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エルフ、砂に生きる  作者: 初荷(ウイニィ)
砂エルフ、旅情篇

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201/202

西からの隊商






”これからどうしたものか”


 今後の身の振り方を思い悩むのも、何度目かすら知れない。


 武者修行の名目で辺境くんだりまでやってきたのだが、その道中はそれなりに緊張感もあって充実していた。しかしオルターボットに来てからはどうだ。ぬるすぎる日々に、自身を引き締めるのに必死である。


 人のいない時間を狙って、ギルドの訓練場に一人訪れては剣を振るう。たまに殊勝な心掛けを持った奴が来たりすると、水鳥流剣術の型を見せるわけにもいかないので、基本の型を練習するにとどめる。


 水術も然り。


 砂漠を渡る配達業をしていた時は、水術を行使は習慣であり、それは身体になじんでいたものだ。


 しかしここでは違う。


 街暮らしでは手間をかけずとも水分補給は容易であり、茶の類も勘定に入れると味も多種多様だ。身体を清めるのも労を要さない。


 いっそ宿屋暮らしをやめて家を借りた方が、自分であれこれやる機会が増えていいんじゃないだろうか。




 もしくはこの街を出るという選択。


 選択肢を単純化すると東西南北だ。


 東は王都に戻る選択。多少のルート変更は可能だが、リスクはこちらに来た時と大差ないだろう。


 西は大森林横断。グリフォンのバドを乗せていた海賊船は西からやってきた。ということは名前は知らないが国があるという事。だが向こうから陸路を隊商がやってきたという話は聞かないので、調べる必要がある。


 南には砂漠縦断をして港町ギルギットがある。現在は西の大回りな商路を確立されているが、なにせ時間がかかる。


 やることは王都にいた時と一緒だ。砂漠縦断で急ぎの手紙や荷物を引き受けることになるだろう。


 北は鉱山があるらしい。あとは石切り場もあると聞いている。これもそれ以上の情報がないので要確認である。


 ヴァネッサとバルボーザの二人のその後は特に聞いていない。エステルとナスリーンがヴァネッサの相談に乗っているところまでは知っているが、何をどう動いているかまでは敢えて聞いていない。先日言う事は言ったし、あとはバルボーザが決めることだが、意外となるようになる気がしている。




 今日のルーチンワークはもう済ませた。そしてあまりの暇さ加減に、昔ばあさまに持たされたじゅうたん関連の本を引っ張り出したほどだ。


 最近じゅうたんにも乗っていないなぁ……


 カップのお茶を口に含むと、もうぬるくなっている。ぬるくなるのが早すぎやしないか?いや、淹れたてに手を付けろということか?でも口をやけどするのはなぁ……


 そんな益体もないことを思っていると、突然ギルド内に大声が響く。


「隊商が来たぞ!」


 そんなに大きな声で知らせなくとも、隊商(キャラバン)なら定期的にやって来るから珍しくもないだろうに。


「西からだ!西の大森林から隊商(キャラバン)が到着したぞ!」


”ガタタッ”


 だらしなく座っていた椅子を鳴らして背筋が伸びるが、思い直して背もたれに寄りかかった。興味はあるが現場にいるであろう野次馬に加わる気はない。 


 そのうち嫌でも情報が出回って来る。それを聞いてからでも遅くはない。ならば西のキャラバンの事よりも、そのキャラバンがやってきた国について調べた方が、入ってきた情報を取捨選択出来るってものだ。


 ぬるい茶を飲み干すと、受付カウンターの暇している職員がいないか視線を───茶髪三つ編みと視線が合うと彼女はブンブンと手を振って来るが、主任である男性職員の方へ進む。


「今いいか?」


「何でしょう」


 ”何で避けるんですかぁ~”と横から声が聞こえるが、口角の片方を上げてちらりと見やって主任の方と対峙する。


「西にあるのはどんな国なんだ?」


 ちらりと隊商の来訪を知らせる男に視線を投げながら訊ねる。


 ”そうですね”と主任は前置きをして説明を始める。




ジャグスエルス諸侯連合国。


 もともとはジャグスエルス王国であったらしいのだが、政策や跡継ぎ問題などによる求心力の低下から、貴族が離散。


 当時の王国内には派閥があったらしいのだが、旗頭となろうとする派閥のトップもおらず、それぞれの貴族が自身の領を治めるにとどまり、諸侯連合国というのはこちら側が区別するためにつけた通称だとか。


 領土が隣り合っている貴族たちの関係は、良くも悪くも変化はなかったが治安は悪化したらしい。


 それも魔物被害は言うに及ばず、盗賊による襲撃、そしてそれらから自衛するための騎士団同士の小競り合いまで発生しているという情報が入ってきたのは何時の時点であったか。


 貴族同士の足並みがそろっていないうえに、西の大森林のせいで陸路での交流はほぼ無し。前回の隊商来訪もどこの領地からで、何年前にあったかすら覚えている者はほぼいない。


「時々ギルギットの港に船が来ていたと聞いています」


 つまり海路の方が頻度が高いということか。


「何を運んで来ていたんだ?」


「交易品ですか?陶器とか反物とか……他にもあったようですが、ちょっと記憶にないですね」


「何を買っていたかとかは───」


「うちはギルドですから。取引をした商会でもない限りわかりませんよ」


 もっともである。




★☆★☆




 我がジャグスエルス王国……いや、ジャグスエルス諸侯連合国とラスタハール王国の間には、広大な森林地帯が行く手を阻んでいる。


 過去には森を切り拓き街道が整備されていたが、安定した海の航路か確立されると、陸路を使うものは自然と減っていき当然道は荒れた。


 ならばなぜ我がオルガ商会が隊商まで組んで陸路を選んだかというと───クラーケンが航路の要衝に居座ったからである。


 平時であれば違う商いを模索するのだが、今回はそうもいかなかった。なぜなら懇意にしている貴族から、婚礼道具の手配を依頼されたからなのだ。


 そしてオルガ商会長から、この俺ガエルがその手配をするようにと指名されたのだ。


 貴族の結婚。


 ましてや諸侯連合国となった現在、隣接する他領との婚姻は経済的にも軍事的にも重要な役割を果たす。


 嫁に出す以上、家格にふさわしい婚礼道具や家具を持たせないと、婿側から侮られてしまう。だが”金に糸目は付けぬ”としてしまっては、今度はこちらを誇示することとなるので匙加減が難しい。なのでそこは最終的な調整は必要になる。


 大森林の横断には二か月強を要した。実際、三か月は身構えていたのでホッとしている。


 出発前から何人もの横断経験者の老商人から、ルートの情報を聞き出し古地図も入手。それを基に新しく地図を起こし、危険地帯や街道の難所に水場の情報、生息する動物や魔物の情報も書き込んでいく。


 しかし結局のところいくら情報を集めても、それらは最新情報ではない。


 我々は不測の事態に備えて準備を整えた。


 隊商を組む以上、仕入れの金もそうだが、商品が無ければ始まらない。しかし品物を満載しては横断も危ぶまれるので、選ばれたのは嵩張らず高価な宝飾品の類。しっかり仕舞っておけば、雨風にさらされても傷むこともない。


 隊商の馬車は五台用意した。


 そのうち商品を積むのは一台のみ。残りは水と食料、横断に必要な装備、生活用品や諸々の整備の為の資材道具を積み込んだ。


 参加人員も精鋭を揃えた。


 腕っぷしだけでなくサバイバル能力に長けた探索者や修理職人、本職のレンジャーも連れていきたかったが、拘束期間を伝えたら全て断られてしまった。


 口をそろえて半年以上自分の縄張りの森を離れたくない、と言われてしまったのだ。


 道中何があったかを一々語らない。文字通り荒れた道を切り拓き、襲い来る魔物を撃退し、足りなくなった食料を狩る日々であったことだけは伝えよう。


 そうして人の手が加わった道に出られた時の喜びは表現のしようもない。道行く探索者の好奇の目にさらされながら、俺たちはラスタハール王国西端の街に辿り着いたのだ。




「ギルギットまでさらに一ヶ月だと!!?!」


「ええ、街道は整備されていますから、大森林と違って安全ですよ」


 刈り取られた麦畑の間の街道を進み外壁の門まで辿り着くと、街に入る手続きのついでに港町ギルギットについて聞いたのだ。


 目当ての商品を扱っている商会はギルギットにある。このオルターボットは、ラスタハール王国の開拓最前線らしいが、外壁だけを見ても結構な発展を遂げていることが分かる。


 明日にでも出発したいが、積み重なった疲労解消のためにも、隊商メンバー達を休ませねばならないので、数日は滞在しなければならない。


 補給ついでに部下を連れてこの街の商会も巡ろう。掘り出し物があると良いのだが。


 到着して早々、ギルドに顔を出した。挨拶もそうだが目的は情報収集だ。


 宿屋の情報、この街の商会の情報、流通している商品の情報、この国この街の流行の情報。尋ねた全てに答えが返ってこないのは織り込み済みだ。返ってこない場合は、何処へ行けばその情報が手に入るか聞くだけである。


 そう、飯・酒・女が集まる場所。その手の店だ。ほぼ全員が宿屋で身綺麗にした後、”その店”へ赴いた。到着初日でいろいろと溜まっているだろう。メンバーには羽目を外しすぎて、トラブルにならない様に釘をさす。


「まぁ、ジャグスエルスではそのようなものが流行っているのですね」


 早速その晩、いわゆる”高級クラブ”を訪れた。


 広いラウンジにソファがいくつも並び、軽いつまみと酒を傾けながら女が接客をしてくれる店だ。その手の接待もしてくれるそうだが、通い詰めないと受けられないシステムとのこと。隊商メンバーの何人かは、ここではないその手の店へ向かったのだが。


 隣で酌をしてくれるのは高級娼婦、マルレーヌと名乗った。正直レベルが違う。このような街にこのような女がいるとは想定外である。


 物腰も柔らかで着ている衣装の質も王都レベルと言っても過言ではない。なによりその美しさだ。


 化粧は当然隙の無い施しよう。これは化粧だけではないな、普段の手入れも金も手間もかけているに違いない。


「国も違えば流行りも違う。ラスタハールの流行りもなかなか興味深い……ですが私の視線はあなたの美しさに釘付けです」


「まあ、お上手だこと」


「この程度の賞賛では、あなたの注意を引くには足りないようです……あ、ボトル一本追加願えますかな?ほら、お前も飲め」


 この時の為に酒に強い者を連れてきている。


「ありがとうございます」


 マルレーヌは壁際に待機している黒服に合図をし、追加の酒を手配する。




「ラスタハール王国の西端で品物を入手するにはご苦労もおありでしょう」


 言下に入手先を聞いてみる。この美貌を維持するには相応のモノが無ければ無理だ。購入先もしくは出入りの商人を聞いたのだ。


「いえいえ、知り合いの伝手ですので然程(さほど)の苦労は」


「すばらしい。その美貌を維持できる伝手となると生半可なものではありませんぞ」


 賞賛しながらマルレーヌに視線を投げかけると、向こうも視線をそらさずに合わせてくる。


 その間、数拍。


「ふふっ」


 可愛らしい笑みがこぼれた。


「なかなかやり手でらっしゃるのね───よろしければご紹介しましょうか?」




 日も高く昇った翌日の午後、店に招かれた。


 丁度その商人がやって来るので、引き合わせて貰うことになったのだが、ちょっと予想外の光景が広がっていた。


 部屋にいるのはマルレーヌと店の同僚(まあ高級娼婦であろう)。そして普人の女とドワーフの男だ。


「ふわ~あぁぁぁ……マルレーヌ姐さんに紹介してもらった甲斐があったわ。ありがとう、ヴァネッサ姐さん、すごいスッキリするのね」


 目の前で繰り広げられたのは、顔の手入れの一部始終だ。


 蒸し手拭いで顔を温め、作った泡を顔にのせると、泡と一緒に産毛を剃っていった。そして顔を清めてから化粧水を沁み込ませていく。


 それを前半はドワーフの男が、後半は普人の女が施術したのだ。


「お化粧を落としたら丁寧に洗顔をしてね。しっかり水分を拭き取った後に、この化粧水を沁み込ませること。ケチっちゃいけないけど、つけ過ぎても意味がないわ。毎日欠かさずするのが肝心よ。化粧品も一式見繕ってきたわ。貴女の肌の色だと、これなんかどうかしら?」


「わぁ……化粧水は勿論いただくわ。そちらの一式を見せてもらえるかしら」


 普人の女が接客する横で、後片付けをするドワーフに声をかける。


ご主人(・・・)、素晴らしい腕前だ。腕前もさることながら、ご夫人(・・・)が商っている化粧品について相談をさせていただきたい」


 投げかけた言葉に、二人がぎょっと目を見開いて見つめてきた。横でマルレーヌがクスクス笑っている。


「ん゛っん゛っ……儂は手伝いをしてるに過ぎん」


 機嫌を損ねたのかドワーフは背を向けて片付けを続けていく。


「え、えっと、商っているのは私の方よ。彼は、彼は、そう、私を手伝ってくれてるの」


「好意でね」


「「ん゛ん゛っ」」


 マルレーヌの合いの手に、咳払いが二つ重なった。


 ああ、うん、そういうことか。




「お貴族さまに販売しても差し支えない格の商品は、あるのいはあるけど量と種類が乏しいのよね。私は小売りであって卸しではないから。婚礼道具もそうだけど婚礼化粧にお勧めの商品に心当たりはあるけれど、王都かその南の港町の商会でないと入手は困難ね」


 それを聞いて渋い顔になるガエル。正直にそのルートを辿るとなると、期日に間に合いそうにない。


「紹介状は書いてあげられるけれど、その様子じゃ時間が足りないみたいね」


「ああ。帰路の事も考えると半年しか猶予は無いから、とってもじゃないが王都まで行って帰ってでは時間が足りん」


「私は隊商に混ぜてもらって王都を往復しているの。つまり伝手はそのルート上になるから力になれそうにないわ。となると行くなら南のギルギットね」


 ヴァネッサの勧めにガエルも首肯する。


「やはりギルギットか。当初の目的もそこだったから、探してみよう。可能だったらアンタたちを連れてお嬢様に引き合わせたいくらいだが───」


「嬉しい申し出だけれども、流石に国外までは、ねぇ」


 仕入れは出来なかったが、マルレーヌの紹介は無駄ではなかった。急ぎギルギットへ向けて出立せねばならない。







ブクマ、イイねボタン、★★★★★、一言感想、お待ちしております。


お読みいただきありがとうございました。

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