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その56

 『ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア・・・死ぬかと思った。まあ、もう死んでるけど』


 わたしはあれからふと気づいたら仰向けで流されている事が分かったので、激流の中を必死で泳いで何とか岸に辿り着いたのだ。


 グオォォォォォキュルルルルルルルッ!


 『・・・あれだけ頑張って泳いだらお腹も空くか〜。って言うか、わたし死んでるんだよね?』


 わたしは死んでるのにお腹が空くのかと疑問に思ったけど、まあ、異世界だしなと納得して背負っていた頭陀袋から携帯食料を取り出して齧り付いた。


 『へぇ、味覚もそのままか〜。本当にこれ美味しくないよね〜』


 そして、相変わらず荒れ狂う激流を見ながら、これからどうしたものかとその場で胡座をかいて考える事にした。


 『うーん・・・ここがどこか全く分からないから、当たり前だけどどこに行けばいいのか分からないのよね〜』

 

 わたしはしばらく考えたけど結局何も浮かばなかったので、騎士服が濡れて気持ち悪いしな〜と走って乾かす事にした。


 『おおっ!?わたし何かめっちゃ速くない!?』


 そして、わたしは頭陀袋を背負うと太陽も何も無い見渡す限りの荒野を川から遠ざかる方向に走り出したのだ。

 

 『・・・ん?あれは何だろ?』


 わたしはしばらく走ったお陰で騎士服が乾いたなと思ってると、何も無いのでどこまでも良く見える視界の左隅に大きなものがあるのが分かり、そちらに軌道修正した。


 『うわぁ!めっちゃ大きな桃の木だね〜!』


 わたしは近づくにつれ空気が甘くなり、木だと認識した頃には桃の木だろうと思っていたら、やっぱり桃の木だった。


 そして、わんさか実っているし取ったらダメっぽい看板も何も無かったので野良桃だと思い、ジャンプして一つもぎ取って齧り付いてみた。


 『うんまっ!?この桃、めっちゃ甘くてうんまっ!』


 わたしは桃のあまりの美味しさに速攻でペロリと平らげると、またジャンプして一つもぎ取り齧り付いた。


 『・・・あ〜!美味しかった!』


 そして、実っていた桃を半分ほど食べたらお腹いっぱいで眠くなって来たけど、野営セットは無いから頭陀袋に頭を乗せて寝る事にした。


 『いつも頭陀袋背負ってて本当に良かった〜・・・』


 わたしは料理をする時には頭陀袋を背負う習慣があった事に感謝しながら意識を手放したのだ。


 ガタ!ゴト!ガタ!ゴト!ガタ!ゴト!ガタ!ゴト!ガタ!ゴト!ガタ!ゴト・・・・・・


 わたしはまあまあの振動と騒音にいったい何だろうと思いながら、ゆっくり目を開けた。


 『っ!?』


 そして、視界が薄暗い空でも荒野でもない事に気づき体を起こそうとしたら、手足が縛られている事にも気づいた。


 「漸く起きたか。縛られてるのにのんきなものよな」


 わたしは背後から聞こえて来た声に体ごと振り返ると、そこには男神様と同じ様な格好をした金髪に虹色の瞳のイケメンがいた。


 「盗人にしては間抜け面だな」


 『は?誰が?』


 「誰が?我の前には貴様しかおらぬが?」


 わたしは嘲笑うかのように右の口端を上げた青年にイラッとしたけど、とりあえず手足を縛っているものをぶち切る事にした。


 「ハハハ!貴様如きに我の神力で作ったものが壊せるわけな」


 ブチッ!ブチッ!


 「は?」


 『それで?誰が間抜け面な盗人だって?って言うか、わたしが何を盗んだってのよ!わたし何も盗んでなんかないわ!』


 「いや、盗んだぞ?」


 『だから何をよ!』


 「女神様の桃を盗み食いしたのは貴様だよな?」


 『・・・』


 こうして、わたしは女神様の桃を盗み食いした罪人として、女神様の住まう宮殿に連れて行かれる事になったのだ。


 「・・・その小娘が妾の愛する旦那様に捧げる桃を半分も食べたのか?」


 「はっ!この者が桃を食べた事に間違いないと思われます!」


 「どうなのだ?お前は本当に桃を食べたのか?」


 『・・・はい、食べました。申し訳ございませんでした!』


 わたしは高い所に座り冷たい美貌で見下ろしている女神様に素直に認めると土下座で謝った。


 「・・・小娘。あの桃はな?妾の愛する料理好きな旦那様が毎年新作スイーツを作る故、その為だけに妾が育てている桃でなぁ・・・決して!小娘の腹を満たす為の桃では無いのだ!」


 『ん?料理好きな男神様?』


 「そうじゃ!妾の愛する旦那様は生涯の修行を料理とする、それはそれは素敵な方なのだ!それなのに!小娘!お前のせいで妾は愛する旦那様に桃を捧げる事が出来なくなったではないか!」


 「我の愛する女神よ。その様に大きな声を出すとは何事かあったのか?おや?・・・お前はリーナであるな?ここで何をしておるのだ?」


 「えっ?リーナ?・・・・・・・・・・・・やだっ!?そのフリル仕様の騎士服はリーナの騎士服だわっ!?って言うか、あんた何でタヌキじゃないのよっ!?」


 『何でだろうね?』


 わたしは自分でも何で突然スキルが使えるようになった上でここにいるのかさっぱり分からないので、大きく首を傾げるしかなかった。


  


 

 

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