第69話 アン・コントロール・破天荒ガール!!
…………。
開いた口が塞がらないというのは、こういうのを指すんだろう。
マジに唖然としているとも。
シュトルツあの野郎、何なんだよ! 何であんなに強いんですか? 調整ミスってんだろ!!
《ちょ、調整? 何を言っているかわからないけど……》
ん、それは別にいいんだ。
それよりも、問題はシュトルツの力だ。
《どうかしたのかい?》
どうもこうも、わかんねーのか? シュトルツの力、明らかに増してるだろ。それも単に威力だけ上がったわけじゃなく、速度や正確さも……。
《よく視ているねぇ……》
お前が見てなさすぎなんだよ!
まったく……。
「どうした?」
おっと、流石に凝視しすぎたか。
シュトルツはめちゃくちゃ視線に敏感だ。あまり見すぎるとバレる。
「いや、何も──」
「わかったか? 変わっているだろう、俺の力も」
──っ!?
こ、こいつ、まさか!?
「……お前、まさか自慢する気で……」
「何の事だか、人聞きの悪い」
すれ違い際にそんな事を言って、リリスさんの方に向かって行ってしまった。
シュトルツもするのか、自慢とか。いやいやその前に、ちょっとドキッとしたな……。シュトルツもシュトルツでイケメンなのだ。ルディアは美少年と言った感じだが、シュトルツは美丈夫……男でも惚れかねないようなイケメン度だった。
《シュトルツのやつめ、どこでそんなテクニックを……》
お前は何と張り合おうとしているんだ?
ま、いいや。変な竜は置いといて……問題は、この亜人・亜獣とかいう──
「何を企んでいる?」
「はっ!?」
いつの間にかリリスさんが背後に立っていた。
一体だけ塵になっていない死体があったので気になっただけなのだが……流石に意味深すぎたか?
見てみると、シュトルツが少しニヤッとしていた。アイツだろう、チクったのは。どんなチクり方をしたのかは不明だ。が、俺の分が悪くなるような事は言うまい。であれば──
「っ……はいはい、ちゃんと戻ります」
さしづめ、門限間近ってところだろう。そろそろ帰れと、母親から急かしの連絡が来る感じだ。
「何をやっている、お前は?」
「悪い悪い、ちょっと気になる事あってさ」
「わかっているとも。しかし──……あまり、怪しまれるような行動は慎んでくれ」
なぜかシュトルツは、俺の耳元で言った。念話で話せばいいものを、どうして──
《違和感を嫌ったんじゃないかな。今の戦闘で、ボク達は彼女らに無いであろう技術や能力を披露しただろう? 実は念話を使っている間は、意識が二分割されるせいで動きが少しぎこちなくなるんだよね。そうなれば……うん、あとは言わなくてもわかるだろう?》
確実に怪しまれるな。なんかしてるって思われる。
納得だな。
「ああ、わかった」
あまり会話を長引かせてもあれなので、俺は短く答えたのだった。
◇◇◇
少し時間が経って、俺がいた世界で言う〝鑑識〟のような人達が駆け付けた。俺とシュトルツ──主に俺だが──は、リリスさんに少し無理を言って現場に留まらせてもらっている。
やはり気になるのだ、一体だけ、塵にならなかったのが。
しかし、なぜだろうか? 鑑識さん方は、そこまで不審がったり、驚いていたりする様子はない。訓練されているのか、それとも──
「……毎回そうだ」
「え?」
「毎回、一体だけ、塵にならない死体がある。……はぁ……君達に情報を提供するのは嫌なんだがな」
「そんな事言わずに! もっと情報をくれたっていいんですよ!」
「君達が敵対存在でなければな。そうであれば、喜んで提供するとも。君達の実力は、先ほどの戦闘を見て嫌というほど理解している」
何だか圧をかけられたような……。
《うん、そうだね。ボク達の事をずっと監視ているぞって、そう言われているんだよ》
ああ、うん、そう甘くはないよな、うん。
もう少し近くで観察したいものだが……。こうも遠いと、解析もクソもない。
「もう少し近くで見せてくれたりって……」
「無理だ」
「っすよね……」
やっぱダメか。
とすると──
って、あれ?
「なあ、シュトルツ」
「あ? 今度はどうし──」
「あんな人、いたか?」
俺の視線の先にいるのは、少しぼさぼさの髪が帽子からはみ出た、眼鏡をかけた男。
「確かに見覚えはないが……」
「馬鹿を言うな。全員が試験を乗り越えた凄腕の鑑識だ。不審な者が入り込んだ事を心配しているなら、その心配は無用だ。あり得ない」
そう、か……どうにも引っかかるんだが──
「──っ!?」
その男と、目が合った。
背筋が凍る。凄まじい悪寒を感じた。
これは……そう。今では懐かしい、あの──
「アヴラージュ? どうした?」
「えっ? あ、ああ……大丈夫だ、何でもない」
…………。
なぁ、ルディア。この感じって……。
《ああ、本当に懐かしいね。トランキール……ボク達の運命の、最大の分岐点。ルシェールとの戦闘──》
アイツの目つきに似ていた。あの、不審な男の目は。
根拠のない不安が、俺の頭をめぐっている。
根拠こそないが、確信している。
これは、何かマズい事が俺達の知り得ぬ処で蠢いているのだと……。
◇◇◇
「よ~っすよっす姉ちゃん!!」
俺とシュトルツの雰囲気がピリピリとしている中、そんなノーテンキな声が現場に響き渡った。野次馬か何かが来てしまったのだろうか?
背後からしたので振り返ると、なんとも〝ギャル〟な女の子が立っていた。
眩しさすら感じる金髪は溌剌な元気を秘めていて、赤い瞳は果てのない荒々しさをその色に宿していた。耳や下唇にはピアスがついていて、マントのついた赤ずきんの下には露出度の高い黒鎧が見える。
……いや、待て待て。これはモロ──
「赤ずきん……?」
《……だね、これは。モロ赤ずきんだ》
だよな?
モロそうだよな?
「は?」
「シュトルツには伝わんない? まあ、お前そういうの疎そうだしな。赤ずきんって童話があんのよ」
「そうか……」
「赤ずきん? そうそう、赤い頭巾ね! これアタシのトレードマーク! 覚えといてね!」
「あー、うん。わかった」
うん、雰囲気通りの元気っ娘って感じだな。破天荒な感じが窺える……。
「おい、馴れ合いはよせ。そして待て。アラベル、何をしに来た?」
「そりゃあ、姉ちゃん達が戦ってるって言うからさ! チョー楽しそ……じゃなくて、これは助太刀に行かないとって思って!!」
何回か本音が出かかってるな。超楽しそう、だって?
もしかしなくともこの感じは……。
「なあ、シュトルツ」
「あ?」
「お前と気ぃ合いそうだな」
「うるさい、黙れ」
事実だろうに。
戦闘狂同士、ちっとは気が合いそうなもんだが。
「あーっ! 何コソコソ話してんのさ! アラベルちゃんにも聞かせろし! てかアタシ〝アラベル〟ね! アラベル・ロワイヨーム! 覚えてってね!」
アラベル・ロワイヨーム。メイズさんと同じファミリーネームだ。つまるところ、この人も──
「はぁっ、はぁっ……」
お?
なんかもう一人来た。
長い白髪に黄緑色の美しい瞳を併せ持つ美女。俺の語彙力を以て表すならそんな感じか。
「ご苦労だったな、オリヴィエ」
「はひ……流石に慣れっこですが……この疲れには……はぁ、はぁ……」
何だかお疲れのご様子…。
「姉ちゃんも来たの?」
「ええ、貴女を止めにね。けど無駄だったみたいね。あなた魔術効かないから……」
「へへん」
「だからって独断で行動していい訳ではないです! もっと反省しなさい!」
「は~い」
「まったく……。あら、お姉さま、そちらのお二方は?」
おっと、俺達に話題が移ったか。
アラベルさんを叱っていた様子から察するに……というか、アラベルさん自身もこの人を「姉ちゃん」と呼んでいたし、まずこの人もお偉いさんで間違いない。
「ああ、今紹介しようと思ったところだ。二人とも」
「あ、はい。俺はアヴラージュって言います。よろしく」
「シュトルツだ」
「アヴラージュに、シュトルツ! 超イカした名前じゃん! よろしくね~! アタシの自己紹介はもうしたし……そうなると、次は姉ちゃん?」
「ああ、もうしたんですね。つくづく、来るのが遅すぎました……。それはいいとして、ワタクシはオリヴィエ。ここ、ノール北方政府の州知事です」
やはりか。
そうなるとアラベルさんが副知事──
「何を言っているんですか? そんなわけないでしょう。この子が州の副知事にでもなった暁には都市と政治が崩壊しますよ」
あ、ああ……。
俺の想定を遥かに上回る勢いで、アラベルさんの破天荒さはヤバイらしい。
会議系を無断欠席は当たり前、そもそも仕事をしない……と、苦情はもっとあったがとにかく何もかも自由なので政にはトコトン向いていないようだ。
「なまじ実力はあるので、軍には向いているのですがね……それがこの子の自信を裏付けてしまっているというか、歯止めを緩めてしまっているというか……」
ああ、超破天荒で自由な奴にありがちな〝無駄にある才能〟な……。そういうやつは宥めるのとかが超大変なんだよ、破天荒さに比例して。
そんな感じで話した。
すると──
「ああっ、わかってくださいますか……! そうなのです、大変なんですよ。この子ったら何回言っても凝りやしないので……この子の教育兼管理係をワタクシに押し付けたどこかのお姉さまに何度も文句は言っているのですがね」
そう言って、一瞬だがリリスさんを睨んだ。その視線を受けたリリスさんはビクッとして、数瞬止まってから鼻唄を歌ってごまかした。
こういうのも〝姉〟……というか、姉妹関係にありがちなやつだ。姉や兄、上のやつが面倒事を中間の子に押し付ける……子供の多い家庭にこそありがちな、ちょっとした──当人達からすれば〝ちょっとした〟ではないだろうが──トラブルである。
そんなこんなあったが、俺とシュトルツは無事に、ノール北方政府の州知事達と邂逅した。




