その25
「・・・では、行くぞ。リーナ。この方向に真っ直ぐだな?」
『はっ!』
わたしが頷きながら右拳を胸に当てて敬礼すると、隊長はわたしを小脇に抱え壁の中へと入った。
『へー。壁の中って意外に明る、くっさっ!?』
わたしは何かにめり込んだ感覚の薄ぼんやりとした壁の中の激臭に思わず両手で鼻を押さえて隊長を見上げると、隊長はスンとした無表情だった。
『さ、悟りを開いていらっしゃる!?』
わたしがさすが隊長だなぁと感心していたら、隊長の歩みはだんだんと早くなり、やがて全力疾走になったので目的地にはあっと言う間に到着した。
「・・・こいつは聖獣だな」
『へー。これが聖獣なんだ?』
わたしは目の前でとぐろを巻いてると思ってたけどそれは間違いで、大きな樽の様なものを抱えて目を閉じている白いめちゃくちゃ大きなトカゲっぽいものをしげしげと眺めた。
『って言うか、鼻ちょうちんとか初めて見たわ〜』
わたしはフガーフガーといびきをかくたびにふくらむ鼻ちょうちんに、ちょっと感動したのは許して欲しい。
『あれ?聖獣って魔獣より強くなかったっけ?』
わたしは王子妃教育で聖獣についてちゃんと習ったので、これを引き摺って行くのは起きたら無理なんじゃなかろうかと思った。
「・・・これだけ近付いても起きないなら、たぶん大丈夫だろう。リーナ、そいつの尻尾を掴め、出るぞ」
『え?マジで?』
わたしが慌てて隊長を見るとスンとした無表情のまま後ろ向きに抱え直され尻尾の方に近付けられたので、仕方なく鼻を押さえていた両手で白い尻尾を掴んだ。
そして、白いめちゃくちゃ大きなトカゲっぽい聖獣は樽を抱えたまま引き摺られる事になったのだ。
「・・・」
『・・・』
だけど、隊長はその場を一歩も動かなかった。
「・・・そうか。身体強化は無効か」
『・・・なるほど』
わたしはどうするのかなぁと思っていたら、隊長はわたしを下ろすと、わたしの丸ハゲの尻尾を掴んだ。
「俺がリーナの身体の一部に触れてさえいれば呼吸は出来るはずだが、大丈夫か?」
わたしはちょっと酸素が薄くなった様な気がしたけど、まあ、大丈夫だったので大きく頷いた。
そして、隊長が中腰でわたしの尻尾を右手で掴み、わたしは白いトカゲっぽい聖獣の尻尾を右手で掴んで歩き出したのだ。
だけど、わたしは歩いてたらずっと激臭だよなぁと考え、ちょっと小走りしてみたのだけど、白いトカゲっぽい聖獣は起きない感じだったので、そのまま小走りを続けた。
『・・・ん?あれは』
わたしは小走りしながら右の視界の片隅に入っためちゃくちゃ大きな魔石に気づいたので、副隊長が喜ぶだろうと大きく右に軌道修正した。
「リーナ!どこへ行く!?」
そして、めちゃくちゃ大きな魔石の所に到着すると、二人とも片手しか使えないのでどうしたものかと考えた。
「・・・これは先程の魔獣の魔石か。ここまで転がっていたのだな。リーナ、一度では無理だ。また戻ろう」
わたしは、また激臭なのは嫌だったので、どうにか出来ないかと考えた。
『・・・あっ!そうだ!』
わたしはめちゃくちゃ閃いてしまったので、白いトカゲっぽい聖獣の尻尾を両手で掴むと魔石に勢い良くぶつけた。
ガコーーーンッ!
「うわぁ!?何か出て来たっ!」
すると、めちゃくちゃ大きな魔石は勢い良く壁の外まで転がって行き、ニックの叫び声が聞こえた。
「痛っ!?は?お前誰やねんっ!何、俺様の尻尾掴んどんねんっ!離さんかいっ!」
わたしは白いトカゲっぽい聖獣が起きた事にちょっとびっくりしてから、何か面倒臭そうな感じがしたので、そのまま振りかぶると壁の外にぶん投げた。
「うおっ!?おまっ!?」
「うわぁ!?また何か出て来たっ!」
すると、隊長は直ぐ様わたしを小脇に抱えて猛ダッシュして壁から出た。
「何すんねんっ!ボケーーーーーーーっ!!!」
そして、わたし達が壁の中から出た瞬間、物凄い風圧が襲って来て、だだっ広い部屋の中にいた全員が壁際まで吹っ飛ばされたのだ。
「人が良い気持ちで寝てんの邪魔しやがって、お前ら覚悟出来てるんやろなぁ?ん?お前、金色の獣人か?こんな所で何しとるんや?って言うか、お前が俺様の事ぶん投げたよな?」
わたしは樽を抱えたまま近付いてくる白いトカゲっぽい聖獣に、慌てて立ち上がると手を合わせてごめんなさいとお辞儀した。
「それは謝ってんのか?あー、俺様となら言葉通じるし喋れや」
『え?言葉通じるの?』
「おう!俺様は聖獣様やからな!で?何で投げたんや?って言うか、そもそも何で獣人がこんな所におるんや?ここは人間の国やぞ?」
わたしはその時ハッとして皆んなの様子を見ると、全員気絶していたので、転生以外の今迄の事を全て話した。
「・・・なるほどなぁ。お前苦労したんやなぁ。俺様は心が広いから許したるわっ!普通のタヌキとして頑張れよっ!」
わたしが大きく頷くと、白いトカゲっぽい聖獣が口からキラキラと虹色に光る息を吐き出したと思ったら隊長達は気がついた。
「リーナ言うたな?お前とおったら面白そうやし、俺様のペットにしたるわっ!」
『え?』
こうして、わたしは第七層の壁の中で百年ほど寝ていたらしい白龍のペットにされてしまったのだ。




