渦中
「ほら、逃げろ!
そら、逃げろ!!
お前ら皆殺しだあ!!!」
雪崩れ込んむ人人人。
およそ人と呼べない歓声を上げながら人人人。
悪夢のような非現実。
現実を認めたくないほど。
目を塞いでも聞こえる絶叫と血飛沫。
耳を塞いでもぼんやり赤く鈍い灯と鼻をつんざく血の匂い。
鼻を塞ごうにも手が足りない。
酷く酷い夢。
出来の悪い現実。
惨たらしく惨めに死んでいく者たちはみんなみんな絶望の淵に私を睨んで死んだ。
そんな視線ばかりを感じてその場で動けずにいた。
ただただ終わるまでそこにいた。
覚めるのを待つように立っていた。
終わるまでにどれほどの時間が経ったのか。
これで終わりか。
これが終わりだろうか?
それとも。
未だにただ立ち尽くす。
目を覚ます頃には横になっていた。
起き上がろうにも起き上がれない。
力は入るが体が動かない。
「おはよう。
山本さん。」
誰かの声がした。
顔を動かすと頭を踏まれた。
「今の状況分かります?」
返事をしようにも猿轡をはめられ、頭は抑え付けられてる。
つまりこれは質問ではない。
「まだ君を信用しきった訳じゃ無かったんですけど、
やられましよ。
あなたのおかげでほぼ全滅ですよ。」
体の節々が痛い。
「こっちはまだなんとかなったけど、
向こうは3人しか残ってない。
みんな殺されてみんな食われた。
共食いなんて最悪ですよ。
拒食症になりかねない。
餓死は悲惨ですよ。」
目に映る人間はみんな顔を伏せていた。
「だから、最後に君は選ぶんだ。
あなたのおかげで内通者は炙り出せた。
それにしては犠牲が大き過ぎる。
君が誘き寄せた事実に変わりはないですからね。
これを返しますよ。」
目の前に茶封筒が落とされた。
何かが入っている膨らみ。
「さあこれであなたは自由です。
どこへ行こうと自由です。」
拘束を外された。
「ただ、出来れば二度と私達の前には現れないで下さい。」
ぞろぞろノロノロと一斉に人々は動き出す。
「では、さようなら。」
振り返る事なく彼らはどこかへと行った。
「…」
肩を落として見下すのは、
中身は相変わらずの注射器が入った茶封筒。
「……。」
今なら打てる気がした。
気がした。
それでもやっぱりいざとなると、
体は動かなかった。
無意識の未練。
走馬灯など無かった。
ただそこに座り込むだけだった。
後ろから噛まれっぱなしならば消毒をしなければ、
なのらば
晴れてパンパンよ。




