ジークフリードSide〜その1
「・・・閣下、今回の討伐遠征は赤字です」
「・・・どれぐらいだ?」
「・・・魔力隠蔽の腕輪が現在申告済みのものだけで五百八十個壊れておりますので、獲得した魔石と差し引くと五億ガルドは確実かと。ですから、赤字どころか大赤字だと思われます」
「・・・そ、そうか」
「隊長ーっ!魔獣が現れましたっ!」
俺が遠い目になりながら心の中で大きな溜め息を吐いたら、今回の一際長い隊列の後方から大声で叫びながら騎士が走って来たので、側近のヴァージルが行軍の停止の合図魔法を打ち上げた。
「魔獣だと?」
「は、はいっ!金色の魔獣ですっ!ニックが襲われましたがケガはしてないようですっ!カイルが簡易鑑定魔法を使いましたが鑑定不明個体でしたっ!今現在第一班により結界で閉じ込めてありますっ!」
俺が横にいたヴァージルを見るとヴァージルも俺を見ていたので、同時に頷くと後方へと全速力で確認に向かった。
・・・ほんの僅かでも赤字を減らせるかも知れないな
俺とたぶんヴァージルも同じ気持ちを持ちながら最後尾に到着すると、そこには確かに金色の何かの動物がいた。
・・・こいつは魔獣じゃないな
俺は金色の何かの動物が全く魔力の気配も無く大きくも無かった事に少し気落ちしたが、驚くべき事にその金色の何かの動物は言葉を理解しコミュニケーションが取れる事が分かったのだ。
そして、俺は金色の何かの動物が背負っているのが、国際法で定められている国外追放刑になった時に唯一罪人が持ち出せるカバンだと分かってさらに驚いた。
・・・こいつ獣人族か?
俺の暮らすアルドーラ大帝国での国外追放刑は北の離島一択なので、ここロゼルナイト辺境伯領の位置的に考えると、そのカバンは獣人族の国であるブルド王国の物でしか有り得ないのだ。
・・・しかし、金色の獣人は恐ろしく身体能力が高いはずだ。それなのに国外追放刑?どう言う事だ?
俺はどう見ても国外追放を受ける様な極悪な罪人には見えないコロンとした金色の獣人をどうしたものかと考えようとした矢先に、金色の獣人はカバンから幾つか魔石を取り出すと俺の方にそっと差し出した。
・・・は?ダイヤドラゴンの魔石・・・だよな?それも五つも!?よしっ!うちで飼おうっ!こいつはただの金色の動物だっ!決して獣人ではないっ!
俺がヴァージルに視線だけを向けると、ヴァージルも同じ考えだったらしいのが俺を見るその目の色で分かった。
そして、俺は討伐遠征隊の最後尾にいたロゼルナイト辺境伯領地騎士団最強騎士達で編成された第一班を、金色の動物のお世話係りとする事にして城へと戻ったのだ。
・・・獣人族ってベジタリアンだったよな?
俺達が城に戻ったのは夕食の時間帯だったので、先に食事をしてから金色の獣人を鑑定する事にしたのだが、近くの第一班のテーブルに着かせた金色の獣人は特別に作らせたサラダには目もくれず、オークの骨付き肉に齧り付き、嬉々として貪り始めたのだ。
「・・・閣下、獣人族はベジタリアンでしたよね?」
「そう聞いているが・・・」
俺はヴァージルの耳打ちに小声で返すと、物凄いスピードで骨の山を築き始めた金色の獣人に少し呆れてしまった。
そして、金色の獣人が器用にフォークでデザートを食べ終える頃には、何となくこれは餌付けだけで問題無さそうだとヴァージルと確信したのだ。
名前
種族
年齢 十六歳
スキル 茶釜
備考
種類 タヌキ
・・・動物でも何かしらの名前があるのに、完全な名無し。これは絶対にブルド王国からの国外追放刑だよなぁ。こいつはいったい何をしたんだ?さすがにやっぱり極悪人をうちの領地に迎え入れるのはなぁ
俺はどんな個体も鑑定出来る魔法具での鑑定結果に、本当にタヌキ獣人だったのかと思ったのと、どんな罪を犯したのかが気になった。
獣人族は人間よりも遥かに頑丈で怪力な上に、金色はいわゆる最高位種と呼ばれる獣人族の最高峰のはずなので、何かあれば頑張ったら討伐は出来るだろうが、こちらも無傷ではいられないだろうと思ったのだ。
だけど、ヴァージルとしては飼う気満々らしく亜種で押し通す事にしたらしいから、取り敢えずカバンの中身を検める事にした。
すると、金色のタヌキはカバンの中身を床に全て出したが、魔石の山が出来ただけで国外追放証等は持って無かった。
俺が隣りのヴァージルを見ると、ヴァージルは少し眉間に皺を寄せて魔石の山をじっと見ていたが、その表情は執務室で金の計算をしている時のものだった。
そして、いつもの無表情に戻り、こちらを見て大きく頷いた。
・・・だよなぁ。超級魔獣の魔石がゴロゴロ混じってるもんなぁ。飼うしかないよなぁ
俺は罪人のカバンを拾ったと言い切った金色のタヌキを見て、貧乏よりも悲惨な状況にならない様に女神に祈ったのだ。




