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最終楽章 悪魔の微笑




最終楽章 悪魔の微笑



■/□/■/□/■/□


「任務完了~」

 やけに間延びした声がする。

 白い雪の上に、赤いものが舞っていて、場違いながらもきれいだなんて思ってしまった。

「……うぅ……」

 うめく声しか出せない。

 それもそのはず、シーラハンド王子が殺され、わたしを庇ったシダさまが殺され、そして嘆く暇も与えられず、わたし自身も出てきた男に腹部を刺されたのだから。

 うまく呼吸ができない。涙が出てくる。

 悔しくて。悲しくて。残酷で。

「うーん」

 さきほどから頭上でなにやら唸る男。わたしを刺した男。

 ああ、どうせならひと思いに殺してくれればいいのに。

 どうせ助からないなら、殺せばいい。苦しみたくなんてない。

「お嬢サン? あなた、死にたいデスカ?」

 ばっちりと目があった。きれいな、コバルトブルーの瞳。

 男は、かがんでわたしと目を合わせると、ずいっと二輪の花を差し出す。

 顔を歪めながらそれを見れば、赤い薔薇とアネモネであることがわかった。

「どうなんデスカ?」

 さらに男はニヤリと笑う。

 ええ、そうよ。わたしは、死にたい。死んで、彼らとともに。

「生かしてあげまショウカ?」

 コバルトブルーの瞳が、光った。

 いいえ、わたしは――。

「死にたく、ない」

 口をついて出たことばは、正直だ。涙がぼろぼろとこぼれてゆく。

「い、生きた……い……死ぬの、は、怖……い……」

 必死で言葉を紡ぐ。

 すると男は、さらに満足そうに笑った。

「貪欲ですね。彼らとは大違い……」

 ぐしゃりと二輪の花をつぶし、その赤い花弁をわたしへ振りかける。


 白い雪が天から降ってきた。赤い、血のような花びらとともに。


「いいでしょう。では、お嬢サンの瞳をくださいな」

「え……」

「代わりに、きれいな海のような、そんな瞳をさしあげます」

 男はからりと笑う。

 なんだか、安心した。徐々に身体から痛みや苦しみが消えていくのがわかる。

「彼らの生命イノチを、あなたにあげましょう。そうして生きながらえて、ワタシの駒になってください」

 こくん、と頷く。『彼ら』を示すのが『双子の王子』であると知っていながら。

「彼らを……どうするの?」

 黒い翼と白い翼をもった、天使のような王子たち。わたしが彼らをぼんやりとながめながら尋ねると、男は目を細める。

「第二王子の死因は事故死ということになります。亡骸はきちんと城まで運びますので、平気ですよ」

 男はつづける。

「ああ、それから、あなたも死んだことになります。いいですよね?」

 わたしは、魔法にかかったかのように、すぐに頷いた。

「それから、あなたはエナーシャの妹として、国へ帰る。お父上たちには、ワタシの魔術でそう錯覚させますけれど?」

「構わないわ」

 彼は、くつくつと笑った。

「ああ、実にスバラシイ! あなたはワタシの人形にふさわしい!」

 笑い声が、耳につく。

 身体はもう動かせる。嘘のようだ。先ほどまでの苦しみもない。腹部からの血はきれいにとまっていた。


 彼らのいない世界で、彼らの命を糧として。

 わたしは、生きていくんだわ。

 だって死ぬのが怖い。暗闇に堕ちていきそうになったとき、たまらなく怖かった。

 ひとりだと、そう思った。

 怖い、死にたくはない。


 わたしは、ずるいでしょうか?




 ふと、彼らの倒れる亡骸へと目を向けると、その傍らに転がる、黒みがかった紅い本が落ちていた。赤い血でぬれた、その、本。

 わたしは手にとり、ページをめくることなく抱きしめる。


 滅びの唄、リタレンティア――わたしはそれに魅入られていた。残酷なものが、うつくしいと思って。

 だから、惹かれたのよ。

 はじめて“彼ら”を見たとき、うつくしいと思ったの。朝日を浴びた、黒い髪。葡萄色の神秘的な瞳。

 その背にはえて見えた色違いの翼すら、悪魔のようで天使のようだと、目を離すことができなかった。


 ぼんやりとした意識のなかで、わたしはこの本を燃やそうと、そう、思った。













 * * * 



 悲しみは、消えないの。

 生きていても、苦しくて。


 庭に咲いた薔薇とアネモネ。

 いつも思い出すのは、白い雪が赤く染まる、うつくしくも残酷な光景。


 心はいつも、悲鳴をあげていた。





「さあ、エナーシャ……いや――」


 いったん言葉を切り、男はわたしの手をとる。そうして、ゆっくりと口をひらく。

 彼の瞳が、ワインレッドの色を帯びた気がした。


「おいで、シャルロ」



 今、行くわ。

 あなたのもとへ。

 あなたたちの、もとへ。



 わたしは、ゆっくりと。

 ゆっくりと、微笑ワラった――。







おつかれさまでした!

まずはここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!


こちら、【王国の花名】の外伝となるわけですが、いかがでしたでしょう。

今回はドロドロを目指しつつ……ちょっと恋愛っぽくしたんですけれど。(汗


本当は、エナーシャはもっと嫌な性格の女になる予定でした。笑

でも、なんだか……愛くるしさを求めてしまいました。。

それにやっぱり、シーラハンドとシダを殺害するのは苦しかったです。

はじめから決めていましたけれど、やっぱり、すごく、つらかった。


当初の予定よりちがった風になったところも多々あります。

特に、『謎の男』については笑

彼がどうして『シダ』と名付けたのか、どうでもいいような理由もあるのですが、それはまた別のお話。


このあと、また本編の第三部とリンクしていくと思うので、

どうぞ【王国の花名】もよろしくお願いいたします。^^


他に関連作品として他の外伝などもございます。

またちがった視点・時制から、リタレンティアの世界を楽しめるのではないでしょうか?^^



では、長くなりました。

ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました!


(2010/09/20:書き終わり)



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