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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第4章 魔界動乱編
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第68話 戦闘実験まで傲慢に

「どこまで耐えられる? そもそも、オレの攻撃は通じるのか?」


 シュトルツはこう言っているが、シュトルツの持つ権能(チカラ)を鑑みるとすれば──


(オレならば、エルピス達が殺してくれたフェレライの『暴食の泥沼(グラトニーマイア)』を使えば何の苦労もなく消せるんだろうが……それをしてはいけないな。まったく面倒なものだ、異世界というのは)


 亜人・亜獣総勢十体による連携の猛攻を搔い潜り、受け流しながらそんな事を考えていたシュトルツである。傍から見れば大ピンチだろうが、シュトルツからすればピンチでも何でもない。

 なぜならば、シュトルツの権能は最強だから。


「フン」


 まず、亜獣の一体。その腹部に強烈な膝蹴り。

 それに動じず向かってきた亜人の一人の胸を、蹴った亜獣を踏み台にして跳躍しながら殴りつける。基本的な物理攻撃だ。しかし、それによって与えられる衝撃は相手の内部を破壊する。

 シュトルツからすれば、相手の体内に破壊する臓器や急所があるのかどうかも分からない。だが、別にそれはどうでもいいのだ。この戦いで確かめればいいのだから。

 それよりも、シュトルツの興味を引くのは──


(何だこれは……微かだが、何か違和感を感じる……。オレが勘に頼るなど信じたくはないが、何か……)


 シュトルツの肉体及び五感は、この世界に転移した直後から既にこの世界環境への適応を開始していた。この速さは、シュトルツが最も苛烈な環境──人魔大戦後や、その他熾烈な戦いを潜り抜けて来たためである。

 もうこの世界に馴染み、違和感とは無縁の肉体となっていたのだ。そんなシュトルツは──


(亜人・亜獣と言ったか……コイツ等、この世界の生命体か?)


 ──そんな疑問が、シュトルツの脳内を巡っていた。


(まあ、それはいい。今すべき事は戦闘実験だ)


 この世界環境に適応したと言っても、この世界の情報は流石のシュトルツでも何一つ知らない。魔法のような技術体系が存在するのかもわからないこの世界で、魔法や能力の類はほとんど使用出来ない──はずだったが。


「フィエット!!」


 ──アヴラージュの叫び声が聞こえた。


(アヴラージュ!? 何を考えている、アイツは!? 今の叫び声から推察するに、あの魔剣の召喚……つまり、『喋る武器』と『武器の召喚』という、二つの爆弾を一気に落とす気なのか、アイツは!?)


 それだけは死んでも阻止せねば──と、使命感に駆られるシュトルツだったが……。


(いや、アヴラージュは既に呼んで(・・・)しまっている。ここから止められるのか? オレがあの剣に語り掛ければ……いや、オレの話を聞いてくれるとも思えんし、戦闘中に聞こえた声色や口調から推察するに精神は未だ幼い……それでもアヴラージュに従っているのは、アヴラージュの関係者の魂を使用した〝知性ある武器インテリジェンスウェポン〟だからか……。どちらにしろ、オレでは無理だろう。ルディアならば、まだ──)


 と思ったが、ルディアはアヴラージュと融合している。向こうから『念話』してくれるならまだしも、シュトルツ側から出来るのかは不明だ。もしも一方通行だった場合──


(無駄に時を消費する事になる。召喚を阻止するとなれば、ゼロコンマ一秒も惜しいというのに……。クソ、大変な事をしでかしてくれたな、アヴラージュ!!)


 シュトルツの頭の中で幾つかの解決策が浮かぶが、少し考えればそれらも不可能だと思えた。加えて、これ以上時間を消費してもいい案が浮かぶ気すらしない。

 これ以上は無駄か──と考えたシュトルツは、最も原始的であり最も単純な策に打って出た。


『アヴラージュ、待──』


 思念の声をかける事でアヴラージュ自身に語り掛け、止める。

 先刻から、この世界の文明及び技術が自身の世界より劣っている前提で考えていたが、手の内がバレると大変なのは進歩していた時も同じ。大体、どの程度のものか、大まかな内容すら知らないのだ。移動中に聞く手もあっただろうが、聡明であろうリリスがそれを話すとも思えない。

 なのでシュトルツは、それを知る機会はまた後でと思っていたが──


(届くか、今更!? アヴラージュが叫んで、もう一秒近く経とうとしている。こうなると、フィエットは召喚一歩手前辺り……)


 思念を飛ばす最中でそこまで考えていたシュトルツだが、飛ばしていた思念が止まってしまう。

 理由は明白だ。


(……クソッ)


 その悪態を口にこそ出さないものの、流石に苦虫を噛み潰したような表情になるシュトルツである。

 しかし、その悪態は自分に向けられたものだった。

 アヴラージュがあの剣を持ち出すのは、容易に想像出来たからだ。アヴラージュが呼び出そうとする、その前から。

 亜人・亜獣に、打撃は通用しない。

 斬撃はわからない。シュトルツは打撃一筋なので、そもそも斬撃武器を持ち合わせていなかった。今回は自ら戒めたとはいえ──


(……オレがアヴラージュの立場なら、確かに(ソレ)を使っていた)


 シュトルツであれば、迷わず試すだろう。なまじ出来る事の多いシュトルツである。それのほぼ全てが使えないとなれば、確かにその(カード)を切るだろう。


(もういいか。オレ自身が定めた条件(ルール)とはいえ、もう面倒だ。アヴラージュが使ってしまっては、共にいたオレも必然、詰められるだろう……)


 面倒になるのが確定したならば、もう面倒を恐れる必要はない──そのような理論武装を完了したシュトルツは、アヴラージュより先に手加減をやめる。



   ◇◇◇



色欲の花(ラストブルーム)


 まずシュトルツが試したのは、『色欲』の権能による精神汚染。

 これをする目的は、主に相手に意思が存在するかの確認である。存在するならシュトルツの配下となるし、ないにしても有益な情報となる。はたまた、その情報を使えばメイズ達との交渉なんかにも使えるかもしれない。

 シュトルツにとっての優先順位は高かった。

 そして、結果は──


(動きが鈍った……! 意思が完全に存在しないわけではないようだ。しかし、効力が薄いのも事実……。それはこの世界の力ではないからか、それとも……。どちらにしろ曖昧だな。わかっていたとはいえ、あまり有益な情報は──)


 いや、違う──と、シュトルツは思い返す。

 シュトルツの兄にも当たる、ルディア。その母の名が、プリヴァシオン。

 プリヴァシオンは、世界の創り手。アヴラージュ風に言うのならば、創造主(クリエイター)。彼女が最初に創ったのがシュトルツが元居た世界であり、そこから分岐して生まれた数多の世界──例えば、シュトルツ達が今いる世界など。

 そうして分かれていったが……分岐しただけで、世界の根本原理は同じなのだ。

 それに加えて、シュトルツの力は全世界に共通の『感情』に関する概念を司ったもの。それがイマイチ通用しないという事は──


(意思が微弱、または曖昧……)


 ──必然、こういった結論に辿り着く。

 何も情報を有しないこの世界で、この世界における〝外敵〟の情報は値千金である。この情報が切り札になり得るかは、この世界の存在──例えば、メイズやリリス達──がどこまで亜人・亜獣の事を認知しているかによる。

 しかし──


(これはやはり、値千金の情報。連中からしてみれば、亜人・亜獣は完全に意思を持って行動する〝外敵〟だろうが──)


 意思が微弱、または曖昧。という事は、自分の意思というものが限りなく小さいという事。

 外敵は外敵なのだが、要は──


(コイツらは、もっと大きな〝敵〟の、言わば雑兵。自分の意思で行動し、破壊しているように見えるが、その実意識は微弱。つまり事前に仕組まれ(プログラムされ)た指示に従って動いているか、または何者かの指示を受けているか、更に言えば現在進行形(リアルタイム)で指示を受けて操られているか。どちらかだな)


 後者であれば、敵の居場所を特定する事も可能か──と、シュトルツは考える。

 この世界にそういった技術があるのかどうかは不明だが、敵に〝意思〟があるのかどうかを調べるのは、敵の精神に働きかける『色欲』の権能が一番。測る機会もないのだから、そういった技術はほぼ無いと思っていいだろう。

 で、あるならば──


(やはりこの情報は値千金、連中に対する切り札になり得るな)


 内心ニヤつくシュトルツである。


(もう少し調べていたいが、流石に怪しすぎるか。これ以上力を見せびらかすわけにもいかんし、さっさと終わらせよう)


 少し舞い上がりそうになっていた心を一瞬で鎮めたシュトルツがそんな事を考えた。

 同時刻、アヴラージュも殲滅行動に移ろうとしている。

 今が一番いいだろう──と、シュトルツはそう考えるのだ。


()(ばな)


 シュトルツより先に動いたのがアヴラージュ。

 炎を纏った、幾重にも折り重なった超連続斬撃が放たれる。それは、読んで字の如く『華』のように美麗だ。

 アヴラージュの攻撃により、その場の十体が斬り捨てられた。

 そして、戦場に残ったのは──十体。


(アヴラージュめ、気が利くじゃないか。オレの分をキッチリ残しやがった)


 アヴラージュ自身と何度も戦っているシュトルツだからわかるのだ。アヴラージュが本気(ガチ)本気(マジ)ならば、少し時間はかかれど戦場の亜人・亜獣全てを斬り伏せる事も可能。

 それをしなかったという事は、シュトルツの分を残してくれた──という、若干甘い想像であった。本人からすれば面倒だったからぐらいの理由しかないので台無しである。


「あ、ああ……」


 シュトルツの近くで、正に〝開いた口が塞がらない〟といった様子のリリスが硬直していた。


「……これぐらいで驚いていたらこの先、アイツとはやっていけないぞ、リリスとやら」

「ええ……? とんでもないぞ、アイツ。なんだ今の速さは。とても魔界人類の動きとは思えん……それこそ〝ヤツら〟と同じ……」


 ヤツら? ──と、一瞬だけ疑問に思ったシュトルツだったが、すぐに振り払った。今はそれについて考えている場合ではない、と。


「時間が惜しい。一網打尽だ」


 シュトルツが、そのまま攻撃行動に移ろうとしたところ──


『おいシュトルツ』

『む? どうした、アヴラージュ』

『亜人・亜獣共通の弱点を、一応は共有しとく。弱点は──』

『脳と心臓だな。というより、生物における主要器官であるその二つのどちらかを破壊すれば殺せる。違うか?』

『ああその通りだよ、なんでわかんだよ。見てたのか?』

『当たり前だ。戦場の観察は怠らない。それに、弱点がわかるならば早いな。流石に、全身を消し飛ばすほどの出力を出すわけにもいかん』

『そんだけの出力あんのかよ、マジこえーって』

『そうか』


 短く返事したシュトルツは、アヴラージュに深く聞くまでもなく殲滅行動に移った。


「シッ──」


 短く呼吸し──そのひと呼吸で、亜人・亜獣計十体の頭部を砕き殺害。それぞれ一撃で全てを終わらせる、万物破壊の十連撃──


「──傲禍拳乱(プライドフィスト)。見切れるはずもないさ」


 傲慢の暴威が、怪物の命を貫く。

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