怒れる暴風雨
翌日。
神山ヤマトは荒れに荒れていた。
火那魔法学園特有のマジックランクシステム、通称MRS。ランキング戦は比較的ルールが緩く設定されている。そのルールの一つ、挑戦権。基本的には両者の合意さえあれば戦えるランキング戦だが、その挑戦する権利には範囲が設けられている。
一、下位者が挑戦できる上位の者は、五つ上の位まで。
ニ、上位者が挑戦する際の制限は無し。
の二つである。
この範囲内でのみ挑戦することが許され、更にそこから両者の合意があれば決闘することができる。
つまり何が言いたいのか。
昨日の戦いの結果、ヒノワとヤマトは84位と85位。ヒノワに挑戦できるのはヤマトを含めた85位から90位の者。ヤマトに挑戦できるのはその下の91位までの者。
昨日の戦いは既に多くの生徒に知れ渡っている。勿論MRS専用端末機であるMRTにもその情報は記載されていた。『84位の歴代最低の編入生』と『編入生に負けた暴風雨』の二人に挑戦する者が現れる事も予想できた。
分かっていたのだが、五人目の挑戦を受けた時には堪忍袋の尾が切れていた。
全員、無傷なのである。
これまで挑んでくる気配の無かった者たちが、自分をたった一度打ち負かした編入生よりも『勝てる』と思われているのが、何よりも頭に来ていた。
対策を取られない為か頭が回転してない頃を見計らってなのか、ほとんどが朝から挑戦して来ていた。見かけによらず優等生であるヤマトは、今日も始業の二時間は早く登校している。その程度の小細工でどうにかなる相手では無い。もちろん全員返り討ちにした。
だが朝から怒り狂わせることができたのだから、ある意味彼のペースを崩せたとも言えるだろう。入学して以来初めての事態に、怒り大半驚き僅かといったところか。
その話を、昼休みの屋上でその本人に愚痴る。
「だから今日来た四人とも、ちょっと疲れてるようだったのか」
やはりヒノワの方にも来ていたらしい。気が小さい割りに無駄に根性があるのが、この学園の生徒によく見られる特徴の一つ。怒りを通り越して呆れてくる。
「でもたった半日で五人抜きなんて、さすがヤマヤマ!」
ツキヒがフォローに入る。実際五人中四人が上級生であることを考えると、ツキヒの言う通りヤマトの実力が窺い知れる。魔法は精神力がモノをいう為、永く生き様々な経験をした方が力を発揮できるからだ。
「実際大したことはねぇ。っつーかなんでテメーまでいるんだ」
つまみ出そうとするが避けられる。頭に手を伸ばすヤマトとそれを避け続けるツキヒの姿は、横から見ていて面白かった。
「私たちもう友達でしょー?」
「お前とはなった覚えはねぇ!」
思わず横蹴りまで出てしまったが、それも避けられた。
(む……できる)
「一人も二人も一緒でしょー? 細かいことは気にしないの」
そのまま後方に飛び上がり、屋上のフェンスに腰かけた。体捌きは中々のものである。
「……で、ヒノワ。お前らこれからどうするんだ?」
「これからって?」
「授業のカリキュラムをどう組むのかって話だ。もう期限は近いだろ」
火那魔法学園は大学に近い授業方針であり、朝のホームルームと一部の授業を除けば受けたい授業を好きに選ぶことができる。同じ魔法使いでも戦闘スタイルや、そもそも戦闘を行なわない者など十人十色で、個人それぞれが自分に合った授業を受けることができるのだ。
「うーん、僕は授業に関してはこだわりが無いから……ヤマトはどういう風に組むの?」
ヒノワの目下の目的は魔法大会で優勝することのみ。普段の授業についてはあまり興味がなかった。
「俺は体術とか魔法理論とか自分を高められると思った授業を選んだ。ペア戦とかほとんどしないしな」
「複数人の授業とかあるの?」
「そりゃあな。魔法使いは普通、詠唱に時間をかけている間はパートナーが守るってのが基本戦術だしよ」
高位魔法になればなるほど、呪文の詠唱は長くなりより精神を集中しなくてはならない。その間に攻撃を入れられては魔法が不発し、時間と魔力の無駄にしかならないのだ。
「なるほどね……そういえば、ヤマトのパートナーってどんな人?」
そう聞かれたヤマトの表情は若干苦いものに変わった。僅かに開いた屋上の扉、そこから覗く人影を指差す。
「……アレだ」
指を差された人影は頭を引っ込めた。だが絹のような亜麻色の髪が隠れ切れていない。
「え、うそ。火砕流さんじゃん」
驚いたツキヒがフェンスから飛び降りる。彼女の視線の先には、学園で一番有名な女子生徒がいた。




