ハロウィンの魔女② ―魔女と小さな勇者たち―
ハロウィンの魔女②です。
咲也がはじめメジャー組が奮闘します。
『ハーッハッハッハ!』
高らかな笑い声が、会場に響き渡った。
『愚かな人間どもよ! よくぞこの私の前に姿を現したな!』
黒と紫の衣装を翻し、大きな杖を掲げる。
尖った帽子の下から、集まった人々を見渡した。
仮装した子どもたちや家族連れ、思い思いの衣装をまとったファンたちが、一様にポカンとした顔でこちらを見ている。
――まずい。
内心怯みながらも声を張り上げる。
『この私を誰だと思っておる! 恐ろしい魔女だぞ!』
――一体、何をやっているんだ、俺は。
心の片隅で、そんな疑問が浮かんだ。
だが、ここまで来たら後には引けない。
三回勝負のじゃんけんに、三回とも負けた。
たったそれだけの理由で、今、自分は大勢の観客の前で魔女を演じている。
かつて妹の夏希が夢中になっていたテレビ番組。
そこに登場した、恐ろしくもどこか愉快な悪の魔女。
その姿を思い出しながら、咲也は再び杖を振り上げた。
『私は子どもが大嫌いだ! さっさと立ち去るがよい!』
すると。
『やだー!』
威勢のいい声が返ってきた。
見ると、ヒーローの衣装を着た男の子が、こちらを指差している。
『悪い魔女だ!』
『そうとも! 私は悪い魔女だ!』
『僕がやっつける!』
男の子が、びしっとポーズを決めた。
――おや。
なかなか様になっているじゃないか。
『ほう? この私に挑もうというのか!』
『そうだ!』
『よかろう! かかってくるがよい!』
男の子は腕を振り、必殺技らしい名前を叫んだ。
もちろん、何も飛んではこない。
咲也はそれに合わせて、杖を構えたまま大きくのけぞった。
『ぬおおっ! 何という力だ!』
『やったあ!』
『おのれぇ! 覚えておれ!』
悔しそうに叫ぶと、周囲の子どもたちから歓声が上がった。
『次、僕!』
『私も!』
『魔女さん、こっち!』
――待て。
どうして増える。
気がつけば、咲也の前には小さなヒーローたちが集まっていた。
しかも、誰も怖がっていない。
それどころか、目を輝かせている。
『ええい! 一人ずつだ! この私に挑むなら、順番を守るがよい!』
『はーい!』
やけに素直な返事が返ってきた。
――まあ、いい。
子どもたちが楽しんでいるのなら。
咲也は杖を握り直す。
『さあ、次の勇者よ! 前に出るがよい!』
こうして、魔女と小さな勇者たちの戦いが始まった。
一方、その少し離れた場所では。
『わんちゃん!』
『わんちゃんだ!』
『……狼だ』
神代が、低い声で訂正していた。
頭には狼の耳。
肩には毛皮を模した衣装。
顔にも、それらしいメイクが施されている。
本人は狼男のつもりなのだろう。
だが、どういうわけか、少しも怖がられていない。
『わんちゃん、さわっていい?』
『だから、犬じゃ――』
『ふわふわ!』
小さな手が、衣装の袖に触れる。
神代は言いかけた言葉を飲み込んだ。
『……そこならいい』
『わんちゃん、こっち向いて!』
『狼だって言ってるだろ』
そう言いながらも、頼まれた方向を向く。
『写真撮って!』
『……はいはい』
子どもたちと目線を合わせるため、神代は膝を折った。
その姿を見つけたレオンが、声を上げる。
『コウタロウ! 大人気じゃないか!』
『その呼び方はやめろ!』
『わんちゃん、怒ってる!』
『怒ってない!』
『アッハッハッハ! 人気者だな、わんちゃん!』
『わんちゃん言うな!』
『……ダメなの?わんちゃんって言っちゃ……?』
小さな声がした。
振り返ると、先ほどの女の子が、今にも泣きそうな顔で神代を見上げていた。
『……あ』
神代は言葉に詰まった。
そして、頬をぽりぽりとかきながら、
『……君たちだけ、特別な』
と、付け加える。
『やったー! わんちゃん大好き!』
女の子が勢いよく抱きついてきた。
『うわっ! おい、抱きつくなって!』
『さすがコウタロウ! 女の子にモテモテじゃん!』
レオンが楽しそうに笑った。
『やかましい!お前だってなんだよ。その格好!』
神代がビシッと指差す。
その格好は、黒と白のフリルだらけのメイド服。
頭には可愛らしいヘッドドレスまでつけている。
『うん?メイドさんだ。
可愛いだろう?』
『どこがだよ! キモいわ!』
『えー』
神代の言葉にも笑顔は崩れない。
長身の金髪男が楽しそうに笑う姿は、遠くからでもよく目立った。
『レオン! 可愛い!』
近くにいた女性ファンから声が上がる。
『その衣装、すごく似合ってる!』
『ありがとう! 俺も気に入ってるんだ!』
レオンはくるりと一回転した。
スカートの裾が、ふわりと広がる。
『どうだ?』
『可愛いー!』
『だろ?』
満足そうに胸を張る。
まったく照れる様子がない。
むしろ、誰よりも楽しんでいた。
『マジかよ。あれが可愛いのか』
『わんちゃんも可愛いよ』
ギュッと抱きついたまま女の子が言う。
『はいはい。ありがとうな』
ポンポンとその頭を撫でる。
そこへ。
『おい、レオン!』
聞き慣れた声が飛んできた。
振り向くと、マイクが立っていた。
黒いマントに、深紅のベスト。
胸元には上品な飾りが施され、髪もきちんと整えられている。
本人の顔立ちも相まって、驚くほど様になっていた。
『おっ、マイクはドラキュラか? カッコいいじゃん!』
レオンがサムズアップするとマイクが苦笑した。
『お前こそ、随分とカッコいい格好してんじゃん』
『そうか?できれば可愛いと言ってくれよ』
腰に手を当て胸を張って言うレオンにマイクが吹き出した。
『やべえ、ノリノリじゃん』
『しかも妙に似合ってるし!』
『だろ?』
レオンは、気取った仕草でスカートの裾をつまんでみせた。
『お前も着てみるか?』
『いいよ。俺はこれで十分だよ』
マイクがマントを広げる。
『どうだ? なかなか決まってるだろ?』
『おお! 確かに格好いいな!』
『ふふ。もっと言ってくれていいぞ。まあ俺は元がいいからな。何を着ても似合ってしまうのさ』
顎に手をあてて呟く姿も様になっていた。
『すっげえ自信』
『まあお前ほどじゃないよ』
マイクが笑いながら言う。
その時だった。
『マイク! 一緒に写真を撮ってもらえますか?』
女性ファンから声がかかった。
マイクはすぐに振り向き、柔らかく微笑んだ。
『もちろん。喜んで』
先ほどまでの軽口が嘘のように、物腰が変わる。
女性を隣へ招き、自然な仕草で撮影に応じた。
『ありがとうございます! ドラキュラ、すごく似合ってます!』
『ありがとう。君の衣装も素敵だね』
『えっ……ありがとうございます!』
女性が嬉しそうに頬を染める。
『素敵な1日を、お嬢さん』
そう言って、マイクは優雅に一礼した。
女性はすっかり上機嫌で去っていった。
その後ろ姿を見送り、レオンが感心したように声を上げる。
『お前、すごいな!』
『何が?』
『今の! キザっぽくてなんかドラキュラみたいだったぞ!』
『そうか?お前の中のドラキュラはキザ野郎なんだな』
マイクが口の端を上げる。
『まあ、“可愛い”メイドさんには真似できないだろうな』
『俺だってファンサービスは得意だぞ!』
『ああ、見てたよ。
お前、さっきからずっと男女問わず可愛いって言われてるもんな』
『そうだぞ!俺は世界で1番可愛いメイドさんなんだぞ!』
『すげー自信じゃん』
マイクが声を上げて笑った。
別の一角では、トムが子どもたちに囲まれていた。
長いローブに、白いひげ。
手には大きな杖。
その姿は、絵本から飛び出してきたような優しい魔法使いだった。
もっとも、ローブの下に隠れているのは、鍛え上げられた現役メジャーリーガーの身体である。
『魔法使いさん! 魔法、見せて!』
小さな男の子が、トムを見上げた。
『魔法かい?』
トムは穏やかに笑う。
『そうだなあ。じゃあ、空を飛んでみるかい?』
『えっ! 飛べるの!?』
『ほんの少しだけね』
トムは傍らにいた保護者に目を向けた。
許可をもらうと、杖を脇に置き、男の子をしっかりと抱き上げる。
『さあ、いくよ』
『うん!』
『せーの!』
ひょいっ。
男の子の身体が、トムの腕の中でふわりと持ち上がった。
『わああっ!』
『どうだい? 空を飛んだ気分は』
『すごい! 魔法だ!』
『ハハハ! 大成功だね』
そっと床に下ろすと、男の子は興奮した様子で保護者に駆け寄った。
『見た!? 僕、飛んだよ!』
『僕も!』
『私もやって!』
今度は別の子どもたちが手を上げる。
『おっと、一人ずつだよ』
トムは楽しそうに応じた。
その様子を、少し離れたところでマイクとジェイクが見ていた。
フランケンシュタインの怪物に扮したジェイクは、緑色の顔に、首元の大きなボルト。
その格好のまま、ぽつりと呟く。
『……すごい魔法だな』
『ちげーよ!なんでお前も信じるんだよ!』
マイクが吹き出した。
『あれ、ただの高い高いじゃねえか!』
『……なるほど、筋肉がなせる魔法……というやつだな』
『いやお前、魔法から離れろって』
マイクが腹を抱えて笑う。
ジェイクは首を傾げた。
そんなジェイクの衣装を、幼い女の子がじっと見つめていた。
興味はあるらしい。
しかし、近づく勇気が出ないようだった。
ジェイクはそれに気づくと、ゆっくりしゃがみ込んだ。
そして、大きな手を差し出す。
『……怖くないよ』
女の子は少し迷ったあと、おずおずと近づいてきた。
小さな手が、ジェイクの指先に触れる。
『……ほんとだ』
『うん』
ジェイクが静かに頷く。
やがて女の子は安心したのか、その隣に立って写真を撮ってもらっていた。
マイクはその様子を眺めながら、ジェイクの肩を軽く叩いた。
『お前も結構人気じゃねえか』
『……そうか?』
『ああ。この子。すっかりお前に懐いてるぞ』
ジェイクは女の子を見やり、少しだけ目元を和らげた。
『おのれぇぇ!』
再び、魔女の叫び声が響き渡った。
『よくもこの私を!』
咲也は杖を振り上げ、目の前の小さな勇者たちを睨みつけた。
『まだまだ負けぬぞ!』
『また倒してやる!』
『生意気な!』
子どもたちは大喜びだった。
何度も挑んでくる子もいれば、初めて近づいてくる子もいる。
中には、恥ずかしそうに保護者の後ろへ隠れている子もいた。
咲也は、その小さな子に気づいた。
『……ほう?』
杖を少し下げる。
『そなたも、この私に挑みに来たのか?』
女の子は、保護者の服をぎゅっと握ったまま頷いた。
『そうか。なかなか勇気があるではないか』
咲也はゆっくり膝を折り、目線を合わせた。
『では、特別に一つだけ魔法を見せてやろう』
女の子が顔を上げる。
咲也は杖を掲げた。
『我が魔法よ! この勇敢なる娘に、甘い宝物を授けるがよい!』
そう言って、傍らのお菓子の籠から、小さな包みを取り出した。
『ほれ』
女の子は目を丸くした。
『……おかし?』
『そうとも。だが、これは特別な魔法のお菓子だ。大切に持って帰るがよい』
女の子は両手で受け取った。
『……ありがとう、魔女さん』
『ふん! 礼などいらぬ!』
女の子は嬉しそうに笑うと、保護者のもとへ戻っていった。
それを見送ってから、咲也は立ち上がる。
――さて。
次は誰だ。
『さあ! この私に挑む者はおらぬのか!』
『はーい!』
いくつもの小さな手が、一斉に上がった。
――元気だなあ。
悪い魔女に、休む暇はなさそうだった。
『見ろよ、マイク! サクヤ、すっかり魔女になりきってるぞ!』
『おいおい、マジかよ!』
マイクが目を丸くする。
ちょうどその時、子どもたちの歓声が聞こえた。
『魔女さん、負けたー!』
『ぐぬぬ……! おのれ、勇者どもめ!』
咲也が大げさに悔しがっている。
マイクが吹き出した。
『なんだよあいつ、すっげえハマり役じゃねえか!』
『だろ?』
レオンは嬉しそうに胸を張る。
『俺の見立ては正しかった!』
『やっぱりお前の仕業か! 咲也があんな格好してるのは』
レオンが得意げにVサインを返してきた。
『しっかしあの咲也がよく頷いたな。嫌がっただろう。
一体どうやったんだよ?』
『じゃんけんで勝ったんだ!』
『じゃんけん?』
『三回勝負! 三回とも俺の勝ち!』
『マジかよ!』
マイクが声を上げて笑った。
『サクヤ、弱すぎだろ!』
『そうなんだよ!』
『しかも、負けた結果が魔女かよ!』
『最高だろ?』
『お前、本当にろくなこと考えねえな!』
そう言いながらも、マイクは楽しそうだった。
再び咲也へ目を向ける。
『……でも、まあ』
『ん?』
『あいつ、なんだかんだで楽しんでるな』
『だろ?』
レオンは満足そうに頷いた。
『よかった!』
マイクはちらりと、そのメイド服を見た。
『で、お前は何でその格好なんだっけ?』
『楽しそうだったから!』
『……やっぱ意味わかんねえ!』
二人の笑い声が重なった。
夕方。
イベントも終わりに近づいた頃。
会場に、スタッフの声が響いた。
『皆さん、本日はお楽しみいただけましたでしょうか!』
あちこちから拍手が起こる。
『さて、最後に、本日のハロウィン仮装人気投票の結果を発表します!』
――人気投票?
咲也は首を傾げた。
そんなものをやっていたのか。
『投票なんてあったのか?』
隣にいたレオンも、不思議そうにしている。
『……知るか。俺に聞くな』
『それもそうだな!』
――まったく。
『今回から始まりましたこの企画。
想定以上の多くのファンの皆様に投票していただきました。
まことにありがとうございます』
『それでは、記念すべき第1回目のハロウィンイベント人気投票、栄えある第1位は――』
スタッフが一呼吸置いた。
『魔女に扮した、サクヤ・タカミヤ選手です!』
――は?
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
『……俺?』
『サクヤ! お前だってさ!』
レオンが勢いよく肩を叩いてきた。
『やったな! やっぱり魔女が似合ってたんだよ!』
『いや、ちょっと待て。どうして俺なんだ』
『投票数が多かったからだろ!』
それはそうだろうが。
そこへ、マイクが声を上げた。
『おいおい! 俺のドラキュラが魔女に負けたのかよ!』
そう言いながらも、その顔は笑っている。
『せっかく格好つけたのによー』
『マイク、お前も似合ってたぞ!』
レオンが慰めるように肩を叩いて言った。
『お前に慰められるとなんか余計に腹立つんだよ!』
周囲から笑い声が上がった。
『魔女さーん!』
『おめでとう!』
先ほどまで魔女退治に夢中だった子どもたちが、嬉しそうに手を振っていた。
咲也は軽く手を上げて応える。
促されるまま前に出ると、スタッフから小さなトロフィーを手渡された。
台座には、愛嬌のあるカボチャがあしらわれている。
『おめでとうございます!』
『……ありがとうございます』
まさか、こんな格好で表彰される日が来るとは。
人生、何が起こるか分からないものだ。
そこへ。
『おめでとう、サクヤヒメ!』
聞き慣れた声が飛んできた。
振り向くと、いつの間にいたのか球団オーナーのルシアンが満面の笑みで近づいてくる。
側には秘書の田中が控えている。
『いやあ、おめでとうヒメ!素晴らしい! 僕も鼻が高いよ!』
『……ありがとうございます』
『では、優勝した君には、僕から特別に熱いキスを――』
ぱこんっ。
『痛っ!』
隣にいた田中が、ルシアンの後頭部を引っ叩いた。
『はっはは。嫌ですねぇ、オーナー。いくら場を盛り上げようったって、お茶目がすぎますよ』
周囲から笑いが漏れる。
咲也はほっと息をついた。
――本気でキスされるところだった。
『……田中さん、ありがとうございます』
咲也が小さな声で言い、頭を下げる。
田中は何事もなかったように眼鏡を直した。
『いえ。当然のことです』
『もう、二人ともつれないなあ』
ルシアンは不満そうに唇を尖らせる。
そんなやり取りを見て、マイクが肩を震わせていた。
『……っ、ははっ! ルシアン、今のは自業自得だろ!』
『ええ? マイクまでそんなこと言うの?』
『当たり前だろ!』
レオンも隣で笑っている。
球団のオーナーであるはずなのに、誰もが遠慮なく言い返している。
――まあ、今さらか。
それにしても、何がそんなにおかしいんだ。
こっちはセクハラされそうになったってのに。
咲也は小さく息を吐いた。
『それではタカミヤ選手、記念写真をお願いします』
スタッフに促され、咲也はトロフィーを持ち直した。
どうやら、この姿を写真に残すらしい。
せめて早く終わらせてほしい。
そう思った矢先だった。
『一人で撮るの?』
ルシアンが、にこやかに首を傾げた。
『せっかくだし、みんなでもいいよー。仮装イベントなんだから、その方が楽しいじゃないか』
『おっ! いいな、それ!』
真っ先に乗ったのはレオンだった。
『みんな! 写真撮るぞ!』
『おい、レオン。勝手に――』
『サクヤ! お前は真ん中な! 優勝者だからな!』
聞いていない。
いや、聞く気がない。
レオンはすでに、離れたところにいる仲間たちへ手を振っていた。
『マイク! ジェイク! トム! コウタロウも!』
『その呼び方はやめろ!』
狼男姿の神代が、不機嫌そうに振り返る。
『じゃあ、ワンちゃん』
『お前いい加減にしろよ!』
しかし、結局は全員が集まってきた。
ドラキュラ姿のマイク。
フランケンシュタインの怪物に扮したジェイク。
白いひげを蓄えた魔法使いのトム。
狼男の神代。
そして、フリルだらけのメイド服を着たレオン。
……何とも奇妙な集団だ。
『ほら、サクヤ。もっとこっち!』
レオンに肩を引き寄せられる。
『近い、レオン』
『いいじゃないか! 記念写真だぞ!』
『おい、サクヤ! トロフィーが見えねえぞ!』
マイクから声が飛んだ。
『……こうか?』
『そうそう!』
気づけば、全員が思い思いの位置に収まっていた。
中央には、魔女姿でトロフィーを持つ咲也。
その隣には、満面の笑みを浮かべたメイド姿のレオン。
反対側の端っこでは、神代が狼の耳を気にしている。
『……これ、外していいか?』
『駄目だよ、コウタロウ! 仮装の記念写真なんだから!』
『だから、その呼び方をやめろ!』
『おい、わんちゃん! カメラ見ろよ!』
マイクが口を挟む。
『お前まで言うなよ!』
周囲がどっと笑った。
『皆さん、こちらを向いてくださーい!』
カメラマンの声が響く。
咲也はトロフィーを胸の前に構えた。
まったく。
どうしてこんなことになったんだ。
そう思いながらも、今さら逃げ出すわけにはいかない。
『はい、撮ります!』
その時だった。
『サクヤ! 魔女らしく頼むぜ!』
レオンが耳元で囁いた。
――この野郎。
咲也は軽く息を吐くと、左手の杖を構え、右手のトロフィーを高々と掲げた。
そして、顎をわずかに上げる。
見下すように、口角を上げた。
カシャッ。
『最高だ、サクヤ!』
レオンが満足そうに笑った。
咲也は掲げていたトロフィーを下ろし、深くため息をついた。
――もう、好きにしてくれ。
こうして、シアトル・ノクターンズのハロウィンイベントは幕を閉じた。
後日。
球団の公式サイトには、一枚の記念写真が掲載された。
中央には、カボチャのトロフィーを掲げ嫣然と微笑む悪の魔女。
その周囲には、個性豊かな仮装姿の仲間たち。
その写真は、何年経っても球団の記録として残り続けることになる。
お読み頂きありがとうございます。
書いてて楽しかったです。そのせいか気がつけば8000字越えの文字数になっており、ビビりました。
個人的には
咲也の
ーー元気だな
と
トムの筋肉の魔法がツボでした。
そして少しだけ続きます(エ




