第87話 現る-Ⅰ
結界内で炸裂し、大量の光を発した水熱爆裂弾頭。
その光で内部のクリュオテを確認できないほどに、その光は強烈だった。果たして、内部のクリュオテは無事なのだろうか? 無事であるとして、戦闘続行が可能なのか。
どちらにせよ、もう制圧したと言っても過言ではない。
「疑似的な水素爆発ですか……魔術で再現なさるとは、やはり貴女は得体のしれない人ですわね」
「異世界出身だからね」
「……ですわね」
やはり間が多いな。
なんなのだろうか?
◆◆◆
時は少し遡り──。
エリア:23の街にて、亜人との戦闘を繰り広げている第四軍団と、アラベル、アラン。
「もうっ、キリがないんだけどっ!」
自身のオーガロイドであるアトロスと共に亜人を蹴散らしながらアラベルがボヤく。
それもそのはずだ。クリュオテが開いた〝異界門〟からは、クリュオテによるプログラム通りに亜人が現れ続けていた。
「流石にしんどいなぁ~」
アランもまたボヤく。
二人とも体力的には問題ないのだろう。だが、『いつまで続くのか』という不安が、二人の精神的士気を低めていた。
イヴ・オベールと共に現着した第四軍団の騎士部隊と魔術部隊も、それぞれ二人一組となって亜人と善戦している。
そして、イヴもまた。
「あ~~~もうっ! 早く死んでよ!!」
ボヤきというより怒号に近いものを発しながら、亜人を殺していく。流石にオリヴィエやアラベルほど早くはないが、前述した騎士と魔術師のペアよりは確実に早く処理できている。
そんなイヴが扱っているのは、クナイ。両手に一本ずつ持ち、亜人の急所、つまりは脳や心臓を最小の動作で効率的に破壊する事で処理している。
亜人と言えども、この正確さの前には成す術無い。なので、量で攻めているわけだ。
「イヴ様、これは一体いつまで!?」
魔術師の一人がイヴに尋ねる。流石に、部隊員たちにも限界が刻一刻と近づいていた。
「……わかんないよ。けど、空でだんちょ達が戦ってる。とりあえずは、だんちょ達が敵ボスを倒すまで耐えるんだよ! ウチも……頑張るからさ」
隊員達にとっては、いつにないイヴの真面目な表情。それはつまり、最近は比較的平和であった事を示すのだが……。
この真面目な顔を見た部隊員達の士気が、確実に上がった。
「「「はいッ!!」」」
実に元気のよい返事で、イヴに応えたのだった。
また視点は移り、アラベル。
戦闘の合間に上空を見上げ、オリヴィエ達の戦いぶりに感嘆していた。
「やっぱ姉ちゃんえげつないなぁ~~」
「そうだなぁ」
いつの間にか並んでいたアラベルとアラン。アラベルは自然と距離を置く。
「あんた、何なのよその剣」
「え~? あ~、ちょっと特別製でな~」
アラベルが不審がるのも当たり前だ。アランが持っているのは、黒と紫が基調の、片刃の長剣。見た目は問題ではない。問題は、その切れ味と不可解な効果。
アランは、亜人の肉体を、まるで豆腐を切るように楽々と、すらすらと斬り刻んでいた。
刻みきれなかった個体も、もちろんある。だが、アランはその個体に追撃しようとしない。
その答えは次の瞬間にはもう発現していた。剣によって傷をつけられた亜人が、黒い霧となって霧散・消滅したのだ。
アラベルにとっては、不可解でしかない、ある意味上空での戦闘の様子よりも気になる事だった。
それを本人に聞いてみても、答えになっていない答えを返されて、誤魔化されてしまう。この行動もまた当たり前であるのだが……。アラベルにとっては不満だろう。更に不信感を募らせた。
そんな会話を繰り広げながらも、亜人処理だけはやめない二人。アラベルは至極真面目だが……アランはもちろん気怠げだ。
そして、誰にも見られていない一瞬。アランの瞳が怪しげに光ったのを見た者は、誰一人としていなかった──。
◆◆◆
よし、そろそろ光も消えそうだな。
魔法によるものとはいえ……凄まじいな、水素爆発って言うのは。
──甘く見ていた。
さて、これで確実なダメージを与えられたはずだが……キッチリ死んだだろうか?
──知らなかった、なんて言い訳するつもりはないが。
まぁそれも、光が消えて中が見えるようになるまで待てばわかる事だろう。
──俺はとことん、クリュオテという存在を──。
「っ!?」
俺の耳が、確かな異音をキャッチした。
ガラスが割れるような、甲高い音。
いやいやまさかな──と思いながら、極度に緊張しつつ結界内部を覗く。
──やはり、やはりだ。俺が張った対熱衝撃結界にヒビが入っている。先ほどの内向性対衝撃結界よりも確実に多くの魔力を込めたはず……いや、さっきから考察してた事だな。
破壊現象や効果は、クリュオテの能力によるもの。どこまで行っても〝魔法〟止まりのこの結界じゃあ、クリュオテの力を止められない──。
と、そんな事を呑気にも考えていた時。
「────ぅうぅううううううああああっ!!!」
完全に対熱衝撃結界が砕けた。
内部から、全身火傷塗れの怒り狂ったクリュオテが飛び出してくる。
「クソッ、クソクソクッソォーーーーッ!! よくもアタシに……こんな……!! 全部…………全部、全部全部壊れろォッ!!!」
かなり激昂している。
というか……そうか。ツォーンと同じ性格か。
激昂すると、周りが見えなくなるタイプ。環境なんて関係なしに、破壊を振りまくタイプ……。
……あれ? これ、結構ヤバイのでは? クリュオテの能力って、多分『破壊』関係だよな……。シャムとかみたいな概念能力ではないとしても、物理的な破壊効果であっても脅威……。
って、冷静に考えてる場合じゃない。どうにか止めなければ……だが、どうする? 能力とか手の内がバレるのを気にしている場合じゃないか……?
だが……バレたらバレたで問題も大きそうだ……。どうする……?
「アタシの手で──」
──赤黒いオーラのようなものが、クリュオテの全身を覆う。
それは、危険そのもので。破壊というよりも、暴力性を感じるもので。
「全部壊れろォォォーーーー!!」
暴力の化身を中心に、破壊の力が放たれた。
◇◇◇
まずい、マズすぎる。
破壊の力とは表現したが、実情は鉤爪状のエネルギーが四方八方に放たれている。俺はそれを、ルディアの〝零虚竜杵〟で消している状況だ。
だが……。
「追いつかない……!」
消す速度よりも発生する速度の方が圧倒的に早かった。
「アヴラージュさん! とりあえずは退避です!」
「っ……はい!」
仕方ない。ここは従うしか──
「オイッ!! 何、逃げようとしてんだァ!? 逃がすワケねェだろーが!!」
クリュオテはそう叫び、更に鉤爪の量を増やす。
都度消してはいるが……。消しきれないものもあり、それは地表に向かい、地上では戦っていた部隊員達が悲鳴をあげている。流石に、この状況になっても戦えというのは酷だし非情だろう。
可能なら助けてやりたいが……。
「うっ……おわっ!? うぐぅ……っ!」
俺も避けるので精いっぱい。『変身』すれば違うだろうが、それはこの世界では御法度。
もし実行したとして、その先に何が待っているのか? それを具体的に言うのは難しい。何があるのかとか、正直分からないが……面倒事になるのは避けたい。
もしもこの世界の人間が、創作みたく俺に実験などを施すとしたら? まぁそれは本当に最悪のケースだろうが、万が一にもあるなら。もしそれが、苦痛を伴う事なら。
俺は自分の為に、人間を殺しかねない。面倒事以前に、それは絶対に避けるべき事だ。
従って──
──そう、理論武装を完了しようとした、その時だ。
「ひゃあ!?」
聞こえたのは、アラベルの悲鳴。
「もうっ、何これ!? A&Pでも相殺できないんだけど……!!」
アラベルは鉤爪のエネルギーから逃げるのではなく、応戦する姿勢だった。確かに相殺できていないが、勢いは弱まっている。
だが、俺からすれば想定外だ。なぜって、他の部隊員達は逃げ惑っていたから。しかしまぁ、考えてみればそうだろうな、と。
だって、アラベルは軍団長だ。アラベルは破天荒だしアホっぽくてバカっぽいが、無責任とかではない。日常での迷惑など知るかって感じのテンションではあるが、戦いになると別。事実、俺を心配した事だってあっただろう?
……責任感は強い方だったのだ。これでも、アラベル自身は『自分は軍団長』という認識も強かったと思われるし。
だからこそ……逃げなかったし、逃げられなかった。あの子自身の心が、それを許してはくれなかった。
それが今や、最悪の方向に……。
どうする? みんな逃げるから大丈夫と思っていたが……詰めが甘いというか、俺もまだまだ視野が狭すぎるっていうか……。予想できていれば、もっと違ったかもしれない。それを前提で動けていれば……。
……いや、それもタラレバにしかならないだろう。今考えるべきはこれからどうするかだ。
「アラベル!!」
オリヴィエさんが叫び、向かう。
だが、間に合うわけもない。部隊員達では止められない。アランはいるが、あの人は未だ未知数。信じすぎるのは危険だろう。
……けどどうする? 俺の力がバレたら、シュトルツ……最悪の場合、ルディアにまで……。
──しかし、運命はそんなに甘くない。
──ウジウジと、優柔不断に。どうするか悩む時間を与えてくれるほど、温情ではない。
「キャハハハッ! そんじゃあお前から死ねよ!!」
「ちょっ、ヤバ──ッ」
叫ぶクリュオテ。
同時に、鉤爪も勢いと量を更に増す。先ほどまでは無差別に振り撒かれていたそれが、今度はアラベルに集中する。
時間もない。俺以外に止められる力もない。けど──
「──っ、救けて!!!」
──その一言だけで十分だった。
──踏み出せ。




