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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第4章
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第79話 覗く

 俺達がいたエリアN(ノール)‐21から、俺が前世でいた世界にもあった〝列車〟を使って、亜人発生予測地点があるエリア29まで移動してきた。この世界にもある自動車では移動しなかった。

 どうして、スピードこそあれ時間に縛られる列車で移動したのかわからなかったが……すぐ考えればわかる事だった。

 俺はもちろん、車の免許どころか戸籍すらない。対するアラベルが、ちゃんと車の免許を取れるとも思えない。というか、取れたとして、ちゃんと安全運転出来るのだろうか?

 俺は無理だと思う。確実に、絶対に。

 というわけで、列車での移動である。運賃表の見方、料金の払い方、ほぼ俺がいた、転生前の世界と同じである。これもこれで興味深い。

 運行時間の関係もあり、思った以上に時間がかかってしまったな。


「目的地までまだあるし……」


 突然、アラベルがそんな事を言い出した。

 もう嫌な予感しかない。全身全霊、細胞の隅々に至るまでが警鐘を鳴らしている。……いや、それは流石に言いすぎかもしれないが、まあ嫌な予感がする事には変わりない。

 ……で、その嫌な予感は的中し──


「目的地まで競争だ~!!」


 そう言って、アラベルは勢いよく走りだした。

 漫画などでの定番は、このまま別方向に走りだして迷ったり……なんてのを最悪の場合として想定したが、案外そんな事はなかった。

 アラベルは何と、目的地に向かって真っ直ぐ進んでいるのだ。

 大体は、アラベルみたいなギャグキャラがなんか起こすもんなのだが……ま、フィクションはフィクションだったという事だろう。フィクションの権化みたいな存在の俺がこれを言ってしまうのもどうかと思うが……。

 てか案外、アラベルってギャグキャラであってそうでないのでは? 今の感じだと……ちゃんとしているな、うん。

 となると、車の運転もちゃんと出来たり……? ギャップというか、そういうものがあるのでは……。


 いかんいかん、話が脱線しすぎだ。

 今、俺が集中すべきは亜人の事だろうに。まったく。

 そうして自分を律し──持ち前の高い身体能力を活かして、出遅れながらもアラベルを追いかけ始めたのだった。



   ◇◇◇



 順調に進み、発生予測地点付近で──俺の耳が、異音を捉えた。


「ストップ、アラベル」


 今までにないぐらい真面目な口調でストップをかけてみた。

 すると、アラベルが大人しく停止。俺の口調の変化を感じ取ったのだろうか? いずれにしろ、従ってくれたのは助かった。

 俺の耳が捉えた異音というのは……何か、大きな音。亜人が発生する音ではないが……誰かが何かと戦っている?

 小さな破裂音のようなものもする……。戦っているのは間違いなさそうだが……。

 この世界、俺がいた日本より発展した文明なだけあって治安はもの凄くいい。

 そんな中で、拳銃などの銃火器を用いた喧嘩や戦闘が可能だろうか? これは俺がいた日本基準だが、まず実銃を持つ事自体アウトの可能性がある。アメリカなどでは許可されているようだし、全ては憶測でしかないが、可能性があるのは事実。視野に入れるべきだ。

 で、この破裂音(・・・)も、実銃のものであると断定するのは危険だな。別に、銃のような音を出すものは他にもある。詳しく思いつくわけではないが、あった気がする。

 ただ……奇妙なのは、ここが亜人発生予測地点である事。

 まさか、オリヴィエさんが知らせてくれた予測時刻が間違っていた……なんて事はないはずだ。まぁ先程の理論で行くなら、間違っているという可能性も視野に入れるべき……。

 となれば、この音は──


《誰かが亜人と戦っている。これが、一番高確率だよね》


 ……だな。

 それでだが──、いや、いい。

 これ以上の議論は無駄に近いな。〝百聞は一見に如かず〟って言うし、自分の目で確かめるのが一番だろう。


「アラベル、こっから、出来る限り声は上げんなよ?」


 一応、釘を刺しておいた。

 すると、ブンブンと首を振って頷いてくれた。

 ……そんなオーバーリアクションじゃなくていいと思うが、まぁアラベルらしいので良しとしよう。とにかく、余計な声を出さなければそれでいいのだ。


 それから、出来る限り足音を消して音のした方向に向かっている。

 アラベルも俺の様子を見て真似し始めたのか、足音が消えた。

 このまま順調に進めば──と、そう思った矢先の事だった。


「ッ!?」

「──っ!?」


 何か、何かが破壊されるような、そんな轟音が響く。

 明らかな異音。こうなると、誰かが戦闘していると見るべきだな……。

 というか、アラベル……ちゃんとしてるなぁ。はちゃめちゃに驚いた素振りこそ見せたが、声は上げなかった。

 ……目的地まで後ちょっとだって言うのに、とんだハプニングだ。

 隠密行動をとっていたせいで、目的地への進みは遅かった。それでも着実に近づいていたというのに、ここに来て……!

 この先の亜人発生予測地点はどこにでもあるような郊外の路地裏だが……はてさて、どんな光景が待っているかな?



   ◇◇◇



 ……そのまま路地裏手前まで進み、アラベルと一緒にそこを覗いているのだが……。


「……誰、あれ?」

「俺が知ると思うかっ!?」


 ブラウンのレザーコートを着た、背格好から……多分、大体二十歳前半くらいの男と、最後の一匹──多分指揮官亜人だろう。その二人が、向き合っている。

 やはり戦闘が起きていたか……亜人は大体一個小隊程度の数で現れるので、あの男の人が倒したと思われるが──。

 その手に、何やら不審な物が。

 武器っぽいな、持ち手もある。しかし……近距離武器ではなさそうだ。ゴテゴテとしているが……。近未来感はあるがな、カッコイイ。


「何だろアレ……メイズ姉ちゃんとこの発明品かな……?」

「とすると軍関連って事になるんだが? 何でお前が知らないんだよ?」

「いや、アタシだってみんなの顔覚えてるワケじゃないじゃん! ……どっかの軍の切り札(JOKER)かなぁ……? 単身だし……」

「ん、切り札(JOKER)?」

「あー……後で説明する! 今は……ほら」


 そうだったな、説明を受けている場合じゃない……。


 ──と、呑気な会話を交わす中で、思わず声を上げてしまいそうになる事態が発生した。


「…………ミ」

「あ?」


 指揮官亜人が声を出した。

 あの男もそれに聞き返している。

 まぁ、亜人が声を発するのは俺達二人からすれば既知の事実だ。今更驚いたりはしないとも。

 それに、亜人が発する言葉は不可解で意味のない、単なる〝音〟だ。ま、一般人は聞き返してしまうかもね。

 ──なんて、そんな事を余裕こいて思っていたのだが……。


「ミ、見、ミ……見、ナイ……ヤツ、ダ…………ナン、ナ、ンダ……?」


「喋っ──!?」

「──ッ!!」


 流石に、アラベルも我慢できなかったようだ。

 仕方ないだろう。俺も後一歩で声を上げていた。多分、今のアラベルより大きな声を。


《……今のは完全に意味を持った〝言葉〟だ。驚くのも無理はないさ。ボクだって、驚いている》


 にしては声色が冷静だな? もっと取り乱してもいい気がするが?


《ハハハ、不測の事態には慣れているのさ》


 慣れれないから不測の事態なんだろうが……。

 だがまぁ、ありがとう。ルディアと会話したお陰か、ちょっとだけ落ち着いた。


《そりゃどうも》


 そんな事より……問題は亜人だな。

 完全に今のは──。


「…………死ネ」

「しまっ」


「あっ──」


 あの男の人もびっくりしたのだろう。一瞬、大きな隙が出来た。

 指揮官亜人がそこに攻撃を加え、男の人が吹き飛ぶ。幸い……なのかどうかわからないが、壁のある方向に吹き飛んだ事で、そこで止まる事が出来た。

 ……のだが……。


《不審の次は呪詛か。高い知能を持った個体なんだろうね》


 まさかだよ、マジで。

 意味のない音しか発しなかっただろ、亜人。多分、亜人の共通言語なんだろうが……。

 俺達から学び取った?

 いや……出現したら、多分今までも軍が対処している。生き残りが出たのか……? ……いや……なさそうだな、リリスさんのあの感じを見ると。

 元々知能が高かったのか……??

 いや、そんな事より──


「待て、アラベル」


 とりあえず、飛び出そうとしたアラベルを制止。

 男の人の体に異変が起きていた。

 額から少しずつ、何かが出てきている。

 ……あれ? 何でこんな見えるんだろう……? 前世で視力は良くも悪くもない方だったが……あんな遠くの細かいところまで見えるものか? 竜だから? 身体能力向上となんか関係あるのか……?

 ルディアは答えてくれない……何か考え事でもしているのだろうか。まぁいいか。

 あの何かが何なのか確かめない事には、行動する事は出来ない。というか、したら何が起こるかわかったもんじゃない。

 もし、あの男が軍の人間じゃない場合……なんかまたややこしい事になりそうな予感がする。根拠は何一つない。強いて言えば、俺の勘が良く当たる事だろうか。

 なんて考えている内に──、男の額から、謎のツノが生えた。一対あり、カラーコピー機のアナログっぽいノイズ感……というか……難しいな。そんなノイズっぽい感じを持った、赤青黄入り乱れる、そんな感じの色味のツノ。


「なっ……なに、あれ?」

「だから俺に聞くなよ、知るわけないだろ」


 そもそも、俺はこの世界における異世界人なのだ。アラベルがそれを知るかどうかは、俺自身知る由もないが……どちらにせよ、俺に聞くべきではないだろうに。


 そのツノが生える直前、指揮官亜人は男に攻撃を加えようとしていた。かなり知能が高いのか、それともそう操作されているのか……。シュトルツの仮説通りなら、後者という事になるが──


《魔力や魔法、能力っぽい干渉は見られないんだよね》


 そこが奇妙なのだ。まぁ、この際それはどうでもいいとして。

 そんな指揮官亜人が伸ばした腕を──男が、掴んだ。

 確実に意識は消失している筈だ。今の今に目覚めたのかは知らないが……奇妙な点があった。

 まず、亜人が持つ馬力は人間のそれを大きく上回る。だからこそ、亜人の一個小隊に対して『軍』を向かわせるのであって──。

 あの男の人が、手が伸ばされたその瞬間に目覚めたとして、その瞬間に、亜人の動きを止めるほどの力を出せるだろうか?

 人間では無理だ、確実に。それは、俺もルディアも、結論として一致している。だが、事実としてどうだろう。彼は──。


「うっ、りゃあっ!!」


 がっちりと掴んだ亜人の腕を引き、その額に頭突きをお見舞いした。

 ダメージはない筈だが、その衝撃でよろめく亜人。その隙を突くように、男は亜人から距離を取り、同時に吹き飛ばされた時、別方向に飛んだ〝武器〟を回収。大きな動作で、武器を変形させた。カッコイイ。SF武器って感じがする。

 そしてボタンを操作し、何らかの状態(モード)変更を行ったのだろう。数瞬だけ、空気が吸い込まれるような感覚を感知(キャッチ)した。

 そして男は、武器から──


「喰らえ!」


 光り輝く弾丸を、亜人に向かって乱射した。やはり近未来武器のようだ。考えるまでもなく、普通の弾丸ではない。その正体はいいとして──。


 放たれた弾丸──仮に〝光弾〟としよう。光弾は、亜人に全弾命中。亜人には十分に通用するようで、かなりダメージを受けているようだった。計二十発ほど放たれたが、それが全て命中したのだから、ダメージが無いと逆に不自然だろう。

 よろめく亜人。負けじと、未確認のエネルギーを腕に纏わせ、それを振るった。

 どれほどの力が込められていたのだろう。風圧と共にエネルギーが空(くう)に奔る。しかし、男は──


「うるぁああっ!!」


 難なくそれを回避し、もう一度、亜人に光弾を連発した。

 亜人にもキチンと学習能力があるようで、次は乱射された光弾を適切に弾く。流石は亜人、人外の身体能力で男に肉薄(せま)り──


「死ネ」


 男の腹部に打撃を吸い込ませた。


「ゔぐっ──あ゙っ」


 苦痛の声を上げ、同時に、斜め上方に吹き飛ばされる男。死ななかっただけ凄い。亜人の攻撃を喰らって、死んでいない。

 しかも、更に凄かったのは……。


「負けて……たまるかぁっ!!」


 何と、吹き飛ばされた方向に丁度あった屋根の縁(へり)を掴み、屋根の上に着地したのだ。

 凄まじい身体能力。見たところただの人間だと言うのに、人外じみていた。まるで、そう……今はもう懐かしきアブーリア達、突然変異した人間──魔人のよう。


「ナ、ナン、ダ? ソノ、ソ、ノ身体能力ハ……? 何故、死ナナイ?」


 流石の亜人も驚いている。というか、笑ってしまいそうだ。今まで知らなかった亜人の一面が、今の今でこんなにもアッサリ判明してしまうのだから。


《呪詛の次は驚愕ね。もの凄いね、情報量が》


 だよなぁ。

 っと、感心している場合じゃない。男に意識を戻そう。


「ソノ姿ハナンダァ!!」


 男の額に生えたツノを見て、亜人が叫ぶ。


《怒り……?》


 だろうな。けど、なんでだ? 確かに、あのツノは奇妙な感じ(・・・・・)がするが……。

 怒鳴られた男は少し考える素振りを見せた。思い当たる節でもあるのだろうか? 今後関わる事があれば、じっくりと聞いてみたいものだ。

 そして考えている内に、亜人も跳躍して男に迫る。男は少しだけ焦った様子を見せ、亜人が放った打撃を回避。


「うっ──りゃあっ!!」


 そして──傾斜のある屋根の上にも関わらず、亜人に対して飛び両足蹴りを叩き込んだのだ。しかも、顔面に。

 当然、勢いで亜人ごと地面に落下する男。痛がる様子を見せたが、なぜかその口には笑みが……。

 男は亜人の上から退き、武器を持たない左手のみで後方倒立回転飛び──つまり、バク転。とんでもない身体能力だなと、ずっと感心している。ま、俺はやろうと思えば出来るだろうが。

 そうして男は亜人と距離を取り……睨み合う両雄──片方は〝雄〟なのか不明──。

 互いに走り出し、距離が潰れる。──が。

 このまま、二人がぶつかり合う事はなかった。なぜなら、男が亜人に迫る軌道から外れ、二人を挟む壁の方向に向かい始めたから。亜人から見ても俺から見ても、男は全速力だった。間違いなく、だ。しかしながら『軌道変更出来た』という事実が存在する。これはもう、人外じみた身体能力だからこそ出来たと言わざるを得ない。

 そのまま、人外じみた脚力で壁を蹴り、亜人に突進。武器を持った手を突き出し、その銃口が亜人の胸部に当たると同時に、光弾を放つ。


「そりゃ」


 ゼロ距離になったところで亜人に足を引っかけ転倒させ、同時に、銃口を亜人の腹部に移動させた。

 読めたぞ、男がこれから何をするのか。どう動くのか。

 これは多分──


 地面と平行になった亜人に対して光核弾をこれでもかと連射し、衝撃で、今度はリアンが亜人を上空に打ち上げる。衝撃で、亜人は地面と垂直に、真上に打ち上げられた。

 一頻り光弾連射を続け、そして、武器を変形させた。銃口がガバっと開き、変形前の銃口よりも巨大な銃口が露わになる。


 ……やっぱり。

 で、この感じはもう……。


「グ……マ、ズイ……コ、ノ、コノ、ママデハ……」


 亜人も、そう言っていた。


「終わりだよ……」


 銃口に、エネルギーらしきものが光り輝いていた。見た感じ、俺が見ていた光弾よりも大きい。さながら、変形銃の必殺技か。

 そして──。


「うるぁあああああああっ!!」


 瞬間、溜められたエネルギーが放出される。それは亜人を確実に殺すであろう砲撃となり──


「グッ──」


 亜人は腕でガードするが、その腕もろとも貫き、光核砲弾は亜人の胸部内にある心臓を破壊。貫き体内に至った光核弾のエネルギーが爆ぜ、指揮官亜人は爆発四散し絶命したのだった。

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