(34)キョンシーパラダイス
今回は異世界系のお話です
ふと思い立って僕はキョンシーを振り返る。
相変わらず感情のない目がこちらを見て指示を待っていた。
「午後からお客様が来るからフルーツタルトを焼いておくれ」
部屋から足音も立てずに出て行ったキョンシーを気にすること無く、僕は部屋に備え付けられている黒電話で古くからの友人に連絡を取った。
久し振りだと言うのに相も変わらず愛想のないそいつは暫くこちらに来る事を嫌がっていたけれどフルーツタルトを用意させてある、と言えば案外素直に頷いた。
電話を切り、窓に目を遣る。
今にも雨が降り出しそうな曇天だった。
ギャアギャアと喧しく鳴き叫ぶ鳥の声を無視して部屋を出ればタルトを作っているキョンシーとは別のキョンシーが僕にコートを差し出してきた。
どうやら出掛けるのだと勘違いしたらしい。
それに軽く首を振って新しく指示を出す。玄関と客間の掃除だ。それほど汚れている訳では無いが、久しい客が来る。念入りに埃を取るようにと言い含めて書斎に入った。
友人が好きなのは確か西方の田舎作家だ。
僕にはその作家の良さというものが分かりはしないが、まぁそこは好みの問題というものだろう。
亡くなった父が本集めを趣味としていた為かここには自分の好みではない本の方が多い。だからこそ友人の趣味に合うものも揃えられるのである。
本を何冊か手に取った所で掃除をしていたキョンシーが書斎を覗いた。何の用か、と尋ねれば屋敷の外で人影を見たとの報告をしてくれた。
何だ、もう来たのか。
それに礼を言って僕は掃除を切りあげるように言うとキッチンを覗いてタルトの製作状況を聞いた。
どうやら談笑が終わる頃には出来上がるらしい。
「来てしまったものは仕方ない、出迎えよう」
僕がそう言えば一匹のキョンシーが屋敷の前で迎えを待つ友人を案内しに行った。
バタバタと少し慌てるキョンシー達に微笑みを零したところで呼び鈴が鳴る。どうやら案内役のキョンシーを置いて先に来てしまったらしい。
全く、愛想がないに加えてせっかちな所も変わってないんだから。
「はーい、今出るよ」
ガチャ、とドアを開ければ仏頂面の女が仁王立ちしていた。笑えば可愛いと思うんだけど、それを言うともっと不細工になるから言わないでおこう。
「相変わらず悪趣味な屋敷だな」
「相変わらず無愛想な態度だね」
眉間に皺を寄せて言う彼女に対して僕はニコリと笑った。
しかし、悪趣味とは酷い物言いだ。
「また増えてんじゃん、キョンシー」
「可愛いでしょ?」
「どこが。ただの死体妖怪じゃねえか」
「そこがいいんじゃないの」
僕の返答に訳が分からない、という顔をする彼女は上がるぞ、と一言零してズカズカと屋敷に踏み込んでいった。
その姿に僕はまたニコリと笑みを深くしてから近くにいたキョンシーにアップルティーを頼んでその場から歩き出したのだった。
END
悠久を生きる主人と感情のない人外メイドっていいですよね。
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