(29)灯台もと暗し
今回はホラー気味なお話です
最近誰かに見られている気がしてならない。
そう切り出した男勝りの恋人はいつものキリリとした顔を隠して不安そうに俯く。
彼女は空軍所属の兵士だ。それも軍兵長という肩書きを持っているので様々な場所に顔が効く。女を理由に他の軍兵から嘗められる事の多い彼女はだからこそ普段から憮然とした態度を崩さない。
しかし今の彼女はどうだ。
格好良いと尊敬されてきた軍兵長の姿はどこにも無く、見えぬ陰に怯える少女の様だった。自意識過剰だろうと言いたいのをぐ、と堪えて彼女を見遣る。
「いつからだ?」
「1ヶ月ほど前からだ。最初は勘違いだと思ったのだが、近頃物がよく無くなるのだ。それに視線も・・・ああっ、今も・・・っ」
彼女は頭を抱えた。
古風な趣の喫茶店だが、客は疎らだ。
女性を連れた厳つい男に、最近商人ギルドが売り出した小型の耳あてを付けた少女とそれを微笑ましそうに見る老齢の男に、一人でコーヒーを嗜む男。
随分怯えた様子の彼女に僕は何も言えずに取り敢えず運ばれてきていた飲み物を口にした。
彼女は少し落ち着いた様子で顔を上げた。
「取り敢えず軍の方に連絡してみたらどうだ」
「そうだな、そうしてみるよ」
心底疲れた様子で席を立った彼女に僕は安心する。何だ、まだ歩けるじゃないか。なら・・・。
そうして彼女を見ようとした僕は女性を――鬼の空軍兵長を連れた厳つい男に睨みつけられてしまった。少し不躾に見過ぎたようだ。
いや、でも。
彼は確か空軍副兵長だった、良かった、彼氏じゃないか。いや、当たり前か。彼氏は――僕なのだから。
そうして古風な趣の喫茶店から出ていった彼女を見送った僕は少し冷めたコーヒーを飲み干したのだった。
END
わたし いま あなたのうしろ なう
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