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 空は暗雲、雨降りしきり、憎っくき宿敵ハートを睨む。


 キャロもメテオもエリスも操られた。


 だけど、まだハピアが生きてる。オレに声をかけてくれた。


 幻聴かも知れねえ。それでもオレは諦めねえ!!


「まだ足掻く力が残っていたか!」


 メテオ! 足掻くどころじゃねえ。今のオレは小さな風獣だが、速さなら負けねえ!


 小柄な愛犬ボディに風魔法のスピード形態で、お前らには見えない速さで動いてやるわ!!


「おやおやぁ〜? 往生際の悪いワンちゃんですねぇ。そういえば一度目もしぶとく逃げましたねぇ〜」


 うっせ!! 逃げても良いが、キャロ達は返して貰うぞ。結界で包んでお持ち帰りしてやる!!


 駆け抜け、襲い来るメテオの雷炎を躱す。


 エリスの重力魔法がオレの走った後に飛来する。


 そんな遅くて、オレが捉えられるかよ!!


 生まれた日から走り込み続けてんだぞ!


「あらあらぁ〜。大変な生き方ですねぇ〜。ですが、この国の民全員から逃げられるとでも?」


 起き上がったハート教の奴らが、駆け回るオレの前に立ち塞がる。


 前門の民衆、後門の操られた仲間たちってか。


 いや、民衆の様子がおかしい。


 何人かが突然、地面に膝をつき呻きを上げる。


「あらまぁ〜、このタイミングですかぁ〜」


 ハートが溜め息と共に呟く。


 何だ? 動き回って病気が悪化したか? 家で寝てろ!


 戸惑う民衆の間を縫い、逃げようと走り出す。


 今は逃げを選ぶ、これは作戦なんだ。作戦を考える時間を練る為の作戦だ。


 どうにかキャロ達を元に戻す作戦を考えろ!!


「「「うぅぅぁああぁぁ!!!!」」」


 瞬間。呻いていた民衆が叫びを上げ、その声でオレは足を止める。


 な、何……?


 考える間もなく、奴らに変化が訪れる。


 体から血が噴出する。肌が茶色く濁り、ボロボロと皮膚が崩れ、真っ赤な血肉が露わになる。


 え、え……!? 何ですか……?


 奴らの変化は止まらない、骨が折れるようにゴキゴキと音が鳴り、骨格までもが変わっていく。


 それは、まるで魔物。クリーチャーと言った方がニュアンスは正しいのかも知れない。


「おめでとうございます〜。あなた方はアンデッドの強者、魔物へと進化を遂げましたぁ〜」


 ハートがパチパチと拍手しながら楽しげに告げる。


 進化……。人間が進化だと……!? てゆーか魔物に進化とか……、良いのか? さっきメッチャ苦しんでたじゃん!


「キシャアッ!」


 奴らの一体が舌を伸ばしてオレへと突進してくる。


 ハァ!? 舌なっが! 人間じゃねえよ! グッロ!! 何がキシャアだよ!!


 俊速で動き、その突撃を躱す。


 だがそんな物をじっくり見ていたオレの体が、炎撃によって吹き飛ばされる。


 くそ……! メテオか……! 何冷静に攻撃してんだよ! 今のグロさ見て何とも思わねーのか!! てゆーかもっと不思議がれ!


「おい……、何だよコレ……!」

「俺たちも、あんな化け物になっちまうのか……!?」

「嘘だ……、俺は信じねえ! あんなの何かの間違いだ!!」


 未だ人の姿を保った大多数。それらが口々に呟く。


 あ、あなた方的にも……、予想外なんですね。少し安心しました。


 考えつつもオレはメテオの攻撃を躱していく。


 油断して無ければ、今の最強モードなメテオにも遅れは取らん! 速さだけならな!


「なぁ……、さっき、ハート様の言うこと聞いたか……?」

「ハート様も、魔族なのか……?」

「あの人に魔法掛けられたオレたちも、あぁなっちまうのかよ!?」


 民衆の不安が広がっていく。それを遮る様にハートが声を上げる。


「いえいえ〜。私は悪くありませんよ〜? あなた方に発症した病が原因です。回復し続けたらどうなるか、興味はありましたが〜。

 まさかあんな強靭なアンデッドになるとは驚きですねぇ〜」


 心底楽しそうに語るハートの声。それを聞いた民衆の騒めきが更に大きな物となる。


「ハート様が回復してくれたから、俺たち死なねえんじゃ無かったのかよ!?」

「俺は嫌だぞ! 化け物になんかなりたくねえ!」

「ハート様も魔族って事は……、俺を救ってくれた犬は……」


 オレは可愛いワンちゃんだ。ハートはどっからどう見ても悪者だろうが。


 何だよ、犬よりエロい姉ちゃんの方が好みってか? さっさとゾンビになりやがれ、そして爆弾か銃で吹き飛んでくれ。


 瞬間。走り続けるオレの正面から紅の刃が迫る。


 キャロか……!? くそ、メテオ達の攻撃と周囲の動きに気を取られすぎた!!


 やべぇ……。この剣筋、頭から真っ二つにされる奴だ……。


 突如。背後から体を吹き飛ばされる。


 痛ってぇ……! くそ! 結界薄いから撃たれ弱いってのに誰だよ!?


 いや、おかげでキャロに斬られずに済んだ。だがブッ飛ばしてやる。


「俺はこの犬を信じるぞ!!」


 キャロの前に立つブロンドの男が叫ぶ。いや、誰だよ!


「アリス。俺の息子たちを救ったお前を、俺を回復してくれたお前に味方しよう!」


 いや、ホント誰だよ。民衆Aか? オレが回復した奴の一人か?


「名乗ってなかったな。パンデミック・キングダム諜報部隊隊長、レオンハルト・S・ケヴィン! レオンと呼んでくれ」


 瞬間。レオンと名乗る男に向けて突撃する。


 吹き飛ばし、オレが駆け出した直後。元いた場所に炎弾が飛来する。


 のんびり喋ってんじゃねえ! 死んじゃうだろ!!


「守ってくれた事感謝する! 俺はアリスを信じるぞ! 皆もこの聖獣の援護をするんだ!!」


 レオン……。もしかして、オレがエルフの里に送り出した子達の親父さんか……? 大勢回復したし、直接会話してないからわかんないけど……。


「そうだ……。ハート様に祝福を受けたが、俺は彼女が出来てねぇ……!」

「俺も童貞のままだ……!? こんなのおかしい!!」

「仕事が見つからねえのも全部……!!」


 レオンおじさんが叫びを聞き、ポツリポツリと民衆が声を上げ、やがてそれが大きな物へと変わっていく。


 そうだ。この世の不幸は全部ハートのせいだぞ。


「シスターハートは、いや! 魔族ハートは悪だあぁーー!!」


「「「ハートは! 悪だあぁー!!」」」


 レオンパパが剣を掲げるのに合わせ、民衆が叫ぶ。


 立ち止まるなっつの。そんな反乱分子な行動したら狙われちゃうだろ!


 風で巻き上げ、背中に乗せて走り出す。


「お前たち! 生き残りたいかぁーー!!」


「「「化け物にはなりたくなーい!!」」」


 生き残った民衆が手を掲げ叫ぶ。その声は次第に大きくなっていく。


 暴れるな! 乗せる力はあっても小ちゃくて体積が無いんだから落ちちゃうだろ!!


「俺はアリスを信じるぞー!!」


「「「俺達はアリスを信じてるぞー!!」」」


 民衆の声が巨大な物となり、国中から聞こえると思うほどのアリスコールが響き渡る。


 おっさん……。ありがとな……、助けた苦労が報われるよ。


 凶暴化したアンデッドを、民衆が応戦してくれている。

 レオンパパもオレから降りてアンデッド退治に加勢していく。


 だが状況はそれほど変わらない。ハートに直に操られたメテオ、エリス、キャロは強すぎる。


 ハート自身は笑みを浮かべ静観を決めているが、今の魔力尽きかけなオレが勝つのは難しいだろう。


 キャロがオレを見つめて立ち尽くす。虚ろな瞳でオレの名を呼んでいる。


 キャロは……、まだ諦めてない……? ハートの洗脳に抗おうとしているのか?


「わんわん!!(キャロ! 目を覚ませ!! もうハートに操られたりしないんだろ!?)」


「「「アーリース!! アーリース!!」」」


 うるっせえよ! オレの声搔き消すんじゃねえ!


 キャロに向けて叫び続ける。キャロだけでも連れて逃げ、一旦立て直す。それくらいの希望なら見える。


「アリス……、アリス……」


 そうだキャロ! まだオレの事がわかるなら洗脳を打ち破ってくれ!!


 瞬間。彼女がオレに向け駆け出す。その両手に紅の刃を携え、構えを取る。


 キャロ……!?


 驚愕と絶望。それらが心に広がり、彼女の瞳を見つめる。


 だが彼女の瞳に宿る光。その美しさに目を奪われる。


 そして鳴り響く火花。


 立ち尽くすオレを横切り、剣を振るったキャロ。


「メテオ、クー。いつまで馬鹿な事してるの?」


 キャロの声。普段と変わらない優しい声。


 その彼女が紅剣を手に、メテオの剣撃を受け止めている。


「キャロよ。主であるハート様を裏切るつもりか……?」


 メテオが声に威圧を乗せる。


 剣を持つ手に力が込められ、ギリギリと刃が音を鳴らす。


 だがキャロは退かない。強くなったメテオに一歩も譲らない。


「メテオ。私の旦那様はアリスだよ?」


 言葉と共に、キャロから放たれる紅い魔力の波導がメテオを吹き飛ばす。


「わんわん!!(キャロ! 目が覚めたのか!?)」


「ずっと一緒って約束したもんね! アリス!」


 ウェーブのかかった金髪を揺らし優しい緑の瞳で、彼女はオレに微笑んだ。

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