作戦会議
『今すぐってわけじゃないよ。ペア組んだばかりだろうし、一ヶ月後にしようか』
『MRS強制権を使っても良いけど、受けてくれるよね?勿体無いし、何よりも君たちにとってはチャンスだし』
『何を隠そう、僕個人でランキング一位、ペアで三位だからね! 僕らに勝ったら君たちは一気に三位になれるってわけだ!』
『それじゃ、詳しい日取りはまた連絡するよ。ばいばーい』
一体どうして、ハジメが二人に勝負を挑んできたのか。それを質問する前に、彼は言いたいことを言うだけ言って去っていった。
「……え、というか、ハジメ君やっぱり一位なの?」
「……うん、そうだよ。生徒は疎か先生ですら勝てる人が居ないんじゃないかって噂もある」
しばらく呆気に取られていたが、落ち着きを取り戻した二人は分析を始める。
「先生でも勝てない、か。僕の知ってる二年前でも、僕のいたところでは一番の魔法の使い手だったんだ。あの頃よりもっと強くなっているだろうね」
「魔法の実力もそうなんだけど、厄介なのが固有能力だよ。姿を完全に消す『魔法鏡』。さっき急に現れたのもその能力ってわけ」
ハジメの扱える固有能力『魔法鏡』は、姿・音・匂い・魔力・移動した際の空気の揺れまで消し去る、最強クラスの隠密能力である。正に『不可視』の二つ名に相応しい。
「そんな相手にどうやって勝てるかな……大魔法を辺りに放てば当たるかもしれないけど、今の僕じゃ使えないし」
「一応弱点はあるよ。別の魔法を使う瞬間に効果が無くなるのと、相手に触れるとその相手には効かなくなるんだ。効かなくなった後の再発動のインターバルは、多分一分くらい」
「なるほど。つまり、開始早々が勝負の分け目ってことかな。発動までに先手を打つ、発動されたら徹底して身を守る、と」
隠密能力の最大の利点は、相手の死角を取りやすいといところにある。死角から一撃で相手を仕留めることができれば、損害が少なく目的を果たせるからだ。それを確実に回避する為には、相手が能力を使う前に速攻、あるいは広範囲攻撃を行う必要がある。
もっともこの戦術は、MRSのような試合形式でのみ取れるものであり、ゲリラ戦のような戦いの中ではそもそも相手の存在を知る前に討たれることの方が多い。敵の存在や能力を確認できているのであれば、こちらに有利に傾いているとも言えなくもない。
「ともかく、僕らは知ってることが少なすぎる。お互いのことについてもね」
「この一ヶ月の間にできるだけ情報を集めて、お互いの実力をよく知らないと、だね」
秋には魔法大会に出場する。それまでにコンビネーションを完璧にしなくてはならない。それにハジメが出場するとなれば、ここで勝たなければ優勝はないだろう。
「ヤマト君に、君は魔法を使わないで戦ってる、って聞いたんだけどそれは一体どうして?」
正直ペアとなったこの少女のことを何も知らない。戦術を練るには実力を図らなければならないし、コンビネーションを磨くには人となりを知らなくてはならなかった。
「あー……そうだね、君はまだ私が戦うところを知らないんだった」
思わず苦笑いをした。出会ってからまだ一週間、ペアを組んだのもつい昨日とお互いがお互いを知らないのも無理はない。
「それじゃあ、一度軽く手合わせしてみようか。その方が手っ取り早そうだし」
ツキヒはそう言って一足飛びに距離を取る。
「昨日の移動術、あれを使ってみて!」
「え、大丈夫?」
『爆裂弾』を用いた移動術は、威力と速さ故に制御が効かない。不意打ちにはならない為魔法障壁に阻まれるだろうが、それでもそれなりの衝撃を与えることになる。
「大丈夫だよ! 私には当たらないから、本気で来て!」
余裕な笑みを浮かべる彼女はとても冗談を言っているようには見えない。相当な自信があると見えた。
「分かった。じゃあ行くよ」
(『爆裂弾』!)
足に魔力を込め、無詠唱で右足に『爆裂弾』を放つ。衝撃で体が前方に押し出された。
一瞬の内にツキヒの姿が目前に迫る。だが繰り出した掌底は空を切った。
「!?」
直前まで捉えていたツキヒの姿が消えていた。魔力の痕跡もなく。
「ほら、避けられた」
「!」
ツキヒは背後に回っていた。ヒノワの喉元に短剣を向けている。
「一体、どうやって……」
「説明してあげるね、私の戦い方と、魔法を使わない理由」
ツキヒが短剣を仕舞ったのを確認し、向き直る。対するツキヒは辺りを見回していた。
「その前に、場所を変えようか。ここじゃどんな目と耳があるかわからないからね」
彼女は辺りを見回したまま、出口に向かっていく。
「良いけど……どこに行くの?」
ヒノワの疑問にツキヒが振り向き答えた。
「望月ゼミ……異空間魔法の研究室で、私の所属してるところなんだ」
「異空間魔法って、別空間を扱う魔法のことだよね。なんでまたそこに?」
異空間魔法とは、設定した異空間に魔法陣を描き、その魔法陣を用いて人や物を転移させる魔法である。戦闘用には使われないが、補助魔法として利用する魔法使いは多い。一人前の魔法使いとなれば、異空間の一つに別荘を持っているものだ。
「話は簡単、異空間を使えば誰の視線も気にすることなく、集中できるでしょ?」
「確かにその通りだね。案内よろしく!」
「お任せあれ!」




