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最弱の王  作者: ぱるお。
2話 魔法を使わない魔法使い
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走り込み

 ヒノワが縮地術を使いこなせるように歩法と呼吸法を教え始めたツキヒだったが、早速頭を抱えていた。というのも、ヒノワの体捌きはまるでなっていない(・・・・・・・・・)。どうやら魔法についての知識や技能は一通り学んでいるようだが、身体の使い方に関しては我流でごまかしていたらしい。


「君は良くそれで、魔法大会で優勝しようとしたね……」


 優勝したいという彼の気持ちに全力で応えるつもりだが、気の持ちようだけではどうしようもない話だ。


「あはは……僕がアキラさんに教えてもらったのは魔法理論とか魔力運用についての座学がほとんどだったから……」


 とはいえ歩法と呼吸法をマスターするということは、即ち身体の基礎をマスターするということ。基礎を築くためにも今の修行法は間違ってはいない。そして修行を始めて気付いたことだが、ヒノワは集中力が高く飲み込みが速い。素人が会得するために三日はかかる動きを僅か三十分で覚えてみせた。


「じゃあもう一回、さっきの動きをやってみようか」


「うん」


 ツキヒに促され、ヒノワは深呼吸をし息を整える。普段無意識に行っている呼吸だが、いざ意識してみると確かにその重要性に気付く。しっかりと空気を取り込むことによって視界が良好になり、身体の動きに合わせて呼吸をすると自然と力が流れていくのを感じた。


「すぅぅっ」


 吸いながら舞うように足を運び、


「はっ」


 吐きながら跳ねるように蹴る。それを幾度も繰り返していく。


「ペースを上げてみて」


「すぅ、はっ、すぅ、はっ」


 言われるがまま速度を上げ繰り返す。十分ほど続けても呼吸に乱れはなく、足元にも縺れはない。


 ぱんっ、とツキヒが柏手を打つ。その音を合図にヒノワの動きが止まった。


「呼吸と一緒に身体を動かすのはもう平気そうだし、縮地の第一段階に入るよ」


「うん」


 ツキヒは背筋を伸ばし、右足を前に出して立つ。


「縮地には大きく分けて、踏み出す『出歩《しゅっぽ》』と着地の『入歩《にゅうほ》』の二つの動作があるんだ。特に『出歩』は重要で、これを綺麗に決められると瞬間移動に見える」


 一歩で五メートルを移動する。何度見ても瞬間移動に見えた。


「『出歩』のポイントは、如何に力を入れないこと」


「力を入れないの?」


「そう。構えた足の力を抜いて、身体が落ちるのを利用して移動するの」


 もう一度同じ動きを見せる。良く観察してみると、確かに若干身体の軸が下がっているのが見えた。


「落下の力を利用することによって、蹴る力が少なくて済む。蹴る力が少なくて済むと、相手に気取られずに移動ができるってわけ」


 更には身体が若干下がる為、相手の視界から消えるという効果もある。これらの組み合わせが瞬間移動に近い移動を生み出すのだ。


「蹴るときもポイントで、自分を向こうに移動させるんじゃなくて、移動先を足元に持ってくるイメージかな」


 自分を移動させるのではなく、大地を移動させる。一見同じように思えるが、そのイメージが強ければ強いほど、綺麗に『入歩』までもっていくことができる。


「なるほど……まずは落ちて、向こうの大地を自分に持ってくる……っ!」


「!」


 ヒノワが見よう見まねでやってみると、一歩で二メートルほどを一瞬で移動した。その様子にツキヒは驚きを隠せない。


 この『縮地法』、口で言うだけなら簡単だが、実際に使いこなす為にはそれなりの修練が必要だ。落ちる動作、蹴る動作、着地の動作、更には呼吸をその一瞬に織り交ぜなければならない。仙人の下で学んだツキヒでさえ、移動するだけでも二週間は要した。


(まさか一回でここまで……)


 正直粗が多い。移動速度も遅ければ距離も短いし、『出歩』が未熟な為に縮地の瞬間を気取られる。だが一度でここまでできるのであれば、技術を磨き上げていければすぐに使えるようになるだろう。


「凄いよヒノワ君! そんなに簡単にできることじゃないのに!」


「え……そうかな?」


 真っすぐな賛辞に思わず顔が綻んだ。これまで身体の使い方を考えていなかったが、成果が出るのは素直に嬉しい。


「よし、今日君に教えられるのはここまで」


「へ? もう良いの?」


 あっさりと切り上げられ、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「うん。後は自主トレで何とかなるからね。だからその前に私の番ってわけ」


 役目が変わり、次はヒノワが指導する番になるということだ。


「といっても、何を知りたいの?」


 実際のところ、ヒノワが使っている技術は全て学園の授業で学べるものばかりである。彼はそれを教科書以上に使いこなし、ただの基礎を技に昇華させているのだ。


「うーん、無詠唱のコツとかも知りたいけど、とりあえずは魔力の扱い方かな? 足先で魔法を発動するのは実戦で使えそうだし」


 体術での戦闘が基本になる彼らにとって、拳や蹴りと同時に魔法を使うことができれば強力な武器になる。ツキヒは体術と魔法の組み合わせを頭に描いていた。


「あれは足先に魔力を集中して放出するんだけど、それだけじゃダメなんだ」


「どういうこと?」


「魔法は精霊と契約し、その精霊が僕らの魔力を使って魔法になるよね? だから魔力だけじゃなくて、精霊たちにも足元に来てもらわなくちゃいけないんだよ」


「! なるほど、そういうことだったんだね!」


 魔力を媒体から離れた場所から放出するのは難しい。だがそれさえ出来てしまえば、あとは意識の問題でどうにでもなる。


「魔力を足から放出させる修行は、やっぱり走り込みかな?」


「走り込み?」


「足に魔力を集中して切らさずに走る続ける。これを繰り返していくうちに足先の魔力も感じ取れるようになるはずだよ」


「よし、なら話は早いね! 君は縮地で、私は魔力を使って走り込むよ!」


 言い切る前に地面に手をついた。


「えっと、どれくらい?」


「もちろん、出られるまで!」


 さすがは仙人の修行を耐えただけはあると、感心せざるを得ないヒノワであった。

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