア」
「はい、ユウカ」
私はノアの全てを知った。
ノアは私の多くを知った。
私達は友達でもない、家族でもない、もっと深い関係になった。
「それとユウカが抱きついた時、頭をうちました」
「ええ! ごめん、そうだった。私、人形の体だった」
「でも、すごく温かかったです」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
小さな人形編はまだ続きますが、書き溜めていたストックがなくなった為、毎日投稿は難しいです。
出来るだけ努力はします。
これが処女作なので、至らない点などございましたら感想で教えてください。
それと⭐︎を押して評価してくれたら嬉しいです!




