思わぬ刺客
「有名人?」
「有名なんてもんじゃ無いよ、あの人。ずっとペアが誰なのか謎だったんだけど、まさかヤマヤマだったとは……」
火砕流ヒメ。彼らとは一つ隣のD組で、同じ一年生。名家の一つである火砕流一族出身の彼女は、何よりもその美貌により学園中で有名であった。高嶺を通り越して『天国の花』と呼ぶ者までいるほどで、ファンクラブの会員は二千人を超えたという。
「で、その『天国の花』と言われる美少女が、どうしてパートナーである君をストーキングしてるのかな?」
影からじっと見つめるその瞳は、正にストーカーのそれである。
「あいつは……まあ変な奴でな。俺のこともそうだが恐らくヒノワのことも気になってるんだろ」
「え、僕?」
「気にしなければ害のない奴だから、放っておくのが一番だ」
本当に放るヤマトだが、同じくチラチラ覗かれてる側としては落ち着かないことこの上ない。
「でもなんで、火砕流さんとペアを組んだの?」
彼女は魔法使いとしての腕前は確かの物ではあるが、前述した美貌目当てで近づく者はいたとしても、実力を見てくれる人はほとんどいないのが実情なのである。
ツキヒの疑問の核は、ヤマトが容姿目当てでヒメとペアを組んでいるとは到底思えないところにあった。
「別に理由なんかねぇよ。俺は組むやつがいなかった。あいつは人避けが欲しかった。それだけだ」
「ふぅん、それだけ、ねぇ……」
彼が嘘をついていないにしても、何か隠していることはすぐにわかった。今現在もこちらの様子を窺っているヒメだが、彼女からヤマトに声を掛けられるようにはどうにも考えづらい。目が会う度に扉に隠れる、その後ろ向きな姿勢が何よりの証拠と言えた。
対するヤマトもどれだけ怖がられようとも、彼の実力を持ってすれば引く手数多なのはまず間違い無い。であるにも関わらず相棒に彼女を選んだのには、何かしら理由があるのだろう。
「あいつは突出した才能こそ無いが、魔法使いとしての実力は俺も認めるほどだ。進級試験も上位だったし不都合はねぇよ」
ぶっきらぼうに言いつつも、バツが悪そうに頬を掻いた。煮え切らない態度は正直なところ意外である。
「で、授業はどうするんだ」
「授業? ああ、そうだよね」
強烈すぎて忘れていたが、元々の話題は授業を如何に受けるかの話だ。
魔法使いは基本的に二人一組、所謂ツーマンセルで行動し、それぞれ前衛と後衛に役割を分担する。前衛はなるべく前に出て後衛を守り、後衛はその間に呪文の詠唱をし魔法によって対象を仕留める。
授業によってはツーマンセルの動きをより高め確認できる授業や、更に大人数を想定した授業もある。もちろんヤマトのように個人を高める授業もあれば、回復支援や罠、以前監督してくれた教師ケンイチの研究する契約魔法など、多種多様である。
基本的には自分の好みで授業を設定していけば良いのだが、ツーマンセルの授業だけはペア登録しているパートナーと受講するのが望ましい。そもそも周りがペア同士で受講する中、自分一人だけ受けても相手がいないのだから意味がなくなってしまう。
「こればかりは一人で決めるわけにはいかないからな。まぁお前なら個人でそこそこやれそうだが」
ヤマトの言う通り、ヒノワは対個人戦には自信がある。だがもし今後戦場に出て、敵戦力に火力に物を言わす魔法使いがいた場合、ヒノワのような体術頼りなタイプは真っ先に飲み込まれてしまうだろう。
それに魔法大会の事も考えると、今のうちにお互いの実力を把握し、相性と信頼を高め合うのはとても重要である。
「うーん……できればツキヒとはなるべく行動を共にしておきたいな。魔法大会もあるし」
ヒノワの思いもよらない言葉を聞いたヤマトは、飲んでいたブラックコーヒーを思い切り吹き出した。
「あの魔法大会に出るつもりか!? お前じゃ無謀すぎるぞ!」
昨日の決闘の事もあり、今日相手にした五人ともヒノワの動きを見切ろうとしてきた。あの時に使った高速で打ち込む技は、既に不意打ちとしての効力を失っているとみて良い。それに達人が集まると噂の大会に、そのような小細工が通じるとはとても思えなかった。
「色々あってさ。ツキヒの実力も知らないし、今のうちから信頼関係を作りたい、というのが本音かな」
「うん、いいよ」
「良いのかよ!?」
魔法大会に出る事もそうだが、仮に二人の相性が悪かった場合、下手すれば一年を無駄に過ごすことになる。特に二人の場合、ヒノワは確実に体術のみ、ツキヒも接近戦しか見たことのない。ヤマトの驚きも当然だった。
「本当にいいの?」
「もちろん。優勝するって言ったしさ」
「優勝ってお前ら……」
呆れて物も言えなくなる。二人のことを考えると万に一つも優勝の二文字は見出せない。一回戦を突破するのさえ怪しいというものだ。
「よし、分かった!」
パンッ、とヤマトが手を叩く。
『……?』
「俺たちも参加する。決勝までにお前らをぶっ潰してやるよ!」
『え、ええええ!?』
ヒノワとツキヒ、影で見ていたヒメでさえ、声をあげた。




