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最弱の王  作者: ぱるお。
3話 恋する?魔法使い
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俺の物に

 

 勝敗条件に戦闘不能の項が記されている以上、身動きの取れないツキヒが敗北する形で決着したかのように思えるが、当のツキヒの瞳に宿る闘志の炎は全く消えておらず、むしろ真っすぐにアタルを睨みつけていた。何より、獣人の審判教師を含めた会場のすべての人間が、試合の様子を固唾を呑んで見守っている。半刻前の喧騒な空気と一転して、静寂の音が聴こえる錯覚を覚えるほど静まり返っていた。


 アタルは桃色の樹木を臨戦態勢に整えながらツキヒに語り掛ける。彼に差し込んだ桃色の光がそうさせたのか、激情に燃え上がっていた彼の頭は冷ややかに冴え渡っていた。


「俺はお前のその瞳に惹かれたんだ。一点を見つめる真っすぐさと、目的を見失わない強さ。そんなお前が降参しないのは分かってる。だから俺はお前を、実力で俺の物にしてみせる」


 彼の言う通り、ツキヒに降参するつもりは微塵もない。だがいくら魔法障壁を張っているとしても、色付き魔法の直撃はただでは済まないだろう。気絶させられてしまえば試合では負けてしまう。完全に拘束されているため打開策の検討しようもないが、会話を繋ぎ少しでも考える時間を稼ぐ。


「……私が負けたとしても、君の物にはならないよ。君とまたペアになるだけでしょう?」


 ツキヒが提示した『ツキヒの前でヒノワの悪口を言ってはならないと全校生徒に宣布する』という条件の対価に、アタルは『ヒノワとのペア登録を解消し自分とペア登録をする』という条件を突き出した。彼女の言う通り、ペアになるだけでは彼の物になったとは言えないだろう。


「お前に勝ったら丁度十勝、『MRS強制権』が使えるようになる。それで黒子の退学とお前を賭けて勝負し、勝てばその目的に近づける」


 ヒノワの退学、と聞いて僅かに眉根が寄る。仮にそのカードが成り立った場合、魔法がほとんど使えないヒノワでは分が悪い。


「……だとしても、私は君の物にはならない。絶対に」


「どうしてそこまで言い切れる?」


 アタルの問いにツキヒは睨んでいた表情を崩し、笑った。今まで見たことのない、優しい笑みだった。


「この心と身体は、ずっと前から私の物じゃないから」


「!!」


 答えた瞬間、ツキヒは右の脇腹に強烈な鈍痛を感じた。


「……がっ!!」


 桃色の樹木がツキヒの腹部を殴打していた。強烈な一撃だが、会場を抉るほどの威力を発揮した魔法とは思えない程度には痛みが少ないように感じる。荒ぶる呼吸のまま彼を見るが、どうやら手を抜いて殴りつけたようだった。


「驚いて手が滑っちまった。俺を怒らせたいのか?」


 ツキヒの答えに感情の沸点が超えそうになったが、すぐに冷静さを取り戻す。少し魔力の制御が緩んでしまっただけでの一撃だったが、それを受けた彼女は骨が折れたのか、苦痛に歪ませた表情をフードの下から覗かせる。


 そこでふと、好奇心に駆られツキヒに歩み寄る。


「……その中、ずっと気になってたんだよな」


 彼女が編入当初から身に付けていた、学校指定の白いローブ。そのフードを見つめる。彼は三年間ツキヒのことを見続けたが、その一度も彼女の全貌を見たことが無かった。暗器使いとしてローブを使っていたことは分かるが、それでもフードを被り続ける必要はない。アタルの知らない彼女の秘密があるのだと、前々から疑問に思っていた。


「……だ、め……」


 ゆっくりと近づくアタルに、ツキヒは消え入るように拒絶した。


 突然弱弱しく変貌した彼女の様子を見て、彼の疑問は確信に変わる。あのフードの下には、彼女の心を折る何かがあるのだと。


「……だめ」


 目前に迫るアタルに向けて、再度拒絶する。痺れるような痛みなど忘れてしまっていた。


 絶対に見られるわけにはいかないのだ。醜く、そして罪深いこの姿を。会場の全ての人間に。ヒノワに。


「見せてもらうぞ」


 彼がフードに手をかける。


「だめ!!」


「!?」


 ツキヒが叫んだ途端、衝撃を感じたアタルの身体が吹き飛ばされた。そのまま試合会場に激突する。


「……ぐぁ!」


 思わぬ不意打ちに障壁が間に合わず、地面に項垂れた。


 熟達した気の使い手は、己の気を体外に放出し離れた相手にも攻撃することができる『遠当て』と呼ばれる技法を使うことができる。ツキヒはまだその境地へと辿り着いていないが、彼女の本能からの拒絶反応によって気が体外に放出され、アタルを飛ばしたのだった。


 しかし本来の『遠当て』は気を一点に集中し拳撃に乗せて放つ技であり、このような無意識且つ無暗に放出するだけでは技としては成り立たず、体力の消耗も著しい。ツキヒはまるで遠距離走を全力で走り切った後のような虫の息だった。


 ようやくできた隙だったが、息が整うまでは何も出来そうもなかった。文字通り手も足も出ない状態では呼吸を整えるのにも一苦労だ。


 その間に、アタルは立ち上がる。彼も肩で息をしていたが、その表情はこれまでの冷静さとは違った、熱を超えた冷たさ。


「……それだよ、魔法とは違うその力。お前の馬鹿力と同じ力。それをあいつ(・・・)も使いやがった!」


 教室でヒノワと言い争いをした際、彼は確かに同じ力を使っていた。そのことに対しても怒りを隠せない。


「俺は勝つ! そして黒子を殺してでもお前を俺の物にしてやる!」


 アタルが杖に魔力を込め、締め上げられているツキヒに向かって振るう。その動きに合わせて樹木が彼女に迫った。


「……!」


 来るであろう衝撃に、思わず目を瞑った。


 その時。


「ツキヒ!!」


 静寂を包んでいた会場中に、ヒノワの声が響き渡った。


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