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最弱の王  作者: ぱるお。
2話 魔法を使わない魔法使い
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感じられない気配

 

「ということは、お前はあの『不可視』とは仲が良いのか?」


「ふかし?」


 ヒノワが首を捻る。聞き覚えのない言葉だ。


「二年の日ノ出ハジメの事だ」


「ああ、やっぱりハジメ君はこの学校にいるんだね」


 日ノ出ハジメとは、『聖母』の一人息子であり、ヒノワの数少ない友人の一人である。ヒノワも世話になった『たいようの楽園』に彼も一緒に暮らしていた為、どちらかというと兄弟に近い。


 そんなハジメも、『聖母』の子に恥じない優秀な魔法使い候補であり、彼女の一番弟子でもあった。国内一の魔法学校であるこの学院にいることも予想はしていたことだった。


「僕にとっては友で、兄弟で、ライバルでもあった人なんだ。近況は知らなかったけど、ここではそんな風に呼ばれてるんだね」


 節約のために携帯やパソコンのような通信手段は持っていない。『たいようの楽園』を離れた二年前から連絡を取っていなかった。


「それなんだが、さすが『聖母』の息子だけはある。『不可視』って言うのは通称じゃなくて二つ名だ」


「え、それって……ハジメ君が色付き(・・・)ってこと……?」


「ああ、そうだ」


 一般的に魔法使いの扱う魔法は、得意属性の差こそあるが同じ呪文からは同じ威力の物が発動される。そこに差を生むのが、消費する魔力の量や、発動タイミングや無詠唱などといった技術である。その為実力の均衡した魔法使い同士の戦いは、どちらかの魔力が尽きるまでの消耗戦となることが多い。


 しかしその常識を破る者が稀に現れることがある。それが色付きと呼ばれる魔法使いだ。


 色付きとはその名の通り、魔力及び魔法に固有の色が付く(・・・・)。色付きのメリットは、魔力運用効率の上昇と『固有魔法』の発現であり、その能力は個々人によって千差万別だ。色付きを目標とする魔法使いも多く、色付きになることが一人前の魔法使いになることだと言う者さえいるほどだ。そして二つ名とは、色付きになった際に世界の何物かによって啓示されるもう一つの名前である。


 色付きになる条件は未だ解明されていない。厳しい修行に耐え抜くだとか、重大なトラウマを克服するだとか様々な説があるが、どれも信憑性は薄い。


 その色付きの魔法使いに、ハジメがなっている。それはつまり彼が先のステージに立っており、且つ彼らの知らない未知の能力を保有しているということだ。


「そんなイッチーも、魔法大会に出場するらしいよ」


 ツキヒは人にすぐあだ名を付けたがる癖があるようだ。話の流れでハジメのことを指していることは分かるが。


「なるほど……強敵の一人、ってことだね」


「なんだ朧、てめぇも知り合いだったのか?」


「うん、ちょっとね。でも彼は一筋縄ではいかないよね」


 色付きは国内でも報告例が少ない。優勝候補の一人であることは間違いなかった。


 と、そこへ突然。


「呼んだかい?」


『!!』


 ヒノワの背後から声がした。皆が注目すると、そこには長い黒髪を後ろで束ねた細目の男子生徒が微笑んでいる。話題の人物、日ノ出ハジメその人である。


(そんな、全く気配を感じなかった……!)


 近づいてくる気配には魔力の様子で感知できるはずだが、驚くことに彼からは姿を現すまで全く感知することができなかった。その場にいた誰にも気付かれることなく近付くなど、並大抵の技術では成し得ない。


「--っ--」


「あ、おい! ヒメ!」


 突然現れたハジメに驚いたのか、ヒメが白目を向いて気絶してしまった。慌ててヤマトが受け止める。


「あらら、びっくりさせてしまったかな。ごめんね、僕の名前が聞こえたんで、つい」


 ハジメが困ったように眉を寄せ頭を掻いた。本当に驚かせるつもりはなかったようだ。


「ああ、大丈夫だ、少し横になれば良くなるだろう。医務室に連れていく」


 ヤマトはそのままヒメを抱え闘技場から出て行った。学園一の美少女を抱えるその姿はあらゆる方面から敵意の視線を受けるだろうが、彼ならば問題はないだろう。


「よろしくねー。--さて」


 二人を見送ったハジメは、向き直ってそれぞれの顔を見た。


「久しぶりだね、ヒノワ。元気だったかい?」


「うん。ハジメ君こそ元気そうだね」


 二年ぶりに会う彼は大人びて見えたが、先程のような茶目っ気のある所は変わらない。


「それで、ツキヒはこんなところで、どうしたんだい?」


 眉を寄せ首をかしげた。彼は彼女の秘密(・・)を知っている、学園内で唯一の人物である。悪魔であることを徹底的に隠している彼女が学園内で人といるところを見ることは珍しい。


「ヒノワ君と、ペアを組んで魔法大会に出ることにしたよ」


「! ツキヒ、君は--」


「待って! その話はまた後でするから!」


 ハジメの言葉を無理矢理制止する。彼の前では絶対に語るわけにはいかなかった。ヒノワは話について行けずに傍観していた。


「……そうだね、この話はまた今度だ。今日は別の用事で来たしね」


「「別の用事?」」


「君たちがペアなら話が早い。一人ずつにしようかと思ったんだけど、二人同時にできるね」


 ハジメが一人で満足そうに頷いているが、話の内容が全く理解できない二人。そんな二人を驚愕させる台詞を、ハジメは口にした。


「僕と戦ってもらうよ、二人共」


「!!」


 目を見開く二人を前に、ハジメはいたずらっぽく笑った。

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