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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第4章
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第78話 爆ぜる

 意識を失っているリアンに、指揮官級亜人がゆっくりと歩み寄る。

 警戒は解かず、どころか最大限に高めた上で、危険度を見極めるためにゆっくりと歩いているのだ。

 距離が一定まで縮まり、亜人がリアンの完全な意識消失に陥っている事を確信した。

 亜人からしてみれば、自分が放った一撃でリアンが絶命していない事こそ驚愕に値する出来事である。

 しかし、それももう終わる。

 既存の人類より、少しだけ頑丈だっただけなのだろう。または、当たり所が良かったのか。

 どちらにせよ、自分たち〝亜人〟を妨げ得る存在ではなかったという事──。


 亜人にしては明瞭な思考力で、そう考えていた指揮官亜人。考える傍らで、亜人の凶爪がリアンの胸部に迫っていた。

 しかし──背景事情を知らないとはいえ、リアンを片手間で殺そうとする事は、完全に誤った選択だった。


「ッ!?」


 気絶している筈のリアンが、指揮官亜人の腕を掴む。

 今の一瞬で気絶から覚めたのか? ──と、亜人は訝しむ。

 しかし、今の今まで気絶していたにしては、自身の腕を掴むこの手が持つ力は力強く、はっきりとし過ぎている。

 その手に気を取られた、その瞬間。


「うっ、りゃあっ!!」


 リアンの頭突きが亜人の頭部に炸裂。体勢を崩し、転倒してしまう。

 その隙を突き、リアンは亜人から離れ、武器を回収。即座にモードを切り替え、《Type:MAGNUM(マグナム)》へ。そして、充填状態(チャージモード)に移行。

 十分に、十二分に霊子(エーテル)を取り込み、そして──


「喰らえ!」


 ──光核弾を連射。しかも、亜人には全弾命中。

 亜人も負けじと、未確認のエネルギー(・・・・・・・・・)を腕に纏わせ、振るう事で飛ばした。

 しかし、今のリアンにとっては遅すぎる。難なく回避し、その過程でもう一度霊子(エネルギー)をチャージ。


「うるぁああっ!!」


 また光核弾を連射するが……同じ手を二度喰らう指揮官亜人ではない。光核弾を弾き、リアンとの距離を詰め──


「死ネ」


 リアンの腹部に打撃を吸い込ませた。


「ゔぐっ──あ゙っ」


 まともに喰らい、上空に吹き飛ばされるリアン。

 ──しかし。


「負けて……たまるかぁっ!!」


 建物の屋根をギリギリで掴み、屋根上に着地。

 その超人的な身体能力を見た亜人は、亜人らしくもなく驚愕する。


「ナ、ナン、ダ? ソノ、ソ、ノ身体能力ハ……? 何故、死ナナイ?」


 亜人の口から出た、単純で純粋な疑問を聞き、リアン笑う。

 自分だって疑問だったのだ。夢の中のナニカといい、死ななかった自分といい。不思議な事が起き過ぎているから。

 そして亜人は、発見した。

 リアンに現れた肉体の変化。

 額から、一対のツノが生えている。赤青黄が混じり合う、まるでカラーコピー機のアナログなノイズ感を秘めた、不可解なツノ。

 それは、それを構成するものは、自分達も持っているもので──。


「ソノ姿ハナンダァ!!」


 その怒鳴り声を聞き、リアンは少し考えた。

 自分に何か変化が起きているのか。アヤカシが何かをしたのか。したとして何をされたのか。疑問こそ尽きないが──

 そう少し考えている間に、亜人が近くに迫っていた。


「うっ──りゃあっ!!」


 亜人が放った打撃を躱し、亜人の頭部に両足蹴りを叩き込む。

 その勢いのまま、亜人と共に屋根上から地面に落ちてしまうリアンだったが、ダメージは気にしない。むしろ──


(痛っ……でも……こっちのが現実感あっていいわ、あの夢ン中に比べりゃあ!)


 そんな事を考えていた。

 考えつつ、今度は亜人から意識を外さない。亜人の上から退き、武器を持たない左手のみで後方倒立回転飛び。ここでも、超人的な身体能力が披露された。

 亜人と向かい合い、お互い走って距離を詰める。

 だが、このままぶつかり合う事はなく──リアンは軌道(コース)を外し、壁側へ走る。そのまま、人外じみた脚力で壁を蹴り、亜人に突進。

 武器を突き出し、その銃口が亜人の胸部に当たると同時に、チャージした光核弾を放つ。


「そりゃ」


 ゼロ距離になったところで亜人に足を引っかけ転倒させ、同時に、銃口を亜人の腹部に移動。

 地面と平行になった亜人に対して光核弾をこれでもかと連射し、衝撃で、今度はリアンが亜人を上空に打ち上げる。

 リアンの時とは違い、リアンは垂直に、真上に打ち上げた。掴んで止まるものはなく、打ち上げられた指揮官亜人はそのまま自由落下を開始する。

 その間に、リアンは武器を《Type:BUSTAR(バスター)》に変形させる。そうして霊子(エーテル)のチャージを開始。


「グ……マ、ズイ……コ、ノ、コノ、ママデハ……」


 流石に事態を察したのか、そう呟く亜人。しかし時すでに遅く──


「終わりだよ……」


 エネルギーは十分に充填されていた。


「うるぁあああああああっ!!」


 瞬間、溜められたエネルギーが放出される。それは亜人を確実に殺すであろう砲撃となり──


「グッ──」


 亜人は腕でガードするが、その腕もろとも貫き、光核砲弾は亜人の胸部内にある心臓を破壊。貫き体内に至った光核弾のエネルギーが爆ぜ、指揮官亜人は爆発四散し絶命したのだった。



   ◆◆◆



 何とかアラベルのゲリラ配信を乗り切り、今は一息ついている。

 急に配信とか……えげつないぐらい体力消費したぞ。


《でも、インターネットでは絶賛されているよ、キミ。可愛い~とか、次も出て欲しい~とか。持て(はや)されているね》


 うぅう……フィエットの体を悪用しているみたいで居た堪れない……。


《あ、キミの意識はそっちに行くんだ。恥ずかしい……とかではなく?》


 それもあるけどさぁ……やっぱり、こう……なんか悪い感じがする。

 元はと言えばフィエットが俺に贈ってくれたこの姿。褒められて悪い気はもちろんしないけど……見た限り容姿だけでなく、俺の性格と言うか、ネット風に言うキャラクター性も絶賛されているような。

 その絶賛に容姿が関わっている事はまず間違いないので、なんだか……フィエットに対する罪悪感が……。


《いやいや。キミの仕草、女の子そのもので可愛かったよ?》


 正気か、お前!?

 俺は男だぞ! 男なんだぞ!! それにそもそも、その仕草だって俺が女の子って思われてるから似せたというか、演技しただけだ!!


《にしては自然な演技だったね。経験者?》


 経験者じゃねぇよぉー!

 だから、だからめちゃくちゃ緊張して……。

 大体、女の子の体だからって趣味趣向とか行動まで女の子化してどうする!?


《……取り乱し過ぎだよ》


 へ?

 あ、おお……スマン……。

 ……にしても……〝喉元過ぎれば熱さを忘れる〟なんてよく言ったもので、終わってみれば呆気なかったな。配信中はあんなに緊張で死にそうだったのに、今は完全にリラックスしているのだから。


「……アヴラージュ」

「……? あ~? 何だよ~。俺は今疲れて──っておわっ!?」


 急に動いたアラベルが、俺の手を掴んだ。

 流石に急すぎるので、思わずぎょっとする俺。それに対し、アラベルは──


「かっっっっっわいかったじゃん、アヴラージュっ! 凄いっ、凄いよっ! これは~~、沢山、ファンが増えちゃうかもね~」


 ──ネットの反応を覗きつつ、そう叫んだ。


「普段、口調が男っぽいから~……どうかなと思ったけど、なぁんだ! あっちが素なの? 素っぽいよね! チョー可愛いじゃん!」


 ……あ、あれ?

 アラベル、もしかして俺が男な事をわかっていらっしゃらない……?


《……当たり前でしょ。キミ、見た目は超絶美少女なんだから。如何に口調や趣味が男っぽくても、周囲からすればそれは〝男っぽい美少女〟でしかないんだよ》


 むむ、確かに……。

 でも、俺が〝転生者〟だって言うのは絶対言わない方がいいよなぁ……『形態変化(トランスフォーム)』なんかより、ずっと威力が高い爆弾だと思う。


《それは同感だね。というか、この世界に〝転生者〟はいるのかな? キミがいた世界と同じくして、〝前世の記憶〟だとか、そういう『占い』だとか、眉唾程度にはありそうだけど……ボクがいた世界ほど、馴染んではいないかもね、概念として》


 メイズさん曰く、転生ではなく転移者はいるらしいよな。死んで魂だけ別世界に行くんじゃなく、そのまま肉体ごと〝界〟を渡るタイプ。


《そうだね。というか、世界ごとに法則が独立しているわけでもないんだから、当たり前なんじゃないかな。ソレで言えば〝転生〟もありそうだけど……》


 あるとしても未確認な場合が多分一番高確率だよな。

 文化や物語としてそういう設定はあるのかもしれないが、それが実在するとは思っていないのかもしれない。まあ、かく言う俺も身を以て体験するまで信じていなかったわけだが。

 まぁそういうわけで、転生に関しては完全タブー、話すわけにはいかない。

 つまり……。


《この世界では女の子として、少なくとも〝男っぽい女の子〟として生きるしかない、ってわけだね。まぁ女装とかでもなく、ただただ精神が男ってだけだから、そんなに大変な感じはしないけど》


 確かにな。

 信頼を勝ち得るという点でも、能力面や〝アヴラージュ〟としての実情を話す事はありそうだが……転生に関しては、話さなそうだ。

 っと、意識をアラベルに戻して……。


「……そうかぁ? 俺なんかがぁ?」


 すっとぼけ。


「そりゃあもう! キモい人の『結婚しよう』コメントが出るの最速だったし」

「ブッ!?」


 やっぱ、あるんだ、そういうの……。

 前世では何気なく見て笑いながら『キモいな~』なんて言っていたが……いざ自分が言われると寒気がするな……。

 もし元居た世界に元居た存在として帰れたなんて奇跡(ミラクル)が起きたら、もう二度とキモいコメントはしないようにしよう。言われた人が可哀想だ……。

 と、その時。


「んわっ」


 アラベルが持つコネクターが勢いよく振動し始めた。

 連絡だ。それも、ネットの方に来たコメントなどではなく、もっと火急の──。


「……連絡……。さては姉ちゃん、配信を見てたな……? アタシが遊んでるの見て、働けって催促かなぁ~。まぁ、内容は大体察せれるけどさ」


 確かに。

 (まつりごと)に向いていないと自覚もしているアラベルに来る労働催促など、多分一つしかない。


「……敢えて? 敢えてまあ? スピーカーで……応えてみる?」


 アラベルはぼそぼそとそんな事を呟きながら、入った連絡によって激しく振動するコネクターの音声設定をスピーカーモードへ。

 機能や使い方も、やはり俺がいた世界のスマホと何ら変わりないな。って、そんな事はどうでもいいとして……。


『アラベル。アナタ、また遊んでいたわね? 通知が来たから見てみれば……』


 やはり、連絡の主はオリヴィエさんだった。

 その声には、明らかに呆れが含まれている。のだが……ここまではよかった。しかし、アラベルが次なる爆弾を投下する。


「いや……いやさ、姉ちゃん、会議中なんじゃ?」

「え、え!?」


 流石の俺も、思わず聞き返してしまう。

 アラベルによれば、何と、今の時間はそれぞれの州知事が集まった会議中だそうじゃないか。だが、オリヴィエさんも反論する。


『中断になったのよ。仕方なくなのだけどね。で、この連絡もそれに関連しているのよ。アラベル、出動準備をなさい』


 やはり、この感じだと亜人だな。

 まぁ、この世界でアラベル級が投入されるトラブル何て亜人出現ぐらいしかないだろうが……。


「いやいや……だとしても、アタシが配信してたの亜人発生を検知する前だよね? 会議中にアタシの配信見てたのに変わりはないんじゃ……?」


 あ、確かに。

 言われてみればそうだろうな。多分、亜人が発生するとなると検知後すぐにアラベルに連絡が来るだろう。配信が終わって、一息ついてから連絡が来たという事は……。

 画面の向こうのオリヴィエさんは、数瞬の間をおいて言葉を続ける。


『関係ないでしょう。とりあえず、現場に急行。すぐに対処しなさいな』


 あ、ゴリ押しするんだ、ここは。

 オリヴィエさんの知らない一面を知る事が出来た。知的そうだったのだが、弱みを握られそうな時はゴリ押しで押し切るのか。


「ま、行くしかないだろ」


 オリヴィエさんに対する好印象が更に強くなったので、そうフォローをかけておいた。

 すると──


『あら、アヴラージュさんもいたのですか? お見苦しい所を……。任せっきりで忍びないのですが、今回もアラベルに同行してはいただけませんでしょうか? あなたが共に向かわれるのなら、不安はかなり減りますから』


 なんと、もの凄い信頼を向けられている。

 これは、この世界で暮らすためにも行くしかあるまい。亜人に関して、気になる事もあるしね。

 なので、俺は。


「任せてください。世話係になった以上、アラベルがなんかやらかしたら責任を負うのは俺ですから」


 自信を持って、そう言うのだ。オリヴィエさんからの好感度的になさそうだが、アラベルが何かやらかした時、まず視線が俺に向くのは必定。それを避けるためにも、アラベルが往く戦場には俺が同行するしかあるまい。

 ……そういえば、シュトルツも一緒に世話係になった気がするのだが……アイツは、俺が世話している時間に何をしているんだか……。

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