閑話 シリウスとガラッド
ちょっと閑話です。
シリウスさんがすごいことが分かってくれるかな?
訓練場の真ん中に、二人の男が向かい合って立っている。片方は大変鍛えあげられた体をし、大剣を持った若者だ。もう片方はそこそこ鍛えられた体をし、比較的細身の剣を持った白髪の老人だ。両者の間は約十メートルほど開いている。
「…………ハァッ!!」
若者の方が斬りかかる。固い石の地面に足跡をつけるほどの強烈な踏み込みとともに放たれた上段からの一撃は、それを見ている殆どの人間の目では追えないほどの速度を持って老人に向かっていく。
「ふむ……」
そう一言呟いた老人に大剣が当たる……と同時に大剣は真っ二つに折れ、老人の姿は消え、そして若者の首筋には剣が突きつけられていた。
「……参った……」
「以前よりとても洗練された動きになってきていますよ。ただそれでも一対一の戦闘の技としては未完成です、ガラッド殿」
「『洗練されてきている』とか言ってもらってはいるが……相変わらずジジイにぁ勝てねぇか」
ガラッドと呼ばれた若者が、悔しそうな表情で呟く。それに対しにこやかな表情をしたまま、老人はガラッドを一瞬で組み伏せる。
「究極まで、一対一の戦闘のためだけに鍛えてますから。簡単に負けたくはありませんよ」
「もう一戦いいか?」
「もちろん」
再び二人は向かい合う。今度は二人とも武器を持っていない。素手での試合ということだ。
「よろしいですかな? それでは始めましょう」
終始穏やかな老人の声と共に、第二回目の試合が始まる。と同時に地面に大きなクレーターができ、弾丸のようにガラッドの体が前に飛び出した。
「速いですね……それでは……ハッ!」
比較的気合のこもった声と共に、老人の掌がガラッドの拳を受け止める。
その細身のどこにそんな力が眠っているのだろうか。
ガラッドの拳と老人の掌がぶつかると同時に老人の足元に直径十メートルを超えるクレーターができる。そして一拍置いてガラッドの体は宙を吹き飛び、そして十五メートルほど離れた地点に着地した。
「まだまだ……っ!!」
叫び声を上げて、ガラッドは再び老人に走り寄っていく。次に放った拳は的確に老人の鳩尾の付近を捉えた。
ガッ!!
重い木同士がぶつかり合ったような音を立てて老人の足とガラッドの顎がぶつかり、ガラッドは再び吹き飛ばされる。
「……受け流しながら俺の力を打撃として跳ね返してくるたぁな……今日も一勝もできないか」
「動きがやはり対集団用の動きになっています。うまく使い分けていかないと」
「なるほどな……また明日も頼むぜシリウス」
「もちろん受けて立ちましょう、ガラッド殿」
そう言って老人……シリウス……は、立ち去っていった。
「相変わらず真似できねぇほどの技術を使いやがる……」
そう呟いたガラッドはおもむろに立ち上がり、地面に指先を置いた。小さく地面にヒビが入る。
「これくらいなら俺でもできるんだけどな……ジジイは指一本でクレーターを作るからな」
そうボヤいたガラッドも、訓練場を後にした。
リヒトが魔族の国にやってくる、十日ほど前のことである。
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