その19
『・・・うわぁ、綺麗・・・』
わたしは再び訪れたダンジョン【暗闇の深淵】第一層の大きな入り口で、目の前に広がる光景に思わず後ろ脚で立ち上がり、吸い寄せられる様に前に一歩踏み出した。
『グエッ!?』
そして、わたしはダンジョン内に踏み出した瞬間に、誰かに首根っこを持たれて引き戻された。
「リーナの学習能力は、少し低めの様ですね」
『・・・』
ブルド王国では王子妃教育からの王太子妃教育もそれなりに熟していたわたしが声のした方を見上げると、そこにはめちゃくちゃ良い笑顔の副隊長がいた。
「ヴァージル。これは錦魚だよな?」
「はい、閣下。見た目は錦魚ですね」
『キンギョ?』
わたしは目の前の巨大な空間を優雅に泳ぐ様に漂う大きな錦鯉にしか見えない色とりどりの魚達が、ブルド王国の王宮の図鑑で見た、見た目はまんま錦鯉の【錦魚】だと漸く思い出した。
『・・・確か、めっちゃ美味しいんじゃなかったっけ?』
「ヴァージル、鑑定をしてくれ」
隊長がそう言うと、副隊長は何やらブツブツと呟いた。
「どうだ?」
「はい、確かに間違いなく錦魚です」
「そうか。聖域ならば入っても問題無さそうだな」
わたしは一瞬、聖域とは?と思ったけれど、この世界では絶対に魔獣が湧いて来ないし近寄っても来ない領域があるのを、そう言えば習ったなとも思い出した。
そして、わたし達は錦魚が空中を泳ぐ部屋の中に入ったのだ。
『・・・どんな味がするんだろ?』
パシッ!
『・・・』
パシッ!パシッ!パシッ!
「リーナ!錦魚が欲しいの?俺が獲ってあげるよ!はい、どうぞ!」
わたしがのんびりとは言え目の前を通り過ぎる錦魚の両手掴みはさすがに泳いでるし無理かと思い、頭陀袋を降ろして釣り竿を出そうとしたら、ニックがひょいと目の前のピンク色の錦魚を片手で掴むと渡してくれた。
『・・・』
わたしはちょっとだけ悔しかったけど、目の前のビチビチと元気な錦魚をニックから受け取るとペコリとお礼をしてから手で捌き始めた。
『今世のわたしの力だと、このサイズでも楽勝だね〜』
「「「「「「「・・・」」」」」」」
そして、良い感じに捌けたので、副隊長に洗って貰おうと血だらけの身を胸の前に副隊長に向かって捧げ持つと小首を傾げてみた。
すると、副隊長はわたしのジェスチャーの意図が分かった様で水魔法で洗ってくれたので、早速味見しようと齧り付いてみた。
『・・・・・・・・・・・・・・・うんまっ!?』
わたしはまるで鯛の様な上品且つ濃厚な味わいな上に生臭さが一切無い白身魚にめちゃくちゃびっくりし、いそいそと頭陀袋からお皿と醤油を取り出すと刺身感覚で再び食べてみた。
『うんま〜!あー、でも、山葵があれば最高なのにな〜』
勿論この世界にも山葵はあるのだけど、山葵も聖域にしか生えない植物だったはずなので、この世界では超高級品だし希少だからか、ローズナイト領の商店街には売ってなかったので持ってないのだ。
そして、ニックがオレンジ色の錦魚を持ってこちらを切なそうにじっと見ていたので、まあ、捌いて欲しいのだろうと思い捌いてあげたら、全員が色とりどりの錦魚を持って待っていた。
『・・・』
こうして、わたし達はその場で錦魚の刺身をたらふく食べたのだ。
「・・・俺はやっぱりオレンジ色の錦魚が一番好きだな!」
「俺は青色かな〜」
わたしはニックとカイルの会話にうんうんと頷きながら、わたしとしては赤色の錦魚が大好きなマグロの味わいだったので赤色を推そうと思った。
そして、この先の野営ご飯の為に皆んなに錦魚をいっぱい獲って貰ってから、わたし達は第二層へと向かったのだ。
『・・・こっちは畑になってる?って言うか、この匂いって・・・』
わたしは目の前のだだっ広い空間に葉っぱがいっぱい植わってるのを見て、ただの草では無いのは分かった。
「・・・ヴァージル。鑑定を頼む」
「はい、閣下」
そして、副隊長の鑑定の結果は正しく畑で、それもこの世界では聖域にしか生えない山葵が所狭しと生えていたので、わたしが心の中で狂喜乱舞しながら抜きまくったのは言うまでもない。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最高』
わたしがマグロ味の錦魚を山葵醤油で食べて悶絶していると、隊長達がじっと見ていたので、勿論その場で二回目の刺身食べ放題になったのは言うまでもない。
「・・・次は何だろうね!?今度も美味しいものだといいな!」
そして、食べ終えた笑顔のニックの言葉に皆んなで頷くと、わたし達はいそいそと第三層へと向かったのだ。




