第80話 遭う
「「…………」」
アラベルと一緒に見入っていた。
何と言うか……戦闘シーンって、外野から見るとこう……カッコイイ……!
決して派手なわけではないが……。俺が戦った時みたく炎とか氷とかは出ないものの、単純な素手戦闘とはこんなにも……カッコイイ、んだなぁ……。
──と、内心感動していた、その時。
「…………誰か、いんだろ」
二人揃ってビクゥっとする俺とアラベル。当たり前だ。何でバレたんだ? この世界には、魔力感知とかはない筈だろ?
《まぁ〝今のところ〟とか〝推定〟の話ではあるけど、そうだね》
だよな?
後有り得るとすれば……並外れた気配察知能力とか?
まあ、何でもいい。重要なのは、『気取られた事』ただ一点のみだ。
ま、マズい……。どうしよう……?
相手が普通に軍関係者だったなら、アラベルが出て解決だろう。アラベルは馬鹿っぽいが、ボロを出す事は無いのでそこは大丈夫だと信じたい。忘れていただけで、アラベルが言っていた〝切り札〟なる存在だった場合は何の問題もない。
問題は、部外者だった場合。全く別の第三勢力、という事になる。その場合マジで無限の可能性がある。別に何か知っているわけじゃないが、相手が軍にどんな感情を抱いているかわからない。もしネガティブな感情だった場合は、また面倒くさくなりそうだ。
まぁ、無難なのは俺が出る事か……。幸い、俺は異世界での経験もあって気配は完全に消せている。バレるとしたらアラベルなので……つまり何が言いたいかというと、彼は一人分の気配しか察知していないであろうという事だ。
よし──
「アラベル、ここから動くなよ」
「え?」
「動くなよ」
「う、うん」
出る事を決意した俺は、勢いよく男の前に飛び出て──
「ご、ごめんなさい!」
謝った。定番の反応ではあるだろう。というか、一番自然だろうな。
さて、どんな反応をされるか──と、身構えたのだが……。
「あ、アンタ!」
「え?」
「あっ、いぃいや……見間違いだったわ」
ん?
予想してた反応じゃないな……。悪態つかれるとか、逃げられるとか想定していたんだが……。
「えっと……どこかで会った事が……?」
「い、いやぁ? み、見間違いって言ったろ! 見た事なんてねぇし……」
動揺しているが……ルディア、どうだ?
《ボクは知らないね。キミも知らないようだし、本当に見間違いなんじゃないかな》
そう、か……。
「えっと……盗み見するつもりはなかったんですけど……」
「あ、あぁ、それな。本当、何でもないから」
そう言って、男は手に持っていたものを後ろに隠した。
…………。
なんだこの雰囲気は。
「えーーーっと……じゃ、じゃあ、俺はこれで!」
男は、そう言って走り出そうとしたので──
「ああ、ちょっと! 一応名前を……」
「え!? え、あーっ……リアン! リアンだ! …それじゃあ!」
それだけ言って、走り去ってしまった。
「リアン……」
俺は無意識に、ぽつりと呟いていた。
「何だったんだろうね」
「ああ……」
アラベルも困惑している。というか、俺はもしかすると選択肢をミスったのかもしれない。名前を聞けただけでも十分だと思うが……。
まぁ、大丈夫か。自分でも言ったが、名前を聞けたのだ。まぁ収穫ではあるだろう。
「……帰るか、アラベル」
「そだね。これは……この感じは、報告書作りがチョー大変になりそう。手伝ってよ~」
「やだよ」
そんな事を言いながら、少し引っ掛かりを覚えつつも、二人で駅に向かった。
◆◆◆
息を切らして駅に辿り着いたリアンは、内心でかなりの焦りを吐露していた。
(危っっっっっっっぶねぇ……っ!? 見られたのか? どこまで見られた? てかアイツ、あん時の……亜人と戦ってた……。もう一人居たと思ったけど……一人だった……? 別行動中か? てか、軍の連中もあの場所にいたけど……アイツって、どっち側なんだ……? 軍人、じゃなさそうだよな……)
疑問は尽きないが、タイミング悪く、列車が発進する時刻に迫っていた。
(……とりあえず、今は戻んねぇと……フォリルんとこに……)
まだ回復しきっていないのか、荒い息のまま切符を購入して、改札を通り、列車に乗り込んだ。
◇◇◇
無事に、列車を使ってエリア38の研究所に戻ってきたリアン。その建物に近づいた瞬間──
「大金星じゃん! おかえりぃ」
背後から突如としてフォリルが現れた。
「っとわぁ!? てめっ……急に出てくんなよ……」
「まぁまぁ、いいじゃない。今日はリアン君の記念日だよ? 初・亜人撃破記念」
「……テンション高ぇな……どうした?」
その問いに対して、フォリルは意味深な顔を見せる。
「…いやぁ? 想定外のデータが手に入ったなぁって。あと想定外と言えば。バスターのあの使い方、思いっきり想定外だから。あんな使い方したらすぐ壊れるよ」
「え!? あ、あ~……すまねぇ、そこまで考え回んなかった」
一瞬、「何で知ってんだ?」という疑問を抱いたが、それより先に謝罪する辺り、リアンの性格の良さが如実に表れていた。
「いやまぁ、いいんだけどね。そっちに関しては、改良の余地ありって事だし。それよりね、君が接触したあの……白髪の……」
「ああ、アイツな。……いや、いやいや!! ちょっと待て!」
「ん? どうかした?」
「そんなさも『何かおかしい事でも?』みたいな反応すんなよ!! さっきのと言い今のと言い、お前、何で俺の状況をそんなに知ってんだ!?」
「え? ああ、言ってなかったっけ。君に渡した端末。あれで君の状況見れるの。心拍、脈拍含む全身の細やかな状況とか、君の周囲の状況とか、色々。研究には、そういうのも重要なんだよ」
如何にもフォリルらしい答えだとは思ったリアンだが、流石にそれは……。
「……やめてもらう事って?」
「無理。これは仕方のない事だから」
「……だよ、な……」
この答えも想定済みだった。一応言ってみたというだけで、リアン自身、受け入れてはくれないだろうなと予想していたのだ。
それに、研究の為という言葉にも嘘は無さそうだ。研究協力を受け入れると言ったのもリアンだし、もう引き下がれない所まで来てしまった。まぁ仕方ないなと、納得する他にないのだった。
「じゃ、バスター渡して」
「え? あ、ああ。ほら」
バッグの中に仕舞っていた武器をフォリルに渡す。渡す手が、どこかぎこちなかったのは、リアンの中の罪悪感が表れたものだろうか。
「……荒っぽく使うね、君」
「ゔっ……、すまねぇ……」
「まぁ? いいけど。メンテするのは俺だしさ。次使う時、こんなボロボロにならないように改良するのも──ん?」
続けかけて、フォリルがリアンの腹部をまじまじと見つめ始める。
その視線に、リアンが少し身構えた。
「君、怪我してない?」
「え?」
「いや、してるよね?」
「してるけど……それが?」
「……ちょっと着いてきてね」
「え? あ、おい!」
有無を言わさぬ姿勢で、リアンの腕を引っ張るフォリル。そして、手術後のリアンが寝ていたソファがある部屋に連れてきたかと思えば、もう一度、ソファに寝かせた。
今から何をされるのだろう? リアンの頭の中には、途方もない不安が溢れ出していた。
何をされるのか──と思ったが、それはリアンの予想の斜め上を行くものだった。
「はい、ちょっと失礼」
そう言いながら、フォリルは、リアンの服をめくった。
「なっ!?」
面食らうリアン。
確かに、リアンの腹部には大きな傷があった。
「ああ、やっぱり。動き、ぎこちなかったからね。今は表面上の怪我の手当てしか出来ないけど……」
そんな事を言いながら、いつの間にか持ってきていた消毒液でリアンの傷口を消毒し始めた。当然リアンは痛みに呻くが、そんなの気にせず『我慢して』と言いながら治療を続行するフォリル。
あらかたの処置が終わり、腹部にガーゼと包帯を巻いて、処置が終了した。
「……アンタ、気遣いとか出来たんだな」
心底疑問に思ったリアンの口から飛び出した第一声はそれである。
それを聞いて、フォリルはフッと笑う。
「当然のアフターケアさ。俺の実験に付き合わせちゃったからね」
フォリルらしからぬ言葉に、リアンは訝しんだ。もちろん訝しんだ。
しかし──
「ま、そういう事なら一応感謝しとこうかな。ありがとよ」
「いいえぇ? 言ったでしょ、当然のアフターケアだって。君の中には亜人の細胞があるんだし……何が起きるかわかんないんだし、普通の病院に行かせるわけにもいかないからね」
誰のせいだよ──と内心思いつつも、同時に感謝もしているので口には出さなかったリアンだった。
◇◇◇
そういえば、といったテンションで、フォリルがリアンに告げる。
「そういえばだけどさ。君が接触した、あの……えっと……」
「名前聞いてねんだよ。あの白い髪の子だろ?」
フォリルが指をパチンと慣らして。
「それだ。その子とさ、さりげな~~く、お近づきになっておいてね」
「は? ……いや、確かに可愛かったけど、俺はそういうの興味な──」
「じゃなくて、研究の為ね。彼女のバイタルで、ちょっと気になる事があって」
どうやって調べたのか、という疑問が瞬間的にリアンの脳内に伝来したが、とりあえずは振り払った。
「違和感ってのは?」
話の腰を折らないように、続けるよう促す。
「ちょっとこっちに来てごらん」
そう言われたので、リアンは、素直にフォリルが指したパソコンの前にやってきて、ぎょっとした。
画面に映されているのは、バイタルの値を示すグラフ。脈拍も、体温も、人間の物とは思えない異常値を表していた。
これか……! ──と、リアンは思う。
「ね?」
「……これ、あの子のか?」
「そ。映像付きだよ」
そう言いながらフォリルがパソコンを操作すると、一つの映像が表示される。
いつの間に撮影していたのか。リアンの顔の少し下辺りからのアングルだった。
(いや、これ明らかに盗撮だろ!! 犯罪ギリギリだろ、これは……)
そう思いながらも、話の腰を折らないように口には出さない。
映像では、リアンと少しの会話を交わす白髪赤目の少女の姿が。ただ、普通の映像ではない。サーモグラフィのように、少女の体温が可視化されている。
確かに、異常値を示していた。
「……」
「さて、これで彼女が人間ではないという事が証明されたわけだ。彼女は亜人なのか、はたまた、別の種族、別の生命体なのか……。気になるでしょ?」
気にならない、と言えば嘘になるだろう。
リアンは確実にそう思っている。
「どう? お近づきになる気になったでしょ?」
「……見返りは」
流石のフォリルも、この回答は想定外だったのか──
「なっ……現金だねぇ、君も。嫌いじゃないよ、そう言うの。う~ん……でもなぁ。俺が今与えられるものはほぼないし……ど~しよっか」
「あ゙~、冗談だよ、冗談! 報酬なんていらねーから。あの〝アフターケア〟ってので十分だ。要は、親密度高めて情報引き出しゃいいんだろ?」
そんなリアンの返事を聞いて、フォリルは。
「お、そっか。じゃあ、頼むよ」
そう言って、羽織っていた白いロングコートの懐から一本のペンを取り出し、リアンに手渡した。
「……それは?」
(元から用意してたって事ぁ、コイツ……俺が報酬いらねーって言うのわかってたな? ……まぁ、いいか)
そんな事を考えながら、フォリルに尋ねる。
「これはね、ペン型盗聴器。盗撮・盗聴、リアルタイム接続でバイタルチェックも出来る優れもの。これで彼女の事、探ってきてよ。まぁ、もう一回会えるかどうかは賭けだけど」
「ま、そこは完全に運だよな。気長に待っててくれ」
「じゃ、それまで自由行動ね。動き回った方が、出会う確率も上がるでしょ。……あ、でも。定期連絡はよろしくね。君の無事が最優先事項だから」
またも垣間見えたフォリルの〝気遣い〟に、だんだんと違和感を感じなくなってきているリアンである。
その言葉を受けて、リアンは。
「……そうかよ」
そう、短く返すだけだった。




