その29
『・・・あ〜、美味しかった〜!』
わたしは大満足のビュッフェ形式の食事を終えると、さて副隊長の所にどうやって行くかと考えていたら、侍女達の一人が何も無い空間から紙とペンをテーブルに出してくれたのだ。
『本当に魔法って便利よね〜』
わたしを代わる代わる膝の上で食事させながら尻尾を吸っていた察しの良い侍女達に、ペコリとお礼のお辞儀をしてから副隊長の所に行きたいと書いた。
「エストリウス様の所ですね。かしこまりました」
そして、副隊長の家名ってそんな感じだったなと思い出していたら、わたしは侍女に抱えられて食堂を後にしたのだ。
コンコンコン!
しばらくして到着した豪華な扉を侍女がノックしたけど、中からは何の応答も無かった。
「いらっしゃらない様ですね」
わたしは困り顔の侍女に、どうしようかと考えた。
『うーん・・・経費貰えないと買い出し行けないのよね〜。えー、どうしよ?』
わたしは侍女に下ろして貰うと自分でノックしてみた。
コンッコンッコンッ!
「・・・うぅ」
そして、中から微かな呻き声が聞こえたので、侍女達を見上げると不思議そうな顔だった。
わたしの聴覚とはやはり違うんだな〜と思いドアノブに飛び付いてガチャガチャしてみたら、また呻き声が聞こえた。
ガコンッ!
『あ』
わたしは手に持った外れたドアノブに一瞬どうしようかと考えてから、まあ、しょうがないよねとドアを押した。
『え?開かない?』
「リーナ様。こちらの扉は引いて頂くと開きます」
『・・・』
そして、わたしが手に持ったドアノブを眺めていたら扉がゆっくり開き、ひんやりとした冷気が漂って来た。
「・・・リーナ。いったいそこで何をしてるのですか?」
わたしは先程出して貰った紙に書いておいた物を幽霊よりも青白い顔の副隊長に見せた。
「・・・【買い出しに行くから経費を下さい】ですか・・・元気そうで何よりです・・・」
そして、わたしは何と百万ガルドと言う大金を経費として貰えたので、ルンルンで副隊長にペコリとお辞儀をし、スキップしながら部屋に戻り頭陀袋を背負うと、何故か侍女達と一緒に帝都の大商店街へと向かったのだ。
『え?』
歩くと遠いらしいので、馬車で侍女達の膝の上に乗って尻尾を吸われながら到着した大商店街の大きな八百屋さんの野菜の値段に、わたしはびっくりして固まった。
『・・・じゅ、十倍ぐらい高いんだけどっ!?』
わたしがその後大商店街のあちこちを見て回った所、百万ガルドの意味を理解したのだ。
『ロゼルナイト領よりも十倍かそれ以上高いから経費も十倍くれたのね・・・』
「リーナ様。お気に召しませんでしたか?」
わたしは心配顔の侍女達に紙とペンを貰った。
「・・・思ったよりも十倍は高いですか?」
「ロゼルナイト領は物価が安いとは聞いておりましたが、それほどとは・・・」
「あっ!それならあそこはどうかしら?」
そして、わたしは侍女達の一人の提案で帝都の外の、とある特殊な農園地帯まで行く事になったのだ。
『・・・うわぁ!凄いっ!』
わたしは青空の下のどこまでも続く野菜畑と果物畑にめちゃくちゃ感動していた。
何でも、この農園地帯は土壌が特殊らしく、収穫した次の日には新しい野菜や果物が生えてくるけど魔法が一切使えない土地なので、基本的に収穫体験してみたい一般人の為の国営のエンタメ農園なのだそうだ。
「・・・女性三人と・・・タヌキか?一日収穫し放題の体験料金を支払ってくれたら、こちらとしては何の問題も無いが、かなり重労働だよ?料金分以上を収穫するのも大変だと思うけど大丈夫かい?」
わたしは久しぶりのお客さんらしいエンタメ農園の受付カウンターにいた暇そうにしていたおじさんにめちゃくちゃ心配顔をされたけど、大丈夫だと大きく頷いて四人分の収穫料金百万ガルドを支払った。
ちなみに収穫体験料金は大人一人三十万ガルドだったけど、わたしは小さなタヌキなので有難い事に子供料金にして貰えたのだ。
「「「リーナ様!わたし達頑張ります!」」」
わたしとしては良い所に連れて来て貰ったし一人でも元は取れるはずなので、そんなに頑張らなくても大丈夫だと一応紙に書いて伝えた。
「それじゃあ、無理しないようにな!」
こうして、収穫鋏を手にした侍女達と手掴み上等のわたしは、おじさんに見送られてエンタメ農園に足を踏み入れたのだ。
『・・・ふぅ、こんなもんかな〜』
今現在、わたしは泥と汗に塗れ、やり切った満足感に浸っていた。
「・・・久しぶりにこんなに動いたわ」
「・・・いつも魔法を使ってたものね」
「・・・わたし達頑張ったわよね。まあ、ほぼほぼリーナ様が収穫されたけど」
わたしは同じく泥と汗に塗れているけど笑顔の侍女達には、ちょっと感動した。
何故なら思ったよりも戦える侍女だと途中で聞いた彼女達は、なるほどと思うぐらいには体力があったのだ。
『身体強化せずだと大変だっただろうにね』
こうして、エンタメ農園の野菜と果物を頭陀袋に全収穫したわたし達は、閉園の時間だと迎えに来た受付係のおじさんにびっくり顔の後大爆笑されてから皇宮に戻ったのだ。




