(33)たとえばの話
今回はファンタジーなお話です。
例えば。
そう、例えば。
この世界が誰か一人の人間に支配されているとしたら。
この世界が誰か一人の感情で生き延びているとしたら。
生きとし生けるものはその誰か一人の機嫌を損ねないように必死になるだろうか。それともその誰か一人を殺してしまったりしないだろうか、なんて。
「今日のディナーは」
「要らない」
「はい?」
「聞こえなかった? 要らないって言ったんだよ」
「承知しました、シェフに伝えておきます」
例えば、なんて。そんな夢物語。
そんな不確かなもので言い換えられる現実ではないのに。
例えばっていうのは時折、現実を見ているのにそれを逃避する為に使われる事がある。
「ねぇ、」
「はい」
「まだこの世界の真実を嘘だと思ってる?」
「……正直なところですが」
「ふーん、あんなに見せてあげたのに。見せ足りない?」
「結構です、」
「そう? ならいいんだけど」
例えば、前述で言ったその誰か一人が目の前に座るこの少年だったとすれば。
例えば、この少年に見惚れられた美女がこの私だったとすれば。
「貴方は、何がしたいんですか」
「さあ?」
例えば……、目の前で消えゆくひとつの国をただ茫然と見詰めるしかなかった私に「着いてこい」と言ったのがこの歳相応ではない少年だったとすれば。
「一つあるとすればお前を僕のものにしたいだけだよ」
「……そうですか」
例えば、その国が私の故郷だとすれば。
例えば……、その国を消したのが目の前の少年だとすれば。
「僕は何だったっけ」
「貴方は、」
例えば、そう。例えば……、
この少年が『支配者』だったとすれば。
私が機嫌を損ねないように必死になっている哀れな人間だったりするのだろう。
END
絶望の淵で自分を欲されても良く分からないですよね。
閲覧ありがとうございました。




