第85話 戯れる
そう叫ぶと同時に、少女は俺に襲い掛かってきた。
ヤバイ。とにかくヤバすぎる。何を感知したわけでもないが、コイツはマジで──!!
「アラベル、逃げろ!!」
「ちょ──!?」
それだけ言って俺は、アラベルを突き飛ばした。アラベルが怪我をしないように、しかし絶対にこの戦域から離れるように。
「お優しいねぇ!!」
「クソ……ッ」
少女が放った拳を受け止めるが、様子がおかしい。
チクチクとした、ザラついた、魔力のようなもので……
俺の……
体が……──っ!?
《アヴ、離れろ!! 精霊魔法だ、大地震撃を!!》
ルディア!? あ、ああ……わかった!
ルディアからの指示が入ると同時に精霊魔法:大地震撃を発動し、震動・断裂効果と衝撃波で少女を弾き飛ばす。
普通の人間なら、軽く肉塊に変貌してそうな威力だが──
「痛っ……てぇなぁ……アタシの体が壊れちまったらどうすんだ!」
普通はこれで壊れてんだよ、普通はな。
てか……ルディア?
《……火急の事態だ。この子、やはり亜人だよ。キミ達が今まで対峙してきたそれとは、一線を画す存在力だけれどね》
俺がヤバイって思ったのは、間違ってなかったか、クソ。
《レベルで言えば、軽くツォーンレベルだろう》
えげつねぇな……。
「これは……あー、魔術ってやつか、これが。厄介だなぁ。そりゃあ、手駒たちが次々殺されるわけだ」
なぁ、ルディア。
これ、俺は力をセーブしなきゃダメか?
《した方がいいだろうね。アラベルも、吹き飛ばしたとはいえ、どうせ戦線に戻ってくる。彼女の前で竜の形質とか見せたらダメだよ。けど……命の危機に瀕したら、迷いなく使うべきだ》
了解。
「……フィエット」
すでにこっちは出してるので大丈夫。
『大ピンチだね……!』
格納空間を突き破って出てきた魔剣──カレドヴルッフ=フィエットが、そう言いながら俺の手に収まる。
「お? なんだなんだ? 剣?」
敵さんも興味津々なご様子。それじゃあ、味わってもらおうか。ハープズフトの硬鱗すら切り裂いた、この〝黒銀蒼の竜剣〟の威力を……!!
◇◇◇
かくして、この世界に来て初めての大規模戦闘が始まった。
少女は竜のような、コウモリのような翼を生やして、縦横無尽に飛び回る。俺を相手に、空という優位性を取るつもりのようだ。
だが。
「なっ!?」
俺も飛行系魔法で空を飛び、少女に一撃を与える。右腕を切り落とした。
確かな手ごたえがあったので、してやったりというテンションで振り向く。ただ──
「痛っ…………やりやがったな?」
何やら邪悪なオーラが少女の腕の断面から噴き出し、腕の形を成す。そして、それは腕となって実体化し、全癒した。
《再生っ!?》
そんなのありかよ、って思ったよな。
《……面白くなってきたね》
シュトルツっぽい事言ってんな!
無駄口もそこそこに、少女からの猛攻をカレドヴルッフで受け流す。んだが……。
『痛い、痛い痛い!! 何これ!? 前戦った時はこんな事なかったよねぇ!?』
涙声で、フィエットが悲痛な叫びをあげる。
そんなバカなって、俺もルディアも思ったさ。ルディアの方が想ったんじゃないかな。
曰く、カレドヴルッフ──〝知性ある武器〟っていうのは、元来超硬いらしい。こんな、魔力が籠った程度の打撃で痛みを覚える程やわではない、と。
だが、現状はどうだろう? フィエットは受け流すたびに痛みを訴える。どころか、受け流すたびに蓄積して痛みも大きくなっているようだ。
……まずいな。攻撃を喰らったらヤバイ感じっぽい。インテリジェンスウェポンの概要を聞く限り、これはただの魔力を込めた攻撃ではなく、能力が色々と関係していそうだ。
「ごめんな、フィエット。戻って休んでくれ」
『うん…………』
明らかに落ち込み、泣いている様子で格納空間内に戻った。
「おい、しまうのか? 喋る剣って面白かったのにな。壊し甲斐もありそうだ」
「テメェ……」
壊し甲斐って。遊び感覚で壊されちゃ困るんだが……。
──と、その時。
「え?」
「……あ゙?」
一発の光弾が、少女の左肩を吹き飛ばす。
見覚えしかない。これは──
「アラベル……?」
「アヴラージュ一人には、戦わせないから!」
声の方を見ると、前に戦った時も出していた巨大なレーザー砲的な銃の片方に乗り、浮遊。もう片方で少女を攻撃していたようだ。
……素直に逃げてろよ。
そう思ったが、戦力としてはありがたい。
「アラベル! コイツを地面に墜とす! サポート頼む!」
「了、解っ」
初の連携戦闘が始まった。
アラベルが幾度も光弾を放ち、少女はそれを弾く。光弾の合間に俺が打撃を入れる。どっちかって言うと俺がサポート役か。
「アタシを墜とすぅ? やれるもんなら──やってみろよ!」
鉤爪のような、赤いエネルギーを周囲に無差別に振り撒く少女。これも当たったらヤバそうだ。アラベルも俺も、必死に避ける。ただ……。
「なっ!?」
躱された先で、エネルギーが爆ぜる。建物を、ビルを、家を、どんどん破壊する。
「避けてもダメそうだな……」
「けどどうすんの!? アタシの〝A&P〟でも、相殺できるかわかんないよ?」
「確かにな……」
相殺できなかった場合、アラベルがまずい。インテリジェンスウェポンや、竜である俺でさえあんなダメージを追うのに、ほぼ人間……行ってアブーリアみたいな魔人止まりのアラベルが受けたら……。
「きゃはははははっ!! どうしたよ、アタシを墜とすんじゃなかったのかァ!?」
そんな事を言いながら、エネルギーを振りまき続ける少女。このままだと、無限に被害が増える……。
どうするのが正解だ……? どう、動けば……。
後先考えず〝力〟を使うわけにはいかない……けど、これは……。
《既に使ってるカードでどうにかするしかないよね》
だ、な……って、あ! そうだ!
《ん? 何か思いついたのかい?》
お前の零虚竜杵! あれなら、アイツが放つエネルギーを消滅させる事が出来ないか?
《ん~、名案だね。通じるかはともかく、やってみる価値はありそうだ》
だろ? よし。
「アラベル、案がある。とりあえず援護頼んだぞ!」
「へ!? えっ、あー……お任せあれっ!」
飛行速度を上昇させる俺。無論、アラベルは問題なく着いてくる。
「おっ、何だ?」
「アラベル、エネルギーチャージしとけ!」
「OK!」
返事と同時に、アラベルが浮遊させているドローン式エネルギー砲の片方──多分〝Progress〟の方だと思われる、アラベルが乗っていない砲の銃口にエネルギーが集中し始める。
「何企んでんのかわかんないけど──これで壊れろッ!」
そう言って、少女は特大の爪状エネルギーを飛ばしてきた。
まあ、普通はそうするだろう。敵が、愚かにも前から突進してきたのだから。それに、この策は予想できるものじゃあないしね。
そんな事を考えながら、俺はルディアから一時的に所有権を譲渡された零虚竜杵を召喚する。
あわや、エネルギーと衝突するというギリギリで──
「──零虚終撃」
ヴァルネリで、星天機環の中で暴走していたシルティアスを止める時にも使っていた技だ。
その効果は──『接触対象のエネルギーを完全消失させる』というもの。なので──
「何!?」
もちろん、エネルギーで構成されているであろうこの〝爪〟は消滅する。
「今だ、アラベル!!」
「ぶっち切れ!!」
アラベルが放ったのは、俺とアラベルが、初めて一緒に戦った時も使っていた〝超克突破多層光核砲〟。ただし片方なので、威力はあの時よりもお粗末だ。
しかし──。
「と、止められな──壊せない……っ!?」
アラベルの能力は『強行突破』。相手の能力にもよるだろうが、多分、アラベルの能力が優先される。なんでかって、スキルや魔法は〝意思の力〟に根付くのだから。アラベル以上に破天荒で、我を通したがるヤツはいない。
……なのに。
「ぐ……ぐぐぐぐぐぐ……ぐうっ……壊れ……壊れろォ……!!」
アラベルの全力が、弾かれた。
「嘘ぉ!? アタシちゃんと権能使ったのに!」
アラベルもこう言っている。つまり──
《意思の力で上回られたんだ》
だろうな。
けど、めちゃデカな隙は生まれた。
なので──
「──ッ!!」
魔法で足裏から熱を噴射し、加速。──疑似的なバーニングアクセラレーションだ。
空中で少女の首を掴み──
「なっ……」
「有言実行、してやるよ!!」
体勢を変え、頭を地面側に。そのまま加速して──
「アヴラージュッ!」
あ、ヤバ……。上手く行きそうだからこの感じにしたけど、このままじゃあ……。
《キミは十中八九無事だろうけど、不審がられるよ……》
……なるようになれ、だ!
そのまま急降下し──少女を地面に叩きつける。
「ガッハ……!?」
衝撃でバウンドして、地面に転がる俺。
「痛っ……てててて……」
「バカ! アヴラージュのバカ! なに、無茶してんの!?」
「ごめんごめん……」
ただ、これでコイツを地面に墜とせた。これで、空中からの無差別破壊は防げるだろう。
ラウンド2というわけ。
「クッソ……やってくれやがったな……」
苦しんでいる様子で少女が立ち上がろうとするが、片膝を着く。
「クッ……今まで通りにいかねぇ……」
その体勢のまま、背後の〝空間〟を叩く少女。
《空間干渉……!》
その動作を、その拳を起点に、ピキピキと空間が罅割れ始める。
これは……あの日にも見た……。
《亜人が出てくる時のあれだね》
ああ。
十中八九、割れた空間の先は極彩色だった。そこから出てくるのは、もちろん亜人の小隊。
「……絶対逃がさねぇ……お前ら二人とも、アタシの手で壊してやる……!!」
目に見えて激昂している少女は、俺達にそう言った。




