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欠片《カケラ》はそこで呼んでいる  作者: 飛武伽


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11/12

十綴目 『スケベじじぃ』

「なんだお前、青山か。随分久々じゃねーか。」


 横水が神崎から貰ったスマフォのケースを買いに青山の行きつけのショップを訪れた。まさかこんな所であのエロじじぃに出くわすとは。心底、無視しておきたかったが、ひとまず平静を装って、横水の買い物を邪魔しないように心掛けた。


「後ろのねーちゃんはお前のコレか?相変わらず女としか(つる)まねぇな。」

「<無視(シカト)>」

「おいおい、相手にしてくれよ。」

「…シーン。」

 ただならぬ青山の態度に大崎にも緊張が走る。が、何かを思い出したようで、

「彼が例の?」

 と大崎が後ろから訊く。

「ああ、そうですよ。以前お話したスケベじじぃですよ。ヤツは存在自体がセクハラですから、気を付けて下さいね。」

「おいおい、そんな言い方無いだろぉ。(わし)とお前の仲じゃないか。」

「ざけんなよ気色悪い!お前がオレにやった悪行の数々を忘れたか!」

「いやぁ、そんなぁ(照)」

「褒めてねぇよ!バカ!」


 そしてスケベじじぃの腐った眼が大崎を捕らえ、舐め回すように見ている。

「カオはともかく、なかなかええちちだのぅ~」

 と云いながら大崎に近づき、そのはち切れそうな胸をめがけて手を飛ばす。

 すると、大崎はそれを予測していたかのように流れるように避ける。

 さらに尻や太ももにタッチしようとするが、大崎は「ヒョイ、ヒョイ…」と、涼しい顔で避けている。それでも「ちち、しり、ふともも~」と(つぶや)きながらタッチを試みる。


「お前、この()に手を出すとは、命知らずだな。」

 と青山が「ニヤリ」としながら告げる。


 大崎は以前拉致された経験から、護身術として合気道をマスターしていた。呑み込みの早い大崎はたった三ヶ月で師範クラスだ。そのような『実力者』である大崎()()が本気を出してしまうなら、間違いなく分子レヴェルで粉砕されるだろう。


 大崎とてこんなスケベじじぃなんかに触れられたくないし、触れたくもない。一切手を下さず、ただ避けるだけだ。気合いで吹き飛ばすコトも可能だが、自分の発した『気』が触れるのすら嫌がっているのだろう。


 なので馬橋は大崎から何一つ攻撃を受けていない。ある意味ラッキーだ。


 そのうちスケベじじぃは疲労(ひろう)困憊(こんぱい)でピクリと動かなくなった。

「もうダメ。死ぬ…」

「ああ、早く死ね。ドスケベクズ野郎。」

 このような汚い言葉を口にするコトはないが、青山は心底そう思った。


流石(さすが)、大崎さん。天晴(あっぱ)れですね。」

 と青山が大崎を褒め称える。

「全世界、いや全宇宙の中で(わたくし)に触れて頂きたいのは所長だけですわ。だから今夜は…」

 などと、大崎が妄想を膨らませて余計な念を新規作成している。褒めなきゃよかったかな?と青山は小さく後悔を覚える。


 ◇ ◇ ◇


 この所謂(いわゆる)『スケベじじぃ』とやら、名は『馬橋(まばし)蔵之介(くらのすけ)』と云う。何だか由緒正しい風な大層な名前だが、

『名は体を表わさず』何処を切り取ってもただのスケベじじぃ、クソ野郎だ。


 青山が(かつ)て妻の浮気を疑って、調査手法を学ぶ魂胆で大手調査会社のバイトで入った時の課長が馬橋だ。


 ところが、入ってすぐから青山に無理難題…スケベ課題…を押し付けた。調査と称して女風呂の動画を撮影しろ、とか、街で見かけたイイ女を調査と称して尾行してこい、とか、はたまた依頼人が美人だと、全く必要がないのにご自宅に監視カメラを設置して見張っとけ、だとか、そういう”犯罪行為”を指示していた。当然、青山は犯罪に手を染める気はさらさらないので、毅然(きぜん)とした態度で全て拒否した。


 然し、三日目から、スケベじじぃから激しくパワーハラスメントを受けるようになった。意味も無く恫喝されたり、馬橋の飲みかけの熱いお茶を引っ掛けられたり(簡単に回避したが)、有りもしない噂を部内に拡散されたり、そのようなコトが続き、流石(さすが)の青山も心折れそうになった。


 そこで隣の課長に相談したところ、先ずはコッソリ調査のノウハウを教えてもらえるコトになり、そのスキルで馬橋の悪行の数々についての証拠を揃えた上で、隣の課長に付き添われながら部長に報告した。報告内容はすぐさま役員の耳に入り、翌日、馬橋の懲戒解雇が決定した。


 馬橋には自尊心(プライド)が全く無いし、セクハラやパワハラをやってる自覚が無いのか、反省する気はさらさら無いようだ。嘗て、極左暴力団体がカネで雇われて修学旅行生を操業許可の無い小形ボートに乗せ、波浪警報はおろか海上保安庁の警告も無視して出航して案の定転覆、生徒が亡くなったと云う事件があったが、当事者関連団体は全く反省せず、逆ギレしていたあの事件を彷彿させる。自身が何故懲戒解雇になっているのかも分かっていない。そして退職する日に、青山に泣きついた。

「明日から収入が無くなる。だからこんな可哀想な(わし)におカネを貸して下さい(泣)」

 当然のことながら、青山は拒絶した。

「ざけんな!二度とオレの前に姿を現すな!」


 ◇ ◇ ◇


 馬橋の悪行は今に始まったコトでは無い。


 若い頃、小さな出版社に勤務して数年、後輩と結婚。然しその後セクハラで自己都合退職。その後新聞配達のバイトで食いつないでいたが、社員登用され本社勤務。然しその後セクハラで自己都合退職。流石に妻も呆れて離れていった。


 大手調査会社に入ったのはそのあとだ。


 懲戒解雇後、青山に接触し、共同で調査会社の起業を持ちかけるが、

「どうせお前はまた問題を起こす。」

 と、当然のように青山は激しく拒絶する。


 とは云え、彼にも大変だったコトがある。それは(かつ)疫病(えきびょう)(まが)いの騒ぎにて、治験も終わっていないmRNAワクチンを国家を挙げてゴリ押ししていた時期に、なんの疑いもなく接種してしまい、死の淵を彷徨う羽目になった。ひとまず一命は取り留めたものの、その後もmRNAワクチンの後遺症に悩まされる。その最中(さなか)(ようや)く霊能力を活かすコトに回帰して、個人事務所を立ち上げた。


 とは云え、この馬橋がマトモに仕事するハズも無く、ほぼスケベでダメにしている。霊能力を使用する前に霊力を消耗する、どうしようもないクズ野郎だ。


 そのクズ野郎、完全にノックダウンしていた馬橋だが、少しずつ体力を回復しつつある。


 青山としては言葉も交わしたくない、カオも見たくない相手ではあるが、少しだけ気になるコトもある。大崎が青山の考えを先読みして、青山に成り代わって馬橋に訊く。


「それで、おたくは何用でこちらに?」


 ◇ ◇ ◇


「お、姉ちゃん、聞いてくれるかい?」


 と、急に元気になって、何故かドヤ顔で応えてくる。


(わし)、『拾い屋(スカベンジャー)』ってのをやっててさ…」


 …馬橋はハニトラに簡単に引っかかってしまうタイプだな。自らが『拾い屋(スカベンジャー)』であるコトを暴露してはいけないと云う規則(きまり)は無いが、何かと危険が伴うので、普通はベラベラ喋らないモノだが、馬橋は女相手だと思って調子に乗ってやがる。


 既に青山と大崎が知っている「『拾い屋(スカベンジャー)』とは?」から語り始めて実にウザい。青山はすぐにでもこの場を離れたいと思っているのだが、横水を置いていくワケにもいかないので、仕方なく付き合わされている。


 因みに横水は、ケース選びに夢中で、一人で楽しそうにしている。


 嘗て一緒に起業するコトを提案してきた馬橋だが、その後は一人で起業したと伝え聞いている。


 ◇ ◇ ◇


 馬橋は所謂『能力者』ではないが、霊能者の血を引いているせいで、多少霊の声を聞くことが出来る。


 因みにこの世界では、霊能力者はアスリート同様に扱われている。その霊能力には個人差はあるが、誰にでも潜在的に備わっている能力であり、専門学校や大学にも霊能力のカテゴリーが存在する。その気になれば高みを目指すコトも出来るし、プロの霊能力者になるチャンスもある。


 もう一つ云えば、霊界や霊に関しては既に世界中の人々がその存在を知っている。随分前に、とある理論物理学者が、カルツァ–クライン理論や弦理論および超弦理論を元に「超霊次元理論」と云う論文を完成させ、その存在を理論的に『発見』して世に知らしめた。とは云え当時は賛否両論、と云うか圧倒的多数は否定派だった。ところが二六三〇年の三月に始まった世界の事象の大異変や、近年では二六八二年に起きた事象などを経験し、長い年月をかけてほぼ賛成派が占めるようになった。とは云え、今でもごく少数ではあるが、否定する理論物理学者も存在している。


 そして現在二六九〇年の実験物理学者は、『霊界の欠片(カケラ)の物質化』に果敢に挑戦している。嘗て、物質に質量を与えるヒッグス場の存在を、加速器を使って『場』の欠片(カケラ)を『粒子』に変換したコトで証明したように。


 少し話が脱線したが、そんな誰でも持っている『霊能力』について、馬橋は小学生になる前年に、有能な霊能力者であった祖母から見いだされた。中学一年生の頃からある程度の手解きを受けていた。『ある程度』とは、本人に自覚もヤル気もなかった為に、霊力(チカラ)を付けては怠り、また霊力(チカラ)を付けては怠っていた為だ。高校に入った頃からは女にモテたい一心であれやこれや中途半端に手を付けて霊能力の鍛錬を全然やらなくなってしまい、何も得ないまま今に至る。


 そのような経緯があり、馬橋の霊能力は極めて中途半端であり、局所的だ。唯一出来るコトは、

『霊の話が聞こえてくる』

 だけだ。降霊等ではなく、とりあえず霊の声が聞こえてくるらしい。

 鍛錬していれば、自在に降霊して対話したり、悪霊に対しては強い霊力で封じ込めたり出来るのだが、馬橋にそんな霊力(チカラ)は無い。霊からの一方通行の声だ。

 ただ、起業して以来ヒマだったので、試しに霊に話しかけていたら、二分四十秒だけ対話が出来るようになったらしい。霊能力家系なので、(そもそ)ものポテンシャルは高いようだ。実に勿体(もったい)ない。


 ◇ ◇ ◇


 馬橋は『拾い屋(スカベンジャー)』としてこのショップに来ているコトを自ら暴露した。


 青山は興味本位で『場念(フォット)』をスキャンする。先ほど大崎が新規作成した念に邪魔されつつ、トイレの方から何かしらの事件に巻き込まれたような念を感じ取った。


「で、お前はその証拠物件を見つけられたのか?」

 青山が訊くと、馬橋はすかさず、

「被害者の霊がこのショップにある、と話していたので間違いない。間違いない(はず)だが、どう探しても出てこねぇ。だから青山君どうか手伝って下さい。」

 ホントにコイツはどこまでもポンコツで厚かましい。青山は手伝ってやる提案をするつもりでいたが、先に泣き付かれてしまった。断る手もあるが、そこは冷静になって馬橋に手順を追わせる。


「捜査を部外者のオレに手伝わせるのは違法行為じゃないのか?」

 と指摘されて馬橋の目線が宙を泳ぐ。

「先ずはお前に指示を出している担当さんに連絡しろ。そうすれば筋は通るだろ?」

 と云われて馬橋はスマフォを取り出して、(つたな)い操作で連絡を取る。その小さな画面から年季を重ねた淑女が不機嫌そうに応答する声が聞こえる。

「ブツは見つかりましたか?」

 すると馬橋は、

「いや、まだだけど、手伝いを名乗り出たヤツがいる。(わし)の元部下…」

 と馬橋が話しかけたところで青山がスマフォを取り上げる。自分の優秀な元部下、と云う話から自分が育てたと話をでっち上げて自慢するのが容易に想像される。なので、青山はすみやかにその無駄話を断ち切って担当警部と直接やり取りをする。

「はじめまして、青山と申します。私は個人で調査会社を営んでおりまして…」

 と小さな画面に話しかけると、

「あら、ステキな殿方だわ。ホントに馬氏の知り合い?」

 と、明らかに声色が変わった。しかも先ほどとは違い満面の笑み…半ば恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべている。つか、『馬氏』って、この淑女(ひと)も名前呼びたくないんだなぁと、青山は同情する。

「以前勤務していた会社の元上司ですが、随分前に私がコイツの悪事を暴いて会社から追い出した、と云う関係です。今日は運悪く出くわしてしまいまして。」

 と馬橋との関係を”正しく”話して、”どうしても”と協力を求められた旨を伝える。

「承知しました。では貴男(あなた)にお手伝い頂くことを承認致します。ハァ~なんてステキな方でしょう。貴男(あなた)にご協力頂けるなんてとっても嬉しいわ!ありがとう!」

 と捜索の許可と感謝の言葉を頂いた。

 その後、青山は担当警部が画面に示したQRコードを読み取り、サイトに指示された情報を登録した。コレをやらないと、報酬が手に入らない。『拾い屋(スカベンジャー)』発足当時は混乱していて、街で引っ掛けた学生達に手伝わせて報酬も払わずトンズラする悪徳業者が蔓延(はびこ)っていたことが社会問題になった、その対策だ。


 兎にも角にも青山は馬橋への協力で収入を得られる、もとより馬橋に協力したいなど微塵も思わないが、既に答えが分かっている青山は、被害者と遺族の気持ちを最優先にして、解決に導くコトにした。


 ◇ ◇ ◇


 一方、横水はスマフォのケースを探し続けている。神崎印のスマフォは特別仕様だが、外見は一般的なスマフォと何も変わらない。なので、ショップに飾ってあるスマフォケースは、ピッタリはまるものばかりだ。


 青山が馬橋の『拾い屋(スカベンジャー)』案件を手伝う承認が下りた段階で、大崎は横水の方に合流した。


「小さいショップですが、いっぱいありますね。(わたくし)もどれにしようかホント迷っておりますわ。」

 …横水のスマフォケースを探すのを手伝うのかと思いきや、どうやらご自分のスマフォケースを探したかったようだ。


「大崎姉さん、コレなんかどう?」

「まぁ、とってもステキですわ!でも、コッチも捨てがたいですわ。」

「じゃ、それ私が使って、姉さんはコレをお使いになっては?」

「う~ん、それとアレもすごく可愛らしくて、答えが分かりませんわ。横水さんにはコレがお似合いかもしれませんわ。」

 とか、二人キャッキャとスマフォケース探しを楽しんでいた。


 ◇ ◇ ◇


 楽しそうな女子二人を余所に、馬橋の『拾い屋(スカベンジャー)』案件を合法的に手伝うコトになった青山はふてくされたい気持ちを抑えつつ、仕事モードに切り替える。

「トイレは探したのか?」

 馬橋に問う。案の定、

「何でトイレ?」

 と、そのスケベしか考えられない小さな頭上に、大きなハテナマークが出現しそうだ。最初(ハナ)っから探す気など無い、と云うかその概念すら無いようだ。

「その被害者の霊は”ショップにある”とだけ云ったんだよな?であれば、このショップのどこかに隠したと考えるのが普通だろ?且つ、この小さいショップで客が隠せそうな場所って、トイレくらいしかないだろ?」

 馬橋は「ああ!」と、拳を握った右手を左の手のひらにあてて感心している。

 青山は半ば呆れている。こんなの調査の初歩の初歩だ。


 そして馬橋はすぐさまトイレに向かおうとするが、青山が制止する。

「待て。その被害者は男性か女性か?」

「ああ、女子高生だ。」

「であれば、お前の好きな女子トイレに入らせてもらわねばなるまい。ちゃんと店員に許可取らないとまた捕まるぞ。」

 そう云われて店員に許可を求め、捜索中は『清掃中』のプラカードを立てて頂くことにした。

 なんだかニヤつく馬橋に青山が念を押す。

「云っとくが、お前が持ち出せるのは証拠物件だけだぞ!関係ないモノは持出禁止だ!」

「へ~ぃ…」

 と馬橋は渋々返事をする。


 二人で女子トイレに入り、青山は改めてコッソリ『場念(フォット)』をスキャンする。すると、奥から二番目の部屋のトイレタンクから先ほどの念を感じた。青山は自分の能力がバレないように一つ一つの部屋を確認して誤魔化そうとも思ったが、そんなコトをすると馬橋が「他の部屋を」調べるフリをして何をしでかすか分からない。なので、

「ココだ。来い!」

 と青山が馬橋を連れて部屋に入る。

「コレを持て。」

 と馬橋に指示を出す。この女子トイレと云う神聖な場所で馬橋にはマウントを取らせない。青山がどんどん指示を出す。そしてトイレタンクの(ふた)を外し、馬橋に預けるコトで馬橋の両手を塞ぐ。そうやって、速やかに且つ安全に捜索を進める。


 するとタンクの底の端っこにビニールに包まれた何かがある。青山が袖を捲り上げて取り出す。


 馬橋に蓋を元に戻すよう指示を出し、両手が空いたところに先ほどの包みを渡す。


「ほれ、コレが答えだろ。」


 女子トイレを出て…馬橋が出てこないので青山が怒鳴りつけて、渋々出て来たところで、先ほど馬橋から取り上げたスマフォを使って、青山は担当警部に連絡を入れた。

「なんて素晴らしい!こんなに早く見つけて下さると信じておりましたが、まさかホントに!ステキだわ!私とお食事して!いえ、私をお食事にして下さい!」

 と大変大喜びで青山も安心した。ドサクサに(まぎ)れて余計な言霊が聞こえて来たがスルーした。警部も少しやり過ぎたと思ったのか、気を取り直して言葉を改める。

「そこの馬と違って、貴男(あなた)は仕事がお出来になって、それでいてとってもハンサムだから、私の部下に欲しいわ!」

 と、いつもは馬橋がモタモタしていて、他の警部に先を越されるコト数多でしょっちゅうイライラしているらしい。青山は苦笑いしながら同情した。そして、

「ねぇ、ホントに私の元でお働きになって頂けませんか?報酬はいくらでも差し上げます。どうか私の元で…」

 と何度も懇願された。然しながら、青山には自分のやるべき『使命』もあるので、丁重にお断りした。

「まぁとっても残念だけど、仕方ないわね。また貴男(あなた)の声が聞きたいわ。連絡頂戴ね♡」

 と云って連絡を切られた。

 青山は背筋に「ゾクッ」と寒気を覚えた。


 ◇ ◇ ◇


 青山が事件を解決したこの五分か十分ほどの間、横水はケースを探していた。大崎も一緒になって探していたようだ。と云うか、大崎は自分のケースを探している。


 先ほど事件は『案件』としては一旦解決したが、青山はコレで事件解決とは思えなかった。


 あの包みの中から感じた『念』が複数あり、一つはその被害者の女子高生だが、もう一つに覚えのある『念』があった。ハッキリとは云えないが、拾得物を届けたあとに消息を断ち、後に資産家別荘連続窃盗事件で木地光(きじみつ)の下で窃盗を働いていたあの少年と似たような『念』だ。如何せん掴みどころのない人物なので、包みの中から感じた『念』とホントに同一かどうか分からない。


 謎は増えるばかりだ。


 ひとまず馬橋の方は片付いた。なので馬橋はもう帰るものと思ったらそうでもない。


 大崎に触れられなかったコトが心惜しくて、今度は横水を狙っているようだ。


「コッチのお嬢ちゃんは乳はないが、色気はあるなぁ~。いいケツだ。」

 とブツブツ言いながら横水に近寄り尻に手を伸ばす。


「パシッ!」

 と、太くて黒い手が馬橋の細腕を(つか)む。

「ひぃっ!」

 馬橋は驚く。サングラスをかけた、長身でガタイのいい黒スーツのその男性は、間違いなく神崎の部下だ。見たコトがある。恐らく神崎から横水を護衛するように指示を受けているのだろう。当の横水は全く気付いていない。本人が自由で安全な生活を満喫出来るように、陰からサポートしているのだろう。


 そして彼は馬橋にこう云った。

「自分はとある組織から彼女に害を成す者を排除するように指示されている。命が惜しくば、二度とそこの二人の淑女(レディ)に手を出すな!」

 周囲に聞こえない程度のヴォリュームだが、低くてドスの効いたその声は馬橋の脳天と心臓を貫いた。馬橋は

「は、はいぃぃぃぃ〜!」

 と、ガタガタ震えながら、ショップから逃げるように足早に立ち去った。


 青山が彼に近付いて訊いてみた。

「もしかして、横水さんの護衛の方ですか?」

「いえ、私は会長の下で国際情勢や国内政治の分析を担当しております。今日は会長からのメッセージをお伝えに上がりました。」

 なんと!?まさかの文官とは。その筋肉(マッスル)ムダでしょう。つか、神崎が使いを寄越(よこ)してメッセージを伝達するなど珍しい。いつもならスマフォ一つで済ませるのに、どういう風の吹き回しか。そう違和感を感じつつ、彼の話に耳を傾ける。


「実は、陽子様が行きたいところがあるそうで。」


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