第75話 顕る
少しして、リアンがいる部屋にフォリルが戻ってきた。
手には何やら……ゴテゴテとした機械が。
「なんだ……それ……?」
リアンは思わず、そう言ってしまった。
無理もないだろう。
「何って……武器だよ、武器。俺が作った武器。君の、武器」
「俺の……武器?」
「魔界科学の最先端、霊子力学を応用した武器だね」
「え……は……?」
フォリルの持っているそれは──霊子力学光核電磁投射銃・試作初号機。
何とフォリルは、一時期、中央政府にある〝霊子力学技術局〟という、大気を満たす〝霊子〟を利用した技術開発及び研究機関に所属していた事があったのだ。
その研究の中にはもちろん、霊子を武装転用する研究もあり、進められていた。
フォリルは──当時研究途中だった、霊子力学に関する全てのデータを複製して盗み出し、技術局から逃亡。ノールに匿名で建てた住居を基に、自作研究所〝FOLIERE=LABORATORY〟を設立。今に至る。
そんな経緯もあり、フォリルは霊子力学に精通していた。医療にも詳しいのは、自作研究所を設立してからの彼の研究テーマ〝最強の生物を造る〟というモノから来ている。当然、研究の過程で幾度となく人体実験をしており、必然、人体にも詳しくなったというわけだった。
フォリルが持っている武器の話に戻るが、これは前述の通り、霊子力学に基づいて設計・製作された科学武器である。
大気中の霊子を、内蔵された〝霊子変換光核生成装置〟に取り込み、自動回路化されたプログラムにより霊子位相を操作、特殊な光核弾に変換する。それを弾丸として放つ事で攻撃する武器である。
尚、放たれた光核弾は着弾と同時に空気分解され、大気中の霊子に戻る。アヴラージュが転生する前の世界には無かった、ある意味で〝永久機関〟である構造なのだ。
その説明を受けたリアンはというと──
「お……おう……」
飛び交う専門用語を時間をかけて嚙み砕き、自分なりに理解し、その上で聞いたが、それでも気圧されていた。そうしてやっとの事で絞り出した反応が、これである。
「操作方法を説明するね」
そんなリアンの心情など露知らず、フォリルの説明は続くのだった。
◆◆◆
時間は過ぎ、あっという間に夕暮れである。
いやはや、思い出したくもないほど大変な目に遭った。
それはもう、ヤンチャな時期だった美羽の相手をしているようだった。アラベルはメイズさんが長子の十二人姉弟の末っ子だそうなので、妹味を感じてしまうのも仕方のない事だった。
というか、何かおかしい。
執務館に帰ってくるのがいつもより早すぎる。いつもなら、まだ外を走り回ってる時間帯だろうに。
なぜだ……?
「アヴラージュっ」
「あん?」
「今日は特別に、ほぼ無職であるアタシがどうやって遊んで暮らすお金を捻出しているのか教えてあげ──」
「キョーミない」
「ええっ!?」
強がりとかではない。
本当に興味ない。
アラベルが俺のために使ってくれるお金に助けられているのは事実だ。この世界で俺は戸籍を持たないので、働く事は出来ない。メイズさんに頼み込めばどこかで働かせてもらえそうだが、そうする予定はない。というより……アラベルの相手をしながら働くなど無理である。
シュトルツを見る限り、アイツはアラベルの世話を全て俺に丸投げする気だった。シュトルツは今頃、メイズさんに頼み込んでどこかで働いているのだろうか? そうであれば嬉しいんだがな。
……と、そんな事を考えている内に、アラベルが何か機材のようなものを並べ終わっていた。
カメラ、照明、パソコン……ん?
あれ、おかしいな。前世でも見た事あるセットだ。
配信者の部屋紹介かなんかで……。
「……アラベル? それ使って……今から何をしようと?」
思わず、そう聞いてしまった。
俺のそんな問いに、アラベルは──
「え? 配信」
何でもないように、そう言った。
◇◇◇
「は……配信……?」
唖然として、ついそう呟いてしまった俺である。
「意外?」
「意外ってか……」
意外というか……普段考えるもんじゃないだろ、近くにいる奴が配信者とか……。
《まぁそれは……そうだね……。普通はあんま考えないよ。しかも、ボク達はこの世界にきてまだ早いんだから……》
だよなぁ?
普通は考えねーって。
そう思ったのでそれをそのまま言ってみた。すると──
「ま、そっか。そぉだよね、確かに! 最近、周りに認知され過ぎてちょっと認識おかしかったかも~」
──と、そう言った。
もちろん最初に出た感想は「認知されてるんだ」というもの。
「……ま、わかったわ。それじゃ、俺は自分の部屋に戻って……あ、何冊か漫画借りてって──」
「何言ってるの?」
「ン?」
「アヴラージュも出るんだよ、配信に」
聞き捨てならない、どういう事だ?
俺の認識……というか聴覚が間違ってなければ、俺もアラベルと一緒に配信に出るという事のようだが?
《間違ってもないし、間違うはずもないね》
そういうとこ無慈悲だよなお前。
「………………なんで?」
「ここにいるから?」
「…………なんで?」
「みんなに紹介したいから」
「……なぁんで……?」
「新しいお友達だから!」
理由がちゃんとしてるのがまた何とも……断り難い……。
《ただ単にキミが押しに弱いだけじゃないかな……》
◇◇◇
「みんなの心にアラベルチャイム~! ゲリラ配信なのに来てくれて感謝感激雨あられ~のアラベルだよ~」
普通に配信し始めた。
ちなみに、まだ出番ではないようで、俺はカメラの死角に座っている。
「急な告知だったのに来てくれてありがとね~、アラベラーのみんな~!」
アラベラー、俗に言うファンネームだろうか。
何も知らないなりに考察する限り、名前の由来は〝アラベル+トラベラー〟だろうか。中々に良い名前だなと、そう思った。
「エイルさんこんばんは~、いつも来てくれてあんがとね! リュカさんも! 久しぶりじゃ~ん、元気してた?」
ちゃんとファンの名前を覚えるタイプらしい。
アラベルの事だから、ド忘れしちゃった~なんて事もありそうだが。名前とかじゃなくても、配信の内容とか。
「ん? あ~いや、今日の配信は気分ゲリラとかでもないよ~」
聞いた、ルディア?
気分ゲリラだって。配信時間とかも大体気分なんだろうな。そこはアラベルっぽくて安心だ。
《うん……でもまぁ、それがいいんじゃない? 何て言うか……配信見れたら『ラッキー』って感じがすると言うかさ》
あ~、そういう捉え方もあるのか。
「今日はね~……アタシに出来た、新しいお友達を紹介したくって! 何と今、カメラの後ろにいます」
本題に入ったみたいだ。
本当に俺を紹介する気らしい。
はてさて……一体どうなるのか……。
渡されたスマホ──ではなく、似て非なるもの……というか。機能は同じだが、呼び方が違うようだ。この世界風に言うなら〝コネクター〟らしい。「接続させるもの」だからコネクターね。「スマートフォン」でスマホぐらい適当な名前だ。スマホより、名前だけならカッコイイがね。
……スマホの方が短くて呼びやすいね、うん。
ま、そんな事はどうでもいいとして。渡されたスマホで見てみると、配信のチャット欄は──
『今日も可愛い!』
『男? 男なの?』
『どんな人?』
『ついに彼氏登場!?』
……など、言いたい放題である。
彼氏とか。御免だっての! アラベルと彼氏にでもなった暁には…………まあ、毎日楽しいのはそうなのだろうが、それ以上に疲労が凄まじいだろうな。
だから友達はアリだが、恋人はナシって感じだ。一緒にいて落ち着ける人の方が、俺は好ましい。
「出てきていいよ~~」
っと、出番か。
滅茶苦茶緊張するぅ……。
《ま、頑張れ~》
自分は露出しないからって余裕そうだなお前は。
《そりゃ余裕だもの。それよりほら、早く出てあげたら?》
チッ。
まぁ見逃してやろう。
「は~い」
適当な返事をして、カメラの前へ。
って、おお。ちゃんとカメラの隣にパソコン……があって、チャット欄が見えるようになっているな。
「アタシの新しいお友達! アヴラージュちゃんで~す」
「初めまして~。アヴ──は?」
思わず言ってしまった。やってしまった。
「って、はあ? ちゃん?〝ちゃん〟!?」
「え、え? あ、アタシなんかおかしい事……」
「だって、だって……だって〝ちゃん〟は……〝ちゃん〟は……」
俺が男だって知ってるだろ!? アラベルはさぁ!!
何で〝ちゃん〟付けなんだよ!?
《……キミ、自分の見た目がほぼ美少女な事、忘れてない? わかりやすく言うならフィエットみたいな美少女だって事》
あ……。
そう、そうか……人間の姿も一応、フィエットからの贈り物だったな……。
そりゃ、可愛いわけだ。超可愛いフィエットがモチーフなら、そりゃ俺だって可愛いとも。
「……〝ちゃん〟は……恥ずかしいわ」
突慳貪な態度で、俺はそう言った。
それからチラッと、チャット欄の反応を見てみた。
『女の子?』
『超可愛い!』
『今日、アラベルちゃんと一緒にいた子だ!』
あれ?
俺も認知されてる。
もしかして……アレか? 商店街か? 商店街なのか? 昨日と今日、アラベルと商店街で遊んでたしな……。
周りに認知されてるって……その〝周り〟がちょっと広くない?
「なぁんだ~、緊張してるだけかよ~! このこの~」
「ちょ、やめ、突くなって!」
別に俺の声だって、低いわけじゃないので、男とはバレなそう……というか、口調を除けばバレる要素がないんだが。
──そうして俺は無事、仮称〝魔界〟のSNSに浮上する事になったのだった。
◆◆◆
極めて静かな廊下を歩く足音が一つ。
周囲が静寂に包まれているというのに、その足音は音とならない。その足音すらも静寂に溶け込み、静かな雰囲気を決して壊さない。
白い髪が揺れ、黄緑色の瞳もまた、静かな雰囲気を宿す。
その麗人──オリヴィエは、現在、中央政府の首都政塔、その最上階に訪れていた。
理由は、中央政府知事メイズ直々の招集。
コツン、コツン。
その足音に軽快さは欠片もなく、あるはずもなく……。オリヴィエは、憂鬱な気分に満たされていた。
(州知事の全員集合会議なんて久しぶり過ぎて笑えてきますわ……)
こう見えてオリヴィエは、あまり真面目ではない。アラベルという問題児がいなければ、州知事の仕事をそつなく熟しつつ充実した趣味を楽しんでいただろう。
しかしアラベルが産まれてから問題が多発。
人生というものを楽しむに楽しめず……。
「入りますわ」
会議室と廊下を隔てる大扉にコンコンとノックし、扉を開く。
全四つの州の知事の、姉弟達を見て、自分が最後であった事を思い知らされる。真面目ではないとはいえ、オリヴィエにとって会議に遅刻とは前代未聞であった。
「……ワタクシが最後でしたのね、お待たせして申し訳ありません」
「まぁまぁ、そう言わないで。私達も、昔話に花を咲かせていたところだし」
「そうそう。ま、困ってはないね」
「だな。オリヴィエはちょっと真面目過ぎる」
本当に、オリヴィエは真面目なだけだったようだ。
ここに集った姉弟は、オリヴィエの遅刻を叱責する気は毛頭ないようだった。
「じゃ、みんな揃った事だし……会議を始めちゃおうか」
桃色の髪の少女──メイズの呼びかけと共に、オリヴィエにとって億劫でしかない会議が始まってしまったのだった。
今回、ここで切るのが一番ワクワクする終わり方(?)だと思ったのでちょっと短めです、すいません。




