その24
わたしは第七層の魔獣を全討伐するべく今日も今日とて一心不乱にトカゲっぽい魔獣の逆鱗を毟って魔石を量産している、死んだ魚の目をした隊長達を飛びながら眺めていた。
そう言うわたしも、たぶん死んだ魚の目をしてるだろうと思うほどには暇で死にそうだった。
『あれから一週間だもんな〜。そりゃ飽きるわ〜。暇〜。暇〜。暇〜』
わたしは一人だけ生き生きとした物凄く良い笑顔の副隊長の華麗な竿捌きで、虹色の部屋の中と入り口の外の安全地帯を飛んでいたら、だんだんまぶたが重くなってきた。
「あっ!隊長っ!リーナが寝そうですっ!今度こそヤバいかもっ!」
わたしはニックの叫び声にハッとして目を開けると、丁度部屋の中に投擲された瞬間だった。
そして、最近は入り口から近い場所にはトカゲっぽい魔獣は居なくなってたので、かなり奥まで飛んでいるのだ。
『あれ?何も出て来ない?えっ!?もしかして討伐完りょ、ギャーーーーーーーーーーーーーーーッ!?』
わたしが何も出て来ないなと思いながら最奥の壁際まで来た瞬間に、それは現れた。
そして、物凄い勢いで引き戻された瞬間に腰のベルトに引っ掛けられていた釣り針の感触が無くなったのだ。
『え?』
そして、わたしは物凄い数の頭を持つめちゃくちゃキモいとしか言い表せない大きなトカゲっぽい魔獣の、断トツにキモい大きなトカゲ頭に食べられたのだ。
「リーナーーーーーーーーーっ!!!」
『・・・ダメだ。眠い・・・』
わたしは急激に襲って来た睡魔に抗う事が出来ず、そのまま目を閉じた。
グオォォォォォキュルルルルルルルッ!
「隊長っ!リーナがいましたっ!」
わたしは自分のお腹の音と遠くに聞こえるニックの叫び声に、ゆっくり目を開けたら真っ暗闇だった。
『・・・ここど、くっさっ!?えっ!?めっちゃ臭いんだけどっ!?』
そこで漸く、わたしはトカゲっぽい魔獣に食べられた事を思い出したのだ。
『って事は、ここはお腹の中かっ!?よしっ!出ようっ!』
わたしはどこも痛くないので消化されてないし、多少息苦しいものの息が出来る事に安堵しながらも、これ以上激臭に耐えられないので出る事にして、いつも通りぶち破ろうとした。
『は?何で?』
だけど、わたしの怪力なら速攻でぶち破れるはずの魔獣の体内はビクともしなかったのだ。
グオォォォォォキュルルルルルルルッ!
そして、わたしは激臭と急激に襲って来た空腹に耐え兼ね何度もぶち破ろうと頑張った。
『・・・ダメだ。えーっと、このままだと死んじゃうよね?ど、どうしよう!?』
わたしはさすがにこのまま死にたくはないので、どうしたものかと考えた。
『うーん・・・ニックの声の感じからして、わたしは壁の中っぽいよね〜。そして、ダンジョンの壁には物理攻撃も魔法攻撃も効かないんだっけ?だから、壁の中も無効になるのかな?ん〜、スキルは使えるはずだけど、まあ、わたしのスキル良く分からない茶釜だし、そもそも使えないしなぁ・・・え?詰んだ?』
「リーナっ!リーナっ!」
「リーナ!大丈夫か!?」
わたしが考えている間にも遠くに聞こえる隊長やニックの叫び声を聞きながら、どうする事も出来ないのが分かり呆然とした。
グオォォォォォキュルルルルルルルッ!
『え?』
再びわたしのお腹が鳴った瞬間に何か温かいものがわたしを抱き締めたのだ。
そして、息苦しさも同時に無くなったのだ。
ギャオーーーーーーーーンッ!!!
「リーナっ!」
「リーナ。大丈夫か?」
わたしは頭の上から隊長の声がしたので顔を上げると、そこにはめちゃくちゃ心配そうな、でもヘドロっぽいものに塗れた隊長の顔があった。
「・・・リーナ。怖い思いをさせてすまなかった」
そう言って隊長はわたしをギュッとその胸に抱き締めた。
『・・・・・・・・・・・・・・・くっさっ!』
わたしは顔だけじゃなく全身が魔獣の激臭に塗れた隊長に抱き締められたので、完全に息がしやすくなり激臭が増したのに顔面を覆われ、思わず隊長から距離を取ろうと左手を突っ張り右手で鼻を押さえた。
「・・・閣下。リーナと一緒に丸洗いしましょうか?」
「・・・そうだな。頼む」
こうして、わたしは【潜行】と言う、水の中だろうが壁の中だろうが普通に呼吸しながら潜れるスキルを持つらしい隊長に、第七層のラスボスの神災級魔獣のお腹の中から救出されたのだ。
「リーナが無事で良かったよね!」
「本当になぁ。リーナの腹の虫が鳴いて位置が分かるなんてなぁ」
「だけど、リーナは凄いよな〜。眠りの状態異常も壁の中も平気って事だもんな〜?」
「亜種だからじゃね?って言うか、リーナが丁度逆鱗の所にいたのって奇跡じゃね?」
「うん!タヌキの亜種って運も良いのな!」
わたしはニック達の会話を聞きながら隊長と一緒に、その場で泡の水球の中で洗われていたのだけど、洗ってくれてる副隊長はめちゃくちゃしょんぼりとしていた。
『副隊長どうしたんだろ?』
そして、わたしと隊長がすっかりフローラルの香りに包まれ綺麗になって乾いた頃に、副隊長のしょんぼりの理由が分かったのだ。
「・・・リーナ。壁の中に神災級魔獣の魔石が残ってないかどうか分かりませんか?」
『魔石?あー、なるほど〜。トカゲっぽい魔獣の魔石は、たぶん高額なんだよね?まあ、勿体無いしな。ん~と・・・ん?』
わたしが最奥の壁をじっと観察した所、魔石ではなさそうな何か巨大なものがめちゃくちゃ奥の方に居るのが分かったのだ。
わたしはさすがにジェスチャーでは無理だったので、何か書くものが無いかと副隊長にジェスチャーで訴えてみたら、副隊長のベルトポーチから紙とペンが出て来たので、わたしは見えたものの事を書いた。
「・・・【魔石じゃない巨大な何かが物凄く奥の方にいる】?それは先程の神災級魔獣ではないのですか?」
わたしは副隊長の問いに首を横に振った。
『それは絶対違うと思うのよね〜。って言うか、寝てる?』
わたしは再びじっと観察してみた所、どうやらとぐろを巻いて寝てる大きな蛇っぽい魔獣ではなかろうかと思った。
「【とぐろを巻いた蛇っぽい魔獣】か。リーナの気配に反応しないところを見ると魔獣では無さそうだがな」
「はい、閣下。それではリーナと一緒に【潜行】をお願い致します。リーナ、閣下と一緒なら普通に呼吸は出来ますから、その怪力できっちり引き摺り出して来て下さいね?」
「は?」
『え?』
こうして、フローラルの香りに包まれ綺麗になったばかりのわたしと隊長は携帯食料を齧らされた後、再び壁の中へと入る事になったのだ。




