第71話 チェックメイター・破天荒ガール!!!
さてさて、考えてる暇も惜しい。さっさと策を実行しよう。
さぁて、やったれルディア。転移距離に際限がない、完全ランダムなら、いっそ思い切り!
《ああ。どこに出るかわからないから、いっその事エリアを飛ばしてもいいだろうね。それじゃあ──》
あ、ちょっと待て!
「……アラベル」
「え?」
「今から何が起きても、驚くんじゃないぞ」
「え、は? 何を急に──」
次の瞬間、景色が一変していた。
「……え? は? …えぇ?」
アラベルも目に見えて混乱している。
で、俺とアラベルだけ元の場所に転移……っと。
「えっ、えっ!?」
「驚くなつったろうに……」
《アヴ、空間の歪みを感じたよ。それも、キミが今いる場所で》
ご都合よく起こるもんか、そういう事!?
「あっ、どったの姉ちゃん……」
あ、アラベルが無線に出た。
今度は距離が少し近いし周りも静かなので聞こえる。
『今、あなたがいる場所で霊子振動が二回も発生したと報告を受けたけど!? 大丈夫、怪我はない!?』
声的にオリヴィエさんか……。
ちょっとキツい事言いつつも、やっぱりお姉ちゃんなんだなと、そう思った次第だ。
『っていうか、今あなたがいる場所で亜人が発生しそうよ。ちょうどよくその位置に転移するなんて……少し都合が良すぎない?』
ギクッ。
ああ、やっぱり、不自然か……。
「……そんな事ないんじゃない?」
『え?』
「もの凄い偶然だよね! ちょうどいいし、亜人はアタシが対処するよ! それじゃ!」
『ちょ、待ちなさい! 一応無線は切らないで──』
……切ってしまった……。
どうしてだ?
「……こうした方が都合よくない?」
アラベルは振り返ってそう微笑った。
「どうせ応援が来ちゃうし、とっとと片付けちゃお? これも君の仕業だし、隠したいんでしょ? 力も、色々と」
「……え……」
「こっそり見てたし、アタシ。君が戦っているところ。なんか、アタシ達みたいな事してるなーって。異世界にもあるんだーって」
──ふふ、ふはは、ふはははは。
まさか図らずとも口を割ってくれるとは。
アタシ達みたいな事? おやおやまあまあ、俺達の心配は杞憂だったようじゃないか。少なくとも、人為的な転移及び召喚に関する技術は確実に存在するようだぞ?
《……もしかすると、この世界はボクらの世界以上の──》
技術を持っている可能性もある、と?
《そうだね。口振りからして、科学的な魔法への理解力はボク達より上だよ》
おおっと……?
中々他人を褒めないルディアがなぁ……。
《ウルサイよ。それより、亜人を片付けるんでしょ》
あーあ、拗ねてしまった。
ちょっと子供っぽいんだよな、ルディア。
まあ、確かにそれはそうだ。今意識を向けるべきは亜人の方だろう。
そして──
──パキン。
また、ガラスが割れるような音。ガラスにひびが入ったような、甲高い音。
今回はアラベルも聞こえたようだ。
「これって……」
「あぁ、アラベルも聞こえたか? 来るぞ、多分」
俺がそう言ったのとほぼ同じタイミングだろうか。俺とアラベルの前方の空間が、ガラスのように罅割れた。
罅はどんどんと広がり、ヒビの向こうに極彩色の空間が覗く。
そういえば、亜人出現の瞬間を見るのは初めてだったな。
その極彩色の空間から、顔というものを物理的に認識できない気色の悪い人型生物がぬっと出てきた。それに続いて、同じく顔というものを認識できない気色の悪い獣型生物も。
合わせて、総勢三十以上。
対してこちらはたったの二である。
アラベルの強さが未知数だが……何というか、馬鹿に見えて意外に鋭いというか。俺の目的──なぜ力を隠そうとしているのか、その先に何があるのか。それを全て見抜いた上で協力してくれているような雰囲気だし、隙を見て俺を捕らえようみたいなのは無さそうである。
全面的に、協力的だと、そう見るべきだ。
どこまで協力してくれるかも未知数だが、ここは信じてみてもいいかもしれない。久しぶりの大博打である。
であればここは少し下手に──
「アラベル、好きに戦ってくれ。合わせる」
「おっ、いいじゃん! アタシに合わせてくれんだ? いいねいいね! ──じゃあ、アタシ、思いっきりトばしちゃうけどいい?」
………ん?
『思い切りトばす』……?
あの……この子は一体何を言って……? いや別に、言語的に理解できないとかそういうわけではなく、単純に何言ってんだコイツは? って事で……。
言い訳してる場合じゃない。ちょっと止めなきゃヤバイのでは──
「王威鎧装!」
瞬間、アラベルの全身が光に包まれた。光は徐々に形を帯び、ベールを脱いでいき、そして──
赤く、ステンドグラスのような神秘的な光を放つ細身の鎧が、アラベルの全身を覆っていた。トレードマークの赤頭巾も無くなっている。
「そして~~? 王武召喚!」
瞬間、アラベルの前方に二つの光が現れた。その光は徐々に形を帯び、ベールを脱いでいき、そして──
それは、二丁の巨大なドローン式の銃へと変わった。
「行くよ、プログレス、アドバンス!」
ん? 英語?
プログレスと、アドバンス。両方「進歩・発展」という意味だった気がするが……もしかするとこの世界には、英語の概念があるのかも? そういえば、前の世界でもそんな事があったような……。
違う世界で同じ言語文化が存在する何て有り得るのか……? 全てはファンタジーの話だから、別に無いとも言い切れないが……そういう系のお話では、こういう言語文化って同郷の異世界転移者とかを探すヒントにしたり、その人と自分専用の暗号になったりするもんじゃないのか?
同じだったら、それも出来ないし、色々破綻するのでは……。いや、現実とそういうのをごっちゃにしてもって話だが……。
異世界転生を経験したせいで、そういう漫画の話も有り得るのではと思ってしまった。
「あっ、役者はまだいたね」
「ん?」
「──戦用獣機召喚」
「なっ!?」
アラベルも使えたのか!? 俺も使い方知りたい……。
って、羨んでる場合じゃない。アラベルが召喚したのは──
「キュウッ!」
愛くるしいシルエットに、長い耳。もふもふの小さな尻尾。
……ウサギだった。動物園とかで見るあのウサギより一回りも二回りも大きいが。大きめの猫なんかよりずっと大きい。
「……う、ウサギ?」
思わず、そう呟いてしまった。
だってそうだろう? 初見の〝戦用獣機召喚〟で召喚されたのがデカくてカッコイイ恐竜だったのに、二度目がウサギだぞ? 温度差で風邪ひくわ!!
まあ……感想を言うとすれば、〝かわいい〟しか出てこないんだけど……。
……本当に戦えるのか?
「あーっ! 今、『本当に戦えるのか』ーって顔したでしょ!!」
「普通のごく一般的な反応だよ!!」
「さては一回目がリリス姉ちゃんのオーガロイドで、アタシのがこの子だから温度差感じてるな!?」
「その通りだよ、それ以外あるかよ!」
「ぐぬぬ……アトロス! コイツに目にもの見せてやろう! アンタがどんだけ恐ろしいのか、アヴラージュに見せてやって!!」
闘争心に火をつけてしまったようだ。
まあ、アラベルみたいな元気百億倍っ娘はこんな感じの方が都合よく動いてくれる。このくらいが丁度いいだろうし──
「行っけ~~~っ!!」
アラベルが叫ぶ。
亜人と亜獣の視線を集め、僅かながらに生まれた隙。
俺は目を離さない。視線は外さない。その隙を寸分の狂い無く突くように──
「シュッ」
空気が駆け抜けるような音がそのウサギ──アラベルの言う〝アトロス〟の喉から発せられた気がしたすぐ後には、アトロスはその場から消えていた。
「エヌル…ハル……ヌギウル──ッ!?」
亜人の中の一体の、心臓のある部分。そこに、大きな穴が空いた。その亜人は倒れて塵になり、死んでしまった。
一体。
また、一体。
死人はどんどんと増えていく。
「隴ヲ謌呈?蜍「繧貞叙繧……!」
亜人の一体──その中でも特に異質な気配を持つ個体が発したその一言で、亜獣の全てが一斉に動き出した。
その結果、死人の連鎖が止まる。止まったその場所にいたのは──
「キュウ……ッ」
「なっ──!?」
アトロスだった。
気を抜いていたとはいえ、まさか俺が目で追えないほどの速度で移動した上で亜人達を正確に仕留めていたとは……。
「むっき~~~~っ! 毎回、指揮官亜人に止められる!」
「指揮官亜人?」
「ん……亜人部隊の中でも、ずば抜けた知能を持つ特殊個体! 見たでしょ、一体だけ塵にならない個体を」
「あっ……」
そうか……意思も自我もなさそうな亜人が何の目的でと思っていたが、指揮官がいたわけか。部隊の統治統制を行う指揮官が……。
だが、謎と言えば指揮官亜人もだ。何の目的で……?
「キュウ……」
「惜しかったね、アトロス。でも後はアタシと……この、アヴラージュに任せて!」
「キュウッ!」
返事をしたアトロスは、光になって消えた。
アトロスの使い道は、宛らチェスのポーンだな。単純な性能と戦術だが、初手で動かせば強力な効果を生む。戦場を有利に運ぶ為の駒だ。
そして、ポーンと言えばナイト。
ポーンの作った有利な戦場を活かし、敵に一撃必殺を叩き込む。
「ああは言ったけど……ごめんね、アヴラージュ」
「え?」
「君の出番──無いかも!!」
そう叫び、アラベルは自身の周りに浮遊していた二丁のドローン銃〝プログレス・アドバンス〟の銃口を亜人・亜獣達に向けた。
「少しでもアタシのアトロスに攻撃を許したんだ! その時点で、アタシの『準備』は始まっている! そして……攻撃を止めたその時、アタシの『準備』は終わっている! これが、幾度となく亜人達を屠り去ってきた必勝戦法!」
──最強のナイトによる、チェックメイトだ。
流石にこれは……勝っただろ。
「やったれアラベル! 最強のナイトで──」
「うんっ! 最強のナイトで、最強の一撃必殺!!」
銃口に、眩いエネルギーが収束した。
それは明確な殺意。純白に輝く純粋な殺意として──
「ドローン式多層光核投射機構銃A&P:最大充填!! 冥途の土産にくらいやがれぇっ!! 超克突破多層光核砲ぉ──ッ!!」
前方に広がる亜人・亜獣群に対してぶっ放した!!
──ぶっ放した?
あれ、やばくない?
これってさ、威力やばすぎて周りがボロボロになるやつじゃない?
《うん……威力が強すぎて周りも吹っ飛ばしちゃう、あるあるの展開だ……》
俺の精神世界のルディアも冷や汗を流している。そして青ざめている。
こうなると予測というより確信だ。これはヤバイ。
《……仕方ない。いざという時まで残しておきたかったけど、使うしかないようだね》
お?
その口ぶりだと、この状況をどうにかする一手があるんだな?
《ああ。とびっきりの力業がね》
ち、力業……。
ちょっと不安だが、今はそれに賭けてみよう。
肉体主導権を渡せばいいか?
《うん。それをしてくれればどうにかするよ》
俺はそれを聞くなり即断即決で肉体の主導権をルディアに明け渡した。
「……」
状況は把握しているので、ルディアに迷いはない。アラベルが放った〝超克突破多層光核砲〟の射線上に超速で移動し、何かを発動させる素振りを見せる。
「終響結界」
展開された器状の結界に、超威力のエネルギー光線が受け止められる。
どうやら、結界に衝突したその瞬間からエネルギーが消失しているようだった。
「えっ!?」
見覚えがあるな、この現象には。
それは……そう、忌まわしきシャムとの戦闘時。
シャムの魔力を概念から削る、エンドマーク。そういえば展開された結界も、闇色の光を放っている。
それから数秒して、エネルギー放射が止まり、必然、エネルギー消滅も止まったのだった。




