(27)懺悔と感謝
今回はシリアスなお話です
知らないうちに涙が零れていた。
目の前にいる彼女は少し驚いた表情したけれどそれもすぐに消えて微笑みを貼り付けた。
「思い出した?」
「・・・思い、・・・出し・・・た」
ひくっと喉に引っかかる感覚に嫌になりながらも彼女の質問に答える。そうか、彼女は・・・。ああ、僕はなんて馬鹿な男なんだろう。
僕はなんて馬鹿な・・・弟なんだろう。
怒涛に、鮮明に、頭の中に流れ込んできた記憶をどうにか整理して自分の生い立ちを並べ立ててみる。
僕の家は母子家庭だった。
姉が一人、居た。目の前の、彼女だ。
少し窶れたろうか・・・。僕の治療にあんなに懸命に取り組んでくれた理由が今ならわかる。
母は僕と姉を養う為に毎日仕事に明け暮れた。寂しかったが幼いながらも母が自分達をちゃんと愛してくれている事は知っていたので我慢出来た。
そして何より、中学生の姉は部活にも入らずに学校が終わればすぐに帰ってきてくれたから何も不自由なんて無かった。
でも。
母が死んだ。
唐突すぎた。突然すぎた。
事故だった。居眠り運転の車が原因の事故だった。
即死だった。
痛みすら感じずに死んでしまったんだろうか。
事故当時の母の鞄の中から姉が誕生日に強請った万年筆が見つかった。豪華な箱に入っていて少しだけ傷が付いていた。
葬式でも気丈に振舞って親族達にしっかりとお辞儀をしていた姉が泣き崩れたのを特に鮮明に思い出していた。
それから母の姉の家でお世話になりながら姉弟で支えあって生きていた。あの日まで。
あの日、そうだ。
僕は母と同じ事故に遭った。
死にはしなかったけど、今までの事を全て忘れてそうして『カウンセラー』を名乗る『女性』に出逢った。
「ごめんね」
「何で謝るの?」
「あの日ね、事故に遭ったって聞いて。それが居眠り運転の車が原因の事故だって・・・怖くて震えたわ。貴方まで失ったら私はきっと立ち上がれないって。
そして記憶を失った貴方と対面した時。
ずるいお姉ちゃんになったわ。
ずるくて卑怯で下劣な姉になったわ」
姉はわんわんと泣いた。
僕は訳が分からず自分が泣くのも忘れて姉の肩を抱いた。
「天国にいるお母さんが、自分の事は忘れてほしいと思って記憶を取っちゃったなら私、それがすごく怖くて。
お母さんが居なくなったあの日から今までの辛かった事や悲しかった事の全てを私だけが覚えているなんて・・・出来なくて・・・ごめんなさい、また辛い事を思い出させてしまった、折角お母さんが忘れさせてくれたのに・・・」
姉はそんな自分を卑怯だと言った。
自分本位すぎて申し訳ないと言った。
自分だけが背負うのが辛くてまた思い出させてしまったと謝った。
僕は首を振って姉の顔を上げさせた。
「思い出させてくれてありがとう姉さん。
勿論、あの日々は辛くて苦しかったさ。でも、楽しかった事も嬉しかった事もあっただろ。
それを思い出せてよかったよ。あと・・・姉さんが大好きだって事、思い出せて本当に良かった」
僕の言葉に姉さんはまた大きな声で泣いたのだった。
END
素敵な姉弟がここに。
閲覧ありがとうございました




