第83話 習う
「え~っと、自己紹介がまだだったね。ウチはラヴィ・ウールーズ。この会社、何でも屋『はぴでり』の社長やってます!」
そう言いながら、俺とアラベルに名刺を差し出してくるラヴィさん。
イヴの友達と言っていたが、社長さんらしい。
そして、問題の──。
「俺はアラン。覚えてってくれよぉ?」
こっちはアランさん。
確かに、なんというかダルい感じがするな。失礼かもしれないが。
「アランは、ウチの会社の用心棒みたいな感じ。イヴちゃん曰くダル絡みがうざいらしいけど、仲良くしてあげてね」
「用心棒……そうなんですか」
「うん。こう見えて結構強くて、頼りになるんだよ?」
強くてって……基本的に法治国家で、そんな戦闘とは無縁そうなこの世界なのにか? そもそも、亜人と戦ってるアラベルや俺はともかく、この人達が戦う事ってあるんだろうか……?
……まぁ、それは今は良いか……。
「はいはい! 次アタシ! アタシ、アラベルね!」
「……アヴラージュです」
◇◇◇
「知ってるぜぇ、アラベルちゃん。配信活動……してんだろぉ?」
そう言いながら、アランさんがスマホ……ではなくコネクターの画面をアラベルに見せる。
「ええーっ、視聴者さんだったの!?」
「コメントはしてねぇけどな~。ちょくちょく見てるから……君の事も~、知ってんだぞ?」
そう言って、俺の方を見るアランさん。
「えっ、俺?」
「ははっ、一人称あんま出さなかったけど、俺っ娘かぁ~」
からかうように、そんな事を言うアランさん。
……確かにちょっとウザい。でも、イヴみたいに拒絶するほどではないが……。
「ちょっと、狙ってんの~?」
そう言いながら、なぜか俺の腕に抱きつくアラベル。
……オイ。
「やめろ暑苦しい……離れろぉ……!」
「ヤだよ! アランさん……ノリ良い系かと思ったら! アヴラージュの事ナンパなんて……!」
ナンパされてたの!?
ナンパってこんな感じなのか……?
「人聞き悪いなぁ~。ナンパなんてしてね~よっ」
「ウっソだ~~」
「まぁまぁ……」
「二人とも喧嘩しないで~っ」
どうやら、ラヴィさんはアランさんが起こすイザコザを宥める立ち位置らしい。
と、そんな時に。イヴが耳打ちしてきた。
「ね? メンドーでしょ?」
「……確かに、否めない」
「ダルいでしょ!?」
「……否めない」
まぁ……俺にとっては愉快な感じで、不快感はないんだがな。
そういえば、ルディア。
《…………ん? どうしたの?》
最近全然話せてねーけどさ、何してんの?
《あ~、母さんの〝異境跳越・渡界〟の解析に手間取っててね……。神話級の御業なだけあって、ボクには難しいんだ》
難しいって……出来なかったり?
《時間さえかければ出来そうだけどね。まぁでも、キミからすると途方もない時間がかかりそうかなぁ》
……一年とか?
《そう! まさにそんな感じの時間がかかりそうなんだ。原理が難しすぎてね》
なんか平和な感じでヒマだし、参考までに聞かせてくれよ。
《アラベルちゃん達は大丈夫なの?》
特に俺が混ざるまでもなく平和だからな。喧嘩が起こったら途中でそっち行くかもだ。アラベルを止めるのは、俺以外には一苦労だろうしな。
よろしく頼むぜ、ルディア先生!
《了解。それじゃあ、話していくね──》
◇◇◇
まて、整理する。難解すぎ。
《だから言ったのに……》
つまり……前提として、世界は〝積層宇宙〟っていう、簡単に言えば三次元上の薄い次元が積み重なって出来てて、それぞれの層に似通った宇宙があって、俺達が戻ろうとしてる世界が最下層の宇宙で……。
原理上それぞれの宇宙は繋がってるから、その……超弦理論? ってのを利用して、次元を超える事さえできれば帰れる、と?
《そこまでは合ってるね》
その為に次元領域をどうにか拡縮させる方法を確立しなきゃいけなくて、それに苦戦してるって?
《そう! 大正解だよ。偉いね、アヴ》
へへ……じゃなくて!
それって出来るのか?
《苦戦してるってだけで、まぁ時間と研究さえ積み重ねれば。今いる宇宙がどの層か、もっと言うなら何番目の層なのかを特定する必要があるから苦戦してるって感じだ》
そりゃ途方もない時間がかかるわけだ……。
この世界がどこにあるのかなんて、気の遠くなりそうな命題だが……。
《やってみせるさ。同時に、時間移動もね。コッチは簡単だけど》
だな。──簡単? 簡単っ!? 時間移動が簡単なわけねーだろ!
《所在層の特定をするなら時空への理解は無論必然だろうし、その過程で時間・空間関係に関する技術も手に入れるだろうからね。層の特定に比べれば簡単さ》
ああ、そういう……。確かにそうだな。
一朝一夕でわかるもんじゃないか。
《こればっかりはね。だから、解析に手間取ってるんだ。だから……あー……その……》
ん? どうした?
《……これから先、アヴをサポートできる頻度とか、話せる頻度も結構減ると思うんだけど……》
あー……。
《その……大丈夫? こんな未知の世界だけど……》
……悩ましいが、仕方ないだろ。
帰る為には必要なんだろ? だったら、幾らでも我慢するさ。転生した時と違って、寂しさは感じない。会いに行こうと思えば、中央政府にいるシュトルツにも会えるだろうからな。
我慢はするが……そん代わり、きちんと帰れるようにしろよ? なるはやで! 出来なかったら怒るからな。
《……! ああ、もちろんだとも。ボク──ルディア・ランコントルの名に懸けて、キミとシュトルツと一緒に元の世界に帰って、母さんを止めよう!》
よし! 言質、取ったからな?
《逃げはしないさ》
だろうな、わかってる。そんじゃ、思いっきり解析に専念してくれ!
実を言うと、この世界の〝亜人〟もほっとけない。この世界にいる間は、この世界の人を守るよ。アグニルの時みたく、迫害とかされても……化け物になり果てても、諦めない。
《……うん。キミが諦めないなら、ボクはもっと諦めないで頑張らないとね》
お前〝は〟じゃなくて、お互いにな。それじゃあ、進展を楽しみにしてるぜ。
《オーケー》
──この会話を最後に、俺の中にいるはずのルディアと連絡が取れなくなった。真面目に専念しているらしい。
大丈夫だ。ヴァルネリを出た後のように、完全に離れ離れになったわけじゃない。確かに『俺の中にいる』というだけで、こんなにも違うものなのだ。
『いる』のだから、憂う事は無い。俺は、俺がやりたい事をやらなくちゃな。
「アヴラージュ~! アランがからかってくる……!」
「からかってねぇ、よっ」
アラベルが俺の後ろに隠れる。
「お、おい……! 喧嘩はヤメロよ……」
「だってぇ……」
「アラベルちゃん、配信の時とキャラ変わんね~なぁ」
「……褒められてるっぽくないか?」
「ええ……? 信じらんない……」
はて、イヴとラヴィさんは……。
「最近さ、執務館の近くにサテン出来たの知ってる?」
「え~? 新しく?」
「そう。チョコフラッペが人気っぽい」
「へ~っ、行ってみたいなぁ。今度連れっててよイヴちゃん」
「あいよ~。ウチの方が詳しいかんね、あっちは」
「そうそう。頼りにしてるよ、案内に関しては」
「関してはってナニよ、それ以外でも頼りになるでしょ。アランより強い自信あるよ」
ギャルトークが繰り広げられている。
まぁどんな形であれ、平和だな。
こんな日々をずっと望めるとは思っていないが……せめて一秒でも長く、こんな時間が続けばいいな。
──儚くもそう、俺は祈るのだ。




