戦いが終わって~後始末あれこれ~
月刊すなえるふ更新です
“わあああああああ”
ゴブリンどもを蹂躙していた光が収まると、陣地で手ぐすねを引いていた者共が喊声を上げて突撃していく。
とは言っても動いているゴブリンは然程おらず、これはもう掃討戦だ。そう、ゴブリンどもに慈悲は無い。
「ギルド長、先程の魔法ですが……」
「ああ、西の丘からも飛んできていたね。あの呪文を行使できる者は限られている。威力も射程もとんでもないし、しかもアレンジされたものだった……使えるとしたらあのお方くらいしか思い浮かばないが、王都にいるはずのあのお方が、まさかこんな辺境くんだりまで?いやいや……」
「ギルド長、あれこれ考えていないで会いに行きましょう。というか、件の使い手も目的地はここのはずですから、待っていれば来るはずです」
赤髪ショートの言葉に思わず薄い頭をなでる。
「そうだな。日も傾いてきたし、さっさと後始末を済ませよう。まずは───」
「街へ伝令を走らせます。食事の用意もさせた方がいいですね。ゴブリンの死体の始末も考えないと。それから……やることが沢山!ちょっと指示してきます」
ギルド長が詳細を指示する前に、赤髪ショートはあっという間に立ち去って行った。
「俺のセリフ……」
通常営業に戻るのも早い二人であった。
それから何を話すわけでもなく、落ち着きなく俺に寄り添っていたエステルであったが、何かに気付き走り出したかと思うと、盾と馬上鎗を拾って戻ってきた。
拾ってきたそれらを足元に転がすと、兜を脱いでいじり始める。
「バイザーの取り付け部が引き千切れちゃってるなぁ。よく無事だったわね、わたし」
「ったく無茶し過ぎだ」
ため息一つ、軽くげんこつで頭を小突く。
「ごめーん」
「反省の色が見えない」
“はんせいしてるよー”などと軽く返すエステルのセリフに、上空から怒声が被さった。
「エステルーっ、何いちゃいちゃしてんのよーっ」
「ぁぶっ」
じゅうたん上のナスリーンがすれ違いざま、上空で回収したエステルのじゅうたんを彼女に被せるようにぶつける。彼女はじゅうたんを傾けてエアブレーキをかけるも、勢い余って俺たちの前を大きく通り過ぎてしまう。
「あんたは飛び出して好き勝手したかと思えば、ヴィリュークと、ヴィリュークに……だっ、抱きっ、あ゛っ」
不満爆発。言葉に詰まりながら、のしのしと歩いてきたナスリーンは何かに躓いた。
「なによもう、これ!」
「あっ、それわたしのバイザー」
「ちくしょうめー」
ナスリーンは拾ったパーツを“えいやっ”と思い切り投げつけるが、緩やかな弧を描いて飛んだそれはすっぽりとエステルの手の中に納まる。
「ああ、もうっ!ヴィリューク~エステルが、エステルが~」
あれこれ道中で結構溜まっていたのか、ナスリーンはパタパタと駆け寄り抱きついてきた。
「大変だったな、おつかれさま」
手をまわして背中をぽんぽんと叩いてねぎらってやると、俺の見えない角度でナスリーンがエステルを煽ったらしく───
「ずるい!わたしも!」
じゅうたんも含め、ポポイと素早く散らばっていたものを付与ポーチに仕舞って飛びついてきた。
“むぎゅう”
「二人とも、こんなことしてる場合じゃないって。ほら、離れろ」
★☆★☆
「あ……」
慌てたように武器を放り出して女性を助けに行ったヴィリュークさん。息の合った二人の戦い方。きらめく光がゴブリン達を倒した後も、仲睦まじい姿を見せつけただけでなく、もう一人じゅうたんで現れた女性もヴィリュークさんに抱きついた。
「二人ともエルフかしらね」
隣に来たラモナが呟くのが聞こえる。そりゃああれだけカッコよくて頼りになるヒトなら、彼女くらいいそうだとは思ったけれど、まさか二人もいるだなんて、ほんとショック。
「ほら、ルイシーナ。拾った剣、渡してくるんでしょ。ケリつけてきなさいよ」
背中を優しく押されるがまま、二歩三歩と足は何とか動いてくれた。近くまで歩いて行けると、声もなんとか出すことが出来た。
「あ、あの、ヴィリュークさん、これ───」
おずおずと剣を差し出すと、わたわたとヴィリュークさんは剣の無い腰を検め、照れくさそうに“ありがとう”と言って受け取ってくれた。
「無いことに気付かないだなんて、何やってるのよ」
「無茶しでかしたお前に言われたくないな」
「───それよりも」
じゅうたんで飛び回っていたエルフのお姉さんが、ずずいと顔を寄せてきたせいで腰が引けてしまった。
「あなたたちの連携、上から見えていたわ。なかなかね。見どころあるわよ」
屈託なく褒めるお姉さんの表情が私にはまぶしかったし、その奥で杖をついているもう一人のお姉さんの微笑みも、すぐさま視界から外してしまう。
「そっ、それじゃ」
「ありがとな、ルイシーナ」
立ち去り際の彼の声に、振り返るつもりはなかったのに……つい視線だけ巡らせてしまう。そこにはお姉さんたちの間で片手をあげて声をかけてくれたヴィリュークさん。
心臓が高鳴ってしまうのを自覚しながら、慌てて視線を戻し走り出す。耳が熱い。叶いっこないって初めから分かっていたはずなのに。遠くから見ているだけでよかったのに。到底敵いっこない相手なんか出てこないでよ。
「さよなら、わたしの初恋」
そっと唇の端にのせて飛ばした先には、弟妹と親友が見えた。
★☆★☆
「ゴブリンはちゃんと息の根が止まっているか確認してくださーい」
「なんならもう一度とどめを刺しておけ!」
「後始末は明日に行うので、今日は1か所に集めていきまーす」
死体を放置してはいらぬ疫病の元になる。通常なら穴を掘って埋めるか焼却処分なのだが、それを行える呪文使い達の魔力はもれなく空っぽなので、とりあえず今日は一か所に集められるだけ集める事になった。
「あーめんどくせぇ」
「腹減ったぁ」
「さっさと済ませねぇと飯が無くなっちまうぞ」
食いっぱぐれたくない彼らは、空きっ腹を抱えながらもゴブリンの死体を運んでいく。その彼らの上を一つの影が横切ったと思ったら、ゴブリンの死体の横に着地するではないか。
“GYAAA”
彼らに向けて一鳴きしたそれは、ヒトサイズはあろうかという一羽の鳥だった。そいつは躊躇いなくゴブリンの死体を啄み始める。
「「「うへぇ……」」」
とんでもない悪食を目の当たりにした彼ら。もうじき日も暮れる頃合いだ。
「まぁ……」
「処理してくれるんなら……」
「一匹くらいいいんじゃね?」
“GYUEEEEE”
日が暮れるのも時間の問題だ。彼らは怪鳥の鳴き声を背に、死体を引き摺ってその場を足早に立ち去った。
★☆★☆
「おらぁ!隊商の到着だぁ!いろいろと運んできたぞ!」
隊商リーダーがここぞと声を張り上げて門を通過していく。とは言っても大体の売り先は決まっているので、まずはその取引先への持ち込みだ。そして多めに持ってきた商品を、ギルド相手に売り捌く予定である。
「ちゃんと儲かるのかしら」
「どうだろ。私たちはいいけどねぇ」
エステルとナスリーンは乗車料分、道中で元が取れたのでどうでもいいらしい。
俺は掃討戦には参加せず、彼女らと一緒に隊商に交じって街に戻ってきた。サミィもいつの間にか戻ってきて、エステルに抱っこされている。
ナスリーン曰く、あのキラキラした攻撃魔法の標的にされたらまず逃げられないらしい。遮蔽物があればまだしも、鎧も盾もない敵なら無傷では済まないとのこと。仮に息があったとしても止めは容易いほどの威力らしい。
それが期せずして十字砲火ともなれば死角はまず無いと。
「そんなとんでもない呪文の使い手が、オルターボットにもいたとはな」
「呪文は知っていたとしても、使い手となると五人……いえ、三人いるかいないかよ。あ、ヤースミーンおば様は別よ」
ナスリーンに呪文を教えたのは、ばあさまかよ。この場に居なくとも、故郷のばあさまの規格外っぷりは健在だった。
「でもまぁここでの使い手は、なんとなく心当たりがあるのよね」
俺たち三人(と一匹)が連れ立ってギルドに入ると、中は以外にも大騒ぎではなく少々ざわつく程度だった。カウンターの前に行くと、すぐさま茶髪三つ編みの受付嬢がやってきた。
「ヴィリュークさんお疲れ様ですよぅ。外の宴会には参加しないのですかぁ?……っとと、そちらのお二人はお初にお目にかかりますね、隊商の馬車でいらっしゃったんですかぁ?あ、ひょっとしてぇ、ヴィリュークさんのイイヒトだったりしてぇ」
“ヴィリュークさんも隅に置けないですねぇ”などと口にするその様は、どこぞの三下のセリフまんまである。
「「あら、わかる?」」
二人とも声を揃えてくっつくんじゃない。
目を瞬かせた茶髪三つ編みだったが“すん”と表情が無くなると“オルターボットへのギルドタグ登録でよろしいですか”と事務的な口調へ変わってしまった。
そこへ奥からギルド長が赤髪ショートを伴ってやってくる・
「あ、ぎるどちょー、ヴィリュークさんのいいひとが二人もやってきましたぁ」
「「こらっ……」毎回毎回他人の個人的な情報を大声で口外するんじゃありません!」
またしても赤髪ショートの彼女がギルド長のセリフを奪ってしまう。……いや、これはギルド長が諦めずに言葉を続けていたら、同じ指示をハモっていたのではないだろうか。ひょっとしたら意外と気の合う二人なのかもしれない。
当のギルド長はしょんぼりとため息をついており、ん?赤髪ショートがちらりと彼に視線を投げかけた?これは……彼女の方が気をかけているのか?
「やっぱりパスクァルじゃない!辣腕を振るっていると風の噂で聞いていたけど、ここのギルドだったのね!」
ナスリーンの知り合いだった。
「ナスリーン様!やはりあなた様でしたか、お久しぶりです。ご健勝で何より!」
「あの星の刃の魔法、やはりあなただったのね。あの規模の呪文を制御できるとは、腕を上げたようね」
「いやいや、ナスリーン様こそ戦術級魔法にアレンジを加えられていたではないですか。威力といい射程といい、呪文を完全に理解していなければあのような効果を追加できません」
「実はね、あれは───」
二人の世界に入っている中、赤髪ショートがギルド長の腕をつついて注意を引く。
「ああ、紹介しよう。若い頃王都で魔法の……修行をしていた時、師が招いた特別講師がナスリーン様だ。いやぁ、無人の砂漠目掛けて詠唱していた頃が懐かしい」
「あの時選抜された八人のうち、発動できたものは五人。あなたも含めて使いこなせたと言えたのはギリギリ三人だったわ」
察するに発動後魔力切れで潰れなかった者が三人で、ギルド長がそのうちの一人だったのであろう。
「特別講師?……ギルド長は騎士…の魔法……出身……そこで講師を務められ……ナスリーン?」
「ぎるどちょーが敬語使っている……お貴族さま?エルフ、ハーフエルフ?のお貴族様がいるって聞いたことないんだけど」
茶髪三つ編みの独り言に、何かを悟った赤髪ショートがすごい形相で振り返った。
「アンタ、あの方に無礼働くんじゃないわよ」
「ななな、いきなりなんですかセンパイ」
「ギルド長とお話しているあの方、王族よ。アンタが何か無礼やらかしたら、庇おうにも庇いきれないわ」
「えっ」
「国王陛下の大伯母ひうっ、お、お、……一番上の、お姉さまよ。陛下もあの方には頭が上がらないって聞いたことがあるわ」
一瞬、珍しくナスリーンから殺気を感じたが、すぐに霧散してしまう。これは……追及してはいけないやつだ。
「宿の手配ならお任せください。つきましては食事をみなさんご一緒にいかがでしょう。ごちそうしますよ。タマラ君」
ギルド長がタマラに視線を向けると、彼女も真剣な表情でコクリとうなずいた。
★☆★☆
久しぶりの再会に親交を深めた翌日。俺たちを含め、後始末に狩り出された男たちが向かった戦場跡では───
「「「GYARUUOU」」」
怪鳥の鳴き声が響き渡っていた。
「なんだありゃ」
「でけぇ……鳥?」
「数もすげぇ」
作業参加者である男どもは言うに及ばず、いざ仕切ろうとやってきたギルド職員ですら呆然と立ち尽くす。そこへ居合わせたギルド長が口を開いた。
「死肉喰らいだな。所謂“掃除屋”だ。死肉喰らいってのは総称で、虫でもいるし四足歩行の肉食動物でもそう呼ばれるものがいるのだが……でっかいなぁ」
とある文献を紐解くと───
“死肉喰らい”
翼を広げると二メートルはある首の長い鳥。くちばしは大きく鉤爪も大きく鋭いが、鈍重で素早い動きは出来ない。通常五羽から十羽程度の集団で形成されており、散り散りになって餌を探し、発見時は特有の鳴き声で仲間を呼ぶ。特筆すべき特徴は、ゴブリンの死骸ですら彼らの餌となるほどの悪食である。
とあるのだが、この場にそれを知る者はいなかった。
「ワシらはどうしたもんかね」
「燃やし尽くすのに何回詠唱しなくちゃいけないかって身構えて来たけど」
「食ってくれるなら処理も楽だなぁ」
集められた呪文使い達が、手持ち無沙汰で佇んでいた。
その後は結局見張りを置くだけにとどめられ、怪鳥の観察を始めて三日目の朝には彼らの姿は無くなった。
「所詮は畜生どもか……」
「食い散らかしやがって!」
「結局後始末しなくちゃいけねぇのかよ!」
そんなつぶやきが聞こえたとか聞こえなかったとか。
名前付きになった後も役職名で書いていきそう。
これにて一区切り。またネタを絞りださねばいかん(*ノωノ)
ブクマ、イイねボタン、★★★★★、今年一年分の感想などありましたら、よろしくお願いいたします。
本年も“月刊砂エルフ”をお読みいただきありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。




