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欠片《カケラ》はそこで呼んでいる  作者: 飛武伽


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十四綴目 『兄さん』

二六八八年十月、大都会の真ん中で、小娘が独り、呟(つぶや)いている。


「兄さん、何処?兄さん…」


彼女はついさっき家出した。と云うか、誰も居なくなった家を後にした、と云うべきか。


…………


ウチは幼少の頃、両親を極左暴力集団に殺害された。それも人違いで。


その後、親戚の家をたらい回しにされると云うテンプレ通りの筋書きで、快く引き取ってくれる家庭は無かった。どんなに真面目にお手伝いをしようとも、『余所(よそ)の子』は『余所(よそ)の子』、事務的に渋々ご飯を与えられるだけだった。


それはウチらを引き取ると、『世間体』が悪いから。メディアがウチらの両親を極左暴力集団の『構成員』だとデマをまき散らしておきながら、誤報であるコトが明らかになっても、たった一行訂正文を出しただけで終わらせてしまった。勿論、遺族であるウチらに対して謝罪の一つも無い。だから世間では勘違いされたままになっている。ウチらは『極左暴力集団の子』と云うレッテルを貼られたままだ。


そんな感じだから、どの家庭に入っても、あからさまに虐(イジ)められるコトは無かったけど、かと云って歓迎されるコトもない。


唯一、喜びや悲しみを共有出来るのは、『兄さん』ただ一人だった。


一方、『孤児(みなしご)』、それだけの理由で、学校でも毎日虐(イジ)めに遭(あ)った。担任にも教頭にも校長にも相談したが、『親がいない』のをいいコトに、ガン無視された。虐(イジ)めはエスカレートするばかり。


そんな中、中一の頃のとある冬の日、高一の兄さんと二人で『家』を飛び出した。兄さんは昼間は高校に通い、夜は板前のバイトで生活費を稼いでくれた。親方がとってもいい人で、家賃の安いアパートを借りてくれた。

「お嬢ちゃんが就職する迄は面倒見てやる。」

と云って、家賃も生活費も全て出してくれる勢いだったけど、兄さんが師匠にご迷惑お掛けしたくない、と、半年後からは兄さんが払うようになった。

でも、ご飯だけは、

「お前のウデじゃダメだ。」

と、毎日お店の賄いを兄さんと二人で頂いていた。


そんな兄さんと親方に感謝してたら、

「ウチも何かしなきゃ!」

と思う気持ちがだんだん強くなって、中二の梅雨の時期に、学校での虐(イジ)めに対して反撃をするコトを決意した。


授業中、自席で”犯人”達のヒソヒソ話に『聞き耳』を立てていると、その内容がクッキリと脳裏に流れてくる。おかげで”犯人”達の計画を先回りするコトが出来た。ポイント地点にスマフォを設置したあと、録画ボタンを押して教室に戻る。すると予定通り、連中から呼び出される。スマフォを設置したその場所でいつものように虐(イジ)められる…もとい、この場合は虐(イジ)めさせる、が正しいか…そうやって、約一ヶ月間、全ての虐(イジ)めを収録するコトが出来た。自分自身、よく耐えた。エラい!


そしてココからが反撃、校長室に向かう。途中、教頭と担任も半ば強引に校長室に連れ込む。校長のノートPCを奪って、持参したUSBメモリーを挿す。その中にある証拠の動画を見せつける。そして一言。

「この動画の原本は、既に弁護士さんに渡してあります。今後、私に何かあったら、マスコミ各社に公表するように云ってあります!」

とハッタリをかますと、校長、教頭、担任が即座に謝罪、すぐさま”犯人”達の保護者に連絡が行く。


小一時間程度経った頃、手下の保護者は大慌てで校長室に現れる。そして我が子共々謝罪した。手下は主犯のメスブタに逆らうコトが出来なかった、と言い訳している。確かにこのメスブタは凶暴でクラスの嫌われ者だ。凶暴だから嫌われたのか、ブスで嫌われ者になって凶暴になったのか、その経緯(いきさつ)は分からない。知りたくも無い。


さらに三十分が経過して漸く主犯が保護者と現れる。親子共々すごくふてくされた表情で、

「学生身分が『隠し撮り』など言語道断!個人情報保護法違反で提訴する!」

などと脅迫してきたが、校長達になだめられて、と云うか、「内申書」をちらつかされて保護者は納得し、謝罪した。が、最後まで主犯のメスブタはブスッとしたカオでふてくされたまま、一言も言葉を発しなかった。メスブタ…ああ、ブタだから謝罪の言葉を知らないのかな、とか、カオもブスだが中身もブスで、ブスッとしたカオしてるから余計ブスだ、激ブスだ、などと考えてたら、ちょっと吹き出しそうになった。


その後、主犯で激ブスのメスブタは夏休みを前にして転校を余儀なくされ、虐めはピタッとなくなった。それどころか、凶暴で嫌われ者のメスブタを刈り払ったと、ウチは英雄視されて、友達が一気に増えた。その頃、ウチのこの良すぎる耳に備わる絶対音感を活かして音楽を演(や)るようになり、秋の文化祭で弾き語りを演(や)ったら、全学年にファンが出来た。あとで聞いた話だと、ファンクラブも出来てたみたい。それはそれでハズいけど、ちょっと嬉しい。


中三の頃、兄さんの恋人さんがいろいろ援助してくれた。兄さんの十八歳の誕生日を機に付き合い始めた、五歳上の恋人だそうだ。とても優しいお姉さんだった。とても楽しく幸せな日々だった。


然(しか)し、幸せはそう長くは続かなかった。半年後、お姉さんが極左暴力集団に繋がる反社の連中に襲われて、拉致・監禁された。三ヶ月後、兄さんがその組織の中に潜入して、彼女を救助した。ところが、どんな非道いコトをされたのだろうか。嘗(かつ)ての優しいお姉さんの面影は完全に消え失せ、ただ発狂する、悍(おぞ)ましき獣と化していた。


兄さんは内側から破壊すべく、そのまま組織に残った。料亭でのバイトはそのまま続けた。組織にはバイトの話はせず、また、料亭の親方にも組織に入ったコトは伏せていた。ある日、いつものように兄さんと料亭で賄いを頂いていると、兄さんがまた自慢げに話してくれた。

「また一人、この組織に拉致された女性を逃がしてあげた。すごい綺麗なお姉さんだったよ。」

コレが最後になった。


…ウチの知ってる情報はココまで。兄さんとはもう五年も連絡が取れていない。


高校を卒業したあと、音楽の専門学校に通いながら兄さんを探した。いろんな夜のお店で演奏のバイトをしながら情報をかき集めたけど、今ひとつ有力な情報は得られなかった。


春に学校を卒業して、昼はストリートで演奏、夜はお店で演奏活動をして日銭を稼ぎつつ、情報を集めた。有力な情報さえあれば、おカネなんて要らない。


半年間粘ったけど、もうダメ。この地域にしがみ付いても何も得られない。そう思って、外に出ようと、家を出た。


  ◇ ◇ ◇


約一年後の二六八八年十一月、全国津々浦々、ストリートで演奏して日銭を稼ぎ、情報を集め、運が良ければ夜のお店に呼ばれて演奏させてもらえるコトもあった。ただ、たまに店主が変態だと変な要求を突きつけられるので、あらかじめ店主の情報を得た上で演奏していた。


ある日、例によって店主の情報を先に得ていたのだが、その裏にオーナーが居るとは思ってもみなかった。オーナーは極左暴力集団に繋がる反社の構成員で、いろいろ変な要求を突きつけてきた。


三日間飲まず食わずだったので、思わずその話に飛びついたけど、それからは半ば軟禁状態で、怖くなってなんとかお店を飛び出たら、配下のチンピラに見つかって追っかけられてしまった。


「ああ、兄さんにたどり着けず、ウチはこのまま黄泉(よみ)の国に行くんかなぁ。」

と思って物陰に隠れて震えていた。そこに、カッコイイ大人のお姉さんがやって来て、ウチを助けてくれた。


チンピラ三名をいとも簡単に攻略。そして声を掛けてくれた。


「大丈夫ですか?貴女のような可愛いお嬢様がこんな時間に一人歩きすると危険ですよ?」


…はぁ~ん、カッコいいぃ♡…


「お宅はどこですか?私(わたくし)達で送って差し上げますわ。」


…『達』!フッと見ると、少し離れた所からナイスガイが寄ってくる。

「おい、何してる!大丈夫か!」

「ええ、私(わたくし)は平気ですが、この娘(コ)が…」


えー彼氏居たんかい!まぁ、彼氏の一人や二人、どうってコトないわ!

でもなんか悔しいので、そのまま逃げちゃった。


  ◇ ◇ ◇


厳密に云うと、逃げるフリをして、先ほどのカッコイイお姉さんを尾行(つ)けてみた。


凄いボロマンションに二人で入って行った。いや、ボロマンションの割に、しっかりオートロックでカメラが設置してある。暫く人の出入りを観察していたけど、悪いヤツの入り込む隙も無い完璧な動作。


どうにかして入りたい。あのお姉さんにもう一回逢いた…もとい、会いたい。ちゃんと「結婚して下さい!」って云ってない。て云うか、お礼すらしていない。


自分から逃げといて勝手だけど、何とかしてマンションの中を歩きたいと思って二週間程観察してたけど、全然隙が無い。


と困っていたある日、上品なスーツを着た、これまたナイスガイな紳士さまが綺麗なお姉さんを連れてマンションに入って行った。不思議なのは、この二人は特に何の操作もしていないのに、勝手に自動ドアが開いた。


「あれ、故障したのかな?」


と期待してウチも扉の前に立ったけど、スンともウンとも。


小一時間程度、よ~く『聞き耳』を立ててマンションの中のいろんな声を聞いてみる。と、あの時のナイスガイの声がする。と、対話している男の人の声がする。


「じゃ、明後日は別荘に集合と云うコトで。お迎えに上がります。」

と何やら約束しているようだ。別荘って何さ?

そう思って当日、ウチの交通手段は歩きしかないので、しっかり『聞き耳』を立てて、彼らの声を必死で追って、方角を割り出した。


…それからはただ歩くのみ。…


『聞き耳』をしっかり立てながら歩く。ただ歩く。食事忘れた。腹は減るけどただ歩く。恐らく彼らは三回、往復している。そして山の中にある大きな別荘っぽい家にたどり着いた。


「どうやったら中に入れるんだろう。お腹すいた。」


そう思っていたら、あの紳士さまがブツブツ云う声が聞こえてきた。キータッチの音が聞こえるので、ひょっとすると暗証番号を呟(つぶや)いてるのか?


さらにずーっと『聞き耳』を立てていると、こんどはIDとパスワードを呟(つぶや)かれておられるようだ。二、三種類あるようなので、とっさに地面に書いてメモした。


彼らがこの建物を去ったあと、ドアの前に立って、あの紳士さまが口走っていた暗証番号を入れると簡単に扉が開いた。そして書斎っぽい部屋があったので、ココでも暗証番号を入れて扉を開けて、机の上にあるノートPCの電源を入れて、ID、パスワードを入力したら、簡単にアクセス出来た。


このPCの中身をいろいろ見ていると、まぁいろんな情報が書いてあった。あと、綺麗なお姉さんの画像…あ、コレはあの紳士さまの横にいたお姉さんだ…の写真や動画がタップリ保存されていた。


ひとまずこの建物に入るためのIDカードを、ノートPCから発注した。その後も建物の中に三日間潜伏して、『聞き耳』を立てて宅配業者を待ち構えた。


  ◇ ◇ ◇


元旦、IDカードを使って建物に入って、あちこち探検してみた。


とっても驚いたコトがあった。しっかり『聞き耳』を立てて探索してたら、壁の一部から壁の音じゃなくて空間の音が聞こえてきた。

「何だろう?」

と思って、壁に触れてみたら、見えてる形状と違う形状の壁があり、一部に何か別の形状のモノがある。

「あれ?コレって…」

と思ってIDカードをかざしてみたら、壁が開いた!すると辺り一面が本来の姿を現した。この壁は大きな扉になっていて、長い廊下の入り口になっていた。IDカードをかざしたそこにはカード認証機が貼りついていた。コレって…所謂プロジェクションマッピングってヤツ?この国の技術はスゴい!


…つか、腰が抜けて動けない…


暫くしてその長い廊下の向こう側まで歩く。五百メートルはあるかな?その渡りきった所に壁…いや、もしかして!と思ったら案の定、ココにも扉があった。ただ、この扉は別のIDカードが必要みたい。開かない。


一旦、最初の建物に戻って例のPCを探索してみたら、マニュアルを見つけた。どうやら向こうは向こうで別途登録が必要みたい。IDカードそのものは共通だけど、コレにも指紋を登録しないといけないみたい。指紋と静脈のスキャナー、あとカードリーダーがこのPCには付いていない。ああ、ココまでか。


と思っていたら、納戸に丁寧に片付けられていた。デバイスをPCに接続すると、自動的にソフトウェアが起動する。IDカードをリーダーに載せて、PCから流れるアナウンスに従って一つ一つ丁寧に登録した。


そしてアップグレードしたIDカードを手に、向こうの『研究所』に移動して再チャレンジ。


IDカードをかざすと、たった一小節だけど、Bメジャーの小気味良いメロディーが流れる。雰囲気的には認証通ったっぽい。


ドアノブを掴むと、一小節のDadd9のアルペジオが流れて、「ガチャッ」とドアが開いた。


中を探索したけど、何の部屋なのか全く分からなかった。ひとまず食べ物は無さげなので、この建物にはもう来ないと思う。興味もない。あっちの屋敷だけで充分だ。あっちにはPCも食べ物もあるからね。情報収集に没頭しよう。




…それから数ヶ月後、あのカッコイイお姉さんの隣に居たナイスガイと、あの綺麗なお姉さんの隣にいた紳士様に見つかってしまった。


…まぁ一度は死を覚悟した身だ。


…兄さんに会えないのは心残りだけどね。


…兄さんゴメン。


…もうどうにでもなれ!


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