第77話 択ぶ
「先ずは雑魚狩りだ。覚悟しやがれよ──亜人共!!」
そう叫んだリアンは、早速試作武器を試してみる事に。
起動・充填状態に移行すると、武器側面の吸収孔から大気が武器内部に吸収される。
否、厳密には大気そのものではない。大気中に含まれる霊子が、武器に内蔵された装置に取り込まれているのだ。
そして、吸収された霊子は、その装置──仮称〝霊子変換光核生成機構〟に自動化設定されたプログラムによって位相操作される。波状粒子だった霊子は特殊な光核に変成され──
「ぶっ飛べ!!」
──光の弾丸と化す。
武器の銃口から光核弾が放たれ、亜人の内一体の頭部を貫く。
否、貫くというより、吹き飛ばす。亜人という生命体の構造はかなり単純で、頭部か胸部にある心臓のどちらかを破壊すると絶命、生命活動を停止し、塵になって消えるのだ。
そして、リアンが頭部を破壊した亜人は──
「ア……ァ……」
呻き声のようなものを発しながら、塵となって消えた。
つまり、効果あり。どころか覿面で、フォリルの言い分に間違いはなかった。
たとえ、リアンに宿ったであろう亜人の力の使用方法がわからずとも──
(……これなら、コイツらをぶっ殺せる!!)
十二分に、処理可能であるのだ。
「うぅっ──りゃあっ!!」
リアンの両足蹴りが別の亜人の頭部に炸裂する。しかし、神の視点で言うが、存じる通り亜人に打撃は通用しない。当然、痛みも感じないのだ。
しかしリアンの狙いはダメージではなく、別にある。
キックの衝撃による、ほんの少しのノックバック。それが生まれる事によって、一瞬だけ隙が出来る。
本当に一瞬だけなのだが、リアンにとってはそれで充分。
「グッ……」
光核弾を発射し、その亜人の頭部を正確に破壊。塵と化す。
しかしリアンも、両足蹴りの反動で地面に転がっている。言うまでもなく隙だらけだ。
……が。リアンの戦闘スキルは、人間にしては異常に高く──
「おぅらっ!」
襲い掛かってきた亜人の一体に卍固めをし、動きを止める。正確に狙いを定め、頭部を破壊。
次に襲い掛かってきた二体の亜人の内片方に足を引っかけ転ばせ、もう片方の頭部を武器で破壊。即座に狙いを入れ替え、転倒した亜人の頭部も破壊。
リアンは何と、この数秒間で五体の亜人を葬ったのだ。
リアンの身体能力は、明らかに人間を超越している。普通であれば怯んだり少しの隙が生まれたりする痛みを受けても、リアンには動揺どころか、気にする様子もない。
それもそのはず、痛みを感じていないのだ。リアンは、身体能力の大幅上昇と共に痛覚も鈍化していた。
先ほども、両足蹴りの反動で地面に激突したというのに、すぐに亜人の方に意識を移していた。
リアンの執念強さ──で片付けばよかったのだが、その一言では片付けられないほど、常軌を逸していた。
「なんだ、思ったより楽勝──っと、おわっ!?」
余裕綽々の様子でそう言いかけたリアンだったが、流石にそんな隙を許してくれる亜人ではない。容赦なく攻撃が加えられたが、リアンはギリギリでそれを回避した。
「危っぶね……余所見はするもんじゃねえ、なっ!!」
追加で来た攻撃を後方宙返りで躱し、着地と同時に光核弾を発射。同じく、リアンが着地するタイミングでリアンを仕留めようとしていた亜人の胸部内にある心臓を破壊した。
「うっし……あんま時間もねぇし、あれ、試してみっか」
政府の軍が到着するまでという時間制限があるので、このまま一体一体地道に処理するわけにもいかなくなってきた。
リアンの経験則で言えば、政府軍到着まではまだ時間がある。しかし、どんな想定外が起こるかわからないのだ。決着は、なるべく早い方がいい。
それに──リアンには、とある懸念もあった。
そんな事情もあり、フォリルに教わった〝あるモノ〟を試す時が来たのだ。
「確かこのボタンを押して……銃口を開きゃ──っと!」
ボタン操作によって銃口にある装置のロックが解除され、上下連動するその装置を持ち手側に開くと、変形完了である。
操作しつつ、リアンはフォリルの説明と注意を思い出した。
『まず前提として、この武器には二つのモードがあるんだよね』
フォリルが戦闘時に威力の高低を使い分ける為、設定した二つのモードと、その切り替え。
『まず《Type:MAGNUM》。これは……そうだな、通常攻撃ってところ? もちろん威力はお墨付きをつけれる。亜人を倒せるぐらいには、十分に高威力なはずだよ』
設定されたモードの一つ目、《Type:MAGNUM》。
標準モードであり、このモードでの攻撃が常である。
しかし、問題は二つ目のモード。
『で、次は……こっちはちょっと、使い方に工夫がいるね。《Type:BUSTAR》。結構強めの亜人も問題なく倒せるぐらい、超高威力。あっちが通常攻撃なら、こっちは必殺技ってところかな。威力が高い分、エネルギー消費も激しい。霊子吸収のスパンも短くなっちゃうし、溜めも長いから隙も大きい』
設定されたモードの二つ目、《Type:BUSTAR》。
ボタンと装置の操作によってモード変更するこのモードだが、こちらは本当の意味での〝必殺技〟たるべきモードである。
フォリルの説明の通り、このモードの使用には注意点が幾つかあった。
なので、本当にここぞと言う時に使うべきなのだが……。
「うっしゃ、行くぞ!!」
リアンは、目の前に広がる、大体二十体超の亜人・亜獣を一気に片付けるために、開発者であるフォリルにとっては想定外も想定外の、最悪の使用方法をする。
「霊子収束・加速!! ぶっ飛びやがれ!!」
銃側面の吸収孔から大気中の霊子が吸収され、銃口内に光核弾が生成される。
しかし、少し様子がおかしい。
神の視点から告げるとするなら、現在、銃口に生成された光核弾だが、霊子同士の結合力が極めて低い。しかし完全にバラバラというわけでもなく、言うなれば無数の極小の弾丸が寄り集まったようなものになっているのだ。
これを、リアンは放とうとしている。内蔵装置で霊子加速を起こし、その──仮称〝集合型光核弾〟が放たれればどうなるか?
「光塵芥嵐砲!!」
リアンが即興で名付けた、その技によって放たれた、集合型光核弾……改め、〝光塵弾〟が、渦状の砲撃として亜人達に襲い掛かる。
圧縮された光塵の一粒一粒に、《Type:MAGNUM》時の銃撃と同等の威力が込められているというのに、それが渦となって襲い掛かるのである。命中しては一溜まりもない──どころか。
「おわっ、ゔっ……」
それを放ったリアン自身さえも、放った反動で後方に吹き飛んでしまったのだ。
「威力強すぎんだろ……」
しかし、それと引き換え。亜人達はと言うと──
「だが……効果覿面だな。これで全部──って、ん?」
ほぼ全滅していた。
ほぼ。
一体を除き、であるが。
その、残った一体というのが──
「……やっぱ一筋縄じゃ、行かねーわな」
指揮官級の亜人である。
この亜人は他に比べて知性も高く、亜人より硬質である亜獣を幾重にも重ねて盾とし、難を逃れていたのだ。
だが、それを見たリアンときたら、まだ余裕そうである。
なぜならば、亜人に対し効果覿面の武器があるから。
しかし、その余裕も、次の瞬間には消し飛ぶ事になる。
「…………ミ」
「あ?」
指揮官級の亜人は発声機能を持っている。
これは、リアンも知っている事だ。なので、特に動揺する事もない。
それに、亜人が発する言葉は意味を持たない、存在しない単語ばかり。普通なら、特に耳を傾けるべきでもない、のだが。
「ミ、見、ミ……見、ナイ……ヤツ、ダ…………ナン、ナ、ンダ……?」
──その瞬間発せられたのは、確かに、確実に、意味を持った〝言葉〟だったのだ。
(喋っ──ッ!?)
これには、流石のリアンも激しく動揺した。
動揺したのだ。
そこには、大きな隙が生まれる。
「…………死ネ」
「しまっ」
意思を持っているというのは厄介なもので──一瞬で距離を詰められたリアンは、指揮官級亜人の一撃によって吹き飛ばされてしまった。
「ゔっ、かは……」
幸い、壁のある方向に飛ばされたお陰で、戦線離脱こそ免れたリアンだったが……流石にダメージが大きいようで──
「ぁ……く、そ……」
既に、意識朦朧である。
◇◇◇
(くっそ……不覚だった……)
朦朧とした意識の中、そう独白する
吹き飛ばされた影響で、せっかくフォリルが渡した武器も手放してしまっている。それも、動けば取れる位置ではなく、しっかりと離れてしまっていた。
ここまでボロボロになったリアンを、亜人が殺さない筈もない。放っておけば死ぬ、という傷でもないので、亜人はしっかりとリアンに止めを刺すだろう。
(あ……これ、ヤバイのか)
瞬間、リアンの脳内に浮かぶ〝死〟。
(まだ……まだ、お袋の仇にすら……その影も形も掴めてねぇのに……)
リアンの母親を殺害した亜人は、今、戦っていた亜人達とは似ても似つかない姿をしていた。
つまり、より強い亜人か、それか──
亜人騒動、亜人発生の、黒幕か。
それに至るどころか、それの手下に、手下ですらない駒程度に、ここまで追い詰められている。
(仇討ちとか……聞いてあきれるな。こんなとこで……こんな事で……)
せっかく決めた覚悟も、その決意も、全てが水泡に帰す。帰してしまう。
──のだろう。通常であれば。
リアンの体に一つの変化が起ころうとしている中、リアンの意識は闇に堕ちた。
………
……
…
リアンの意識は、上も下も、前も後ろもない暗黒の空間に堕ちていた。
落ちるというより、揺蕩うか、漂うという表現が正しいか。
──そこに。
『いつまで寝ている?』
男にも女にも、幼くも老いているようにも聞こえる奇妙な声が響いた。
その声は、何もない暗黒空間で遠く遠く木霊する。
(いつまで……寝て……? 寝てんのか、俺……?)
寝ているという表現に違和感を抱いたが、言われた通りに瞼を上げるリアン。
瞼を上げても下げても、景観は全く変わらない。上も下も前後左右もない、ただただ深い、真っ暗な空間が無限に広がっている。
──だが、そんな空間にあってはならない異物が、リアンに触れる。
「な」
『声は上げるな? そして、振り返るな』
凄まじい威圧感を感じたリアンは、その声に背くことが出来ない。
結局、自分の背後に存在するであろう何かが気になって仕方なかったが、振り返って姿を見る事は出来なかった。
『ただ、私の話を聞くだけで良い。声も、返答する時のみ発するで良い』
一方的にそう告げた後、そのナニカは言葉を紡いだ。
『ここはお前の深層心理。わかりやすく言うなら心の奥底にある世界か。一つ、お前に提案をしよう』
変わらず、リアンの項に触れたまま、ナニカは続ける。
『私を受け入れるんだ。お前の中に生まれた、私を。見たところ、苦戦しているようじゃないか。私が宿主に選んだからには、敗北は許さない。必ず勝利するんだ。そのためにも、私の力の一端をお前に渡す。何も言わず、疑問を抱かず、受け入れろ』
リアンは、ナニカが何を言っているのかイマイチ掴めない。
しかし、一つ、確信出来る事があった。
「……アンタを受け入れれば、アイツらに勝てるか?」
その問いに、ナニカは嗤う。
『そうだな。先ほどまでは単なる偶然で善戦出来ていたようだが、見てみろ。少し動揺した途端にこれだ。これでは、真に強いとは言えないな。私を受け入れるのならば……確実な勝利をくれてやろう。さぁ、択べ。このまま惨たらしく、何も果たせぬまま死ぬか、それとも……私を受け入れ、目的を果たすか』
明らかに悪意を秘めた言い方だが、リアンにとっては最早どうでもよかった。
手を取れば、苦戦する事もなく亜人を殺せるなら。どうでもいいのだ。
「アンタの力を寄越せ」
なのでリアンは、そう、力強く告げた。
この返答に、ナニカはまたも嗤う。
『面白い。私の宿主なだけはあるな。いいだろう、存分に揮え。だが……お前はもう足を踏み入れたんだ、こちら側へ。一度として、敗北は許さないよ』
「臨む所だ」
『それじゃあお前は、早く起きて目の前のヤツを倒すんだな』
「あ、ちょっと待ってくれ」
想定外の事が起き、ナニカは一瞬困惑する。
しかしそれもすぐに振り切り、尊大な口調で答えた。
『何かな? 表とは時間の感覚が違うとはいえ、早くしないとお前が殺されてしまうよ』
「最後に……アンタ、誰なんだ?」
またも想定外の問いに、ナニカは更に困惑する。
それに、その質問には答える事が出来ないのだ。
『教える事は出来ないね』
「名前だけでも……」
尚も食い下がるリアンに、名前だけなら仕方ないと、ナニカは答える。
『……私はお前の心理に巣食うアヤカシだよ』
その返答を聞き、リアンは不審に思ったが、今は気にしない事にした。
名前が聞けただけで、今のところは満足なのだ。
「……わかった。俺は、もう行くからな」
『早う行け。お前が死んでは、私も生き永らえる事が出来ないからな』
ナニカ──改め〝アヤカシ〟がリアンの項から指を離すと同時に、リアンの意識は激しい浮遊感に襲われた。
落ちているのではない。
昇っている。
そうして心理の深層から弾き出されたリアンの意識。今までになかった異物を抱え、今、目覚めようとしていた。




