その4
次の日の朝、わたしは目が覚めると頭陀袋を背負って食堂へと向かった。
わたしはびっくり顔のすれ違う使用人達にペコリと挨拶しながら食堂に入ると、昨日とは違い破れてない騎士服の騎士達が朝ご飯を食べていた。
「あっ!タヌキっ!こっちだよ!昨日と同じ席で食べな!」
わたしは声を掛けてくれた昨日横に座っていたニックと言う騎士に言われるがまま隣りの席に着くと、目の前に山の様に積まれたカットされてないバゲットのサンドイッチを一つ取り齧り付いた。
『うんまっ!これも、うんまっ!』
そして、マグカップに入ったコーンスープやスクランブルエッグにベーコンと言った定番の朝ご飯をお腹一杯食べた。
「・・・昨日も思っていたのだが、お前は本当に器用だな。もしかして字も書けるのか?」
わたしが小さな手でフォークを器用に使いながらデザートの山盛りのプチケーキを食べていると、隊長にそう聞かれたので頷いた。
この大陸は険しい大連峰に分断されているので国同士は経済交流はあるけど人的交流は殆ど無い。
だけど、文字も言語も共通なので、腐っても元男爵令嬢な上に王太子妃教育を受けていたわたしはちゃんと書ける。
「・・・そうか。それならば我が領の領民になるか?お前の知能指数なら十分に一領民として暮らしていけそうだからな」
わたしは国民では無く領民?と思って首を傾げると、詳しくは後ほどと言われたので取り敢えず頷いてプチケーキを口に運んだ。
「すげぇ・・・字も書けるのかよ」
「もしかしたら、お前より賢いんじゃね?」
「いやいやいや、それは無いだろ〜。亜種だとしてもタヌキだぞ?」
わたしは近くの騎士達の会話に、これでも王太子妃教育を受けて来たし貴族学園での成績もそこそこ良かったので、完璧とは言わないけどこの世界の事はある程度は知っているから、まあ、普通のタヌキよりは絶対に賢いとは思う。
そして、朝食後に隊長の執務室へと連れて行かれ、ソファーで対面に座った隊長から字が書けるなら読めるだろうと何枚かの書類を渡されたので読んでみた。
『・・・なるほど。ここはアルドーラ大帝国の自治区なんだ。だから、アルドーラ国民じゃなくてロゼルナイト辺境伯領民なんだね〜』
わたしはそこで漸く、わたしが入り込んだのが人間族の国であるアルドーラ大帝国だとはっきりと理解したのだ。
『エルフ族は自己中なのが多くて魔族は好戦的なのが多いらしいから、まあ、取り敢えず一番無難な所に来れたのかな?ん?』
わたしは一枚目の領民申請書を読み終えてから、二枚目を読み始めて直ぐに眉間に皺を寄せた。
「どうした?」
わたしは疑問が顔に出ていたのか隊長にそう聞かれたので、二枚目の領地騎士団入団申請書を見せて首を傾げた。
「お前は今現在住所不定の無職だからな。衣食住が無料の就職先を斡旋してみたのだが、嫌か?」
わたしはそれを聞いて、そう言えば人間の国にも冒険者と言う職業はあるけど、ここでは何故かブルド王国とは違い一攫千金とは行かないらしく、人気の職業ではなかった事を思い出したので、安定を選んで首を横に振ると三枚目の書類を読む事にした。
三枚目は大まかな領民として守るべきルールが書いてあったのだけど、まあ、そんなもんよねとなる内容だったので、わたしは名前無いし、ここは肉球でサインするかと考え、置いてあった朱肉に手を置こうとした。
「待て。サインは名前でして欲しい。お前の名前を決めよう」
そう言って隊長が朱肉の横にあったペンで試し書き用と思しき置いてあった白紙にサラサラと書いて出して来た紙には『タヌキング』と書かれていたので、読んだ瞬間わたしが速攻で破り捨てたのは言うまでもない。
そして、わたしは隊長からペンを強奪すると、三枚の書類に『リーナ』と書いた。
「・・・そうか。メスだったのか。それならば仕方ないな」
わたしは隊長がそう呟いたけど、そうだけどそう言う事じゃないと思いながらも雇用主だしとただ頷いておく事にした。
そして、わたしは特注の女性騎士服を作らなければならない為、執務室に呼ばれた笑顔のお針子達にあちこち採寸されてから自室となった寮の部屋へと戻った。
こうして、わたしはロゼルナイト辺境伯領民であり、ロゼルナイト辺境伯領地騎士団の騎士となったのだ。




